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先入観って怖い

作者: 東井なつき

 舞という少女は、超ブラコンである。

 舞曰く、兄は世界一かっこいい。

 そんな兄に近づく女は誰であろうと、容赦はしない……と言いたいところだが、以前、兄と仲良かった女の子を精神的にジワジワ追いつめていることが兄にバレて、兄にひどく叱られた。

 なので、舞はやり方を変えることにした。



「雪絵さん。実はあなたに相談したいことがあるんですが」

 舞は最近兄と仲が良い少女と2人きりの状況を作り、そう話を切り出した。

「うん、私なんかで力になれるなら」

「よかった。ありがとうございます」

(ろくに話したこともない相手の相談に乗るとか、何様ですか? 兄の好感度上げるために外堀から着実に埋めるつもりですか? うわー、計算できる女怖ーい)

 という心の声を完璧な作り笑顔で隠しつつ、舞はまず長ったらしい前置きをする。


「こんなこと、友達にも家族にも話せないんですけど……でも、どうしても誰かに聞いてほしくて。あ、でも、きっと雪絵さんは私のこと変な子だって思うかもですけど……でも、私は本気で悩んでて」

 舞はあたかも本当に悩んでいるかのように、たどたどしく言う。

「そんな……私は、舞ちゃんのこと変な子だなんて思わないよ、絶対」

「本当、ですか?」

(舞ちゃんとか、気安く呼ぶなよな、このドロボー猫が)


「うん。私は舞ちゃんの味方だよ」

 この時、舞は思っていた。

 ……その笑顔、いつまで保っていられるかな、と。

「じゃあ、言いますね」

「うん」


 舞はたっぷり間を取ってから、雪絵の目を真っ直ぐ見つめてこう言う。

「実は私……妹としてではなく、1人の女性として、お兄ちゃんのことが好きなんです」

「えっ……」

 The困惑という顔の雪絵。

 しかし、もしかしたら聞き間違いかもしれないとでも思ったのか、雪絵は目を何度かパチパチ瞬かせた後、掠れた声で言う。

「えっと、ごめん。今なんて……」

「私、本気でお兄ちゃんと結婚したいんです!」

「けっ……こん……」

 動揺している雪絵を余所に、舞は続ける。


「私は本気でお兄ちゃんを愛してる。でも、私分かってるんです。この気持ちがイケナイものだって。だから……」

「だ、だから……?」

「お兄ちゃんに気持ちを伝えて、はっきり断られてきます」

「……舞ちゃん」

「陰からでいいんです。見守っててくれますか?」

「……う、うん。分かったよ」

「ありがとうございます」


 舞は兄に電話する。

 通話を終わらせた舞は、

「15分ほどで来てくれるそうです。雪絵さん、変なお願いして本当にすみません」

「ううん。私は何もできないけど……その、頑張って」

「はい。思い切りフラれてきますね。……あ、でも、失恋って初めてだから、泣いちゃうかもです。ご迷惑ついでに、慰めてくださいね」

「……うん、任せて」


 15分後、舞の兄――圭太がやって来た。

 雪絵は圭太に気づかれないよう、近くの物陰に隠れている。

 普通の大きさの会話なら十分聞こえる距離だ。

 ちなみに舞の立ち位置だと、雪絵の姿はチラッと見える。

「いきなり呼び出してごめんね、お兄ちゃん」

「いや、別にいいけど。用事って何だ?」

「今日はね、その……お兄ちゃんに聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

 圭太は首を捻る。そんなことなら、わざわざ呼び出した必要があるのか、と思っているのだろう。


「お兄ちゃん……私、結婚したいの!」

 その瞬間、雪絵が身じろぎしたのが、舞には見えた。

「えっと……舞?」

 圭太は何と言っていいか分からないようで、微妙な表情をしていた。

「お兄ちゃんは結婚したいと思う?」

「えっと、いきなりどうしたんだ?」

「いいから、私の質問にだけ答えて」

「え、そうだな……まあ、できることなら、したいかな」

 圭太の言葉を聞いた雪絵が、口元を両手で覆い、絶句している様子が舞には見える。


「そっか。お兄ちゃんも結婚したいんだね」

「まあな」

「そっか。よかった。私、嬉しい」

 舞は圭太の腕に抱きつく。

「お兄ちゃん、せっかくだし、これから買い物に行かない?」

「ん、ああ、そうだな。夕飯の買い物とかもあるし」

「じゃあ、レッツゴー!」

 舞は圭太の視界に雪絵が入らないように気を配りつつ、その場を去ったのだった。



 後日。

 舞は圭太にこう訊ねる。

「最近、雪絵さんと一緒に下校してないよね。何かあったの?」

「え、いや……よく分かんないんだけど、ここのところ避けられてるみたいなんだよなー」

「もしかして、雪絵さん。彼氏できたんじゃない? で、彼氏に誤解されないように、必要以上に仲良くしないみたいな」

「あー、その可能性はあるな。雪絵可愛いから、モテるだろうし」

「ふふ、お兄ちゃん」

 舞は圭太に抱きつく。

「ん、どうしたんだよ」

「何でもない。ただお兄ちゃんに甘えたいだけ」

「ったく、いつまでも子供なんだから」






前もって舞に「兄に愛の告白をする」と宣言されたことで、雪絵は「私、結婚したいの」という舞のセリフを、愛の告白だ思い込みます。そして「お兄ちゃんは結婚したい?」を「お兄ちゃんは私(舞)と結婚したい?」と誤解しています。


余計な先入観のない圭太は「お兄ちゃんは結婚したい?」を、素直に「相手はともかく、将来結婚したい?」と捉え、一生独身は嫌だなという意味で、「結婚したい」と答えます。


結果、雪絵は舞と圭太が両想いだと勘違いし、身を引いた……というよりは、ドン引きして、圭太に近づくことをやめたということです。

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