☆本日はお日柄もよく☆
「旦那様。本日が何の日か、ご存知ですか?」
私は、対面のソファに座る男性を見た。
白金の綺麗な髪。少し癖っ毛なのか、それはくるくると緩いカールを描いていた。
侍女の淹れた紅茶に口をつけていた彼は、訝しむように私を見る。
「今日は、俺とあなたの結婚記念日だね。だけど、特別なことは何もしなくていいとあなたが」
「ええ。おっしゃるとおりですわ」
だって私、今日このお家を出るんですもの。
私は手に持っていたカップに口をつけた。
本日の紅茶は、オレンジペコセイロンティー。私の好きな紅茶だ。
嬉しい。まるで、私の新しい門出を祝ってくれているみたい。
私は、カーブを描く優美な茶器に触れながら、そう思った。
☆
今から、三年前。
「これは白い結婚だ。俺はあなたを愛さない。妻として遇することは誓うが、こころは求めないで欲しい」
その日、私は結婚したばかりの彼に、そう宣言された。
私はその言葉に驚いて目を瞬いた。
彼の言葉そのものよりも、それに、激しい既視感を覚えたためだ。
そして──次の瞬間、思い出した。
『花恋、先に言っておくが私には愛するひとがいる。きみを愛することはできない』
前世でも、同じことを言われたわね、と。