転校生
私の通っている学校、妖宮高校の1年に転校生が来たという噂が流れたのは5月の半ばごろだった。
県内でも学力が高い高校として知られているのに転入試験を合格できるなんて頭が良いな、ぐらいしか思わず、すぐに忘れてしまっていた。
私は2学年だし、関係がなかったからだ。
そんな転校生はすぐにまた噂になった。
今度は、あの生徒会メンバーと友達になったらしい。
学校内の人気が集まっている生徒会は男子生徒で構成されている。
全員が勉強、スポーツともにトップクラスで財閥や良家の息子たち。しかも、顔まで良い。
人気があるのも頷ける。
そんな人達を1人だけではなく、全員と仲良くなったらどうなるか。
転校生はたちまち、女子たちに無視され、物を隠された。
頭がいい学校だからか、直接暴力を振るうなんてことはしない。
ただ分からないような小さないじめを行うだけだ。
それだけでも、相当なストレスになるだろう。
すると、転校生は生徒会メンバーに話したらしい。
生徒会は怒り狂い、吃驚なことに学校の女子のほとんどが停学や退学になった。
そこまでやるか、と思ったのは私だけではないだろう。
「はぁ…」
思わず今までのことを振り返ってため息をついてしまう。
「なにため息ついてんのよ、菜乃。幸せが逃げるわよ」
一緒に昼食を食べていた柚莉が箸で卵焼きをつまみながら言う。
「いや、転校生が来てから学校が騒がしいなと思って」
「確かにそうね…。あの転校生、天野 桃果だったわね。生徒会メンバーだけじゃなくて他の男も侍らしているみたいよ」
「侍らすって…」
「本当にそう見えるのよ。一回、菜乃も見てみたらわかるわ」
そう言うのなら見てみようとちょうど天野さんが移動教室のときに1年フロアへ向かった。
「天野さんが通るって」
「ほんとかわいいよなぁ…」
会話が聞こえてきてそちらに目を向けると、1人の女子生徒が何人もの男子生徒を連れて移動していた。
たぶん、あれが天野さんだろう。
白い肌、大きな二重の目、小さな鼻。
可愛らしい、整った顔立ちだ。
その場にいる人の視線を集めて、満足そうにしている。
男子生徒は憧れや好意を、そして女子生徒は恐怖を向けるものや嫉妬をしているものなどさまざまな思いを天野さんに向けている。
怖がっている女子生徒は、確か天野さんをいじめていた人だった。
なにがあったんだろう。
気になるけど、余計なことをして目を付けられたら大変だ。
今回だけで、もう天野さんたちを見に来るのはやめようと思いながら私は教室へ戻った。