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空中要塞グレイシアス   作者: ホワイトボックス
第一章 幼年期
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第四話「妹」


 創世記756年

 今夜母親であるフリナが赤ちゃんを出産した。


 その時が訪れるのは、突然だった。



 もう何ヶ月も前から、母親であるフリナは、お腹に1つの生命を宿している。そう、それは子供。ロベルトやリベサスの、弟、妹になる存在であった。


 母親のお腹がだいぶ大きくなっていた。父、ギデカルドによると、そろそろ生まれるかも……という話を、何度も耳にしていた。


 ロベルトは、子供が生まれる日を、家族で一番楽しみにしていた。


 その理由は、ロベルトが、赤ちゃんを見てみたいこと。

 また、前世。ロベルトはひとりっ子だったので、弟妹ができるのは初めて。


 ロベルトにとって、未知なる体験。

 子供が生まれる。弟妹ができる。


 その事実にロベルトは、大いに心を踊らせたのだった。



 そして、その日は突然だった。


 

 母はここ数日間、腹の痛みを訴え、寝込んでいた。父親は不器用ながらも家事をこなしており、俺たち兄弟はできる限りその手伝いをしていた。

 いつも通り、兄弟二人で遊んでいると、突然。二階から、なんだか……苦しそうな声が響いた。

 

 二階には母親しか居ない。全員が母の声だと察した。


 母の叫び声は大きく、苦しそうだ。

 いや、もっと深く、どこか遠くから響くような唸り声。

 今にも赤ちゃんが生まれそうな、切迫した音だった。


 なにごとか、とギデカルドはすぐさま二階へと駆けつける。俺と兄リベサスも、二階へと駆け上がった。

 そして、見た。母親が、苦しそうに体をよじらせているとこを。

 それも、妊娠中の母親だ。今にも生まれそうだった。


 父親は事を察し。すぐに出産の準備に取り掛かった。

 俺には、タオルと水を取ってくるよう頼まれた。

 そして、兄にはミシスさんを呼んでくるよう頼まれたのだった。


 ミシスさんはこの村の小さな『修道院』のシスター。

 もう何十年も生きており、経験が長い。

 そして、数々の出産の手伝いを経験する、エキスパート。


 俺の出産時には居なかったらしいけど。


 まぁ理由は、母がシスター寄せずとも、一人でできると、言っったからだった。

 結果的に言えば、超大変だったそうだ、はぁ……。


 タオルはリビングの近くの棚の中に、重ねて入っていた、たくさんだ。


 水は当然、井戸から運び込まなければならない。


 とても重くい。

 かつ、バケツが大きいので、運びにくい……5歳には辛い。


(こんな時に……運搬ロボットがいれば………)


 と、ここは別世界だ。

 自動で動くロボットは、この世界には合わない。自分でやらなければ、いけない。


 くじけずにがんばる、これがロベルトだ。

 折れない心は強気心、勇気の魂だ!


 俺が水バケツと、タオルを運んでる途中。兄がミリスさんを連れて家に戻ってきた。ミリスさんがいれば安心、なにせ。この人はその道のプロ。

 ただの修道女とは思うなかれ、何年生きてっと思ってんだい。


(と、ミリスさんの言葉を代弁してしまった)


 途中、どさくさに兄にタオルを持たせた。

 流石に2つ同時は5歳には厳しい。


 タオルはそこまで重くはない。しかし邪魔になる。

 タオルが邪魔で、水バケツをこぼしたら大変だ、大惨事を引き起こすわけにはいかない。


「よし………あとは、父さんたちに任せろ」


 父さんの言葉を聞き、少し安静になった。

 父とミシスさんならば、出産はうまくいくはずだ、きっと。


 確率も高いはずだ、90は超えているだろう………いや、残りの1割を運悪く引いてしまったら……。


 って、心配しすぎだ。

 考えるのを辞めて休もう……。


 俺はそのまま休息を取った、いきなりの運動で体が痛い、あー。

 

 

 そして今に至るというわけである。

 


 部屋の外で待っているのは、なかなか緊張する、心配で落ち着かない。なにより。

 

(出産に立ち会うのは初めてだ)


 普通の5歳児には、今の状況がどういうものか、何が起こっているのか、なにもわからず理解できないだろう。

 

 だけど、俺には前世の記憶がある。

 精神年齢はもう二十を越えている。

 今の状況がどれほど大事で、どれほど繊細なものかも分かっている。


 だからこそ、不安が実るのだ。


 

 もしフリナに何かあったら? 

 もし赤ちゃんがうまく産まれなかったら? 


 その考えが頭をよぎるたびに、胸が締め付けられる。

 

 あぁ、考えるな―――上手く行く事だけを考えろ。

 失敗したとき余計ダメージがデカくなる。

 上手くいけば、すべてが喜びに変わる、不安は打ち消されるから。



「フリナ。耐えろ、頑張るんだ!」


 父は、必死に励ます。


「ゔっ゙……ぐっ……ぁ…」

「フ、フリナ!?」


 うめき声が、部屋中にこだまする。


「! もう少し……生まそうです! こちらを支えて!」

「あっ、はい!」

「うっ、っあぁ!!」


 大きく息を吐き、体を硬直させた。




 部屋の中から、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。


 その音を聞いた瞬間、胸が熱くなり、思いが激しく波打った。

 

 赤ちゃんが産まれたんだ。

 


「よくやった、フリナ……ッ!!!」


 扉の中から、父の声が聞こえる。

 感激、嬉し泣きの声だ。


 少しして、ドアが静かに開き、父の顔が浮かび上がった。涙を浮かべた父の目は、安堵と喜びに満ちていた。


「さぁ。お前たち、来てくれ……」

父は、満面の笑顔で俺たちに言った。


 赤ちゃんは、母の腕の中で泣き続けている。

 小さく、か弱い声だけれど、その声にどこか力強さを感じる。


「ほら、見てごらん。赤ちゃんだよ」

母が赤ちゃんを見せてくれた。


 その小さな手足、まだ全身が赤いけれど、元気に泣いているその姿を見て、俺は心から感動した。激しくもない、悲しくもない。

 

 ただ、一直線の思い。


 言葉には表せないけど、どうしようもなく嬉しかった。




 ミリスさんの豊富な知識と協力もあって、無事にフリナは出産を終えた。

 元気な産声を上げるのは、かわいい赤ちゃん。女の子だった。

 

 元気な産声を上げ大きく泣いている。

 俺の時とは違う。


 俺が産まれた時は、ほとんど泣かなかった。こんな風に、力強く泣く赤ちゃんを見たのは初めてだった。


「~! 女の子だッ! 娘だッッ!!」

「あなた、少しはしゃぎすぎよ……」

「おぉ、すまない……いや、嬉しい気持ちが止まらなくて、ハハハッ!」


 ガッツポーズ、大声。顔中を嬉しそうにほころばせている。


「……やった!」

と、兄は喜びを示し、顔を輝かせる。


「女の子、妹……」


 ロベルトは赤ちゃんをじっと見つめる。

 

 女の子、というのは初めてだ。その事実が、自分の中で整理しきれていないのか、ただぼんやりとその小さな体を見つめていた。


 弟ができる、というのは。

 俺も兄も男だから、まだ、感覚がつかめる。

 でもなんだ、目の前の赤ちゃんは女の子だ。性別が違う。


 妹ができる。

 何だか不思議な感じがした。


 この子は、母さんによく似た綺麗なふわふわした金髪。

 どこか、キラキラ、っと光っている。

 少し小柄のようにも見えるけど、これから大きくなっていくのだろう。


 ある感情が湧き上がるのを感じた。


「守ってあげよう……」


 自然と、そう口からこぼした。

 

 口肩こぼした言葉は、だれにも届かない。

 だって、すごい小さな声だったから。

 

 興奮のせいで妙に思考が速く巡るロベルトが、ここにいた。

 


 大事にしてあげよう、絶対に。

 決めた、俺が妹を守る、どんなことがあろうと、必ず。

 

 兄として

 『大事な妹を、支えられる兄として』




 


 プニッ


 指の先で柔らかい感触。 

 気がついたら、俺は生まれた赤ちゃんの頬を、ぷにってた。


「ぷにぷにしている……」

「あんまり触りすぎると、泣いちゃうから気をつけてよ」


「ん―っ」


 はっ! 

 赤ちゃんが反応した!!!


 やっぱり可愛い、かわいいよ。


 ハハハ、クセになってしまうよ、へへへ。

 ずっと触っていたいくらいだ、ぐへへへ。


 おっと、妹が見るからに嫌な顔し始めた。

 そろそろやめよう。それと、さっきの俺はとても気持ち悪かった、抑えよう。


 キモい兄貴はだめだ。

 頼よれる兄貴を目指す、そう決めたから。


 

 大変だったが無事出産は成功。

   

 765年 妹『リシア』

         この世に誕生。 


 

‐‐‐ 

 


 妹の名前は、リシア、と名付けられた。


 俺の新しい家族だ。

 生まれたばかりだから、普段は眠っているのが、ほとんど。

 まだ、俺のことを兄として、認識さえ出来ていないだろう、仕方ないか。


 でも、眠っている姿が可愛らしい。

 それだけで、ずっと見ていられる。


 今日も妹は、ふにゃふにゃとした手を動かしながら、ぼんやりと眠っている。いつものことだ。


 だいたい眠ってる。

 たまに起きてあくびしている。

 

 泣いている時には、手をばたつかせて、大泣き。

 そこに母親が駆けつけてあやす。

 優しく身体を揺らしながら、落ち着かせる。


 俺もなにか手伝ってあげたい。

 そう思ってるんだけど、母はいつも「大丈夫」という。

 

 まぁ……5歳だ。手伝いは早いかな。

 身体的にも、未熟だ。

 

 

 

 

 

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