第十九話「燃える打撃」
「………」
俺の目の前には、想像を絶する景色が広がっていた。
「……。白骨死体、体は……崩壊している。ダメだな」
「……いつから、ここにいたのかな」
「さぁな」
ロベルト達は、悪臭をたどり道を歩いてきた。
そして、広いところに開け……そして、見つけた。
白骨となった、あきらかに”人の頭蓋骨”の形をした白骨死体が、そこにあった。周りにはぐちゃぐちゃとした、魔物。……見ていられないものも。
辺りは、今まで通ってきた所と比べて……損傷が激しい。
血飛沫、瓦礫に破壊された後、小さいクレータがいくつも……まるで、さっきまで何かがここで暴れまわったかのような。
「人はこの死体だけ……魔物、は死んでいる。なんだ、ここらへんに魔物でも来たのか?」
「そ、それだったらさ……さっきまで、ここに居たかも知れないって、ことだよね?」
「可能性は十分にある。慎重に警戒を……あぁ?」
グラスは足を止め、暗がりがかかった道見る。
そして、静かに言葉を続ける。
「ロベルト、テトラ、止まれ。なにかいる」
その言葉に、二人の間に緊張が走る。
「ど、どういうこと?」
「気配がする、異常な、膨大な気配……もしかしたら、変異獣かも知れない」
グラスの表情は硬い。
だが無駄に動揺を見せることなく冷静に語った。
「た、確かに……変な空気」
「……この、気配……なんだ?」
「とにかく、先に進むぞ。いつ変異獣が現れるかたまったものじゃ――」
緊迫した雰囲気の中、突然、何かが視界に入る。
無言でソレに視線を向ける。
――ソレは、黒い体に三つ目の異形。
体格は、そこまで変わらない。少し大きいくらいだ……だが、その中に秘める強さ、魔力……圧倒的!
脳内で瞬時に警鐘が鳴り響く。
その魔物は無表情で、ロベルトとグラスをじっと見つめていた。その視線の中にあるのは、間違いのない敵意。
見たことのない魔物、だが、これだけはわかる。
コイツは、B級を超える魔物……間違いない。
コイツが変異獣。
強さがひしひしと伝わってくる。
(え、なに、なになになに……!)
(こいつは……強い……)
(動け、動くんだ、攻撃を当てろ。っ!――)
ロベルトの意志は、彼の体を突き動かすかのように響く。
反射的に剣を抜き去る。冷たく輝く刃が、魔物に向け振り下ろされた。
当たった――しかし。
「あ?」
魔物は、攻撃をあざ笑うかのように立ち尽くしていた。彼の鋼の剣は、魔物の皮膚にさえもひびを入れられず、何の反響ももたらさなかった。
なによりも。
ロベルトは目を細め、剣の刃を見つめた。
父親から、旅立ちのために新調して貰った、鋼の剣。
振りかざした武器の面影はなく、
そこには先端が欠けた鋼の剣だけしかなかった。
‐‐‐
「ちょっと……ねぇ」
真っ暗闇。上空に浮かぶ気色の悪い顔を浮かべた、複数の魔物が見つめる……一人の少女。
少女は焦りと困惑を浮かべ、取り出した細長い棍を下に構えて、上空を見上げていた。暗闇、そこに一人。
「魔物……だよね、何体いるの……?」
「あぁ、これは大変だな」
グラスたちの前にいる途方も無い魔物を前に、グラスはあっけらかんと笑った。内心面倒くさいと思っているが、口には出さない。
ここを突破しなければならない、早く、素早く。
(死ぬなよ、ロベルト……! 必ず!)
一人で怪物と戦う、ロベルトを思いながら。
「グラスさん! ここは……一人で戦います」
ロベルトの言葉が響く。彼の目は真剣だ。敵の恐ろしさに無力感を感じているわけではない。だが、その言葉は、二人にとっては信じれないことだった。
「えっ、うそっ……!?」
「な、なんだって……?」
その目には明らかに不安が浮かんでいる。
だが、ロベルトは動じることなく続けた。
「この怪物は俺が相手します。二人は」
「はぁ? おい待てよ。一人で戦うのか? コイツに!」
「そうだよ、無茶だよ!」
言葉は切実だった。
目の前の怪物は、ただの敵ではない。圧倒的なポテンシャルを兼ね添えた、強敵。そこらの魔物とは比べにもならないほど、強い。
まさしく、変異獣、圧倒的強さ。
そんなやつに、壊れた剣で、一人で挑む。
正気の沙汰ではない、今すぐにでも、逃走すべきだろう。
その時、怪物が再び口を開き、今度はさらに大きな衝撃波を放出した。ロベルトは素早い速度で反応し、空間を飛び跳ねるように回避した。
地面が砕け、瓦礫が撒き散る。
「――あまりにも、無謀だぞ……!」
グラスが言葉を漏らす。
しかし、ロベルトは静かに、しかし力強く言った。
「グラスさん……」
彼は一瞬、グラスを見つめ、そして言った。
「ここは任せてください」
その言葉が、グラスの心に強く響いた。
「わかった……よっこらせっと」
「えっ」
グラスは片手でテトラを持ち上げ、抱き寄せる。いきなり持ち上げられ、テトラは唖然としてしまう。なにも、突然なのだから。
「ちょ、グラスさん〜!?」
そのままグラスはテトラを抱えて走り出し、遺跡の虚空へと消えていった。少しだけ、テトラの悲鳴が木霊していた。
(……さて)
ロベルトは怪物を前にして、戦う準備を整えた。
壊れた武器で、何ができるか………いや、考えるな。
武器は使えない。
だけど、武器がなくとも、俺にはまだ方法がある。
魔法だって、ここにあるさ。やってやる。魔法でも、拳でも!
「来い、化け物!」
ロベルトは叫び、全力で突進した。
捨て身の突撃。
相手は―――怪物。
拳を握りしめ、その怪物に向け、駆け出す。
拳は捨て身の覚悟。
隙だらけ、しかしこれでいい。
怪物はロベルトを見てケタケタと嘲笑う。隙だらけ、とでも言うように、怪物は鋭い爪を振りかざし、鋭い攻撃を仕掛ける。
ロベルトと怪物の距離1メートルに達した時、怪物の鋭利な鋭い腕が。
ロベルトを切り裂く―――
が、ロベルトにはその攻撃が当たらなかった。
そう、捨て身の突進はフェイント。
怪物の攻撃をかわしつつ、ロベルトは素早く土魔法を発動させる。瞬時に腕から拳にかけて硬質化していく。
それは、剣よりも硬い、鋼も弾く。
「一発!」
ロベルトの声が響く。
と、同時に全力でその硬化した拳を怪物に叩き込んだ。
ロベルトの拳に、怪物はのけぞる。思いもよらぬ一撃を頭部にくらい、全身が揺れる。脳が揺れる。
(聞いた! やはりッ!)
そのままの勢いで、怪物の上半身に打撃をお見舞いする。
土魔法により硬質化した物理打撃、そして格闘。
打撃により怪物ものけぞる、間違いなく、ダメージを与えられている。しかし、怪物も負けじとこちらに腕を振り下ろす。
ロベルトはそれを素早く避け。
怪物の腹部に、もう一発――渾身の一撃。
ドゴッ、と腹をえぐるような音とともに、怪物が後方に吹き飛ぶ……が、倒れはしない。
相手も、この打撃に耐えられているようだ。
――まだ、畳み掛ける!
腕を怪物の方に向ける。
畳み掛けるように、怪物に向け魔法を使う。
瞬時に、3つの大きな岩が生成され、怪物へと狙いを定める。
怪物は本能で防御態勢を取る。
「落とせ……!」
ロベルトの言葉とともに、3つの巨岩が怪物に向かい高速で飛んでいく。怪物は両腕で防御――だが、巨岩の前でそれは意味無し。
1つ岩が直撃するとともに、怪物が岩に押しつぶされる。
追い打ちのように、2つ目の岩が上から振り落とされる。
怪物は岩に挟まれ身動き取れず、歯をギリギリと毮る。足掻くことしかできない。
そして、最後のトドメと言わんばかりに―――3つ目の岩が、怪物の頭に直撃、地面が砕け、めり込んだ。
衝撃で、辺りにホコリが舞う。この遺跡はほこりが多い……!
だが、なんとか。
(これで――)
ロベルトは、怪物に近づく。
しかし、これは油断。
ロベルトが、怪物の下へと近づいたその時、大きな衝撃音とともに、岩が。
巨岩が破壊される。
そして中から、怪物が姿を表す。
ケタケタと、嫌な笑顔を浮かべながら。
「っ……! 死んでなかったか」
怪物に驚き、瞬間たじろぐ。
怪物はその隙に、腕をクロスに構える。
瞬間、周囲の空気が震えるのを感じた。
これは、この魔物が扱う、技……やはり普通の魔物とは違うッ!
「がっ……!」
変異獣の目が鋭く光り、怪物が腕を大きく広げた瞬間。辺りが光始め、周囲の障害物を吹き飛ばす、衝撃波を作り出した。
その衝撃貼は、人一人を飛ばすくらい、なんのこともない。
ロベルトが吹き飛ばされ、後方の壁に叩きつけられる。
(っ―――)
あの攻撃……衝撃波か。
くっ……物理型じゃない、魔法も使えますってか……!
(頭でも打ったか、痛ぇ……!)
苦痛に苦しんでいるロベルトに、怪物はまた先程の構えを始める。あの、よくわからない攻撃が、来る!
ロベルトは、瞬時に防御する。
体を守るため、咄嗟の行動。硬質化した腕ならば……。
怪物の腕が再び大きく広がり、周囲の空気が歪む。
閃光が走り、空気が大きくうねり、轟音が轟く。恐ろしい衝撃がロベルトを襲った。それは、予想外の威力。
ロベルトの体は大きく浮かび上がり、後方の壁にめり込み、そして貫通。抵抗虚しく、吹き飛ばされ、地面に転んだ。
「あ”……が……っ!」
よそうがい……。
この威力……今まで戦ってきた、どの魔物よりも強い。
全力で耐えたつもりだ。
だが、相手がそれを上回った。
武器がないにしても、手元にあったとしても、苦戦は間違いなかっただろう……それくらいに強者。本当に怪物。
体勢を立て直す。
だが、なかなか整わず、上手く立ち上がれない。
骨が折れたわけではない、なぜか、腰に力が入らない。
恐怖……?
いや、違う。
俺がこんなところで怖気づくとでも?
(そんなことはありえない、だって、俺は妹を救うために、地獄の日々を過ごし、鍛錬を積んできた、そうだ)
こんなところで、は……とまってられねぇよ。
と、その時、水の音が聞こえた
耳を澄ますと、かすかな水流の音が響いてくる、水のざわめきが、空気を震わせる……これは、下からだ。
視線を下に落とすと、そこには暗い暗い、そこの見えない底が広がっている。
いや、全体にだ。
両脇は底が見えない、今立っている場所が地面だ。
下水道かなにかにつながったのだろうか。
怪物が上空から飛び降り、落下。
今も尚、こちらの姿を見て、ケタケタと笑っている。
今の姿を見れば、そうだ。やつからしたら滑稽だろう。
なんとか体勢を立て直す。
怪物と目を合わせるように、中心に集中……。
足を後退させる、その時、なにかが右足に当たった。
(瓦礫……!)
後ろには大きな瓦礫の山が築かれている。多分、さっきの衝撃だろう。まさか被害がここまでとは。
しかし、これで後退はできない、後ろに下がれない。
前にいるのは、A級を越える”変異獣”
後ろに行ったって、上に逃げたとしても、先程の衝撃波でまた吹き飛ばされるだけだ。
膝を曲げ、足元に力を込める。
(集中しろ。呼吸を整えろ)
相手が強くて苦戦した。剣があればまともに戦えていた。
じゃねぇよ。
今は拳と魔法しかない。
武器がない今、俺はこの2つを上手く使うしかない。
俺は深く息を吸い込み、体中に溜まった魔力を集中させる。次の瞬間、足元から伝わる熱を感じながら、少しだけ、両腕を前にだす。
拳を固く握る。足元から伝わる熱が……右腕と左腕に伝わっていく。
ロベルトの得意とする魔法は2つ―――炎、土。
どちらも、ロベルトの魔法を支える大事な属性だ。
しかし、炎は不安定だ。強力だが、少しでも制御を誤れば暴走し、周囲を巻き込む危険性がある。それを知っているからこそ、普段は使わない。
だが、ロベルトの周りに人はいない。
前には、敵意を向ける魔物のみ。
俺の手のひらから、じわりと炎が現れる。
最初は小さな火種のようなものだが、次第にその炎は俺の拳を包み込んでいき、手のひらの中で渦を巻きながら大きく広がっていった。
深紅から金色に変わり、激しく燃え輝く。
その瞬間、怪物が何かを察したのか、鋭く一歩後退する。
ケタケタと笑っていた表情はない。
さらに炎を強く集中させる。
手のひらの炎はますます大きく、凶暴に燃え盛っていく。
拳を握りしめたままじっと立っている。
恐れるな。この炎は俺の意志で操るものだ。
「構えろ……」
俺と怪物との間に、確かな間が広がる。
静寂、どちらも瞬時に動ける。そのときを待っている。
「―――来い」
言葉にした瞬間、怪物はその巨体を震わせ、まるで地鳴りのような音を立てながら、巨大な腕を振りかぶった。
俺は地面を力強く蹴り上げた。足元の土が舞い上がり、瞬時に跳躍する。
一瞬の静寂を感じながら、怪物に向かって駆ける。
怪物の腕が俺に向かって振り下ろされる。
その瞬間は、スローモーションにも思えた。
「上だッ……!」
怪物の腕を受け流しながら拳の打撃を当てる。炎の燃焼と、打撃で苦痛にゆがむ怪物。畳み掛ける拳は止まらず、打撃は怪物めがけ飛んでいく。
一発一発、炎を込めて。
その時、怪物が俺の足を鷲掴んだ。
そして、大きく振り回した。
怪物の力は大きく、俺は勢いよく振り回され、地面に振り落とされる。地面に落とされるごとに、地割れが起き、地面がだんだんと不安定となっていく。
このままではッ……!
なにか方法を考えるが、怪物はいまだこちらを地面に叩きつけていやがる……何回やんだッ!
「この野郎ッ!」
両手を怪物に向ける。
両腕に貯まる炎が、爆発し、火球と成り、怪物の頭部に直撃。
直後、大爆発をおこした。衝撃により怪物の手から足が解かれる。このまま着地し、次の行動に移そうとした。
しかし、できなかった。なぜならば。
(地面が、ない……!?)
着地する地面がなく、俺はそのまま下へと落下していく。底の見えない中落下する不安が、襲う。
っ! そういえば……敵は! どこだ!
落下する中、敵がどこにいるか、目で見渡す。
(見つけた!)
そして見つけた。真っ暗の中、目を細めれば。そこには怪物がいる、たしかに底にいる。だが、その怪物も――こちらを見通している。
その時、瞬間的になにかに首が掴まれる。
それは怪物の腕だ。
落下する中でも、怪物はロベルトを殺そうと試みている。怪物は腕に力を込め、首をへし折ろうとする。しかし、腕の中で何かがガチガチと噛み合って、上手く行かない。
【!?】
「はっ……残念だ、そう簡単に首はおらせないぞ」
ロベルトの首は、土魔法で作った壁に覆われていた。
ガチガチと、邪魔をしていたのは土魔法。
初めての防護壁だ。
「その腕はなしやが、れッ!」
ロベルトは、怪物の腹部に強烈な蹴りを入れた。
怪物の腕が一瞬揺れ、力が外れる。
その時を逃さない。
首にまとわせていた土魔法の壁を、瞬時に膨張させ、大きく変化、防護から、妨害へと変体させる。
衝撃が走り、空気が裂ける。
膨張した土魔法に押し出され、怪物の腕が大きく広げられる、隙が大きく空いた今こそ、一撃を食らわす絶頂刻。
怪物の体を踏み上げ瞬時に上空へと跳躍。
上から見つめるのは怪物、捉えた。
炎を宿した手のひらに、炎魔法を込める。
爆発させる、不安定? いや、それでもいい。
この炎をぶつけるだけ。
「燃えさかれ、炎天の灯火」
燃え盛る炎が、手のひらを中心に広がり、大きな火球を作っていく。比較的に上がっていく膨大な魔力。爆発力を生み出す。
怪物は見た。自分に向けられているだろう炎を、大きく太陽のような光。落下する中、怪物はこの炎に、異変を感じた。
明らかに……他の炎とは違う何かを、感じ取っていた。
強い変異獣だからこそ、生態系から逸脱した異なる魔物だからこそ、分かったことだった。
そして、炎が落ちる――
「赫焼」
赤熱に輝く、炎の業火。
怪物に直撃し、大爆発を上げた。
焼却するかのように炎は燃え盛る。
怪物の体を1つ残らず塵とし焼き尽くす。
炎は消えず、ともに落ちていった。
「っ、たッ……!」
高硬度からの落下、おそらく20メートル。
落下の体勢は取ったとはいえ、ロベルトは人間。
地面に着地した衝撃は想像を絶していた。何がいいたいかというと、めちゃくちゃ痛い。体が悲鳴を上げている。
「あーっ、くそ……!」
地面は水、だがそこまで深くなく、倒れもがいて苦しんでいても平気だ。
しかし、下水道だ、汚い。
服もこうして、汚水と血と汗で汚れている。
だけど、あの怪物は、燃やした。
視線を横に移せば、燃え盛る炎。水たまりにあるのにもかかわらず、今だ消えることのない、いつまでも、その炎は燃え続けている。
怪物を……倒した、強さにしてA級ほどの、敵を。
不完全な炎で。
体の痛みが柔らかくなり。
なにか、気持ちも軽くなった、疲れた。
「ひさびさだ……こんな、苦戦を強いるなんて」
俺はそう言いいながら、ゆっくり立ち上がる。
まだ体は痛いが、なんとか動ける。
ここに立っていること、戦いを終えたこと。
力を抜いた体を支えながら、俺はゆっくりとその場を後にすることを決めた。まだ、何かしらの手当てが必要だろう。
それより、グラスさんたちが無事か、確認が必要だ。
外も……セリータさんも大丈夫だろうか。
(でも、少しだけ……休みたいな)
ふかふかのベットに。
っと、流石に欲が過ぎたか。
急ごう、早いうちに。
ロベルトは燃える炎を背に歩き始めた。
炎は暗黒の中を切り裂く、いわば焚き火と成り、薄暗い下水を歩くロベルトを照らしていた。
しかし、歩きながらふと感じた異常な感覚に、足を止めた。
視覚では捉えられない、奇妙な音。
じわじわと近づいてくる感覚、嫌悪感。
またもなる 警鐘―――
無意識のうちに、ロベルトは振り返った。
「……嘘だろ」
倒したはずのA級の怪物が、炎の中から現れるのを目の当たりにした。
その姿は、以前の戦いで負った傷だらけのままであり、燃える炎がその傷口を照らし出しす。再生するかのように、体の至るところから、音がした。
その音は、気色の悪い、生命を貪り、体の中をいじくり回すような音。
嫌悪感。
驚愕。
恐怖。
怪物はひどく傷ついている、先程の炎により、肌と言える場所が焼き焦がれている、到底見れるものではない。
ここまで傷ついて尚、その目には殺意と怒りが宿っている。
「っ……! まだ、生きていたようだ……」
ロベルトは体を固め、拳を前に構える。
冷静さを保ちながらも心の中で次の行動を瞬時に考える。
倒したと思っていた、だけど違ったみたいだ。
まだ、コイツは生きていた。
殺意。刺し殺すように俺に向けられた敵意。二度目だ、今度はそう簡単にいかないだろう。……もう一度、あの魔法を使うか……。
怪物は、こちらを捉え、近づいてくる。
ロベルトは冷静に呼吸を整え、怪物の一挙一動に注意を払う。
だが、そんな時、突如として空気が変わった。
視界の隅で、何かが動いた。
そして、その瞬間——
「おやおや、こんなに早くお会いできるとは」
声が響いた。軽やかで、どこかふざけたような響き。ロベルトはその声に驚き、思わず振り返った。
そこには、この遺跡に似合わない人物が、立っていた。
黒スーツにシルクハット、胸元には目立つリボン。不気味な杖を手にした男が、悠然と立っている。男の髪の色は赤く、まるで炎のように鮮烈だ。だが、何よりも異様なのは、男の髪型——アフロ?
それもただのアフロではない。どこか人工的に整えられたような、やけに完璧な丸みを帯びていた。
ロベルトはその人物を一瞬見つめ、目を細めた。
怪物もまたその男を認識し、動きを止めた。
「何者だ」
「ふふふ。自己紹介が、まだだったね?」
男は杖を軽く振り、シルクハットを掴み、一礼。
「はじめましてだね? 僕の名前は―――あは。名前なんてどうでもいい、覚えようと覚えまいと、僕はただの『ピエロ』だからねぇ」
「………」
この場に合わない、軽い緊張感。
目の前の状況を楽しんでいるかのような、軽薄。
得体のしれない、何者なんだ、コイツは……。
「まぁ、呼び方は自由にしてくれて構わないよ。「道化」とか、「笑いもの」とか、「おかしな人」とか、どれでも君の好きなように」
男はゆっくりと肩をすくめ、そのまま不気味な笑顔を浮かべた。
不気味、だ。
だが、相手の意図が掴めない以上、無駄に反応するのは良くない。
「ん……これは、お強い魔物さん。変異獣かな」
ピエロの言葉に、怪物は目を鋭くさせ、睨みつける。しかし、このピエロは一歳動じない。
ピエロは静かに怪物を見つめていた。
怪物を、あの異様な存在、無数の歪んだ顔がひしめきあうような……しかし、このピエロの登場で、怪物の反応が少しずつ変わり始めた。
怪物はピエロを鋭い眼差しで捉えた。その目の奥に潜む怒り、敵対心。得体の知れない相手を見る目は、俺とは変わらない。
だが、時間が経つにつれて、怪物の目の輝きが少しずつ変わっていく。
最初の鋭さが失われ、次第にその瞳に浮かぶものは戸惑いに変わっていった。 相手が人間でもない、恐ろしい怪物でもない、とでも言いたげな変化だった。
ピエロの表情は変わらない。
不気味で陽気な顔つきも、変わらない。
しかし、彼が放つ不思議な雰囲気に、怪物は次第に動揺していった。
そして、驚くべきことが起こった。
怪物が、なぜかその場を離れていったのだ。
瓦礫の山を利用して一歩一歩、足を踏みしめながら上へと駆け上がっていった。逃げた理由は分からない。
恐怖、ではない……なら、なんだ?
ロベルトの目はピエロに向かう。その不気味な男——道化。
「二人になりましたね」
と、ピエロが静かに口を開く。
何かがおかしい。ピエロがただの道化師でない。
ピエロは存外人を楽しませる、もしくは恐怖の対象、どちらかだ。
このピエロは……どちらにも属さない。楽しませもしない、怖がらせる。つまり、人殺しをしない。
だけど、それが得体のしれない、危険な気配が漂う。
「お前……お前は何だ? お前がなにかしたのか?」
「そうだね、んー、ふふふ。手品ってとこダヨ、ピエロは手品で人を楽しませるものだろう?」
ピエロは一瞬、にやりと不気味な笑みを浮かべる。
手品にしては、不気味すぎる。
今のところ俺は楽しくはない。
「お顔から察しましょう。どうやらお気に召さなかった様子、残念、残念。人を笑わせることが、僕の「役目」なのに、ね」
そう言いながら、ピエロは再び口を大きく開け、ふふふ、と低く、けたたましい笑い声を上げる。
「では、このきれいなサンフラワーでも?」
そういって、ピエロが手の中から出したのは、きれいなお花の束。
お花、どこからだしたんだ……お花、サン、サンフラワー。ふわっと広がる、心地よい空間。
(わぁーお花だーきれ〜)
って、お花じゃない、トリックだよな?
危うく戦意が削がれるところだった。
ロベルトは、ピエロに向かって拳を構える。
「お前は誰だ、目的は、なぜ俺に関わる?」
「質問攻め、多いですね〜でも、いいでしょう。全ては教えてあげません」
「なに?」
なおさら、このピエロがなにを隠しているのか……気になる。
「でも、ね、ちょっとだけ、君に教えておこうか」
ピエロは軽く微笑んだまま、花束を持った手をゆっくりと下ろしていく。なにも、急ぐことはない、というように、杖を地面につける。
ロベルトは黙って立ち尽くし、ピエロの言葉を待つ。
「君は、僕をピエロだと思っているだろう。でも、それはほんの一面に過ぎない。舞台の上でみる役目は、ちょっとした皮に過ぎない」
舞台の上の役目? 皮?
「その下に何が隠れているか、知ってるかい?」
ロベルトの背筋を、鋭い一筋の冷たい感覚が走った。
わからない。
「ふふふ。でもね? その「隠れた部分」を知ることができるのは、君がここに踏み込んだ時だけだよっ」
それがどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。
「わかった……1つ聞いてもいいか?」
「どうゾ?」
この質問は確信に踏み込む。コイツは、馬車を襲撃した犯人たちの仲間なのか、それとも別の陣営、なのか……。
どっちにしろだ。
「アトリス王国馬車襲撃事件、あっただろ?」
「んーアッタネ」
道化は淡々と答える。
「お前はそれの関係者か?」
鋭い眼差しで道化を見つめた。
息を呑んで、次の言葉を待つ。
道化はソレを聞いた瞬間、一瞬、目を細め、にやりと笑みを浮かべた。その笑顔は、愉悦に満ちている。
「フフ……」
道化は静かに笑った。小さく微笑んだ。
「関係者……?」
道化の口元がさらに緩む。
「それは、どうだろうね。でも、君が想像するような『関係者』ではないかもしれないよ?」
なんだ、その反応は。
言葉言葉に謎が散りばめられている、どれもおかしい。
(だが、関係者……俺が想像するような………)
道化はさらに言葉を続ける。注意を引きつけるように、ゆっくりと語るその言葉、次第に冷徹な空気を漂わせ始めていた。
「君が知りたかったのは、そういうことだろう?」
道化は、ロベルトを挑発するように見つめながら、口の端を引き上げた。
「でも、1つだけ君に言うとネ……」
道化は、言葉を切った後、ゆっくりと手を動かし、被っているシルクハットを前にずらした。ロベルトの目を避け、何気ない仕草で帽子を整えると、ふっと上目遣いでロベルトを見つめた。
帽子の下から除くその眼は紅く、狂気。
眉がピクリと動く。
その瞬間、道化の口元が再び緩み、言葉が飛び出した。
「君の妹ちゃん……元気だヨ?」
その一言が、ロベルトの怒りを燃え上がらせる……限界点を超えた。
「そうか」
ロベルトは静かに一言呟く。
その瞬間だった。
ロベルトの両腕から、先程戦った怪物よりも、遥かに、熱く大きい、炎が燃え出た。プロミネンス、太陽のように業火に。
腕を構え、道化に向ける。
戦闘態勢。
「リシアはどこだ? 吐かなければここで燃やす」
そこには――明確な殺意があった。
狂気の道化と、業火の戦士。
「おー怖い怖い、燃え上がってるネ……でも、少し落ち着きなよネ」
「俺は落ち着いている」
「……ココロを鎮火してってことダヨ」
燃え上がる炎の中、どれだけ道化から針を刺されようとも……この怒り、止まらない。それはすべて……妹のため。
リシアにつながる、決定的な手がかり。
リシアを攫った幹部の相手。
情報を吐かせる圧倒的なチャンスを、ロベルトは見逃しはしない。
全ての糸を引き裂き、真実を引き出す。
「鎮火はいらない。俺はお前に聞いているんだ……妹はどうした。どこへやった、どうなっている? 危害を加えたのならここで――」
「落ち着きがないよネ。炎……消えない、のか」
その言葉と共に、道化はゆっくりと手を広げ、まるで何かを掴むような仕草を見せる。怪しげな動作だ。
「答えろ」
ロベルトはその目で道化を睨みつけながら、もう一度低い声で言った。道化は、ロベルトの言葉を耳にしても、さらにその笑みを深める。
「ふふふ……焦らないでよ。君の心が見えちゃうから、ちょっと怖いネ。君の妹ちゃん、まだ生きてるかどうか、確証はないよ?」
ロベルトの目が一瞬、驚愕に変わった。
「……嘘を吐く口を閉じろ」
道化はその言葉に、またしても小さく笑うと、手を広げて構える。どんなに殺意を向けられようと気にしない。動じなかった。
「怖いね、君は。けれど、それでも君はまだ分かっていない。炎が消えない理由、君の怒りが続く理由、そして君の妹ちゃんがどうなっているか、どんな状況か、ソレは――」
『話は聞かせてもらった!!!』
突如、叫び声が響いた。
ロベルトと道化は一斉に振り向いた。
視線の先、そこには金髪の背の高い男と、赤髪の女の子、二人の姿が見えた。馴染みのある、二人の姿。
グラスさんとテトラがいた。
戦闘はホント難しい。
気に乗れて筆が進めばいいんだけど、なかなか進まない。
ゾーンとか、入れる方法とか、ないのかな。
隠れた潜在能力が、一時的に開放される方法とか。
応援と、ポイントにブクマよろしくお願いします。
ポイントは、下にある☆☆☆☆☆から、よろしくお願いします。




