表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かわいそうなひとたち

作者: 南 翔

過激な表現を含んでいます。

そういった類のものに不快感を覚えられる方は読まれることのないようお願いします。

とある町外れに、家族のことをとても愛している少女がいました。


母親はすでに死んでしまっていましたが、彼女はいつも明るく元気に過ごしています。


今日は、彼女の家へよく訪ねてくる少年と一緒にテーブルでお菓子を食べていました。


少女の手作りのクッキーに、少年は笑顔が浮かんでしまうのを止められませんでした。


すると少女が、


「そうだわ! 私の宝物を、あなたに見せてあげる!」


と、椅子から飛び上がり、小さなブリキの箱を棚から出してテーブルの上に置きました。


「それはなんだい?」


少年は訊ねます。


少女は、当ててみて、とでも言うように笑顔で首を振ります。


「お気に入りのリボン?」


少女は首を振ります。


「かわいい花?」


少女は首を振ります。


「手作りの人形?」


少女は首を振ります。


しばらく少年はうんうん唸っていましたが、答えは浮かんできません。


諦めて降参のポーズをとると、少女は箱を開けて大事そうに何かを取り出します。


それは1枚の写真でした。


そこには、痩せ気味でひょろひょろとした男が写っていました。


「私のお父さんなの」


彼女に父親がいることを知らなかった少年はたいそう驚きました。


「今でもたまにうちに帰ってきてくれるの」


彼女の母親は家の外に小さなお墓に眠っていることは知っていましたが、彼女から父親の事を聞くのはこれが初めてでした。


しかし、


「お母さんはお父さんに殺されてしまったけれど、私にはまだお父さんという家族がいるの。大切な家族が」


笑顔で彼女は彼女の大切な人のことを語ります。


てっきり、彼女の母親が病気か何かでなくなったと思っていた少年は震え上がります。


「君はお母さんのことが嫌いだったのかい?」


母が父に殺されたというのに、その父のことを笑顔で話す少女のことがよくわかりません。


「何を言うの。お母さんは私のかけがえのない家族の一人よ」


と怒鳴られます。



必死に謝って、逃げるように家に帰った少年は彼女の言うことがよくわからず、腕を組んで考えます。


(父も母も大事な家族と言いながら、母が殺されても父のことを愛している、だって? そんなことがあっていいものなのか)



夜遅くまで彼女のことを理解しようと頭を抱えていましたが、結論は出ず。


しかし、一人の人を殺した殺人者がこの町付近にいると思うと不安が止まりません。


心配になったのと、日中のことを彼女に謝るために少年は夜半にもかかわらず再び町外れの少女の家へと向かったのです。


(もう眠っているかもしれない)


彼女の家には明かりが見えず、おとなしく帰ろうときびすを返したそのとき、彼女の家から悲鳴が聞こえてきたのです。


「ああっ!!!」


それは、聞き間違えようのない、あの自分とよく遊んでいるあの少女の、しかし全く聞きなれない声でした。


それとともに、


「このっ、このっ!」


と、ひしゃげたような男の声が聞こえてきます。


まさか、たびたび帰ってくるという父親なのか。


しかし、あんなひどい音を響かせている人間が、大切な家族だと笑顔で語った少女の父親とはとても思えませんでした。


少年は手近にあったずしりと重い棒を手に、彼女の家の中へ、声のする方へとゆっくり、ゆっくり足を進めます。


そのあいだにも、男の罵声と、少女の悲鳴と、それでいて嬌声のような声が響き渡り、少年の心をどんどん蝕んでいきました。


そして、ドアが開け放たれた一室から、ひときわ大きな声が聞こえ、覗いてみると、倒れている少女に向かって、なにか鞭のようなものを何度も振り下ろす男の姿が見えました。


傷だらけの少女を見て、少年の頭はカッと熱くなり、いつの間にか怒声をあげながら男の後頭部にずっしりと重い棒を叩きつけていました。





1度叩けば男は悲鳴を上げ、


1度叩けば男は這いつくばって逃れようとし、


1度叩けば男は血を噴出し、


1度叩けば男はぐったりと動かなくなり。


それ以上叩いても、何も起こりませんでした。


それでも少年は叩き続けます。




が。




「人殺しぃいいい!!!」


後ろから、頭を叩きつけられ、意識が一瞬遠のきました。


「人殺し、人殺し! 人殺しぃいいいいいい!」


それは、少年が恋焦がれていたはずの少女の声でした。


しかし、その声に、クッキーを出してくれたときのようなやさしさ、宝物を見せてくれるといったときの楽しそうな笑顔は感じられません。


遠のく意識の中で、少年は彼女の母が父に殺されたときはどんな顔をしてたんだろう、と不思議に思い。


こんなクズみたいな父親よりも彼女の心をつかむことが出来なかった悔しさに涙を流し。






あとは、ただ、何かをつぶすような音が辺りに響き渡るだけ。











おわり

ご一読ありがとうございました。

童話のような形のお話を書くのは初めてだったのですが…雰囲気を出すのはなかなか難しいですね。



言いたいことは作品の中で言うものだと思うので、自身の所感は控えておいたほうがいいのでしょうか?


それにしても、人に対する愛情ってうまく伝わらないものです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ