番外編 光の学院、春の訪れ
番外編です。
時系列が様々ですが、不定期更新します。
春の風が、学院の中庭をそよいでいく。
木漏れ日の下では、生徒たちが花を編み、光魔法を練習していた。
笑い声と小鳥のさえずりが、穏やかな午後の空気を満たす。
「先生、見てください! ちゃんと光が丸くなりました!」
幼い生徒が、両手の中に淡い光球を浮かべて誇らしげに見せる。
「まぁ……とても上手よ。その光、とても優しい。」
セレナは微笑んでしゃがみこみ、子どもの頭をそっと撫でた。
その仕草に光が揺れ、花の香りがふわりと広がる。
かつて世界を覆った瘴気も、今はもうない。
学院の周りには、精霊たちが自由に舞い、森は平穏に息づいている。
「……今日も人気者だな。」
声の方を見ると、日差しの中からセイグランが現れた。
以前のような老人の姿ではない。
青年の姿に戻った彼は、相変わらず無愛想そうにしながらも、どこか柔らかな微笑を浮かべていた。
「生徒たちがみんな、あなたに憧れているわよ。
“森の英雄”って呼ばれているの、知ってます?」
「……そんな呼び名、私の柄じゃない。」
「ふふっ。照れてますね?」
セレナがくすっと笑うと、セイグランはわざとそっぽを向いた。
だが耳が赤くなっているのを、彼女は見逃さない。
「……まったく、お前は昔から人の心を乱す天才だ。」
「そんなこと、ありません。」
セレナは小さく首を振る。
「私はただ、この学院が“光であふれてほしい”と願っているだけです。」
その言葉に、セイグランの瞳が柔らかく揺れる。
彼はゆっくりと彼女の隣に腰を下ろした。
「この学院を作って、もう五年か。」
「早いですね……。最初は生徒が三人しかいなかったのに、今では王都から通う子までいます。」
「それもお前の人徳のおかげだ。」
「違いますよ、セイグラン。あなたの教えがあってこそです。」
お互いを見つめ合い、ふと笑みがこぼれる。
その瞬間、上空から花びらが舞い落ちてきた。
セレナが見上げると、白い花弁が光を受けて輝きながら、二人の周りを舞っていた。
「……春の精霊か。」
「ええ、“学院の祝福”ですね。」
セレナは目を細め、そっと両手を組む。
「この学院が、これからも優しい場所でありますように。」
彼女の祈りに応えるように、光がふわりと周囲を包む。
生徒たちが歓声を上げ、鳥たちが一斉に飛び立った。
「お前が笑うと、世界が少しだけ明るくなる気がする。」
「……どうでしょうね?」
顔を赤くしながらも、セレナは肩に寄り添う。
二人の後ろで、学院の塔が静かに鐘を鳴らす。
春を告げる、やさしい音。
その音は、過去の痛みをすべて溶かして――
これから歩む未来を、祝福しているようだった。




