第七十三話「帰宅」
「ようやくだな」
ローバンさんと数時間ぶりに再会した。
地脈に行ってから、あってなかったからな、久しぶりだ。
ローバンさん、今まで、何をしていたのだろうか。
「探したぞ。地脈に行ったと思ったら居なくてな。それで探したら、まさかこんな所に居るとは」
「こっちもです。朝からどこに行ったかと」
「少し……知り合いと飲み交わしていたところだ」
酒飲みか。
どちらも相手の状況を分かっていなかった。
面倒くさい。
出る前に、話し合っていれば良かった。
あ、そうだ。
そういえば、セイランはどこに行ったのだろうか。
出かけてくると言っていたし。
もう帰ってるだろう。
「で、だ……」
そう言うと、ローバンはロベルトの後ろに目をやる。
それに気づき俺も後ろを見る。
後ろには、ルーシェ。
その後ろでは、ミラ達が遊んでいる。
(おっと……まずい)
ルーシェが不安そうな目でこちらをみている。
誰……? 見たいな顔だ。
ローバンさんもルーシェ達を見ている。
なんとかしないと。
片手で”大丈夫”のマークをとる……分からないか。
よし、まるならば分かるだろう。
◯を意識し、ルーシェめがけて取る。
うん……頷いてくれた。
まぁ、これで分かっただろう………あとは……。
「えっと」
ローバンは、子供達から視線を外し、再度ロベルトに話しかけた。
「その子達は」
「っと……ちょっと、野暮用で、あの子たちの子守をしてまして」
「そうか」
ローバンは、腕を組み、少し考える仕草を取る。
直後、顔をこちらに向け、言葉を放つ。
「誘拐か」
「ちょっと!?」
誘拐なんてそんな。
絶対違います、そもそも、俺はそんな事はしない。
いや、確かに、疑う所は充分あるけど。
それでも。
俺はそんな事しない。
第一、こんなに誘拐できる訳が無い。
「冗談だ」
少し笑ったあと、そう言った。
よ、良かった。
冗談で良かった。
危うく、警備の人に突き出されるとこだった。
いや、それだとローバンさんも危ないけど。
とにかく、事情を話さないと。
「これは……ちょっと用事で、見守りとして、ここへ来ていました」
「そうか。そんなにたくさんか」
「はい、任された……感じです」
「大変だな、それに土の市場か」
土の市場は人が多い。
来るのは大変だった、ミラを除いて。
人が蛇のようにぞろぞろしていて、全く移動できないのだ。
前世で見た交差点のような光景でビックリした。
いろんな人がいて、沢山人がいて。
大変だった、うん。
ん、待てよ。
なんで、ローバンさん来てるんだ?
変装していたとしても、何故わざわざここに……。
「バーンさん、大丈夫なんですか?」
「なにがだ」
「いや、ここ、人多いですけど」
「あぁ。お前を探すのに危険を犯してまで、ここには入りたくなかったが、生憎。ここが最後でな」
「なるほど………」
「手間がかかった。なにせお前からは、力気も魔力も感じ取れん。
相当時間がかかった」
「それは……すみません」
一旦、ローバンさんのもとに帰るべきだったか。
いや、まずそもそも場所が分からないか。
だとしたら……しょうがない?
「大丈夫だ。それよりも、聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
聞きたいこと。
俺にか、なんだろう。
少しだけ、間が空いたあと、ローバンさんは喋った。
「セイランを見かけてないか?」
「……セイラン?」
「そうだ」
セイランだって。
見かけていない、一度も。
ローバンさんも見かけていないのか。
俺を探す過程の中で、一度も?
セイランはローバンさんの後に出かけた。
そこからは分からない。
「……いえ」
「そうか………」
二人とも押し黙る。
セイラン、どこへ行ったんだ?
「ロベルト」
突然沈黙を破り、ローバンさんが話しかける。
「なんです?」
それに素早く答える。
「子供たちの事だが。もうそろそろ、帰らせたほうがいいぞ」
「帰らせる?」
出てきた言葉。
それは、子供達を帰らせるとの事だった。
なんでだろう。
時間的に帰らせたほうが良いのだろうか。
それか、他にも……。
「なんでですか?」
「夜に近いからだ」
「あぁ、そういうこと……」
「あぁ、夜は、危ないからな。それに、ここは風の国みたく、治安は良くはない。夜遅くまで子供を連れていたら、盗賊、もしくは裏の住人に襲われるだろう」
「盗賊、裏の住人……」
いきなり怖いな。
でも、あり得るな。
未成年の子供5人を、こんな遅くまで連れてはいけない。
危ない。
いや、ここは土の市場だから。
夜のほうが祭りも合って、楽しさが上がるんだけど。
あいにく、俺は保護者じゃない。
こういうのは”親”と来るべきだからな。
親じゃないから、俺は子守だから、責任持って見とかないと。
先ほども言っていたが。
盗賊、裏の住人に、襲われる可能性も、あるにはある。
慎重に気をつけよう。
(もっとこう、慎重に……うぉー……ってかんじで)
これだと、俺が危ないな。
さて、ローバンさんの話だと、連れて帰ったほうが良いとのこと。
俺もそう思う、うん。
だけど、ここで一つ問題が発生。
それは何かって?
それは......子供たちのこと。
子供たちは楽しんでいる。
ミラもリオネもネミもルルとルーシェも。
全員が楽しんでいる。
この、土の市場で、思う存分にはしゃいでいる。
それを横から”帰る時間だよ”と言って、素直に聞いてくれる。
簡単ではない。
絶対断られる、そう確信している。
説得はできないだろう。
(一応……ローバンさんにも話してみよう。コソッとな)
「バーンさん、少し話で」
「なんだ」
ローバンさんに近づき、耳元でコソッと事情を伝える。
伝えた後、ローバンさんは、少し苦い顔をしていた。
「なるほど」
「どうするんですか……」
「時間を待つか、説得するか……どちらかを選ぶほかない」
うーん、そうだな。
説得は……難しい。
かと言って、夜遅くまでここにいるのは……危ない。
土の市場といっても、絶対安全ではないからな。
うん。
「一回、話してきます」
「そうか、行って来い」
「はい」
俺はローバンに小さく一礼したあと、後ろに振り返る。
ルーシェが不安そうにしている。
心配させたな。
ルーシェにゆっくりと近づく。
それに気づき、ルーシェは内心ドキッとする。
徐々に距離は縮まり、目の前。
咄嗟に目が合い、顔を反らしてしまう。
「ルーシェ」
「! は、はい」
ロベルトは、ルーシェに静かに語りかける。
名前を呼ばれ、すぐさま、ロベルトに向き合う。
(見えなかった……)
向くの早いな。
それより、言わなくては。
「言わなくちゃ、いけないことがあるんだ」
「い、わなくちゃ、いけないこと……?」
「あぁ、大事だから、聞いてて」
いきなり、真剣な顔と、追真な声でそう言うロベルト。
それを見つめるルーシェ。
人から見れば、ある種の一大イベントに見える。
そう、告白現場だ。
(そこまで真剣になるとは……それより、少し近いな)
遠くから見てみているので、よくわからないが。
真剣さんは伝わってくるのである。
これは、魔力でも力気でもない。
「そ、それは……なんですか?」
「それは……」
ゴクリ。
息を飲む。
ロベルトの言葉を今かと待つ。
そして、今。
ロベルトは放っする。
ゆっくりと呼吸を吸い、ルーシェに話した。
「実は……」
「実は……?」
「実は、時間の問題で、早めに帰らなくちゃって、話になったんだ! 説得したいけど多分無理だと思う、だからルーシェ、君にも協力を願いたいんだ、頼む」
言った。
ついでに協力も頼んじゃったけど。
まぁ流れだ、仕方ない。
「あ、えっ?」
思っていた事と違い唖然としてしまう。
上手く言葉が理解できなかった。
そのせいか、ルーシェはロベルトの前で固まってしまった。
「......ルーシェ?」
「......」
「おーい」
「......」
「あーっと......」
「......」
ダメだ、固まってしまった。
そんなに固まるほどの話だったのだろうか。
もしくは、突拍子すぎて、驚いた、とか。
いや、ないか。
「......はっ!?」
(あ、起きた)
固まりが溶けたようだ。
よかった、正気に戻ったか。
「大丈夫か?」
「えあ、あ、はい......あの、さっきのは」
「あぁ、言葉の通りだ」
ルーシェに手伝って欲しい。
多分俺一人では無理だ、聞いてくれないだろう。
しかし、長女のルーシェならば、可能性はある。
「もう......帰るんですか?」
「時間的にな......で、話なんだけど」
「......いいですよ」
「あ、いいの?」
「.........はい」
早く決まった。
いいのか。
こういうときは長女だから、下の子のためにも止めるのかと思った。
止めたら困るけど。
「あーじゃあ、さっそく、いいか?」
「はい!」
元気だなぁ。
さて、行くか。
俺とルーシェはミラたちの元へと向かう。
ミラ達がいる芝生に入り、木のもとへと向かう。
まだ楽しそうにしている、みてて心地よい。
ソレを今から......こわすとなると心が痛む。
子どもの遊びを止めるときの親もこんなかんじだったのかな。
(さて、もうすぐだ。いくぞ......!)
「ミラ」
「?」
ことらへと向く。
すると、途端に疑問げな顔に変貌。
こちらへ見てきた。
「なんにゃ、なんのようにゃのです」
「あーそれはな」
言いにくいな。
言いたくないけど、この時間帯だし。
「なんにゃ、お前! と、ルー姉。なにしにきた、にゃのです」
うぉ、近づいただけでこれか。
そういえば話し合いの途中だったらしいし、怒るのも仕方ない。
さて、言うか。
「ミラ、そろそろ帰るぞ」
「......にゃ!?」
一瞬止まった後、盛大に驚いた。
そりゃ驚く。
いきなり帰ろうだ。
「な、なんでにゃ! まだかえるじかんじゃにゃい!」
「いや、もう結構暗くなってきたから」
「暗くても、遊ぶ! にゃのです!」
「悪いが......ダメだ」
「むー......ルー姉も、なにか言って! にゃのです!」
突然振られるルーシェ。
「え? えっと......」
「.........」
「えーっと......遅いから、帰ろ? ね?」
ルーシェ......。
まぁ良い、これでミラも聞いてくれるはず。
「にゃぁぁんんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
(うっ)
ルーシェの言葉を聞いた瞬間、驚きの表情を上げた後、歯を噛み締め、大きく叫んだ。
口を開けて、大きく。
それはリオネたちにも聞こえた。
それに気づいたリオネは、ネミとルルに話した後、コチラへと走ってくる。
「!? どうしたの、ミラ?」
ミラに話しかける。
「ミラ、どうしたの」
「んんー!! 二人が帰るって!」
「え、帰る? どこに?」
「家!」
その言葉を聞いた後。
信じられない! という表情を浮かべて、こちらへと向いてくる。
そんな顔しないでくれ、心が痛む。
「お兄さん、と......ルーシェ姉さん。二人が言ったの?」
「そうだ」
「そう......だね」
またもや驚愕の顔になる。
結構驚くな......。
「え、うそなんで、ルーシェ姉さん、本当に?」
「うん、帰るよ」
「......いや、違う。ルーシェ姉さんは、そんな事言わない、誰かにいわされてるはず......!」
(ギクゥウッ......!)
まずい、核心を突かれた。
まさか、ここまで読めるとは。
流石に......無理か?
「......いや、私も、ロベルトさんと同じ考えだよ」
「!」
「え、うそ」
え、うそ。
ルーシェ、なぜそんな嘘を......。
ハッ、そうか!
俺に合わせてくれているのか!
子供たちのためを考える、俺の考えに。
ははっ、なるほど......。
まったく優しい子だ。
「本当なんだね」
「本当だよ」
「......そっか、そっかー! じゃあ! 仕方ないねーミ・ラ!」
「にゃ!?」
ルーシェの言葉を信じ込んだ、リオネは素直に納得し、ミラを挑発し始めた。
「夜は遅いのもしかたないよ、今日は、引いておこ?」
言葉遣いは相変わらずだが。
でも、彼女はまだ8.9そこら、そんな年でここまで頭が回るだろうか。
俺がただただ、この世界の知識の基準を、まだ知らないだけかもしれないが......それにしてもだ。
まぁ多分......彼女は天才肌なのだろう。
「ううー!!! や!」
それでもミラは、がんに断り続ける。
(これは......困ったな)
頭に手をやり、髪をいじくる。
なんとも、上手く行かない、どうすればよいか。
そう悩んでいると。
突然、横から肩に手を当てられ、押しのけられた。
ルーシェではない、その正体は。
「バーンさん」
「まぁ任せろ」
ローバンであった。
ローバンさんはそう言うと、ミラとリオネに近づいていく。
現在ローバンさんの正体は知られておらず、変装のため、奇怪な仮面をつけている。
はたから見れば、変な人。
一応、体のガタイと服でカバーは出来ている。
それでも......すこしこわい。
とくに、幼い子どもに取っては、大きい変な仮面をつけた、見知らぬおっさんが近づいてくるというわけだ。
怖い、見ての通り。
奥のネミとルルも震えてる。
ルーシェは心配そうに見ている。
リオネは若干強張ってる。
で、ミラは。
「にゃん、だれ! にゃのです」
強いな。
この仮面をみて、怖がらないとは。
強い精神力を持っている。
「バーンだ」
「だれ!」
「ロベルトのお友達だ」
「お友達!」
お友だちって。
そこまで仲良くはないし。
なにより、そういう関係ではないけどな。
「お友だちがなんのよう、にゃのです!」
「ちょっとな、そこのロベルトに代わって伝えに来たんだ、夜は危ないから帰ろう、と」
「何回も言うな! ミラまだ帰らない、にゃのです!」
ロバーンさんでも、ここまで譲らないとは。
これは激戦だ。
ミラの言葉を聞いて、右腕で、あごひげを触った後、ミラに向け答える。
「夜は危険だ。暗くて危ない、周りも見えない」
「ミラは、目がいい、にゃのです! 余計なお世話にゃのです」
あ、そうか。
猫は夜でもよく見えるのか。
まぁ、猫だし、獣人だし。
「それならば、君を、子供を襲ってくる怖い人たちのことが、よーく、分かるはずだ」
「怖い人達?」
食いついた。
すごい、このまま。
「そう、人をさらったりする、悪い人だ」
「ミラ、そんなの楽勝で勝てる、にゃのです!」
「はは、そう簡単にはいかない。子供を攫うからには、盗賊たちも強いだろうからな」
「ん、そう?」
「そうだ」
実際、カサドラ盗賊団の。盗賊たちも強かったからな。
炎の国の兵士をあんなふうに相手にしていたのだ。
強いのは当たり前。
ヴァスたちは、元気だろうか。
「それに、盗賊たちだけではないぞ?」
「にゃ?」
「怖ーい、そうだな、幽霊とか……もしくは……うん”魔人”とか」
魔人か……。
この国にはいないだろう、そんなやつ。
「にゃ……うん? 魔人って、なに? にゃのです」
一方、ミラは魔人を知らない様子。
知らない子も居るもんだ。
「魔人? ふふ、教えてやろうか」
「教えろ、にゃのです」
「ふ、魔人とはな、嘘つきで、とても恐ろしく。人に化けて人間を喰ってしまう怪物のこと。魔人にあったら、君も、食べられちゃうかもしれないぞー?」
恐ろしさ感じさせる仕草をしながら、ミラたちに伝える。
「ひいっ!?」
ミラがびっくりしている。
やっぱり怖いか魔人。
なんたって、人を殺して食べる。
それだけで怖いからな、彼女は獣人だけど。
ミラの他にも、リオネやネミたちもびくびく震えている。
ルーシェも少なからず、怯えている。
うん、純粋な子供だな。
「ミ、ミラ。今日は仕方なく、仕方なく帰る! にゃのです」
ちょっと言い訳してるが、強さは溢れ出してるぞ。
「よし、こんな感じか」
ミラたちの説得? を終えたローバンはこちらへと戻ってきた。
それにしても。
「バーンさん、子供に、慣れてますね?」
「そうか? 未経験なんだがな」
(それは、本当なのだろうか)
真相は分からない。
知らなくて良いだろう。
さて、ミラたちと帰ろう。
(やっと帰れる)
‐‐‐
あの後ミラ達と一緒にタータスさんの元へと帰った。
タータスさんは心地よく出迎えてくれた。
だが、一瞬だけ。
不審な目で、ローバンさんを見ていた気がする。
気のせいだろう。
夜9時近くまで、家で紅茶を飲まさせてもらった。
まだ、口の中でいい香りがする。
さて、そろそろ帰るときだろう。
「ロベルト、それにバーンさん。子供達をありがとう」
玄関にて、タータスさんは。、俺達にお礼を申し出る。
実際、俺が礼を引き受けたから、全然いいです。
「いえいえ」
「子供達は、元気で何より、お前さんのおかげだ」
「そこまで言わなくても」
少し照れてしまう。
そんなに褒められたら……ね。
「バーンさんも、わざわざ来てくださりすみませんね」
「いえ、なにせ”依頼”なので」
「ハハッ、ただの恩ですよ」
「それは、失敬」
夜は遅い。
もう9時だ。
いつの間に、こんな時間になってしまったのだろうか。
早く帰ろう。
「それではこのへんで」
「夜も、遅いので」
「それはどうぞお気をつけください」
俺と、ローバンさんは、タータスさんに一礼する。
それと同じタイミングで、タータスさんもお辞儀する。
さて、帰ろう。
「あ、あと、一つ」
「ん」
帰る直前で、タータスさんに呼び止められた。
「何でしょう」
「夜の出歩きについてですが」
夜の出歩き。
あー、なるほど。
危険だから、教えてくれるのか。
「先ほど知ったのですが、ここ最近、盗賊や……得体の知れない者が、多数目撃されてるとのこと。なので、充分お気をつけを」
注意警告だ。
うん、優しい。
「それは、気をつけるとしましょう。ですが、私もロベルトも、人並み以上に強いので、ご安心を」
「それならば」
上級剣士が二人。
そして片方は魔法も巧みに使える。
うん、これだけでとても良い。
二人でパーティを組めるほど。
ここには回復のセイランが加われば、完成だ。
3人、無敵のパーティ。
(ちょっと、名前欲しくなってきたな)
あとで、考えておこう。
「では、またいつか」
「はい、また」
そう言って、俺とローバンさんは、扉に背中を向け、歩き出した。
さて、帰ろう、宿に。
宿主……もしくは、セイランが、待ってるかもしれない。
久しぶりの帰宅。
早くベッドに入りたーい!




