雪夜が明けて
――私はあなたに、ひどいことをしてしまいました
のそのそと布団を出て、寒さに身を縮こませる。ガウンをはおり、カーテンの隙間から外を見る。白く色付いた町並みが広がっていた。
息で曇ったガラスをなぞり、ふと彼女のことを思い出す。混然とした気持ちの扱いに困り、そっと首を振る。
新たなスタートは、もう切られていた。
何をするでもなく、ただ布団の上に寝転ぶ。借りた本は既に読み終わっていた。宿題はまだ残ってはいるが、急いで済ますほどでもない。だからまあ、暇だった。
今さらお詫びだなんてさぁ……あ~、オカシイや
心でつぶやく。その言葉に反し、実際は困惑が広がる胸の中。
この原因はよくわかってる。もちろん、彼女からの『年賀状』だ。今、他の年賀状と一緒に箱に突っ込まれているアレ。
彼女。正直言うとどうでもいい。てか既に、記憶のかなたに消えていた。ホントに。
彼女――幸成 結香は、小4の時同じマンションに引っ越してきた。
第一印象とかは覚えていない。忘れた。ただ頭が良さそうな雰囲気とかはあった気がする。まあ、実際良かったけど。
何がきっかけだったかなんて知らない。それ以前に、こっちはソレをソレとして認識さえしてなかった。
小学校6年生。自分自身が……無視というイジメにあっていたことさえ。
――いや、違うな。気付いてはいた。いたけど、無視程度なら特に害はないしと気にしてなかった。
気にしてなかったと、思う。
だから、最初アレを見た時、ただ純粋に驚いていた。彼女が引っ越して3年が経つのだから。
もう接点が無くなったと思っていた彼女から、不意に『年賀状』が届いたから。
今さら、だった。
無視されていたものの、その頃はまだかなり本にのめり込んでいたし。それに、ずっと独りだったわけでもないし。
一人。彼女のもとから抜け出して、友達になってくれた子がいた。
何を………何を、今さら言ってるんだろう。こっちが特に何とも思ってないことを、勝手に気に留めて……
もしかしてかなり悩んだりした? だとしたらザマアミロ、だ。
でも、だ。もし……もし彼女が悩むきっかけになったのが、イジメられたからだとしたら? イジメる側だった彼女が、イジメられる側になっていたら?
そっと、目を、閉じる。
『年賀状』には、差出人名しかなかった。向こうの住所なんて知らない。
それが――全て。
勢いをつけて身を起こす。窓に近付き、バッとカーテンを開く。昨夜積もった雪は、もう跡形もなく溶けていた。
宿題しようか……
冬はまだ終わらない。雪だってまた降るかもしれない。でも、日常に支障はない程度だろう。
新たな年はもう始まっている。遅れるわけには、いかない。
――☆――☆――☆――
私はあなたに、ひどいことをされていたのだろう
傷ついたことも確かに、何度かあった
でもそれはもう、私の中では過去になっている
だから……ユゥちゃん
もし立ち止まってしまっても、後ろを振り返ることがあっても、進むことを諦めないでよね
こんな私でも今、ちゃんと歩けてるんだから、さ
季節外れですいません。設定はお正月です
迷ったっていいんです。ちょっと後退りするのも、構わないんです(多分)
最終的に前進出来たら、それで十分なんです(きっと)
と、偉そうなことを言ってみたり
降り積もった雪はやがて、溶けて水になります
それまで待ったって、歩き出せるのでは?
てことで、【雪夜が明けて】でした
読んでくださったあなたに、素敵な何かがありますよ~にっ