第七十話「七年ぶりの再会」
タータス視点
「落ち着いたか?」
「はい、なんとか………お騒がせしてすみません」
「いいんだ、元は俺が悪い」
何分か経って、やっとエイミーが泣き止んだ。
久しぶりに、エイミーの泣き顔をみた気がする。
それも……当然か。
七年も家を開けていたんだ。
エイミーも、子ども達も、随分と待たせてしまった。
事情があるからとはいえ、これほどの期間待たせたんだ。
俺がいない間、待ち続けてくれたのだろう。
不甲斐ない。
(悪い事をした、エイミーにも、子供たちにも)
「改めて謝ろう、長い事……すまなかった」
俺は座りながら、頭を下げる。
「そ、そんな、頭を下げないでください!」
「いや、頭を下げなければ………待ってくれたお前たちにも悪い」
「ですが………」
「このとおりだ、罰を与えてくれても良い、たがら、すまない、許してくれ」
精一杯の謝罪の気持ちを持って、謝る。
こうでもしないと、収まらない。
そんなタータスを見て、エイミーは反応に困っている。
突然帰ってきて、このような謝罪。
脳が追いつかないというやつだ。
エイミーに、子供たちには迷惑……いや、心配をかけた。
地脈に行くと行って、突然いなくなったら心配する。
捜索届けも出されただろう。
なにせ、七年も居なかった……失敗した。
エイミーや子供達に七年も、待たせる。
こんな長期間も待たせたんだ……俺はだめだな。
長い事生きても……。
それにしても……七年か。
七年で、エイミーも随分と成長した。
見違えた、間違えることは無いが、こう見ると、見違えた。
七年も経てば、成長する。
それならば、子供たちも大きくなっているという事。
七年前までは……可愛い赤ちゃんだった。
そこから七年の月日、子供達は健やかに成長しただろうか。
成長を見られなかったのは、惜しいことだ。
(いやいや、違う)
七年で、エイミーも子供も成長した、ということではない。
七年も待たせたことだ。
俺は……ともかく、七年も立てば、エイミーや子供も変わる。
七年だ、とても長い時間。
エイミーや、子どもたちにとって、大事で、長い時間。
そんな長い間、留守にしていた、事情も知らさず。
これはだめだな……失敗、失敗。
地脈の中では、俺の事でしか、考えていなかった。
なにせ、俺は………。
(いや、この話は辞めよう)
今更心の中で熱考しても、どうにもならん、過ぎたことだ。
「どうか、このとおりだ」
「わ、分かりましたから、頭、頭下げるのは辞めてください!」
「そうか……」
頭をあげ、向き合う。
ここからみても……成長している。
会えて良かった。
あ、そうだ。
忘れていることがあった。
「エイミー、子供達はどこへ?」
「えっと、学校に行ってます。もうそろそろ帰ってくると思いますけど……」
学校。
そうか、そうだな、もう学校通っているのか。
皆、どんな感じに成長しているのか。
今から楽しみだ。
皆、いい子に育っているといいが。
「あの、もう一つお聞きしても」
「む、なんだ?」
「もう、もう一人、ここへ来られた方がいた気がして」
「うむ……む、あ! そうだった」
今頃、ロベルトの存在を思い出したタータス。
エイミーとの会話にて、すっぽり抜けていたのである。
放ったらかし状態だ。
ロベルトは……そうだな、エイミーに本当の事を話すと……少し勘違いしてしまうかもしれない。
ここは、誤魔化すとしよう。
「あの方は、俺の客人だ。もてなしてやってくれ」
「あぁ、なるほど、分かりました」
タータスは立ち上がり、後ろ向く。
しかしそこに、ロベルトの姿はなかった。
(あれ、いないぞ……)
どこへいったのだろうか。
玄関のほうか……?
どこへ行ったのかは不明、とりあえず玄関の方まで向かう。
もしかしたら、気を使って出ていったのかもしれないな。
若いのに、空気を読むのが上手い。
感謝するしかない。
玄関の方まで向い、見回す。
すると、玄関のイスに、ロベルトが座っていた。
その時、少し口元が浮かびあがる。
「おぉ、ロベルト居たか」
「あ、タータスさん、終わりましたか」
「丁度な」
ロベルトがイスから立ち上がり、タータスの下へ向かう。
「そちらが……」
後ろに居た、エイミーが、ロベルトを見て問いかける。
それに、ロベルトは、一度下がり、挨拶をする。
「どうも、タータスさんから招かれた“客人“である、ロベルト・クリフです、お会いできて嬉しい限りです」
「む?」
「あ、こちらこそ……私は、エイミー・ラッカ、と申します」
「よろしくお願いします」
随分と丁寧だ。
いや、それよりも、なぜ客人と分かったのだろうか。
聞いていたのか?
まぁ、いい。
「という事だエイミー……そうだな、いきなりで悪いが、持て成しの準備を頼む」
一応客人という設定だ。
もてなし、そこから……お礼だったか。
それを決めるとしよう。
「あ、はい、ただいま」
そう行って、エイミーは台所の方へと向かう。
さて、話の続きだ。
「ロベルト、お礼……だったよな?」
「はい」
「それは……手伝いでもいいのか?」
「なんでもいいですよ」
ふむ……なるほどな。
なんでもいいのか……それを聞いたら迷うな。
なんでもと言ったら、何でも、何通りやって欲しい事が出てくる。
しかし、かといってこき使うのはこちらも好きではない。
熱心、何でもやります。という感じだが。
一個だけで良いだろう……彼にもやる事がありそうだからな。
(うむ)
「分かった、じゃぁとりあえず、こっちにき「ただいま〜!!!」……と」
ロベルトを案内しよう声をかけた所、それを遮り玄関が開く。
声にして、子供の声。
玄関を二人して、同時に見る。
そこに居たのは、子供。
黒髪猫耳の少女が、大きく立っていた。
その後ろには、金髪エルフ耳の少女。
緑の髪をした少女に青みがかった黒髪の少女。
そしてその後ろに、一段と背の高い金髪の少女。
5人の少女達が見えた。
間違いない。
(……大きくなったな…………)
「うん……?」
子どものうちの一人、黒髪猫耳の少女である、『ミラ』
彼女が疑問気な目を向ける。
それもそうだ。
なにせ、玄関に全く知らない若い男と……どこか見たことがあさる男が、二人立っているのだ。
「むーん………」
疑問気な目は次第に、相手への威嚇に変わる。
それは、他の子供達。
主に、黒髪猫耳少女のすぐそばにいる子供達も威嚇し始める。
獣人は自分の家……縄張りに知らない奴が入ると、威嚇。
または、倒す習性がある。
動物界でも同じである。
耳を逆立て、構える。
体は幼いが、気は強い。
「えっと……」
ロベルトが、声をかける。
少女はそれに反応し、強い目で睨む。
(……こんな小さいのに……獣人って、やっぱり他とは違うな)
ロベルトはそんな事を思った、しかしその時だった。
「!」
ロベルトの足が一歩、少しだけ動いたのを、ミラは見過ごさなかった。
「いま!」
「え?」
「まずいぞ……」
タータスは悟った。
長年の経験からだろうか、まずい事を瞬時に悟ったのだ。
「いま とつげきにゃのです!」
「うわー!!!」
「え!?」
ミラの掛け声と共に、側にいた二人が勢いよく飛び出す。
ロベルトはいきなりの事で驚いた。
それを見逃さず、黒髪猫耳少女、ミラもとびだす。
やはり獣人、運動神経がすごい。
「え、ちょ、ちょちょちょ……ちょっと……うっ」
先に飛び出した、少女二人は、ロベルトの下へやってくると。
片方ずつの足に飛び乗り、そのまま上へとよじ登る。
それは肩まで登る。
七、八歳くらいの少女二人が乗るのだ。
それも、片方の肩に。
これは、ロベルトにとっても、キツイ。
「あー………」
「とつげきニャ!」
そして最後にして、ミラが大きくロベルトに向かいジャンプ。
そのまま、ロベルトの顔に巻きついた。
「う、ぐっ……っ」
頭にのしかかる重い塊。
その成果、ロベルトはバランスを崩し倒れそうになる。
しかし、ここは一般的平均男性。
なんとか持ちこたえたのである。
「どうにゃ、勘弁しろにゃのです」
「こっち、つかまた!」
「これで、うごけない!」
「お、おも……うごけない………」
ロベルトの両肩と頭に巻き付く、3人の少女。
動こうにも、転んでしまいそうで、耐えるのが精一杯。
魔法を使おうにも、こんなところでは使えないし。
なにより、怪我をさせてしまうかもしれない。
ここは……耐えるのみ。
どうするほかない。
ミラたち3人はロベルトにくっついて離れる気配がない。
他2人は。
一人はアタフタしていて、もうひとりの背の高い女の子は、頭を悩ませ下を向いている。
ここで動けるのは、一部始終を見ていたタータスのみ。
「こら、お前たち、辞めなさい」
「ニャンなのです!」
タータスの言葉に一番に反応する。
獣人は邪魔をされるのが嫌いなのである。
その言葉にタータスは笑い、微笑みかける。
「ミラ、俺の顔を覚えていないか」
「うん?」
ミラは、タータスの顔を、ひっついたまま見る。
まじまじと見て……何かを掴む。
この顔には、見覚えがあった。
「うーん………」
「ミラ?」
ミラの異変に気づいたか、ロベルトの右足にひっついていた。
金髪エルフ少女が問いかける。
しかし、応答はない。
ミラは、タータスの顔を見て、ずっと悩んでいる。
「覚えないか」
「うー……ニャんなのです……ミラ、知ってる……?」
「ほら、このハゲ頭、鬼みたいな体、見覚えないか」
そう言って、目立つスキンヘッドの頭と、筋肉質な体をアピール。
確かに、記憶に残る姿である。
「うーん………ん、あ!」
ずっと迷っていたが、急に糸が途切れたように、声を出す。
「ニャ、にゃにゃ……もしかして!」
(気づいたか……?)
その時、ミラが、何かに気づいたか、ロベルトの顔からジャンプ。
そして、地面に着地したあと、タータスを見る。
タータスはいつもと変わらず、ニカッとしている。
その光景、ミラは昔に見たことがあったのだ。
「もしかして、ボスニャ!?」
(ボス?)
(おぉ……まだ覚えていたのか)
「そうだ、お前のボスだぞ、ミラ!」
「ボス! ボス〜!」
ミラは完全には思い出した。
思い出したのなら、行動は速い。
すぐさま、腕と足で飛び出し、タータスの体に抱きつく。
可愛いやつだ。
「会いたかったニャ……!」
「長い事待たせたな……!」
二人は抱き合っている、微笑ましい光景だ。
「ミラ!?」
「いきなり抱きついて………あれ?」
ロベルトの足にくっついていた、緑髪の少女がタータスを見て、何かに気づく。
そして……。
「あ! あれ!」
「え、なに!?」
「あ、えっと……耳かして!」
緑髪の少女が、金髪の少女の耳でコソコソ喋る。
喋るごとに、少女の目が見開いていった。
「ほ、本当に……?」
金髪の少女がタータスをよく見る、そして……気づいた。
あの人は確か、小さい頃に、育ててくれた人。
タータスさんで間違いない。
それに気づいたのならば、こちらも行動は速かった。
「お、お父さ〜ん!」
「あ、ま、待ってよ〜!」
金髪の少女が走り出し、緑髪の少女が後を追う。
「お、こい!」
二人の少女はタータスに抱きつく、するとそのまま小さく泣き出してしまった。
「あー、あ……よしよし、心配なかけたな……」
「ずっどぉ……ゔぅっ………あいたかった!」
「どこ、行ってたのぉ……!」
「うっ、すまん」
タータスは3人を抱きしめ、目を閉じ微笑んでいる。
その顔は、地脈の時とは違い、優しい父のようだった。
玄関にいる、背の高い女の子は、口を手で押さえ、泣いている。
その下にいる子は、未だ何が起こっているのか分からない様子だ。
しかし、彼女たちも、すぐさまタータスのもとへ向かう。
そして、抱きつく。
いつもの流れ、しかし……感動だ。
「会えた……やっと………」
「待たせたな」
感動の再会である。
……解放されたロベルトは、その場で座り込んでいる。
疲れた、と言って良いだろう。
七年ぶりの再会。
ようやく会えた、俺の子供達。
元気で居てくれて良かった。
みんな立派に、こんなに大きくなって。
タータスは子供たちを抱きしめる。
家族再会……。
いいものだ。
気持ちは一つ、久しぶりに、こんなに温かい気持ちになった。
この思いも、七年ぶりか。
うむ。
(会えて、本当に良かった)
(俺視点はないのか……)




