第八十六話「動き始める大地」
ニヴェリーさんの一言から、一瞬にして戦闘が始まった。
準主ニヴェリー、VS、闇神幹部ネルブレム。
ふたりともバラバラで共通点もない。あるとすれば……自身の役目を果たす事。
「ニヴェリーさん……!」
ニヴェリーさんが使う土魔法の威力は強大。
地面、宙、壁。四方から大きな土の塊を出現させ、ネルブレムに放つ。
速度も速く、物体も硬い。
いい戦法だ。
しかし、ネルブレムも負けじと鋼糸で応戦している。
あんな分厚い塊を裂けるなんて……どんだけ硬い糸なんだ。
(言ってる場合じゃねぇ……)
「ふッ!」
「!」
横がガラ空き。俺はそこを狙いとめ、剣で切りさく。
「ッ……またか」
また糸だ、また鋼糸だ!
小癪すぎる、やっかいな糸だ、断ち切れない……。
「お前また……」
「よそ見はだめよ!」
こちらを見ていたネルブレムがふっとばされる。
ふっ飛ばされる直前、地面が光った気がするが……なんだ?
設置系の魔法なのか……?
「一筋縄では行かないようですね」
そう言って、話す。
攻撃はやまず、ネルブレムに向かって、火球が飛んでくる。
サイズ的に2級の魔法。
当たる! と思ったがネルブレムは、それを遊雅に避けている。
なにも問題何かのように、何もかも上手く言ってるかのように、遊雅。
火球は危険、分かるはずなのにだ。
それくらい……余裕。
(幹部の強さ。これほどとは、想定より強い……いいわ)
ニヴェリーは、そう思いながら、相手の弱点、隙を探す。
それと同時に自身の想定を上回る相手に、面白さを覚えていた。
こういう時、ニヴェリーは、気に入った相手を、手に入れようとする。
重要な人材は、国を更に高め、未来永劫続いていく糧となる。
その人材は、なんとしてでもほしい。
しかし、相手に限る。
(国に危害を加える相手は、必要ない。それが……眷族であっても)
闇神の幹部などは、必要ない。居るだけで危険。
闇神自体、世界中でも、恐怖、危険として認識されている神。
その部下など、なにをするかわからない。
恐怖を呼ぶ。
なので、例え優秀であっても、闇神の部下は必要ない。
居るとすれば、ロベルトのような、人畜無害な人物。
私の見極める目は、濁ってはない。
「むっ……」
壁に魔法陣が浮かび上がる、光、土の魔法陣が重なっている。
瞬時に危険を察した、ネルブレムは走り抜ける。
それを追うかのように、かべから、光を浴びた尖った土の塊が飛び出す。それも連続でだ。
ネルブレムのすぐ後ろは、尖った土の塊が追ってくる地獄。
当たれば骨折ではすまないだろう。
(なるほどこういうことも出来るか……む?)
走り抜けていたネルブレムは、前方に人を発見……その姿は剣士)
「俺だよ」
「……!」
その剣士はロベルト、魔法剣士。
剣に氷魔法を巡らせ、構える。このまま剣を振り氷漬けにする作戦だ。
(ここで氷漬けにして足止め。そして拘束すれば……)
ネルブレムと、ロベルトの距離が徐々に縮まり近づく。
五メートル。
三メートル。
一メートル。
(今ッ!)
ロベルトは剣を握りしめ、ネルブレム目掛けて横に薙ぎ払う。
だが……しかし。
「借りよう」
「痛たっ……!」
薙ぎ払いとともに、ネルブレムは飛び上がった。
ロベルトの頭を踏み台に上へと飛び上がり、張り巡らせていた鋼糸に着地。
ロベルトは、踏み台され、地に転がった。
「ちっ、頭踏みやがって……!」
今ので完全に怒った。
俺の頭を踏み台にして、あの上へと着地した。
実力を見せられてしまった。
もう一度剣を握りしめ、ネルブレムを見上げる。こちらを見下ろしている。
(高みの見物か……)
手で、服の埃を落とす。
埃だらけの地下、汚い……。こういう環境は嫌いだ。
俺だけじゃない、誰もが嫌いなはず。
「ネルブレム。アナタの実力はだいたい把握したわ」
「ほぉ」
ここで、ニヴェリーさんが、ネルブレムに向かって呟く。
「私の実力を知ったと言うのか」
「えぇ、鋼糸はもちろんの事。やっかいな手ね……鋼糸に、《蒼銀の爪》を混ぜていたなんて」
「!」
蒼銀の爪だって……なんだそれ?
聞いたことがない、爪たがら、生物の事を言ってるのか?
「ニヴェリーさん。蒼銀って?」
「蒼銀の爪。それは、獰猛で凶暴的、狩を狩猟とする《シブルバータイガー》という生物の爪」
シブルバータイガー。
そんな生物が居るのか、この世界に。
まだまだ、知らないことだらけだ。
「ふむ。なかなか目が届くようだ」
そう言うと、男は右手を胸くらいの所まで上げ、回転させる。
その瞬間、男の手が青白くなかったかと思った瞬間、男の手が、豹変。
蒼白く、銀色に光った鋭い爪が、手から生えていた。
(な、たんだよ……それ)
手から爪って………痛くないのか?
「やはりね。隠し持っていたわね蒼銀の爪。どうやって体の中に入れたかは分からないけど……危険な事に変わりない」
ニヴェリー五、先程まで持っていた、煙草をしまう。
左手を横に掲げる。
すると掲げた場所が光だし、その光が杖へと形状を変えて行く。
(光が変わる……あの形は杖?)
光が止むと同時に、ニヴェリーの手には、豪華な杖があった。
ニヴェリーは杖を掲げる。
掲げた瞬間再度、光り始める。しかし、それだけではない。
杖から、光の長いウネウネとした物が何本か飛び出し、ネルブレムの下へと向かう。
その光に、鋼糸で応戦するが、光りは鋼糸を華麗に避け近づき。
遂には、ネルブレムを巻き上げ拘束した。
「一瞬……」
そう思うくらい、瞬間だった。
「威嚇、ね。動いたら魔法が発動して、アナタを襲うでしょう」
「なるほど、その杖は国宝級か」
国宝級。
名器のなかでも、最大級の品のよい武器、道具のことを言う。
「アナタには、聞きたいことが、まだまだあるのよ」
「尋問か、小癪な事を……!」
ネルブレムが。拘束を解こうと動くが、拘束は全く解けない。
この事にネルブレムも、流石に焦りを感じた。
一方ニヴェリーは、薄笑いを浮かべているだけだった。
そんな二人をロベルトは、遠くから傍観だけ。今動いても邪魔になるからだ。
「ブレムさん。質問よ」
ニヴェリーは薄く笑みを浮かびながらネルブレムに質問をする。
しかし、その目は獲物を捕らえる、鷹の目つき。
「アナタの企み。堅陣龍と関係あるかしら?」
‐‐‐
強大な棍棒。
若き冒険者
凍える氷の使い手。
三者、一度に集結する。
「待て!」
時は少し遡る。
アランは、ネルブレムの部下、グラトニータを追い、走っていた。
「クソ速いっ……」
あんな、棍棒持ってるくせに、なんて俊敏な奴なんだ。
追いつけない……いや、捕まえられない。速い。
(見た目は女の子、それもお嬢様。見た目だけで侮るな)
そういうことか。
そう言えば……あの子。頭に何か、角が生えていたような……鬼人か?
「!」
走っている最中、大きく開けた広いところへと出た。
薄暗いしかし、大きく開いている、天井は高い。なにもない平地。
(謎の空間というわけか……ん、あれは……)
奥に人影。
貴族のような格好をした少女。
「あ、見つけたぞ!」
ついに追いついた、追いついてやったぞ。
名前は分からないが、ネルブレムの幹部としてま違いない。
「覚悟しろよ」
腰にかけていた、短剣を手に取り、左手と一緒に構える。
少女は依然として、こちらに背を向けたまま、動かない。
アランは徐々にゆっくりと距離を詰めてい。
(常に最大の警戒、身長が大事。無理に攻撃するな―――)
冒険者としての、教訓を心のなかで唱えながら進む。
次第に、少女との距離が近づいていく、そして。
「見つけた」
少女が言った。
「ッ!」
その瞬間に、アランは短剣を、少女目掛け振り下ろそうとした。
少女目掛けて短剣を振り下ろす。
アランにも、少女に武器で攻撃、というのには、ためらいはある。
しかし相手は闇神の幹部という、超危険な存在であり、謎に満ちた存在。
そして、手には人を殺せる棍棒。こうするしかないのだ。
アランの短剣が、グラトニータの首元を切り裂こうとした時。
その短剣の手が止まった。
なぜか、それは、アラン自身が止めたからだ。
では、なぜ。アランは短剣を降ろす手を止めたのか。
それは―――
「人……?」
アランは、短剣を振り下ろす時、気づいたのだ。
グラトニータが見ている前方に、もう一人人影があることに。
それに気づき、不意に手が止まった。
(誰だ? あの子は……見たことがないが……)
長い髪に薄い茶髪……青い目。そして、闇神の幹部の仲間では、なさそうな格好をしている。
それに、どこかおどおどしてるような雰囲気だ。
(!)
今、感じた、魔力の気配、あの子から。
それも、強い。
この魔力は……氷か?
その人物が少しづつ近づいてくる。
一方グラトニータは、その人物に向かって話す。
「やっと見つけた、探した」
「……はぁ?」
いきなりの言葉に困惑した。しかしコチラには言っていない、あの人物めがけて言ってる。
「あ、あはは……」
その人物が苦笑いを浮かべた。
(声的にも、敵意はない。だが、俺には警戒の意が少し見える。コチラを警戒する女の子の姿が)
冒険者をしてるので、それくらいわかる。
「あ、あの。そちらの方は……どなたで?」
(! こちらに振られたか)
「俺はアラン、冒険者だ。この少女を追ってここへ来た」
「あ、そう……取込み中みたい、だけど……」
そうなるな。
グラトニータは、その言葉を聞いた後、ため息を吐く。
そしてその瞬間動き出した。
瞬時に後ろに向く。そして、アランの顎を狙い、右足で蹴り上げる。
「ッ……!」
危機を瞬間的に察知。
スレスレで、蹴りを避けた。
アランは一旦距離を取り、警戒を強めた。
(危なかった。いきなり攻撃して来るとは。油断した)
あたっていたら、気絶、していたかもしれない。
あんな棍棒を持つ子だぞ、痛いに決まっている。
「まったく。お前も彼女も、なぜそう邪魔ばかりするのか」
ため息混じりにそう呟いた。
「なにって……。お前らの企みを止めるためだ」
「正義気どり……嫌い」
「違う、違う。正義じゃない、頼まれ事だ」
決して自分の正義でやっていることではない。
これは仕方なく、だ。
そう言う。すると彼女は『頼まれ事をよく言う』とか、言いながら、辺を見回す。
っと、そうだ、彼女の事を聞いてみないとな。
「君」
「あ、はい」
「君は、なぜここにいるんだ」
「あ、えっと……」
「それに、君の名前はなんだ?」
質問攻めをするアラン。
それに困惑する彼女だが、うじうじして居ては、変わらない。
警戒はとかないが、でも。悪い人ではないことは分かっている。
彼女は自分の名前を教えた。
「えっと………。せ、セイラン」
「なに……?」
セイラン。
セイラン。………あっ。
(もしや。セイラン、アイツから聞いた名前だ)
つい前のこと。
ロベルトから聞いた名前。現在行方が分からなくなっている子の名前。
それは、セイラン・テラスティア。
それに、姿も、どことなくアイツが言っていた姿に似ている。
間違いないな、あの子がセイランだ。
「君だったのか」
「え?」
「探していただ。最近君が失踪したと聞いてな。探しに来たんだ」
「えっと……誰から?」
「ロベルトから。……知ってるか?」
彼女に向かって、そう言う。
すると、一瞬だけ、彼女の顔が明るくなったように見えた。
でも、もう一度見てみると、すこし暗い顔をしたままだ。
氷のような、冷たい雰囲気。
不思議だ。
「ほ、ほんと……?」
「あぁ、知り合いなんだろ?」
「う、うん!」
どうやら当たっていたようだ。
俺はホッとして息を吐いた、その時、横から鋭い視線を感じた。
彼女、棍棒を持った、闇神の幹部というやつの、直属の部下。この子も、分からない。
さて、彼女は敵。
今回の事件の首謀者の仲間、ということになる。見過ごすわけには行かない。
「さて、ここで終わりだ犯罪者」
「は?」
アランの問に、グラトニータは、気の抜けた返事をした、しかしその瞬間、それは怒りへと変わった。
「威勢のいい奴。勝った気でいるなよ」
棍棒を両手に持ち、戦闘の構えを取る。
それを見て、瞬時に短剣を構えるアラン。セイランは服をぎゅっとにぎった。
(は、はじまる……)
(さて、始めるか)
彼女の強さは分かっている。
正面で勝てるか……どうか、負ける。いや、ありえない。俺は冒険者だ、人からの頼み事は果たす主義。
それが冒険者としての意地。
(なんとしてでも、止めて見せる……!)
フゥーと、規定の枠を開け息を吐き、呼吸する。
短剣を握り、先を向ける。
弱点は首、決まれば、絶対に止めることができる。もし当たらなければ、俺は棍棒に押し潰されるだろう。
勝負は一度。
俺は短期決戦が最大の長所。
隙をつき、敵を仕留める。
俺は相当抜かりない。決めると思った時、俺の中で、それに必要な選択肢が数百、数千と溢れかえし、俺の行動と一体化する。
それは、明らかなる俺の強さ。
俺は、負けん。
「こい。その棍棒を俺に当ててみろ」
‐‐‐
「……ふっ。堅陣龍か………関わっていると言うのなら、それは真実である」
「!」
「やはり……」
堅陣龍の早期出現。
闇神の幹部、関係があるのならば、これはすべてネルブレムが企んだわけか。
「あなた。一体この国で何をしようというの? あなたの目的は? 闇神はなぜあなたを―――」
「焦らなくともよい。目的は……話してやろう。済んだことだからな」
「済んだ……?」
二ヴェリーが疑問気に言葉を呟く。
その時だった。
「!」
大地を大きな衝撃が駆け巡った。
うねりを上げ地面が高く盛り上がり、衝撃と振動が直に足へと伝わってきた。
その振動に足を奪われた。
(お、大きい……今までの、比じゃ、ない......)
この国来てから、何度か地震はあった。地震といっても、小さい地震だから、そこまで危険じゃない。
でお、今回は……小さい大きいのレベルじゃない。
これは、まじでやばい。
「この地震……っ、強いわ。こんな事なかったのに、なぜ」
「簡単だ」
衝撃に耐える二ヴェリーに、巻き上げられたネルブレムが淡々と話す。その内容はも考えうる、最悪なことであった。
ネルブレムは話す。
「堅陣龍ゴライアスが動き出した。いずれこの渓谷に全身を表すだろう」
堅陣龍ゴライアスが動き出した。
二ヴェリーの予想はあたった。
堅陣龍の早期出現、これは異常であり、史上初である。
この出現による被害は大きく、人々に恐怖と不安を植え付けた。かの堅陣龍ゴライアスが、だ。
二ヴェリーは、父上ともう一人の準主がこの国を開け、大国アトリスへと出向いているため。自身と部下数人で、国を受け持っていた。
そのプレッシャーと責任は計り知れないものだろう。
だが、こんなことで冷静を崩さないのが二ヴェリーの強み。それにより築いた功績は、人々に認められ。
今の準主二ヴェリーがあるのである。
しかし今回は、規模が違う。
自身にとって最悪となる予想。
それが、現実となった。
これには、二ヴェリーも頭を悩ませるものだ。
「っ……まずいわね」
「かの準主が悩むか。完璧超人と記録にあったが、やはり人々からの過大評価と行ったところ」
完璧超人……そんな人間いるのか?
「私は完璧ではない……わ。なにもかも上手くこなす私でも、普通の人と同じようにミスを犯すこともある。それは、誰にでもある事であり、完璧でないのが……っ、人間のいいとこよ」
あぁ、そうだ。
人は誰だって失敗する。上手い人でも時にはミスをするということわざもあるからな。
そして、その失敗を理解し改善する。俺はこの五年間それを繰り返し、身にしみた、だからわかる。よく知っている。
この言葉にネルブレムは、嫌そうな顔をする。
「……まぁいい」
「それよりもだ」
ネルブレムは上を見上げる、その方向は、天井に穴、光が地下へと入り込む場所である。
「そろそろ上で騒ぎが起こっているはずだ。一度上を確認しては……?」
「!」
そうだ、忘れていた。
今も続く巨大な地震、ここでこの大きさだ。きっと外は大変なことになっているはず。早く行かなければ。
俺は動こうとした。しかし。
「ふむ。行かせるわけにはいかない」
ネルブレムがどこからか出した飛び道具がコチラへと飛んできた。
「っ……くそ厄介だ」
「邪魔をされるのは。こちらとしても困る」
「それはこちらもよ。地上に戻り、一刻も早く皆の避難を優先し、堅陣龍への作戦を実行する。すること多いわね……。私達も、あなたに邪魔されるのは困るのよ」
鷹揚とした態度で、はっきりとネルブレムに告げる。
しかし。
「私は敵。闇神様のためにも。はやく任務を果たさねばならない。ここは妨害せねばならんのだ」
ネルブレムにも、果たさねばならないことがある。
これは、だれにも譲れない。
「そう」
二ヴェリーは残念そうな声でそういう、次の瞬間。二ヴェリーから発せられる魔力が大きく膨れ上がる。
(まだ力を……本気といったところか。ならば、こちらも全力を出すほうがいいだろう)
ネルブレムはそう決意。次の瞬間、ネルブレムから闇のオーラが溢れ始めた。
そのオーラは煙のようであり、ドロドロと、負が溜まった、醜いオーラ。これが闇だ。
(光と闇……)
光の二ヴェリー。
闇のネルブレム。
両者対立し、それぞれ違う魔力、強さを放っている。
戦闘がはじまる……予感。
ロベルトは、岩のそばから遠くで二人を眺めていた。
すると、その時、二ヴェリーさんがこちらへと目線を送ってきた。そして俺にこういった。
『あなただけでも、行きなさい』
声は聞こえなかった。
でも口の開き方。そして俺の直感がそうだと言っている。俺の頭は、直感を感じるのだ。理由はわからない。
俺は即座に行こうとした、しかしここで迷いが生まれる。
それは、まだ皆が揃っていないことだ。
ローバンさんにアラン。そして、ここにいるはずのセイラン。まだ全員が揃っていない。
俺だけ行っていいのか。
俺は考える。
(だが。時間がない、それに二ヴェリーさんがせっかく俺を行かしてくれているのだ……やるしかない)
決断は決まった。
俺はネルブレムにバレぬよう、こっそりと移動し始める。
移動先は、二ヴェリーさんが降りてきた場所。きっとここに、なにか床が動く魔法があるはず。
それをさがして、上へと上がる……これは魔導書だ。えーと、どこだ………。
(思ったよりおおいな……こりゃ大変だ、いちから探さないと)
ロベルトは、収納されていた魔導書を一つづつ調べ始める。
(はやく、急いで)
二ヴェリーはネルブレムに気づかれる前に探し出し、上へと上がることを心のなかで願いながら、急かす。
しかし、上手く行かなかった。
「ん……! おい、なにを……!」
ネルブレムに気づかれたのだ。
(ロベルト。アイツは一体あそこで何をしようと……。ん、光。……! まさk、地下からの脱出)
「させるか」
「危ない!」
阻止しようと、闇を込めた、闇玉を、ロベルトに向かって飛ばす。
しかし、それを二ヴェリーが、おおきく展開したバリアによって防ぐ。一気にドーム型に形成していくコレを《反射宮》という。
二ヴェリーの愛用だ。
「ロベルト! 時間はないわ!」
「分かってる!」
(どれだ……あ! これか?)
ロベルトはそれっぽい魔導書を見つけ手に持つ。
魔法名は確か。ここに書いてあるはず。えーっと……埃を払うための専用の魔法……。
(ぜんぜん違う!)
いや、諦めるな。
まだある、きっと見つかるはず……ほら、例えば、これなら!
『地下での暮らしかた3巻』
(なんで参考本あるんだよ! 魔導書じゃねぇ! ……くそ、見つからない。急げ、早く早く)
バリア展開の制限時間が近づいてくる。
徐々にそれは刻一刻と時間を刻む。
「なかなとけん……」
「簡単には、破れない計算よ」
必死にバリアを展開し、ロベルトから攻撃を防いでいく、魔力の消耗が激しい。
(はやく。急いで……!)
ロベルトは本を選び続ける。
そしてついに、それっぽい魔導書を見つけたのである。
「! これだ!……ん?」
その魔導書には。
『ウエニアガーレ』
と読める字が書いてあった。ウエニアガーレ?
(ふざけているのか?)
っと、もたもたしてる暇はない! えっと、この魔法を唱えればいいのか、恥ずかしいな。
しかし背に腹は変えられない、行くぞ。
「う、っふ……ウエニアガーレ!」
唱える時、少し笑ってしまったが、大丈夫か?
そう思っていると、突然床が、地震とは違う揺れ方を始めた。
(成功か……?)
俺はそう思った。
それと同時に、床が上へと急加速で上がり始めた。あまりの速さに体制を崩し転んでしまう。
そして、そのときに、ふと下が見えた。
見えたのは二ヴェリーさん。
寂しげで、俺に託すような顔で、微笑んでいた。




