第六十九話「お礼のためにはまず家に」
三時ごろ。
辺りはまだまだ明るい、空気は土の国の鍛冶と地脈で、一概に綺麗とは言えないが。
心地よい。
でも、植物とかは、見渡す所ない。
風の国とは全く環境が違う。
そりゃ。山や森林が広がる風の国と、渓谷ではな。
そんな土の国に居る、俺。
俺は今、三時間ぶりに地脈から出てきたばかりである。
俺をここから救い出したのは、筋肉質で目立つスキンヘッドの男、『タータス』さん。
命の恩人である。
こういう事は、初めて経験した。
異世界に行ってから初である、前世ではこういう事は一切なかった。
もしかしたらだけど、異世界では、こういうイベントが起こりやすいのかもしれない。
まぁ、よくは分かってないが。
おっと……その前に。
タータスさんにお礼をしなければならなかった。
「タータスさん、助けてくれて……ありがとうございます」
俺は相手に感謝の念を込めて、日本流のOJIGAを出す。
相手への感謝にとって、とっておきの行動である。
異世界では、多分ないけど。
「お? お、おぉ、こちらこそだ、だが、そんなにかしこまらなくていいぞ? 貴族じゃないんだからな」
「あれ、そうですか?」
「あぁ、人を助ける、まぁ当然のことをしただけだ」
人を助ける、これは簡単なようで、難しい。
やっぱり、いい人だ。
謎が多いけど、いい人に変わりない。
おっと、危ない、相手のペースに乗らされていた。
こちらに戻らないと。
今の俺は、相手にお礼を出す、それを目的としているんだった。
「そこで、なんですが」
「うむ?」
「率直に言います」
「うむ」
「お礼をさせてください」
よし、言えた、最初の目的は達した。
あとは、行動に移すのみ。
「お礼?」
「はい」
タータスさんが、疑心気に聞いてくる。
(もしかして………ちょっと怪しかったか?)
「お礼って、あのお礼か?」
「あ、はいそうです」
なんか、ちょっと会話が………。
「ハハハ、助けただけだ、お礼などいらんぞ」
「いえ、『助けてもらった恩』があるので、ぜひとも礼を」
「そこまでしてか?」
「はい」
全力を突き通している。
断られても、なんとしてでもお礼を……。
恩を返す。
それが、この国の神との協力に繋がるはず。
良いことをしていたら、神に気に入られる。
そんな話を、小さい頃本で読んだ気がするからな。
「……何でもいいのか?」
「お礼なので、何でも」
なんでも、という言葉に抵抗はあるが、まぁ、致し方ない。
タータスさんは腕を組み、少し考える仕草をしたあと。
俺に伝えた。
「なら、俺と共についてきて欲しい」
「はい、えっと……どこへ?」
「それは行ってみれば分かる、受けてくれるよな」
場所は不明。
タータスさんと同行。
うん、行こう。
「もちろんです」
清く受け入れた。
「よし、ついてきてくれ」
そう言って、俺を催促しながら歩き始めた。
それを追い、ついていく。
どこは行くのかは謎、しかし、俺はただついていくだけ。
あ、でも………ローバンさん達は、心配しているだろうな。
‐‐‐
移動中、タータスさんの事について考えていた。
考え事は、もちろん地脈。
タータスさんは地脈に長い間潜っていた。
その期間。
なんと、七年!
タータスさん、見た所荷物は持っていない様子。
持っているのは、服と......魔法くらいだ。
こんなんで、七年も地脈に潜っていられるか?
無理な話だ。
いやまて、もしかしたら、丁度使い切ったとか。七年分の荷物を最近使い切ったとか。
いや、流石にない……。
そもそも、あの人は年月を知らなかった。
ならば、その時間分の荷物など用意できないだろう。
(うーん、なにかあるな)
この人自体、謎の人物、会ったばかりだけど。
魔力は、普通、力気は強い。
少し魔法が使える典型的な戦士タイプだ。
この世界だと、そこら中にいる、ごく一般の人物。
しかし、ごく一般の人物が、長時間地脈に潜れる訳が無い。
考えたら分かるだろ。
ここの所、本人は何も言ってない。
ならば………何かを隠している。
(これは確かなることだろう)
今は詮索しないが、いずれ確かめてみよう。
謎を解かないままにするのは、嫌いだからな。
一応『重要リスト』に記録しておこう、俺のメモ帳代わりだ。
(うおっ、凄いなここ………)
移動中、土の国の様々な景色を知れた。
大きく深い渓谷に、地脈。
土の国の鍛冶技術。
その国独自の、文化。
他にも他にも、観光地としての魅力は沢山だ。
(ふっ、観光中のようだな)
タータスは、ロベルトに気づいて、わざと歩幅を合わせ歩いている。
ロベルトにとって、土の国は初。
初めての国に来た興奮。
それを、タータスは理解しているのだ。
トンネルのような場所を越え、広く、渓谷からしたが見える所までやってきた。
下は海、昼の時と変わっていない。
そういえば、ここは今、どの辺りなのだろうか。
「タータスさん、ここって......」
「あぁ、場所だな......ここは左渓谷の上層、今、右渓谷に向かうため、橋へいく所だ」
「う、うん?」
聞いたことがない単語に、疑問を浮かばせる。
さけいこく......うけいこく?
な、なんなんだ、それは、初耳だ。
「うん......? これも知らないのか?」
「まぁ......はい、初耳で.........」
申し訳無さに、視線をそらす。
多分、今俺は、バツの悪そうな表情になっているだろう。
頼ってばかり、面目ない。
「まぁ仕方ないさ、初めてだ......で、渓谷のことなんだが、そこの海があるだろう?」
タータスさんは指で、渓谷の下に見える海を指差す。
通りの海だ。
「あの海を中心にして、2つの渓谷に分かれている。今いる場所が左渓谷で、向こう側の渓谷が右渓谷というわけだ。どうだ、記憶に刻んだか?」
「あぁ、はい、一応は」
2つの渓谷、分かりやすいようにこうやって名付けられているのか。
うん、いい方法だ。
名前があったほうが、分かりやすい。
「ならいい、さて、そろそろ向かうぞ」
タータスさんは足を進める。
俺もそれに次ぎ、後を追いかけていく。
あとから聞いた話によると。
この国でもよく目立つ、大きく高い展望台、そこにデカデカと建造されている黄金の鳥の向いている方向で。
渓谷の右左を決めるんだとか。
来たときから気になっていたが、なるほど。
あの展望台はそういう役割も、持っているのか。
‐‐‐
「さて、ついたぞ」
タータスさんの後を追い、ついに目的の場所までたどり着いた。
「ここは......」
「俺の家だ」
タータスさんに案内されたのは、木造で建築された一軒家だった。
丸太で支えれれた木の家で、屋根と二階付き。
森の中の新鮮な木で作ったのだろうか、他の木造建築より、一段と材質が綺麗だ。
そして何よりも。
この家、木の建築物......。
どこか、なつかしい気持ちになる。
(.........そうだ)
これは、俺の家に似ている。
俺の家も、自然の中の木を使って建築されていた。
あぁ、懐かしい......妹、父母との思い出が蘇る。
「ロベルト」
「! はい」
「今から、ここに入るんだが......少し気をつけてくれ」
「気をつける」
「子供がいるんだ」
「あっ」
そうだったのか、まさか子供が居るとは。
どうもそうは見えなかった。
というか、七年も子供と会ってないって事になるのか。
それ、親として大丈夫なのか。
育児放棄になる......あ、いや、タータスさん、一応世間から行方不明として扱われているかもしれない。
「それじゃ、まずは俺から入る、ロベルトは後からよろしく」
「了解」
俺の返事を聞いた後、タータスさんは行動に移る。
素早く手慣れた手つきで、土魔法の鍵を作り出した。
そしてソレを玄関の鍵穴に入れ回す。
するとアラ簡単!
簡単に玄関の扉が開いたではありませんか。
俺の予想だが、鍵を開けるときの上級テクニックの一つ、土魔法で鍵を作るだ。
これは鍵穴を覚えないと行けないし、面倒。
しかし、使いこなせれば、家の玄関はもう安心である。
(まさか、この技術をタータスさんがマスターしていたとは......恐れ入った、尊敬に値する)
「さて、入るぞ」
「はい」
ゆっくりと扉を開け、顔を少しだけ出し中を見る。
一般的な廊下だ。
玄関には誰も居ない。
「留守......でしょうか」
「いや、台所に居るはず......そうだ、ベルがあった」
ベル......というと、玄関の鐘のことか。
なるほど、これで呼べばいいかもな。
「よし、じゃ、鳴らすぞ?」
「......どうぞ」
「うむ.........」
タータスさんがベルを鳴らした。
ベルを鳴らしたのだが、以外に音が大きく、俺も驚いてしまった。
鼓膜が......破れるぞ......。
「は〜い」
「!」
すると、家の奥の方から、女性の声がした。
多分......状況的に、タータスさんの奥さんだろうか。
だとすると、約七年ぶりの、家族の再会になるのか。
(俺いていいのか?)
邪魔じゃないか?
家の奥から足音がこちらに迫る。
ついに、再会の時。
タータスさん、筋肉が強張っている。
あ、やばい、緊張する。
そしてその時が来た。
「は〜い、どちらさ......ま......」
女性の人は俺達を見た瞬間、石のようにピタリと動かなくなってしまった。
動画の再生を停止したように。
時でも止めたかのように。
俺達を直視して、固まっている。
「な、長い事、待たせてしまったなエイミー.........ただいま」
タータスさんが慎重に声を掛けるも、反応なし。
どうしたものかと、思っていたその時。
なんと、いきなり女性が後ろへと硬直して倒れ伏せたのである。
その時の衝撃音は凄まじかった。
いきなりの出来事。
驚愕したが、動くのは速かった。
「エイミー!」
タータスさんが大声をあげ、勢いよく、女性の元へと駆け寄る。
タータスさんは、女性、エイミーさんを揺さぶっているが、起きることはない。
エイミーさんは、まるで漫画のように目をくるくる回している。
これは......気絶状態だろう。
それはまずい。
早くなんとかしないと。
「と、とりあえず、ソファに寝かせよう!」
「運ぶの手伝います!」
とにかく、この硬いところじゃまずい。
なので、ソファに寝かせようとのこと。
慎重に、慎重に運べ、落とすな。
絶対に落としてはいけない。
心にそう書き込むんだ。
タータスさんと協力して運び、なんとかソファに寝かせることに成功。
その後、タータスさんが手当をした所、命に別状はないらしい。
ふぅ、良かった良かった。
事が公にならずすんだ。
俺は、そこら辺の椅子に腰掛ける。
タータスさんは真剣な様子で、エイミーさんを見ている。
心配が、凄い......それもそうか。
「......手伝い、すまんな」
「いえ、そんなことは」
思うように、話ができない。
やはり、衝撃だったのか......。
そりゃそうだ、大事な人が倒れたんだ、衝撃どころではない。
(大丈夫だろうか)
椅子に座りながら、指を絡める。
前のめりに座り、床をただただ見つめる。
......息抜きしないと。
辺りに沈黙が流れる。
「......うぅっ」
「「!」」
その沈黙を破ったのは、タータスさん、いや違う。
その大事な人、エイミーさん出会った。
意識が戻ったのだろうか。
椅子から二人を見つめる。
「エイミー......エイミー」
「う......あ、ほんとに......」
どうやら、無事目が覚めたようだ。
「本当に......げ、げんじつ?」
「あぁ、現実だ、長らく待たせて......すまない」
「あ。あぁ......うぅっ......ひぐっ」
「大丈夫だ」
タータスさんは、エイミーさんの手を握り、熱心に語りかけている。
次第に、エイミーさんも意識が戻ってきている。
(俺は邪魔だな......)
ゆっくり、バレずに立ち上がり、廊下へと向かう。
廊下に行き、階段近くの壁にもたれかかり、一呼吸。
今は二人の時間邪魔はしない。
(幸せな空間、七年ぶりの家族との感動の再会に、俺はいらねぇ、静かに、クールにそのばから退場するぜ)
本当は一回休みたかったんだけどな。
それよりも......微笑ましい光景だ。
心が暖かくなる。
うん、なんだろうか......この気持ちは。
まぁいい、俺は去るだけ。
(そう、できるだけかっこよく、物語のあるシーンの、ある紳士風に立ち去る......主人公だけど、関係ない......クールだぜ、こいつは)
ロベルトは、水魔法と、土魔法を器用に組み合わせ、水入りのコップを作り上げた。
今回はうまく言った。
(無味)
水を飲んだ。
しかし、味がしなかった。
まぁ、疲れが原因だろう。
ともかく、二人が終わるまで、玄関で待機しておこう。
魔力=おもに魔法使いなど魔法を使う場合の総合力量。
力気=おもに戦士など近距離、遠距離の物理戦闘をする場合の総合力量。
測る時2つの気が感じるので、これを間違わず、分けて観測出来きいる、これがこの世界の一般。
気を測るのは、戦士よりも、魔法使いや僧侶のほうが得意です。
理由として、魔法使いにとって、己の気、相手の気が重要だからです。




