第三十六話「今後の予定」
「……ふぅ」
マスターが経営する、バー。
または、夜にしか開かない店。
その2階部分、ベランダ部分にて、一息休憩する。
とあるエルフがいた。
そのエルフの名は「ルティシエ」
ベランダの机に自分の物を置き、椅子に座り、夜の風景を見る。
この、くつろぎ。
それは、彼女にとって、気休めに丁度よい方法。
エルフである彼女。
100年以上もの時を生きる彼女。
時間間隔は人間よりも、薄く、時間に囚われない。
しかし、それでも休憩は欲しい。
日々の負担、ストレスを解消するための、夜の時間。
「風が気持ちいわね……」
夜にあった、茶を飲む。
涼しい空気に包まれながら、一時を過ごす。
甘い香りの茶が染み渡り、心地よい。
とても爽やかな気分。
ルティシエは、ゆっくりと、夜を過ごしていく。
(なにか、良い事が起こる、前兆かもしれないわね)
良い事を待ち望み、夜の時間を楽しむ。
しかし……。
‐‐‐
「ん………音?」
ルティシエは遠くから、微かに聞こえる音を察知する。
音の速さ……移動。
(誰かが……走っている?)
誰かが、全力でこの路地を走り回っている音。
それも、結構な速さ。
この、速さを出すには、中級の魔法、上級剣士。
このくらいは、必要だろう。
(何かしら……)
ルティシエは立ち上がり、ベランダの柵に身を乗り出す。
周りを見渡す。
すると、左側、その奥の方で、何やら人影が薄っすら、見える。
「あれは……………げっ!?」
ルティシエは奥の人影を見る、それと同時に理解する。
あの、人影の正体を。
その正体。
それは、あの男。
『ロベルト・クリフ』であった。
「あいつ! なにやってんのッ!?」
ありえない。
なんで、あんな男が!
こっちに向かってくるの! なんで邪魔するのよ! あの男は!
いや……いつもじゃない………。
(落ち着きなさい、ルティシエ、貴女は100年生きたエルフ)
心の中で、自分に問い、言い聞かせる。
あの男、何故……こんな時間帯に?
それも……『走る』
あの男、兵士にバレたくないはずじゃないのかしら?
もしかして……そういう趣味?
※ルティシエは侵入作戦、実行時間を知りません。
「う、まずい……近づいてくる」
向かってくるの、早いわよ。
走るの、早すぎじゃないかしら?
それより、無駄に走り方が綺麗。
何故か、腹が立ってきたわ、なぜだか分からないけど。
(あの走り方だと……息切れしなさそうね………)
そうじゃない、そうじゃない。
あぁ、まずい、もう近くまで……。
私の夜の時間が……休息が奪われる。
「おっ、ルティシエか」
遠くから、ロベルトの声が聞こえた。
バ、バレた!?
「今、そっち行くぞ!」
は、来る!?
こっちに来るっていった!?
『落ち着来なさい』
ふぅ、ふぅ、いや……私ならば、対応は簡単よ。
あんな男一人くらい、いきなり来たとしても、大丈夫。
焦ることは無いわ……。
まだ……大丈夫。
ルティシエが落ち着く。
すると、バーの前にロベルトが到着する。
そして、ロベルトは玄関を開け、中に入る。
しかし、ルティシエは、偶然見ていなかったので、知らない。
なので、待っている。
(あれ? 遅いわね)
いくら、待っても、ロベルトは来ない。
不審に思ったルティシエは、ここで初めて一階をベランダから見る。
しかし、そこには誰もいない。
「あ、あれ? え? いない? どこに、いったの?」
驚きのあまり、声が出る。
柵に、身を乗り出し、辺を見回し、ロベルトを探す。
しかし、どこにも居ない。
困り顔で、何が起こったか、精一杯考える。
エルフの知識力で。
ルティシエ。
ロベルトは既に、店の中だ。
気づいてくれよ。
‐‐‐
「ただいま……」
ロベルトはバーに帰宅。
ベランダにルティシエもいた。
ここのバーであっているはず、一応確認だ。
「おや、お帰りなさいませ」
よし、マスターさんもいる。
ここが、拠点で合ってるな。
良かった、良かった。
ロベルト、玄関に荷物を置き、バーのカウンター席に座る。
そして、少し休憩する。
走った分だけ、疲労が溜まっている。
それに、今回手に入れた、情報は少し難解だ。
それに多い。
休ませなければ、頭がパンクしてしまう。
ロベルトは椅子に座り、机の方向に背を向ける。
そして、もたれ掛かり、頭を机に乗せる。
何とも、行儀の悪いこと。
「上手く行きましたか?」
「ん?……あ、まぁ……」
上手くいった、となると……。
ちょっと、違う。
いや、聖水を回収できなかったし、失敗かな。
しかし、風神の願いは受け取った。
これは、大きい。
「……聖水は、取り戻せましたか?」
聖水は取り戻せていない。
盗まれたところだな。
「いえ、簡単に言うと、盗まれました」
「おや、それは大変、場所はわかりますか?」
場所………。
場所は分からない。
あのまま、あの男がどこに行ったか、考えもつかない。
闇神の元へでも、戻ってるかもしれない。
「それは、分かりません」
「ふむ、それは困った事、何か気がかりに、なる物があれば……」
そういえば。
あの男、聖水の他に、あの石も狙っていた。
これも闇神の指示だろう。
しかし、何故に?
あの、石を何に使う?
(やはり……セリータさんが言っていた通り、膨大な魔力として使うのか……?)
ロベルトは休憩しながら、考える。
少し、頭が冷えてきた。
すると、玄関のドアが開く。
玄関から、入ってきたのは、お馴染み。
フィリオリーネこと『フィオネ』
彼女もまた、作戦に協力してくれた、仲間の一人である。
「ただいま、帰ってるね?」
フィオネが辺を見渡す。
そして、カウンターで、頭をカウンターに乗せて力尽きている男を発見。
それは、ロベルト。
フィオネは近づき、ロベルトの前に立つ。
ロベルトは頭の位置的に、天井しか見えていない。
しかし、そこに居るのは分かる。
「無事終わったね、どうだった? そっちは成功したかい?」
「五分五分だ………」
「へぇ?」
フィオネは、ロベルトの発言に疑問を持つ。
五分五分。
半分、つまり、どっちつかず。
何が、あったのか?
「風の間には、行けたんでしょ?」
「あぁ」
「風神様には、会えたかな?」
「会って、話した」
「……そこで、何があったんだい?」
ロベルトの単調な会話を済まし、本格的な質問を浴びせる。
様子から見るに、何かあった。
それは、間違いない。
「説明するのか?」
「できれば、詳しく……ね?」
「……長くなるが……」
「良いよ」
フィオネはすぐに承諾した。
正直、こんな話になるとは思わなかった。
依頼……。
風神の願い………自由か……。
お告げで、出てきた、大怪鳥。
あれは……一体?
その後、ロベルトによる、長い説明が始まった。
頭が痛いので、少し割愛したところもあったが、部分的な所は答えた。
途中、ルティシエも帰って来た。
しかし、何故か怒っている。
それも、…俺に対して。
なんで怒ってるのかは分からん。
ストレスでも溜まってるのか?
(エルフでも、溜まるんだな………)
‐‐‐
「なるほど………ふむ」
「……ドリンク1杯」
「はいはい………なかなかに面白い展開ですね(ボソッ)」
ロベルトは説明をし終えた。
大体分かってくれただろうか。
理解してくれれば、それでよい。
話した事。
・聖水奪われた! ついでに石、それも、あのイケメン野郎!
・↑闇神の部下で確定(風神の話)
・風神との会話、そして協力条件。
こんなところである。
このくらいで、良いだろうか。
「闇神ね……やっぱり、悪い噂は、悪い出来事を生む、案外そうかもね」
フィオネがそう答える。
悪い噂を持つやつは、大体悪いと俺は思う。
悪いことしてるから、怪しい事してるから、そんな噂立つからな。
「そして、闇に呑まれし大怪鳥。大怪鳥といえば……」
「大怪鳥といえば? なんだ?」
「………いや、大怪鳥といえば、紗々羅巍島に生息する、自由の聖鳥だよ」
自由の鳥。聖鳥…………。
生息域は………ささらぎとう、か。
風神は、その大怪鳥を依頼……というより、救えと命じられた。
大怪鳥というのは聞いたことがない。
大きいのだろうか。
だとしたら、困難になるな。
まぁ、だとしても。
その大怪鳥を救え?
それが、風神の協力条件だ、成功させるしかない。
ロベルトは一旦、フィオネから、貰った、地図を見る。
そこから紗々羅巍島を探す……。
確か……北、いや南だったか……?
少し古く見えにくいが、なんとか頑張り探し出す。
ここらへんにあるはずだ。
(あった!)
地図を机に置き、一度、その場所にピンを指す。
これで、分かりやすい。
紗々羅巍島
風の国からは離れている。
距離はここから、何キロくらい先だろうか。
少なくとも………30、40キロはあるだろう。
この時代だと……船で海を渡り、行くしか方法は無い。
つまり。
紗々羅巍島に行くには、船が出ているタイミングを見計らい。
船に乗る。
これだ!
流石に船には騎士はいないだろう。
兵士はいるだろうが……。
結局はバレなければよい。
顔と、服さえ隠せばよい、それほど兵士の警備はガサだ。
どこぞの女騎士ではない。
「フィオネ、紗々羅巍島は、ここで合ってるか?」
一応だ。
確認は済ませておこう。
島のマークだが、山かもしれないからな。
「うーん? あぁ……合ってるよ」
「良かった」
これで、よし。
あとは、その島に行くための、船の手配。
いや、…そんな金ないな。
船が出る時間帯を確認しておこう。
そして、島に行くための準備。
これが、必要だ。
「紗々羅巍島に行ける、船はあるか?」
「行動が早いね、あるよ~ほら」
そう言って、フィオネはドヤ顔で、紙を取り出し、俺に見せる。
取り出す動作は一瞬である。
「ふむ……ふむ」
俺は紙を見てみる。
それは紗々羅巍島への船の時間帯。
(明後日の……午後か……)
こう見てみると、紗々羅巍島行きの船はあまり少ない。
せいぜい7日に一度くらい。
それほどまでに少ない。
次、来るのは明後日。
それを逃せば、7日も待たないといけない。
大幅な時間ロス。
合ってはならぬこと。
「間に合うように準備をしないとだね」
「荷物とか、必要だろ、それに……着くのは夜だろう」
時間的に着くのは夜中。
夜の、風景を楽しみながらの旅。
それはいいかも。
「間に合いたいなら、今から準備するよ、ほら、手伝って」
フィオネに荷物を渡され、向こう側へと押される。
そして、部屋の中へと入れられた。
風の力って凄い。
少し、浮いていたか?
とにかく、準備しよう。
のがしたら、洒落にならんからな。
「……ゴミがぐちゃぐちゃ」
ロベルトが入れられた部屋は。
フィオネの部屋だった。




