おにいちゃんだんざいさいばんに寄り添う妻に寄り添われる話
「それでは第322回!おにいちゃんだんざいさいばんを始めます!」
「「「わー!」」」
可愛らしいぱちぱちという拍手の音。5歳にも満たない幼女達が俺を断罪する裁判ごっこのおままごと。但し場所は本物の法廷だ。「べんごし」「さいばんかん」「けんさつかん」は幼女達がじゃんけんで決めるが、傍聴席にはもう少し年上、10代前半の少女達が真剣な眼差しで裁判の様子を……というより被告である俺の事を……見つめている。幼女達も少女達も、全員がアニメも遠く及ばない異常なほどの美貌ばかりだ。勿論はじめからできる限り可愛い娘を選んだが、今の彼女達の美貌は俺のおかげ、いや、所業を考えれば俺のせい、というべきか。
俺は「異能者」だ。能力は箱状の一定の広さの空間を展開する事。その空間内では文字通り何でもできる。しかも空間内での能力行使の結果は全て不可逆。つまり空間を解いても永劫持続する。例えば最初に展開した時、俺は空間内で不老不死となった。だから俺は不老不死だ。この程度は朝飯前だ。
チートにしたってやりすぎな能力だと、今なら俺も思っている。
能力を得た当初は違った。多少は欲望を感じもしたが、そんなもの軽く吹き飛ぶ恐怖に震えながら過ごしていた。
ある日唐突に世界に現れた「異能者」は俺だけではなかった。
そしてほとんどの「異能者」が俺以上の恐ろしい能力を持ち、俺よりずっとずっと優れた知略と人類全体への明確な殺意を抱き「異能者」同士でも激しく戦っていた。
俺はその間、一度も能力を使う事無くひたすら自分の部屋に隠れて過ごした。不老不死?絶対無敵?「異能者」同士の場合であれば、その程度いくらでも抜け道がある。紙の盾やオモチャの剣にすらならない。本来なら探知に優れた「異能者」にすぐ見つかり抹殺されていただろう。そうならなかったのは、ある女がいたからだ。
俺の妻……というのは未だに気が引けるが、女の方からぜひともそうしてくださいと頼んできたのだから妻は妻だ。恩しかない相手の頼みを断れるわけがない、というのは言い訳で普通に滅茶苦茶嬉しく二つ返事で妻にした。実際、妻になる事も含めて女の全ての行動はただただ俺の為だけのものだった。
「異能者」はその全員が強弱の差はあれ人類絶滅願望と、もう一つ特異な欲望を持つ者たちだった。
俺の欲望は、例えばまあ、おにいちゃんだんざいさいばんだ。当然有罪になり、その後は刑罰として本物の法廷でホームパーティのような御馳走がふるまわれ、美幼女や美少女達に「だんざいされてえらーい!よしよし、おにいちゃんとってもいいこ!」と全肯定で甘やかされ尽くす事が確定している。白熱のじゃんけんばとるの結果、ようやく今回の役割が決まり各自の席に着く愛らしい幼女達を見つめる俺の目はまあ、とてつもなく気持ち悪いのだろう。
恥じていないといえば嘘になるが、これでも他の「異能者」達に比べればマシだ。
例えば妻。彼女はとてつもなく、恐ろしく、凄まじく優秀だった。「異能者」達との戦争に勝利し、人類を思い通りに操り(他の「異能者」の苛烈さに比べれば)ゆるやかな絶滅を確定させた。そして今現在は本来の目的……俺に尽くす事……に全身全霊を捧げている。
そう、彼女の欲望は、とんでもなくありえないほどどうしようもない主様に絶対服従してその欲望を叶え尽くす事。
彼女の能力は探知と情報収集に極めて優れていた。そしてそれらの情報を処理する頭脳もずば抜けていた。
当然、その力は戦争においても大活躍したのだが、真っ先に彼女が処理した情報は「主様探し」であり、それは俺だった。
俺こそが唯一無二の「とんでもなくありえないほどどうしようもない主様」だと力説された時、どんな感情を抱いたらいいのかマジで分からなかった。
ただ、最強の知略を持ち、欲望の対象である俺を得てモチベーションも最高になった彼女が「異能者」も人類も負かしてくれた事には感謝しかない。
感謝しかないのだが。
「えとえとぉ、まずはなにからはじめるんだっけ?わすれちゃった」
「さいばんかんさんはまず開廷しましょう。こちらを持って、とんとん、と叩いて下さいね」
「あ、そうだった!おねえさん、ありがとー!」
「いえいえ、分からない事があれば何でも聞いて下さい」
俺が「とんでもなくありえないほどどうしようもない」欲望を満たす時、常に彼女は側にいる。別に邪魔とは言わない。この場の誰よりも彼女は美しい。能力のせいもあるが、初めて会った時からそうだった。でもというかだからというか、非常に恥ずかしい。とはいえ、例えば俺が一言どけ、と言えば即座に消えるだろう。彼女にとって俺の命令は絶対だ。そうしない俺も結局の所、いつも彼女に側にいて欲しいのだろう。それを自覚する……おにいちゃんだんざいさいばんの真っ最中に……からこそ恥ずかしいのだ。
彼女は絶対服従だ。俺の欲望を全て叶える。つまり、こうして恥じらいながら、主様の癖に尻に敷かれるような関係で彼女に接しているのも全て俺の欲望そのものである。恥ずかしすぎる。
情けない俺の欲望を体現する、女神なんだか妖女なんだかもはや良く分からないその女は、そっと隣に跪いて
「べんごしさんのスカート丈、もう少し長くしますか?今回は敢えてその方が」
『え、あ、うん』
俺が思った事を完璧に言い当てる。能力ではない。だから怖い。この怖さすら俺の欲望だという事実と、普通になんでそこまで正確に分かるんですか?通じ合うとかそういう次元じゃないんですけど?という彼女への畏怖と。
「それは勿論、私が主様の従者、そして、ああ、何たる光栄、あなた様の妻、だからですよ」
『心を読んで先に答えないで下さい。こわいです』
「これは大変失礼いたしました。お叱りを頂戴いたします、主様。おにいちゃんだんざいさいばんのあとで、たっっぷりと……ふふ」
釈然としない最高の幸せ、を今の俺が求めているのは、まだ今日に、そして未来に、慣れていないからだろう。
そんな俺がきちんとした「とんでもなくありえないほどどうしようもない主様」になれる日まで、妻には今後も多くの迷惑をかけるのだろう。
「迷惑だなんて。あなた様のお側でお世話させて頂ける事だけが私の存在理由です」
だから心読まないで!あと「きちんとしたとんでもなくありえないほどどうしようもない主様」ってなんだよ!
セルフツッコミを完璧に読心してツボに入りくすくす笑いが止まらない、という訳の分からない反応を見せる妻を背に、もうどうにでもなれという気持ちで被告席に立つ俺なのだった。




