祝宴の夜、運命が崩れる音
宮廷の大広間は、燭台の光で煌めき、壁のタペストリーが艶やかに照らされていた。
床の大理石に映るドレスやローブの影は、光の川のようだ。
舞踏会は賑やかで、貴族たちの笑い声や談笑が絶えない。
「セレナ・ダルクィン!前へ出るんだ!」
突如ホールに大声が響く。
セレナはため息とも取れる深呼吸をひとつして、足を進める。
胸の奥にはわずかな緊張があるが、こうなる気配は何となくあった。なぜこの国民を讃える祝賀会の真っ只中にこんなことを始めるかはさっぱり理解できないが。
好奇の視線に刺されながらも、前に出る。
「君、いつも俺のことは立てず、小言ばっかり。親の言いつけだから仕方なく婚約を続けていたけどもううんざりなんだ。
おまけに性格もあまりにも暗い!友人もいないようだし、小言意外の話はありゃしない。
妹のマリーネはこんなにも明るくて可愛いし、とにかく僕を立ててくれる。しかも君にはない、魔法の才まであるんだ!
婚約は解消させてもらうよ!」
アルノルト・ルードル、王太子声が大広間に響き渡った。彼の言葉に一瞬、空気はとまり、ざわめき、ささやき、驚き……。
双子の妹、マリーネはか弱い表情でこちらを見ているが、昔から私のものをとっては、両親へ報告する時の顔である。腹の中は真っ黒だろう。
セレナは肩の力を抜く。
ふふ、そう……私のせい、ね。
あなたには未来の夫、公爵として必要な態度や振る舞いをを指摘しただけなのだけれど。
それ以上の心当たりはなかった。
そもそもそんなことをする時間も余裕もなかったと言える。
友人はいたのだが、立派な公爵夫人となるためのマナー講習、領地の勉強、たしなみを一から行うため、家族からは交流を禁じられていた。
さらに誰かと仲良くしようものなら、男女関わらずほとんどはマリーネに奪われ、皆気付けばセレナから離れているのだ。
魔力については、名門と言われるダルクィン家にも関わらず、私には発現しなかった。
その後から家族の風当たりも強くなり、いつのまにか使用人のような扱いになった。
「承知いたしました、ではそのように。」
セレナはにっこり微笑み、会場を後にする。
父上が何も言わないところを見ると、家を出る準備をするほうが賢明かもしれない。
「さあ、みなさん楽しい時間を続けましょう」と、日常が続く音を拾いながらセレナは敷地を後にした。




