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前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。  作者: ごろごろみかん。
2.契約は破棄されたものだと思ってた

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気乗りしない婚約

『三年です。三年したら、離婚しましょう』


ニコニコしながら、ハッキリとそう言った彼女に、俺は言葉を失った。

度肝を抜かれたのだ。



アイライド帝国には、白魔道士と黒魔道士と呼ばれる職がある。


魔法には黒属性/白属性と区分されているのだが、基本魔道士はそのどちらかしか使えない。

そして、黒魔法より白魔法を使える人はもっと少なかった。


俺──マシュー・サザランドは、物心着いた時には黒魔法を使うことが出来た。

アイライド帝国では、黒魔道士/白魔道士になるには神殿の認知が必要だ。

そこで力を認められて初めて魔導師を名乗ることが許される。

今現在、神殿に届出されている黒魔道士の数は全て百二十人ほど。


しかし、年齢や力の衰えを理由に引退した魔導師が半数。そして、力はあるけれど実践には及ばない魔導師がまたその半分ほど。


実際、現役で動ける黒魔道士は、数にして三十人程度なのが実情だった。


白魔道士はもっと少ない。

治癒の力を持つ白魔道士は、国に十人しかいない。


そのうちのひとりが、俺の婚約者であるカレン・カーターだった。


黒魔道士の俺と、白魔道士のカレンが結婚すれば、どちらも使える優秀な魔導師が生まれるに違いないと、神殿がそう決めたのだった。


俺は、神殿から強要されたこの婚約に反発した。

黒魔道士と白魔道士の掛け合わせなど、まるでその扱いは家畜だ。俺は人間だ。


奴らの言う通りになってたまるかと、何度となく抗議した。


しかし、王家も認めたこの婚約が覆されることは無かった。


「やってられるか!まるでひとを家畜か何かのように……!」


ドン、とエールを乱暴に置くと、対面に座った男が笑った。


「まあまあ。お相手はカーター家のご令嬢だろ?以前チラッと見たけど、綺麗な女性じゃないか」


「だから何だ?お前は、繁殖用の豚かなにかのように扱われて、屈辱じゃないのか!!」


俺を宥めるように言う男に、俺は食ってかかった。

茶髪の髪に、気の弱そうな顔立ちをしたこいつはイーサン・フォークナー。

俺と同じ黒魔道士で、彼も国から政略結婚を命じられていた。イーサンは俺の指摘に困ったように頬をかいた。


「うーん……別に、俺はそこまで嫌じゃないかな。婚約者にあったんだ。俺にはもったいないほどの気立てのいいお嬢さんだった。むしろ、彼女の方が嫌がっているに違いないね、元平民の俺と結婚、なんて」


イーサンは、元々平民だった。

しかし、稀有な能力──つまり、黒魔法の使い手であることが発覚し、急遽、男爵位が叙爵された。

箔をつけるための一代限りの爵位だ。


彼は、白魔法の使い手である伯爵令嬢と結婚することが決まっていた。


イーサンの言葉に、俺は吐き捨てるように言った。


「相手の女も平民だろ。養子にしたと聞いた」


「ああ、うん。そうなんだ」


イーサンは照れくさそうに笑う。

その様子に、彼らの婚約は上手くいっているのだろう。自分とは全く違う。


「だけど、メアリーは、五歳の時に伯爵家に迎え入れられたから、育ちはほぼ貴族みたいなものだろう?だから、俺みたいな野暮ったい男と結婚するのは嫌だと思ったんだ」


「……」


「でも、メアリーはそんなこと気にしない、って。帝国のために一緒に力を合わせましょうって……そう言ってくれたんだ」


白い頬を赤く染めながら照れくさそうに話すイーサンに、俺は舌打ちをした。

すっかり、この男は白魔道士の令嬢に骨抜きにされているらしい。

俺は、ため息を吐いて言った。


「俺は、家畜のように扱われるのが嫌なんだ。だいたい、白魔道士と黒魔道士を掛け合わせて、優秀な子供を作らせるなんて、考えがゲスいんだよ!」


「それくらい、神殿も切羽詰まっているってことなんじゃないかな……」


イーサンの言いたいことは分かる。

何せ、この国には今、白魔道士が十人しかいない。

動ける白魔道士の数はもっと少なく、七人ほど。それも、年老いた魔導師を引っ張り出して、その数。

だからこそ、帝国が白魔道士の数を増やそうと焦っているのはわかる。


貴族平民関係なく、魔法の才能は現れる。

だけど、その条件は不明。


神殿は魔道師を増やしたがっているが、どうやったら増えるかがわからないのだ。

白魔道士の数はどんどん減り、神殿は頭を抱えていることだろう。


事情は分かっているものの、だからといって『そうですか』とは頷けない。

舌打ちをすると、背後から軽やかな声が聞こえてきた。


「あれ?イーサンに、マシュー!ラッキー。今日は来てたのね!」


俺の隣に飛び乗るように座ってきたのは、この酒場の娘、グレースだった。

茶髪に近い黒髪に、琥珀色の瞳。

三つ編みをぐるりと後頭部にまきつけたような髪型をした彼女の首元は、すっきりとしている。


「何の話をしていたの?あ、イーサン、婚約おめでとう!」


グレースがぱちぱちと手を叩く。

イーサンが、照れたように首筋に手を当てる。


「ありがとう、グレース。実はね」


「俺の婚約も決まったんだよ、グレース」


イーサンの言葉を引き継ぐようにして言うと、グレースがそのはちみつ色の瞳を見開いた。

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