はじめの月曜日
大通りに面する私の住処は、大概の人には羨ましいがられる。こっちの苦労も知らないくせに。
大通りというだけあって朝夕の通勤時間帯はかなり人が通行し、夜になると、パトカーと追いかけっこを楽しむ珍走団が腹の底に響くようなエンジン音を唸らせながら走っていくのだ。防犯の面では最強と言えるだろう。人の目がいつでもあるのだから。しかし、その目は私にも効力を発揮した。
出勤の時に遅刻ギリギリになり急いでドアを開けてしまい、通行している人に当たってしまったことは一度や二度ではない。そんな道ギリギリのところに私の家は建っている。
さて、ここ一番の問題を言うとしよう。
それはゴミ捨てのタイミングの問題だ。
ゴミ捨てのところをあまり人にみられたくないという私の妙なプライドのせいで1番人通りが少ない6時前後にいつも捨てに行っている。
その時間ならまだ化粧やちゃんとした服を着なくてもなんとか人目につかずに行ける。
ちなみに髪はひっつめ、ノーメイクさらにはジャージ姿が私のゴミ捨てスタイルだ。
あの時も同じゴミ捨てスタイルだった。
休み明けの月曜、霞む目をこすり布団の中で嫌いな上司への文句と会社の愚痴をひとしきり叫び終えた後、家中のごみをかき集め、指定の袋にいれる。1人暮らしのためそんなにもごみはでないためいつもは週に1度捨てに行く。
いつもの癖でドアをゆっくりと開け、ようと思ったら思いのほかスピードがついてしまった。
開けたドアからゴンッと軽めの打撃音が聴こえた。
そのあとのカシャッという音とともにスマホが足元に滑ってきた。
「 …っいた!」
さっきの打撃音はこいつの頭から発せられたらしい。
とりあえずあやまってみる。
「 …すみません。大丈夫ですか。」
朝はテンションが上がらない。
「 ってめえ急にドア開けやがって!」
「すみません。」
「ちゃんと注意して開けろよ!」
「すみません。」
「お前、寝ぼけてんのか。」一瞬喧嘩売られてるのかとおもったら機械のように謝罪の言葉を並べる私を心配して言っているようだ。
「…はい。」素直に述べてみる。
「………そうか。」いっきにトーンダウンした。男が黙る。どうした。
少し頭が覚醒してきたようなので、男の様子を見てみる。なめし革のピカピカの靴。少しストライプ柄のはいった黒とは言えないが暗めの色したスーツ。シャツは単色だが、いつも私が着るような安物のような雰囲気ではない。ネクタイは細身のやつだが、チャラそうな気配は微塵もない。カフスがお洒落。何の形がわからないけど。時計は銀色で時々光を反射させている。
「…….俺、もういくわ…」
男の中で何かが決定したようだ。
足早に男は歩き始めた。その間私はまだ重い瞼と戦っていたのだが。勝敗が決定し、次に男を見てみると、男は駅に吸い込まれているところだった。
なんだったんだ。
とりあえずごみを捨てなければ。足を踏み出すと男が落として行ったスマホが目についた。このまま放置してやろうとも考えなくもなかったが、良心をだし、預かってやろうとおもう。
くそっ。ロック掛かってやがる。