第七十五話「襲撃の前触れ」
あの後、俺とローバンさんは早急に宿へと戻った。
何事もないうちに。
現在俺は、部屋の中で、腕を組み考え事をしている最中だ。
考え事は、もちろん今日のこと。
ただ帰るだけなのに、大変なことに巻き込まれた。
というより、相手の行動から考えて、意図された事だろう。
俺の名前を知っていたし。
奴ら、闇の者とか言っていたからな。
とにかく面倒だ。
それと、セイランの事だが。
まだ……帰っていないらしい。
この宿に一度もだ。
あの子が言ってた。
彼女が、この宿の宿主なのでそうなのだろう。
では、セイランはどこに行ったのか。
なぜ、この宿に戻らないのか。
それは……分からない。
でも、ただの外出ではない事は確かだろう。
こっちも問題だ。
(闇の者とかの話にもどるが……)
アイツが扱ったであろう、鋼糸という、武器。
映画などで出てくる、特殊な武器だ。
まさか、こんな形でこの武器と会うことになるとは……。
いや、そもそも、この世界、そんな武器……いや、技術があるとは。
驚きだ。
(武器なのだろうか、それとも。あれも……魔法なのだろうか?)
そして、アイツが、最後に言っていた、刺客の存在。
こちらに向けてくるからには、闇の敵で間違いないだろう。
刺客の存在も謎。
いつ仕掛けてくるかも、分からない。
(とりあえず、一旦様子見か……)
今の現状だとなにもできない。
加えて、セイランもいないし。
どこに行ったんだ……セイラン。
どこに遊びに行ったんだ。
「ん……」
気づけば、夜の11時。
考え事をしていると、ついつい時間を忘れてしまう。
俺の悪い癖だな。
まぁ、直そうと思っても、定着してて直らないんだけど。
これは仕方ない。
もういいか。
さっさと寝よう。
考え事は後だ。
それに俺には、聖水を受け渡すという。
グラスさんからの役目がある。
やること盛り沢山だ。
(あ、そういえば。あの借金……グラスさんのもとへ届いたのだろうか。嫌だな、うん。殺されるな、はは)
辞めよう。
お休み、俺。
‐‐‐
「………おはよう、俺」
早くおきた。
今は、7時だ。
普通か。
それより、今日は何をしようか。
(うーん……)
どうにも頭が回らない。
昨日は……何かあったっけ。
あぁ、なんか……巻き込まれたな、そういえば。
で、刺客がなんやら。
うーん、まぁ、いいか。
とりあえず、外行こう。
宿一階に到着。
ガラっとして、人はいない。
おっと……受付人の少女を忘れていた。
彼女は受付カウンターの整理をしている。
相変わらず背が小さくて、姿が隠れてよく見えない。
でも、テキパキ仕事はしている。
彼女、休んでるのだろうか。
(声、かけてみるか)
「おはよーう」
気軽に。
答えやすそうに言った。
「おはよう」
彼女は声に振り向き、俺の姿を見ると、真顔で答えを返して来た。
宿に戻った時と変わらないな。
俺はカウンターに立ち寄り、そのまも背もたれの代わりにする。
少女はそれに気づく。
「……なに」
不審そうな顔で、彼女は尋ねる。
「ちょっと話したいだけ」
涼しい顔で、彼女に答える。
実際、ロベルトは話したい。
それだけである。
だが、それが彼女にとっては困る事。
「仕事中なんだけど」
「ちょっとくらいいだろう? なにも邪魔はしないから」
「そう」
(話してると、気が散るんだけどな)
彼女は、テキパキと仕事を進めていく、慣れた手つきだ。
(手慣れた手つきだ)
まるで何年も同じことをしてきている。
そんな訳はないのだが。
そう思えるほど、繊麗されている。
と言うか、彼女、あのあとから一向に喋れないな。
俺から、喋るしかないか。
まぁ、最初は確認といこう。
「なぁなぁ」
「……なに?」
「昨日も話したけど。セイランって子いるだろ?」
「そうだね」
「あの子……本当に、帰ってないのか?」
真剣な顔つきで答える。
正直、あれが嘘なのか本当なのか。
折れには分からない。
ロベルトとの変わりようにも応じず、いつもどうり答える。
「帰ってないよ」
「そうか」
帰ってないか。
なるほど
「そうかぁ……帰ってないか」
心配になるな。
ロベルトは無言で黙り込み、下を向いたまま。
それを見て、彼女は思う。
もしかして、大事な人だったのだろうか、と。
なので。
「恋人?」
「残念ながら、違うな」
薄く笑った。
彼女ではないんだ。
そう見えるかもしれないけど。
でも、帰ってないのか。
一度も……?
「一度もか? 本当に見てないのか」
「見てない」
やっぱりだめか。
しかし、彼女の言葉は、まだ続いていた。
「でも……」
「でも?」
「私もずっとは居られないから、1時間だけ開けた時がある」
開けても、1時間かよ。
「その時に、その子が来てるかも、しれないよ」
「……そうか」
分かるはずもない。
だめだな、情報なし。
この話は辞めよう。
あ、そうだ。
そういえば、彼女の名前を聞いていなかった。
今になって、何いってんだか。
「ねぇ、今更だけど、君の名前は?」
今更で悪いが。
名前を聞きたい。
名前は交流の条件だから。
「嫌だ、教えない」
「嘘だろ……」
「嘘、じゃない」
答えてくれないのか……?
「ちなみに。なんで?」
「信用してないから」
「俺、悪い人ではないよ?」
「悪人は、よくその台詞を使うよ」
そこまでなのか。
俺の信頼は地の底なのか。
俺の信頼度、どうなってんだ?
関係はないとしても、一応俺はお客さんだよ?
ひどくない?
「そうか、そうか、うん」
まぁ、そんなことでは俺は問い詰めない。
引き際は分かってるからな。
さて、そろそろ外へ行くか。
「じゃあ俺はそろそろ外へ行ってくる、昼には戻る」
「問題は起こさないでね」
そんな事は分かってる。
問題なんて、起こさないようにするのが、当たり前だ。
俺は外へと出た。
土の国の渓谷を繋ぐ橋を渡っている、ここから眺める景色は壮大。
まさに絶景と言えるだろう。
まぁ、ここは渓谷だからな。
俺は、橋の策に持たれかかり、海を見る。
海は濁ってはいるが、ゆるく穏やかに流れており。
相変わらず船は通っていない。
風も丁度いい。
全体的に雰囲気が豊かだ。
実に、素敵な日だ、気分が踊る。
こんな日には、昨日の背中まで伝わる疲れなど……。
散歩で消してしまえばいい。
(そのほうが、気分も良いだろう?)
スキップまでとは行かないが、速歩きに近い速さで歩く。
通行人も、今日はあまりいない。
昨日まで栄えていたが、こんなにも居なくなるとは。
今日はイベントだろうか?
それか、集まりでもあるのか。
まぁ、いいや。
(俺には関係なし)
俺は橋を渡り切る、すると遠くのほうで妙な人だかりが出来ている事に気づいた。
妙だな。
あんな所で何をしているのだろうか。
なぜ集まっているのか。
気になるので、ロベルトはさっそく近づいて見ることにした。
ロベルトは、人集りの所にたどり着いた。
しかし、人が沢山、凄く多い。
どうやらこの人集りは円方に集まっており。
人集りの中心部分に何かがある模様。
こんなにも人が集まるのだ。
きっと何かあるに違いない。
(どうにかして……中に……うん)
ロベルトは、人集りをよけわけ入ろうとした。
だか、無理だった。
到底、この人集りの中を移動することはできない。
どうしたものか。
目茶苦茶気になる。
このまま帰れったら、名残惜しいし。
どうにかして、知りたい。
だか、この人集りを越えれるか?
無理だな。
数が多すぎる。
魔法ならば行けるかもしれないが。
あいにく俺は問題を起こしたくない。
つまりNOだ。
(はぁ、困った)
腕を悩ませ困っていると、後ろ側から声がした。
聞き慣れない声だった。
管理人か?
いや、ならばなぜ俺に。
俺は何もしてないぞ!?
ロベルトは、後ろ側に振り向く。
そこには、鎧を纏ったゴツい男の管理人……ではなく。
俺よりも少しだけ背丈が低く、代わりに横に分厚いガチムチのおっさん。
そして背中には背丈と同じくらいの大きなハンマー。
立派なほどの鎧に兜。
ドワーフがいた。
初対面。
だか、どこかで見覚えがあった。
「お前さん、もしやあのときの青年か?」
「あのときの?」
「ほら、地脈のときの。儂らを追いかけてきた青年、お前じゃろう?」
「地脈……ドワーフ、追いかけ……あっ!?」
確かに、記憶があった。
禁止区域の中にズカズカ入り込む三人衆を見つけて。
それで、俺は追いかけて。
運悪く、ゴーレムに遭遇してしまい。
奴の攻撃により、地面が陥没し、ドワーフのおっさんごと落ちた。
そんな記憶が、たしかにあった。
(あのときの人だったか……)
「思い出しましたよ」
「おぉやはりか、あのときの青年、お主じゃったか」
「あの時は、どうも」
巻き込まれですけどね。
「あの、それより。この人集り何でしょうか……」
「儂にも詳しくは分からん。じゃが”何か”はあったのだろう」
にしてもこの人集り。
それに、雰囲気的に祭りではない。
なんか……事件でもあったか?
「ここは一度、管理人か見張り兵にでも聞いてみるかのぉ」
「あぁ、その手があったか……」
見張り兵士とかならば、今の現状を知っているかもしれない。
見張り兵って名前には入ってるし。
周囲はよく見てるはずだろう。
うん、いいな。
しかし、見張り兵がどこにいるのか……。
周囲を見渡す。
人集り、ちりちりと。
その中に鎧を着ておて、槍を持っている兵士。
うーん。
目立つはずなんだか。
なかなか見つからないものだ。
休憩中かな?
(うーん、えーと、あ、あれかな)
それっぽい鎧を着ている人を見つけた。
あの人かな。
「見つけたかのぉ」
「はい、じゃあちょっと聞いています」
そう言って、ロベルトは兵士? の人の所へ走っていく。
ドワーフはそれを見る。
現在、二人が話している。
数秒経ったあと、ロベルトが方向転換し、こちらへ戻ってきた。
「どうじゃった?」
「人違い、普通の冒険者でした」
「あらそぉ……」
完全に人違い。
普通の一般冒険者だった。
恥ずかしい。
でも、話は聞けた。
めちゃくちゃ驚いたし、言いにくいことだけど。
「でも、話は聞けました」
「ほぉ、それはなんだったのじゃ?」
「えっと……殺人らしいです」
「そうか。朝っぱらから物騒じゃのぉ」
朝から殺人事件。
物騒すぎる、昨日まではなかった。
昨日のあの男といい、これも闇神が関係してるのだろうか。
それとも、盗賊の関連か。
分からない、でも物騒だ。
昨日からなんだかおかしいぞ。
俺の周りで、なんか……色々なことが起きている。
地脈での陥没が最初だ。
そこから、タータスさん。
子供達の勧誘ときて。
次は盗賊、そして闇の者。
セイランの失踪。
何が起こってるんだ……。
頭を悩ませる。
朝からこんなに思考を回すと。
精神的に疲れる、覚えておこう。
人集りを見てると、遠くの方から音が聞こえたので見てみると。
管理人に思える人が、数人こちらに走ってきた。
運びに来たのだろう。
「すいません! 避けてください!」
「避けてくださいー!」
人集りを数人で避け、中へ中へと入っていく。
そして、数分後、中心にいたであろう……人の遺体を持ち運んで、どこかへ行ってしまった。
正直、グロかった。
手で隠しておけばよかった。
ちょっと気持ち悪い。
「最近は、犯罪が増えてるからのぉ」
「そうなんですか」
「うむ、頻度が多いのじゃよ、頻度がのぉ、はっはっはっ」
ドワーフのおっさんは薄く笑い、管理人の先を見ている。
その目は強い眼差しを魅せている。
「急じゃが、お主、名前はなんというのかのぉ?」
「急ですね」
名前なんて言ってなかったな。
忘れてた、忘れてた。
自己紹介もしてないからな。
「ロベルト・クリフ、17歳です」
「若いのぉ。儂はハグワンド、年齢は……そうじゃのぉ、240歳くらいかのぉ」
「!?」
240歳くらい!?
ルテシィエよりも長生き!
二百年も生きてるとは……。
確か、ドワーフの寿命が300歳以上とか、そのくらいだったから。
結構、老人のようだ。
ここから見ると、人間、エルフ、ドワーフは寿命に大きな差があるなぁ。
「さて、用は済んだか。お主はこれからなにをするのかね」
「あー、少し食事をしに行こうかと」
「おぉ……それは良い、儂も同行していいかね?」
「ハグワンドさんも?」
「うむ、何も食べてなくてな」
一緒に飯。
年齢に大きな差があるから。
感覚的には祖父と孫だな。
「全然、もちろんいいですよ」
「うむ、同行するとしよう」
なんだか一緒に食事することになったが、まぁいいか。
人が増えれば、食事も美味しくなる。
なんちゃら効果だ。
「では、行きましょう、こちらです」
土の国の、美味しい店は結構調べたからな。
土の市場のときね。
だから、知っている。
それを今、活用するとき。
ロベルトは店へと向かった。
‐‐‐
ローバン:視点
「帰ったぞぉ……」
ローバンは朝早くからの、外出から帰ってきた。
彼は、失踪したセイランをギルドに探すように。
頼み込んでいたのである。
正体がバレそうになったが、結果的にはバレていない。
なので、問題ない。
そして、少しだけ買い物したあと、この宿へと帰ったのである。
(今は誰もいないか……)
宿の受付のあの子はいつもどうり。
セイランは居ないだろ。
ロベルトは、寝てるか……いや、起きてるだろう。
とりあえず、市場で色々買ったからな。
分けてやるとしよう。
盗賊団の頭として。
「鍵、貰うぞ」
「はい」
「早いな、すまない」
やはり、慣れた手つきだ。
鍵を渡す速度が速かった。
ローバンは、階段を上がり、2階へと上がっていく。
廊下を移動し、ローバン自身の個室へと移動。
鍵をセットし、横に回す。
すると、扉が開き、個室へとたどり着いた。
ローバンの部屋は至ってシンプル。
まぁ、どこの部屋も変わらないけど、シンプルだ。
荷物をベットに置く。
「さて、アイツには……そうだな、甘いものでいいか」
甘いものを食えば、疲れも取れるだろう。
ドーナツ、いや。
最近話題の、飴? にしてみるか。
飴。
ローバンが取り出したのは、赤い色の飴。
めちゃくちゃ甘くて有名。
※材料は不明。
あとは、なんだ。
市場に売ってあった、へんな小道具でも渡しておこう。
俺は、アイツの趣味は知らないからな。
ここは試しだ。
土魔法に関連のある小道具。
これが最適だろう。
(さて、これくらいだな)
ローバンは、飴、小道具が入った皮の袋を持ち、扉の外へ。
鍵で扉を閉めたあと。
ロベルトの部屋へと向かう。
そして、ロベルトの部屋出前まで来たとき。
"あること”に気づいた。
(鍵が……壊れている?)
鍵口が。
鍵指す場所が。
無残にも粉々になっていた。
(一体どういうことだ……何だこれは)
粉々になるか?
見たことがない。
誰かがやらない限り、こんなことにはならない。
(まさか……)
ローバンは、扉に耳を当て。
静かに、中の音を確認する。
確認中。
なにか、変な音。
そして、この扉の中から、薄く、集中しないと気づかないほどの。
この力気、そして……魔力。
誰かいる。
(誰かはわからんが、ロベルトでも、セイランでもない。狩るか)
ローバンは剣をゆっくりと抜き、扉に向かい立ち直る。
(今だ)
そして……、大きく扉を蹴り上げ、中へと入る。
剣を扉の中の者へと向ける。
「其処にいるのは誰だ、名乗りやがれ! ………って」
ローバンは、扉の中にいる存在を間近に、直と見た。
そこに居たのは。
まさに、ローバンの出身国にもいそうな感じの貴族の服装を着た。
2つに分けた髪の女が居た。
そして何よりも。
彼女の頭からは、角が生えていた。




