最初の挑戦者
最初の挑戦者というか被害者は裏スポーツ界で稼いでいるボクサーだった。マリス・ブラッドドレイン(はじまりの吸血鬼)とそいつは一秒の間に存在する世界……長いな『刹那の隙間』と名付けよう。二人はそこにあるリングで戦闘うことになった。ちなみにリングはマリスが「えいっ!」と言うと同時に地面から生えてきた。マリスはリングに上がる前にランニングシャツとスポブラとボクサーパンツを着用した。それらは彼女の血液でできているため全て赤黒い。
「ねえ、観客いた方がいい?」
「いや、いい。それより早くゴングを鳴らしてくれ」
「そっか。ねえ、手加減してあげようか? それともステータスをあんたと同じにした方がいい?」
「そんなの必要ない。さぁ、とっととゴングを鳴らせ!!」
「だってさ、アユム」
「はいはい。それじゃあ、レディー……ファイ!!」
僕がゴングを鳴らすと同時にボクサーは攻撃を開始した。
「先手必勝! 鎖骨砕き!!」
いきなり鎖骨か……。当たったら肩が上がらなくなるか手とか指が痺れて防御すらできなくなるな。
「う……うわあああああああああああああああ!!」
「ん? 今なんかした?」
マリスの鎖骨が彼の右手と右腕と右肩を破壊した。しかもマリスはその場から一歩も動いていない。
「は、ははは……一発殴っただけでこのザマか」
「どうする? 降参する?」
「いや、しない。さぁ、次はお前の番だ」
「分かったー」
「なあ、試合が始まる前から気になってたんだが、お前なんで裸足なんだ?」
「それはね……今からリングが壊れるくらい踏み込むからだよ」
「はぁ? お前何を言って……」
「えいっ!」
「……!?」
ボクサーが走馬灯を見始める前にマリスはリングが壊れるくらい踏み込み前進。彼女は直撃すると全身の細胞が悲鳴を上げながら数秒で死に至る拳をボクサーの腹の前で止めた。
「どう? 私の寸止め、すごいでしょ」
「はぁ……はぁ……す、寸止めでこれかよ」
「ん? もしかして直撃させた方がよかった?」
「いや、それは絶対にくらいたくない。もし直撃してたら確実に死んでたからな」
「私が本気出したらもっとすごいことになるよ」
「やめろ、考えたくもない」
「はいはい。ねえ、これからどうする? 降参する? それとも続ける?」
「すまないが内臓と背骨が危険な状態だから今回は降参するよ」
「そっか。じゃあ、百年後また会おうね」
「百年後ってお前な……。まあ、機会があればまたやろう」
「うん! じゃあ、またね!」
「おう、またな」
「マリス」
「あっ! アユムー。どうだった? 私かっこよかった?」
「ああ、かっこよかったぞ」
「わーい! アユムに褒められたー! ギュー!」
「お、おい! マリス! そんなに強く抱きしめられたら……あっ」
「あー! ごめん! アユム! 背骨折っちゃったー! えーっと、えいっ! はい、治ったー」
「よ、よかった……ちゃんと治ってる」
「私の『えいっ』はなんでもできるからねー。こんなの余裕だよー」
「そうか」
「アユム、お疲れ様。よしよし」
マリスのスペアがマリスの影から現れ、俺の頭を撫で始める。
「お、おう、ありがとう、スペア」
「スペアだけズルーい! 私もするー! よしよし、アユムはいい子いい子」
「お、おう、ありがとう、マリス」
なんだ? これ。まあ、誰も死ななかったからいいか。