ふち
穴がぽっかりと空いている。
最初は、ただの小さな窪みだった。だが、その横を毎日通って観察し続けるうちに、それは次第に大きく広がり、雨が降る度、水溜りができるようになり、それをじっと見ている自分の顔が映るようになった。
なぜ、穴が大きくなるんだろう。
遠く離れたところに座って眺め、もし、もっと深く掘ったら、どうなるんだろうとぼんやり考え、そして、好奇心に負けて行動に移した。
ああ、一生の不覚だ。これでもう逃げられない。
その日から、ひたすらひたすら穴を掘る。来る日も来る日も土埃を被る。爪の中の泥が気になる。頬に張り付いている粉々が癪に障る。足がどころどころにできている小さな沼に嵌って抜けなくなる。度々土砂崩れで下敷きにされる。
叫びたくなる。
だが、掘らなければならない、一度手を付けたら最後、やり遂げる義務が課される。
そして、番人になる。
毎日の課題は、縁を回ること。雨の日も風の日も関係ない。うかっり足を滑らせて淵に落ちたら、何日も何週間も掛けて這い上がり、また巡る。
「馬鹿だな、君は。落ちるとわかっていてなお周囲をクルクル回ってどうする」
「そんなこと言われなくても、自分が一番うんざりしてる。だが、掘ってしまったもんはしょうがない、大人しくそれを見張るしがないんだ」
見張る。そう、見張るんだ。誰かが自分の代わりに落ちないために。そんな義務感に掻き立てられる。
そして、どこへも行けなくなる。
そして、朽ち果てる。