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俺はお前を絶対に見捨てない

 私の創造主は私を愛してくれなかった。彼女は私に最低限の知識と世界の壊し方と私の理想のパートナーの居場所だけ教えるとどこかに行ってしまった。


「ネグレクトしてる自覚ないんだろうなー」


 はぁ……もういいや。世界を壊しながら理想のパートナーを探そう。


「はぁ……一人で食べるごはんはあんまりおいしくないな。そうだ、私のスペアを作ろう。えいっ! よし、できた。おい、スペア。昼ごはん一緒に食べないか?」


「いいよ」


「そうか。じゃあ、いただきます」


「いただきます」


 私の理想のパートナー探しはいろんな世界のいろんなゴミのせいで難航したが『一括破壊』を使い始めるとスムーズに突撃できるようになった。


「あの星に私の理想のパートナーがいるのかー」


「早く会いたい」


「だな。よし、じゃあ、行くか」


「うん」


 私たちがそこに辿り着くまでに犠牲になった世界はたくさんある。だが、そうしなければここに辿り着くことはできなかった。


「私のパートナー、私をちゃんと愛してくれるかなー?」


「きっと愛してくれるよ」


「そうだといいなー」


 私が数年かけて作った試練を数日でクリアしたのかー、すごいなー。まあ、彼女は私の自信作だからね。これくらいできて当然だよ。でも、ちょっと心に問題あるなー。いろんな悪事に手を染めてるし、好感度がゼロと百しかないし、悪意そのものだし……でも、なぜか処女なんだよねー。不思議ー。


 *


 毎年、冬至になると彼女あいつと出会った時のことを嫌でも思い出す。あの日のことを忘れるのはきっと何度死んでも無理だ。

 冬至の日の夕暮れ、部活で使うラケットを部室のドア付近に忘れたことを思い出した俺は学校に引き返した。まだ完全下校時刻じゃないはずだから門は開いているはず。閉まってたら明日取りに行けばいい。


「ん? なんかグラウンドが騒がしいな」


「撃てー! 撃ちまくれー! 四肢を切断されても撃ち続けろー!!」


 ここ学校だよな? 戦場じゃないよな? 俺が自分のラケットを手に取り、その場から去ろうとするとテニスコートに何かが現れた。


「……やっと……やっと……会えた」


 ん? 幻聴かな?


「やったー! ようやく見つけた! 私を幸せにしてくれる私の理想のパートナー! ねえ、私の声聞こえる? 聞こえてたら返事して! お願い!!」


 俺の耳にははっきりと女の子の声が聞こえる。うーん、でも、聞き覚えのない声だな。まあ、向こうは俺のこと知ってるみたいだから一応返事しとくか。


「おう、聞こえてるぞ。はっきりとな」


「そっかー、よかったー。じゃあ、私のこと見えてる? あっ、ごめん。暗くてよく見えないよね。えっと、光る球よ、出ろー!! よし、明るくなった。ねえ、どう? 私のこと見える?」


 身長は幼児くらいで瞳の色は赤。耳は少し尖っており胸はそんなにない。黒いリボンで黒い長髪をまとめてツインテールにしている。彼女が着ている黒いドレスにはいくつかフリルと赤いバラがあり、足部そくぶはカラスの足っぽい見た目で両手は赤黒い鉤爪かぎづめである。


「おう、見えてるぞ。というか、君の両手の鉤爪すっごく危ないから外してくれないか?」


「よかったー、ちゃんと見えてるんだね。あー、それと鉤爪これは掃除が終わるまでこのままだよ。だから、それが終わるまで待ってて」


「掃除? 君はこんな時間に掃除をしてたのか? 早く下校しないと先生に怒られるぞ」


「こんなところに先生なんかいないよ。ここには私とあなたと私が許可したやつとゴミしかいないんだから」


「ゴミ? ゴミって何のことだ? というか、君はうちの生徒なのか?」


「私はここの生徒じゃないよ。私は……」


「隙ありー!」


 斧を持った大男が幼女の頭に斧の刃先を当てようと勢いよく振り下ろす。


「えい、やー、とー」


「ぐおっ!?」


 ん? 今何が起きたんだ? いつのまにか大男が地面にめり込んでる……。


「はぁ……相変わらずゴミはバカだなー。私にダメージを与えられる権限を持ってるのはこの世に数人しかいないってこと知らないのかなー?」


「な、なあ、今何が起きたんだ?」


「何って、こいつの斧を私の鉤爪で壊した後、こいつの股間を蹴り上げて最後に私の魔眼でこいつを地面に埋めたんだよ」


「えい、やー、とーの間にそんなことしてたのか」


「うん、そうだよー。えっと、話の続きは掃除が終わってからでいい?」


「お、おう」


「ありがとう。おい、スペア」


「何?」


 な、なんだ? 幼女の影から幼女が出てきたぞ。


「私のパートナーを死んでも守れ。いいな?」


「分かった」


 よかった、ようやく会えた。


「よし、じゃあ、行ってくる」


「いってらっしゃい。私」


「い、いってらっしゃい」


 幼女がグラウンドの中心までジャンプすると銃声が聞こえ始めた。いったい彼女は何者なんだ?


「な、なあ、俺ここにいていいのか?」


「いないとダメ。あなたは私のパートナーなんだから」


 白い長髪とかわいらしいメイド服が特徴的なスペアは俺の目を見ながら真顔でそう言った。


「そ、そうか。じゃあ、掃除が終わるまでここにいようかな。あっ、でも、そろそろ帰らないとまずいかもしれない」


「大丈夫。ここは一秒の狭間にある空間だからここに何年いても年を取らない」


 この娘はいったい何を言ってるんだ?


「な、なあ、これって夢とかドッキリだったりしないか?」


「違う。これは現実。あっ、ダイナマイト飛んでくる」


「え!? ダイナマイト!? 当たったら大変だ! 逃げよう!!」


「逃げる必要はない。私は安全地帯だから私のそばにいる限り絶対安全」


「そ、そうか。じゃあ、スペアのそばにいるよ」


「うん、そうしてもらえると助かる」


 数分後、銃声が止んだ。


「たっだいまー!」


「おかえりなさい。私」


「お、おかえりなさい」


「あっ、バトルモード解除しなきゃ。えいっ! よし、戻ったー」


 彼女の両手の鉤爪は幼女の手になり、足部は黒ニーソと黒いローファーになった。


「えっと、じゃあ、自己紹介するね。私の名前は『マリス・ブラッドドレイン』。『はじまりの吸血鬼』だよー」


「私は『スペア・ブラッドドレイン』。よろしく」


 吸血鬼? そんなの本当にいるのか?


「お、おう。あっ、俺は『不動ふどう 愛結夢あゆむ』だ。よろしくな」


「よろしくー」


「よろしく」


「というか、君はなんであいつらに攻撃されてたんだ? 何か盗んだのか?」


「盗んだというか奪ったんだよ」


「何を?」


「たくさんの命」


 は?


「……な、何のために?」


「私のパートナー……つまり、あなたと出会うためだよ」


 んん?


「……君はいったい何を言っているんだ?」


「まあ、そうなるよねー。でも、大丈夫。私の過去は私と契約したら嫌でも分かるから。じゃあ、とりあえず私と契約しよっか」


 怖い……。


「こ、断る! 君みたいな得体の知れない何かと契約するつもりはない!!」


「大丈夫。ちょっとあなたの血を吸うだけだから。蚊みたいに」


「吸血鬼のちょっとはあてにならない!」


「大丈夫。本当にちょっとだけだから。ねえ、お願い」


 今すぐ逃げないと……。


「こ、断る!」


「そっかー。じゃあ……この世界消すね」


 ダメだ、俺が逃げたら消される……。


「なんでそうなるんだよ!」


「それを知りたいんだったら、さっさと私と契約して♡」


 はい以外の選択肢が……ない。


「契約したら色々分かるんだな?」


「うん、私のことぜーんぶ分かるよー」


「そうか……嘘だったら一生恨むからな」


「うん、いいよ」


「契約しても俺は俺だ。君の奴隷になるつもりはない」


「安心して。私が欲しいのは奴隷じゃなくてパートナーだから」


「そうか。じゃあ、さっさと終わらせてくれ」


「分かった。それじゃあ、いただきます。あーむっ!」


「……!」


 彼女は俺に抱きつくと俺の首筋に噛みつき、おいしそうに血を少し吸った。彼女に血を吸われた直後、彼女に関するあらゆる情報が俺の脳内に流れ込んできた。な、なんだ? これ。こいつ、なんで躊躇なくこんなことできるんだ?


「はい、おしまい。お疲れ様」


「お、おう……」


「どう? 私のこと嫌いになった?」


「どちらでもない。けど、お前を放っておいたら大変なことになる。だから、俺は今からお前のブレーキになる」


「そっかー。でも、私、悪意そのものだよ? ちゃんと愛せるの?」


「さぁな。でも、これだけは言える。俺はお前を絶対に見捨てない」


「そっか。じゃあ、これからよろしくね。アユム」


「ああ」


「アユム、あなたは私のパートナーでもあるから、あなたの愛で私を満たしてほしい」


「はいはい。じゃあ、二人まとめて愛してやるよ」


「わーい! やったー!」


「ありがとう、アユム。大好き」


「どういたしまして。えっと、じゃあ、そろそろここから出ようか」


「うん!」


「賛成」


 こうして俺たちは切っても切れない縁で結ばれた。後悔はしていない。だって、俺以外の抑止力は全員放任主義なのだから。

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