第八十話「風、そして闇神の部下」
「………」
男は今現在、ロベルトと戦闘を繰り広げていた。
それは、突然始まった。
(出会った瞬間に戦闘か)
男はロベルトの攻撃を軽々と避け、自身の使う鋼糸を巧みに使っている。
鋼糸は、その名の通り、鋼のような強度を持つ糸のことを言う。
男は鋼糸のエキスパート。
そして、闇神の幹部でもある。
そう安々と倒せる相手ではない。
「!」
(まただ、また避けられた)
それだけじゃない、攻撃がしにくい。
あの男に近づけけない、鋼糸というやつの力なのだろう。
適度な距離を保たれ、反撃される。
相手の表情は、無表情。余裕のそれだ。
相手は本気を出していない、軽く俺相手にしている。
それだけの力がある、それだけの自身が。
「………!」
強く、強く剣を振る、全身の力をいれ相手へと剣を振る。
しかし、弾かれた。
衝撃音が鳴る。
高く、鋼の打ち合った音が、鋭く鳴り響いた。
「だめだ。やはり、対処しきれていない」
突然、男が俺にそう言った、なんだ……煽っているのか?
対処しきれていない。
それは当たっている、現に俺は苦戦中だから。
だけど。
「それがどうした!」
魔法剣士ができる技、それは魔法を剣に宿し斬る技。
炎を剣に宿す炎の剣技。
これこそ魔法剣士と言える技。
(これならば、鋼ごと炎で断ち切れる!)
炎を剣に纏い、鋼糸に向かって一閃、見事に断ち切った。
これなら行ける!
鋼糸は周囲全体に張り巡らされている。
それを斬れば、こちらは有利!
剣を持ち、走る、そして勢いに任せて鋼糸を断ち切る。
(軽い! 軽く切れる、魔法と剣なら!)
「なるほど……」
男は一言言ったあと、両手を前に出す。
「やはり。魔法剣士は厄介だ」
「それはどうも……!」
剣を持ち、相手へと斬りかかる。この際、多少の怪我は覚悟してもらおう。
剣を振る、しかしまたもや鋼同士弾けた。
相手の鋼糸は厄介だ……ここをどうするか。
鋼糸は炎の剣で切り裂ける、しかし相手に知られている。
だから、対策はされるだろう。
と、なると。
今まで、見せていない技を使って攻撃すれば……。
「っと………危ない」
油断した、そこまで迫っていた。
油断も隙もないやつだ。
「私の鋼糸を、越えられるか。この鋼糸の包囲の中を切り抜けれるか」
「!」
俺の上空には、縄のように張り巡らされた、鋼糸の群。
あの縄の糸一つ一つが、鋼のような強度を誇っている。
あれが、一斉に俺の方に向かってくる………。
(だけど……それだけでじゃあ、止まらない!)
この技ならば行ける……使うは、風の力。
(風魔法をイメージするんだ、風の加護をもらった時浮かんだイメージを、俺なりの使い方を!)
腕、そして背中に風の力が宿っていく。
風の加護が、力となる。
(こ、この感覚は……!)
体験したことがない、やった事もない。
だが、できる。
その瞬間、鋼糸の方位を切り裂き、上空へと飛び上がったものがいた。
「なに……」
「は!」
その正体は風の力。
しかし、魔法ではない。
れっきとした剣技……そこに風の力が合わさった。
飛び上がる翼。
(まさか、加護を持っているのか)
男は驚く、なにさ加護など情報が一切なかった。
いつの間に、相手は加護を手に入れた。風の加護を、いつの間に。
この男には、思い当たる所があった。
(おそらく、風の国だろう。となると、ヴィクセルめ……なぜ情報を言わなかった。あぁ、だめだ、なんというやつか)
心の中で、ヴィクセルを非難する。
しかし、その声はヴィクセルには届かない。
「隙だ!」
その隙に、ロベルトは剣を持ち、上空から落下攻撃を当てに行く。
「当たれ!」
「当たることはない」
男は華麗に避けた。それも、一歩の後退りのみ。
そしてそのまま鋼糸を、ロベルトの首へと向ける。
「くそっ………! っ……」
「………」
ロベルトは攻撃に移ろうとした、しかしその前に。
男の鋼糸が、ロベルトの首に巻きついた……これでいつでも断ち切れる。
つまり、ロベルトは身動きが取れない。
取れば死と確信しているからである。
「動くな」
「ぬっ………」
「……よし」
(指図は上手く言った。あとは、連れ帰り研究を重ねるまで)
男はロベルトに向き直る。
「闇神の下へと連行させてもらおう」
「なぜ……だ」
「命令だからだ」
「っ……闇神はなんなんだ」
「教えることは出来ん。ただ、偉大なるお方と思えばよい」
闇神が偉大なるお方? 嘘だ、国中の皆を危機にさらしてるやつだ。
そんな奴が偉大だって?
「噓つけ……ただの邪神だろう……」
「そう思うか」
「あぁ」
応答の瞬間、首に絡まった鋼糸がキツくなったのを、感じた。
命の危険を感じた。
(まずい、このままだと、息する前に殺される……)
なにか……そうだ、魔法だ。
俺の魔法かさなら、気づくことはない。
俺が魔法を使う時、皆、なんでか気づかないのだ。
戦士はともかく、魔法使いならば気づくはず。
それが、なぜだか、気付かない。
(理由は分からん。だけど、それを逆手に取って使えば……)
強い武器となる。
「お前らの目的はなんだ……」
「言うはずかない……はぁ、だめだ、だめだ」
「っ……なら」
なら……えっと……。
この隙に、魔法により、鋼糸を切る方法探る。
鋼の強度というが、実際には鋼ほど硬くはない。
だから……なにかで切れるはず。
時間稼ぎとして、喋り続ける。ついでに情報も手に入れる。
「なら、なら……あの石はなんだ!」
「あの石……」
「光り輝く石のことだ。あのブロックのような……」
「……ルーンの事か」
な、なに……ルーンだって?
「! そ、それは」
「時間だ……連行する」
「っ……」
時間、まずいはやくなにか………なにか不意をつけて、硬いものを切れるもの……。
(あ、そうだ)
硬いものなら、岩がある、土魔法だ。
でも、それをどうやって………あ。そうだ。
(上から落とせばいい)
首に巻きついた鋼糸、それにはもちろん伸ばし部分がある。
そこに、岩を落下させる。
ロベルトは、男が見ていないうちに、鋭く作った土の塊を、上空へと飛ばす。
「……何かしたか」
「! ……いや? なにも――」
ロベルトがそう言いかけた時、落ちてきた土の塊が。
鋼糸の持ち手を、切断した。
「なにっ……」
「! よそ見すんな、よ!」
剣は遠くに転がっている、なら他にどんな攻撃方法が。
あるじゃないか……体が。
「っぐ……」
「!」
(決まった)
手を地面につき、体を回しながら、遠心力による蹴りを。
あの男の顔面に叩き込んだ。
良い音がした。
男はそのままのけぞり、バランスを崩すが持ちこたえる。
蹴られたところを触っていた。
そこに言葉を入れる。
「そう簡単に、連行させれないさ」
言った。言ってやったぞ。
やつに一泡吹かせられただろう、蹴りを入れてやったんだ。
(まさか……)
蹴られた所を押さえながら、ロベルトの方へと向き直り一言。
「名前を教えろ」
「えっ?」
「………」
「あ、えっと……ロベルト・クリフ」
「クリフ……そうか」
男は後ろに向き直り、背を向ける。
「ちょ、ちょっと待て! お前の名前も教えろ!」
ロベルトは呼びかける、しかし無反応。
無理か……と思ったその時、奴の背中と同じ高さに浮くものが目が入った。
(あれは……土魔法……かしも、形。これは、この世界の文字!?)
そのうち魔法は文字の形で書かれていた。それを解読。
(えーっと………ネルブレム?)
男にはネルブレム。
闇神の部下であり、貴族でもある。
「……お、っ!」
その時、またもや風が吹いた、あまりに強かったので両手で防ぐ。
そして風が弱まり、前を見ると……。
(居ない……?)
目の前には誰もいない、それと同じで気配もない。
奴は、俺の前から忽然と姿を消した。
‐‐‐
「ふぅ……」
男、ネルブレムは自らの拠点へと帰り一息ついた。
顔を蹴られた傷はもう治っている。
回復魔法だ。
(連行は失敗……しかし、情報は手に入れた)
ロベルト・クリフは、風の加護を持っている、重要。
これだけでも充分。
さて、あとは………。
ネルブレムは歩き出し、一階を降りて、地下へと入っていく。
地下の廊下を歩きく。すると奥の方で松明の灯火が見えてきた。
そこは牢屋、その前に少し傷を負ったグラトニータ。
(脱走はしていないようだ)
「グラトニータ」
「! 主様」
「見張りはどうだ」
「問題ないよ」
グラトニータはそう言った。
「そして……」
ネルブレムはグラトニータが見張る牢屋の中に目を向ける。
そして、一言口に出す。
「彼女は、眠ってるのか?」
「もう夜だから、寝てる」
「ふむ」
(ここに連れてきてから数日。その間彼女は、長い間起きていた)
普通の少女は、こんなにも長い時間を起きれない。
と、なると……。
「彼女の素性は調べたのか」
「うん。あの氷の国の貴族の家の令嬢」
「そうか」
まさか、あの貴族の令嬢だったとは。
我らの目標人物。
貴族の令嬢。
そして指名手配犯。
三人旅として、ここまで癖のあるものが揃うとは。
(世界は広い。そして分からない。はぁ……)
ネルブレムは、少し息を吐いたあと、グラトニータに言う。
「このまま見張っておけ、私はやる事をする。交代は明日だ」
「分かった」
ネルブレムはそう言って、一階へと戻っていった。
地下にはグラトニータ、そして。
ロベルトの仲間、セイランのみが残った。
‐‐‐
グラトニータ視点:薄暗い地下
(なんで、私がやらなきゃいけないのか)
鬼人としての私は主に戦闘メイン。
主様の下僕として、使うはず。
戦闘経験は充分ある、何度もやってきた。
むしろ戦うために生まれてきた。
戦闘屈指の鬼人族。
なのに、なんで私は牢屋を見張らないといけないのか。
棒立ちで、何も起こらない牢屋を、一人の少女のために。
(分からない)
牢屋に立ちながら考える。
やることが無い、私はなにをしているのか。
ほぼ何も起こらない、だから暇。
体を前に突き出し背伸びする。
ついでに戦闘に使った棍棒を見る、あってもそれくらい。
あと、彼女が話しかけてくる。
これは面倒事か。
………。
(……正直、主様、その上に君臨する、闇神の事は、さっぱり分からない)
なんの目的で、なんの動機かも分からない、なにも教えてくれないのか。
命令の先で、相手にしたあの男。
目標が違ったので、さっさと倒そーと思ったけど。
負けた。
なんで負けたかよくわからないけど、私は敗北した。
だけど、その代わり石は手に入れた、目標は達成できた。
石を主様に渡した時、主様は喜んでくれかと思ったけど。
私を褒めるだけで、顔には出ていない。
気になって私は『喜んでる?』かを聞いてみた。
反応は頷き。
『あぁ、心の底から喜んでいるよ」
その一言だけ。
それを見て、いつも疑問に思うんだ。
『主様は本当に、そう思っているのか』
疑心半疑だけど、そんな考えご浮かんだ。
私を見てくれているか。
本当に心から喜んでるか。
そんな考えが脳を巡る。
(まぁ……そんな事はどうでもいいや)
私には、必要ない。
主様の命令に従う鬼人として。
ただ、私は従うだけ。
(あ……)
自分の持っている棍棒が、床に落ちた。いつもはないのに。
なんでだろう、まぁいいか。
棍棒を拾い上げ、地面につける。
重い音がなった、この重さ、そして強さなら。
あの男に勝てると思うんだけどな。
と、その時、後ろの方で女の微かな声が聞こえた。
寝言か、そろそろ起きそうなのか、どっちでもいいけど。
(……もうこんな時間か)
地下だけど、感覚的に時間はだいたい把握できる。
慣れてるから余裕。
そろそろ寝ようかな。
そう思っていた所で、彼女は起きた。




