第一話「目が覚めたらそこは……」
意識が、ある......?
暗闇の暗黒空間。
ただ静けさだけが広がっている。
静けさの中で、何かが微かに響いている――それは、誰かもわからない声。
一体どこから聞こえているのかすらわからない声。
遠くでふわりと揺れるように響いている。
幻聴?
ふと、自分の身の回りの感覚が薄れていくのを感じた。
体がまるで重力を感じなくなったかのように、動かない。
ぽつりぽつりと漂うように存在している。
俺は死んだ。
病気で、ベットの上で、短い一生を終えた。
今思っても、中途半端。これからだったのにな。
あの瞬間、俺の命は尽きた。
それは間違いない。
だけど――なんで、意識があるんだ………?
死後の世界?
天国、地獄?
いや、今の状況は、そのどちらにも値しない。
暗闇の中、微かに聞こえる音、それだけ。ただの無。
だた、目を閉じていても、耳をすませても、闇の中で何かが動く気配がある。それが何かはわからない。
ただひとつ言えることは……何かが、俺をここから引き寄せようとしているということだけ、それがなにかはわからない。
(……ん?)
向こうに微かな光が見える。
その光は、暗闇の中でぼんやりと輝いている。
朝日のような光だ。
俺は、それを見つめながら、自然とその光へと引き寄せられる感覚を覚えた。
体が、吸い寄せられるように動いている。
動いているわけではないのに、なぜか自分の体が光の方へと進んでいく。意識がそれを感じ、体が反応している。
だめだ、動けない。
なにがどうなってる、なんで俺は……!
逆らおうと力を込める、意味がない……そして段々と引き寄せが強くなっていく。
そして次第にその光に包まれるように、その中心に近づいていく。
(……眩しい……っ)
目を閉じた。
その光はとても強烈で、眩しすぎた。
まるで天の光のようにも見えた。
あまりの眩しさに目をつぶり、光を防せぐ。
(収まってきた……か?)
光が弱くなって、刺すような刺激も感じられない。あの光は消えた、今なら大丈夫だろう。
(目を開けても大丈夫だよな?)
ゆっくり目を開ける。
開けると同時に、景色が、飛び込んできた。
目を開けて入ってきた光景は―――
若い金髪の女性が、俺の事を覗き込んでいた。
(!………だれ?)
目の前にいる見知らぬ女性。それも服がはだけけてる!
その表情は嬉しそうな顔をしているが、どこか疲れてそうにも見える。
はじめ見た光景がこれか………?
まてよ、まず状況を整理しないといけない。
えーっと………。
ここはどこだ?
周囲を見渡すと、女性の他にも二人の人影があった。
そのうち一人は、大人の男性。
その男性は、俺を見ながら、太陽のように眩しい笑顔を浮かべている。
その笑顔の下に、彼が呟いている言葉が漏れ聞こえてきた。
興奮しているような様子だ、こちらもとても嬉しそうに見える
だが、何よりも目を引くのは、その男性の筋肉。
見るからに分厚い腕、肩、そして腹筋――肉体を鍛え抜いた戦士のような立ち振まい、はち切れそうな大胸筋。あんな笑顔浮かべている人とは思えない。
もう一人は――小さな子供だ。
薄めの金髪で、年齢はかなり幼い。
その子は、俺の顔をじっと見つめている。
この子の目、俺は知っている……それは好奇心、興味津々というやつだ。
俺のことを見ているようだが……そんなに興味が湧くことなのか?
ちょっと恥ずかしくなってきた。
(って、言ってる場合じゃないよな。えっと、なんで俺の前にこの人たちが……?)
全く状況が理解できない。
俺、って……。
病気で死んだはずだよな……?
でも――今、ここにいる。
どうして? どうしてこんなところに?
俺は全く知らない人たちの前にいる、それになぜか、自分の視界が、明らかに低い。
そのうち、白髪の男性が興奮した様子で、女性に何かを熱心に話し始めた。
声は高く、テンションが上がっているようだ。
なにを喋っているのかは分からないが、テンションからみて、嬉しいことなのだろう、わからないけど。
それに……どこか聞き取りにくい、耳に残らない。
滑舌が悪いせいだろうか、それとも俺の耳が悪いからだろうか。
しばらくその言葉を聞いているうちに、違う可能性が浮かび上がった。
(………もしかしたら、言語が違うから?)
どうにも、その言葉には馴染みがない。
「あー、うあ……あ、あー?」
声を出そうと試みたが、思うように言葉が出てこない。
何度も口を開けるものの、まるで声がうまく通らない。力が入らない。
それどころか、発音すらもろく、息を吐くような音しか出せない。
「あーぃー」
声帯がうまく動かない。舌が思うように回らず、発したい言葉が全く出てこない。呂律が回らず、変な音だけが喉から漏れ出す。
どうして、こんなことになっているんだ?
(なぜ喋れなくなった?)
それだけじゃない、体全体に違和感がある。
手足が、どうしても思い通りに動かせない。
動いているような感覚はあるものの、実際には身動き一つ取れない。
いや……死ぬ前も、その前も、ずっと不自由だったな。
動けはしたけど、みんなと比べると……。
前世は病弱の病弱者。
俺の生活は支えられてばっかりだった。
自分で自由に行動ができない。俺が皆のためにできる事は少なかった。そんな自分にうんざりしていた。
身体の病というやつだ。
身体さえ治って欲しい、そう思っていた。
だけど、結局俺は死んだ……だろう、死の感覚はしたから。
それで、なぜ意識があって、ここにいるのか分からないが、前と変わらず俺は不自由だ。
しかし、
(俺は今、こうして生きている)
この体、動かせないし声も出せないけれど、意識は確かに存在している。
そして、どんなに体が不自由でも、俺は確かに生きている。
それだけは、はっきりとわかったことだった。
………うん、ん。
(おおっ!?)
その瞬間、俺は――驚愕した。
この男の人、俺を持ち上げた……。
あまりにも軽々と。
どれだけ強靭な筋肉を持っているのか、まるで俺が重さを感じないかのように、スッと持ち上げられてしまった。
い、いや。いくら軟弱な体でもさ。
俺の体重は50kg近くあったはず………。
この男性、ガチムチの筋肉マッチョなだけあって、相当な筋力持ってるなぁ。
腕の筋肉は――まさにガチムチ、マッチョ、そのものだった。
(……持っている幅が狭くはないか? 何だか、軽く持ってるような)
その不思議な感覚が、じわじわと俺の中で膨らんでいく。
この男性は、体力的には並外れた力を持っているだろうけど―――なぜだ か、 俺が軽く持ち上げられている感覚が強い。
まるで、俺の体が軽すぎるような、頼りない感じがする
それに、
(俺を振っている。赤ん坊じゃないんだぞ……)
体がゆっくりと揺れながら、周囲の風景が流れていく中、ふと視線が自分の体に移動した。
そして、その瞬間――俺は初めて、自分の姿を見た。
一瞬意識が飛びかけた、それぐらいに、俺の頭に衝撃が走った。頭が真っ白になったのだ。
だが、すぐにそれは収まった。
意識が急激に引き戻されると、ある事実が目の前に突き刺さった。
(こ、この体は……まさか、俺は、もしかして………)
(赤ちゃんになっている!?)
信じれれない。
なにが起こった?
分からない。
記憶があって、いきなりここに、来て?
それで………赤ちゃんになっている。
記憶はしっかりしている。
そして突然、目の前に現れたこの三人。
そして、何もかもが――変わってしまった、俺。
もしかして、夢?
(頬でもつねるか?)
赤ちゃんだからつねれない!
頬をつねることさえ――できない。
これまでの自分なら、何もかもおかしなことを整理していけたかもしれない。
だが、今の体、全く思うように動けない。
ただ、目を開けて周囲を見ることしかできない。
虚無と同じ感覚を味わっている今日この頃。
(身動き取れない)
覚まさせてくないか。
おいおい。
―――大丈夫。あなたならきっとできる
どこからだろうか、優しい女性の声が聞こえた、気がする。
もしかして、神様?
神さま。
神様。
夢を見させるのはよしなさい〜
‐‐‐
夢は覚めなかった。
現実だった。この何日かでよーく思い知った。
ここは俺がいた場所ではない。全く別の場所だ、それも田舎。ド田舎。
少なくとも、俺の周りは平らな土地ではなかった。
もっと、こんなところよりも機械が発達していて、システムで、通行も……。
でもここはそんな要素など一ミリも感じない。本当の田舎。
このくらいの田舎……存在するのか?
でも、ここに存在しているし。
だとすると、ここは……?
分からない。
今現在俺は赤ちゃんとして、この世に生まれおちた。と考えていいだろう。なんだこのの現象は、輪廻転生か?
でも、なぜあかちゃんに?
死んだ瞬間、光とともに、母親の体から生まれた。
でも、なぜ母親から生まれたんだ?
死ぬまえは普通の十五歳の少年だった。でもそれが、赤ちゃんになって――
困惑しかない。
今俺は、地を這っている。
赤ちゃんだから、歩けない。ハイハイで移動している。
でも、赤ちゃんだから疲れるくない?
とも思うが、そんなに疲れないんだな、これが。
この体が健康だから……理由はわからない。
ただ、生まれつき病弱だった俺にはありえない状況だ。
正直。興奮が収まらない。
顔に出ないように気をつけてるが、内心、心臓の脈が高鳴っている。俺の心が嬉しがっているんだ!
扉の先、リビングにて、俺の母親と父親が何かを話し合っている。
まだ、名前も分からない両親、何日か暮らしたけど、やっぱり何を言っているのかサッパリだ。
親の事だが、基本的に俺を無難なく世話してくれている、素晴らしい親だ。おかげで健やかに暮らせている。
まぁ、この田舎での生活だから、慣れないものばかりだけど。
落ち着きがあって優しく、器量のいい母親。
それと、不器用だけど、太陽のように元気な父親。
赤ちゃんは、だいたい幼い時の記憶はそこまでない。
だが、俺は前世の記憶がある。
つまり、十五歳として、今まで生きてきた記憶が存在する。だから、鮮明に記憶が残ることになる。
正直言って、赤ちゃんとしての生活は……うーん。暇だ。
(だって何もできないんだぞ?)
本を読むこともできない。人とも喋れない。まともに歩くこともできない。自分の生活は、親に支えられないと不可能。
介護生活と変わらない。
前世もそんな感じだったけど、話したりは出来た。
しかし今。それは出来ないのである。
記憶がある前提で赤ちゃんとしての時を過ごす。
生き地獄か。
扉のそばで、ひとり肩を落とすロベルトであった。
‐‐‐
俺が住むところは山の中の村、自然豊かな田舎である。
俺の家は、農地がある場所のほぼ隣にあり、よく外から黄色い麦畑が見える見える。森なんて、いつぶりに見ただろうか。
それくらい、俺の周りには機械ばかりだった。
でも、こうしてこの森にいると……うーん新鮮!
農地だけではなく、この村自体が、森林に近い場所にあるので、自然の中の村、と言っていいだろう。
そんなことなので、庭は植物の草木ばかりだ。
と、少し語ってしまったな、これには理由があるんだな。
俺は今一度自分の状況を理解しようとした。
今の自分を知るのは大切なことだ。
それも、前世の記憶がある今だからこそ。赤ちゃんの自分を知る。
記憶がなければできないこと。
一番に思いつくのは……言葉だな。
まぁ、赤ちゃんだからな。わかっていたことだ。……全く喋れない。
だけど、大人はもちろんのこと。俺の兄も少しだけ喋っていた。
何を言っているのかはさっぱり分からないけどさ。
幼児だから、まだわからない。
つまり会話ができない。
まぁ、幼児だからこれは普通は関係ない。しかし……俺は違う。
俺には記憶がある。
だから、ちょっとな。
何を言ってるのか分からないという事が把握できる。そこが……少し怖い。
でも、覚えて見せよう。
頑張って言語を覚える、ついでに読み書きもだ、猛特訓、猛訓練。まぁ、ここは慣れだ。
体について。
新しいこの"体"のこと。
髪の色は父親と母親から遺伝し混ざった、薄黄色の髪。
体の体型は……もっちり、ふっくら。
赤ちゃんだから丸いのは当たり前だな。
成長したら普通体型になるかなぁ……。
そして、それだけではない……ビックニュースのお時間だ……!
なによりも!
すごく健康なこと!!
自由に動ける!!!
まだまだ立てはしないが、地を這うことは出来るんだ。
前世では動くことさえ辛かったから。感動なのだ、興奮なのだ。
(神様にお礼を言わないとな、ありがとう)
あ、あと……年齢の話だけど、多分1歳にも満たないだろう。俺の体内時計はもう狂ってるから、正確に時間を測ることはできない。
自分の年齢がいくつなのかも分からない。
確認する方法は……誕生日。
年を祝う行事、一歳ずつ、年を祝い盛大なパーティーをする。まぁ、この世界にあるかは分からないけど。
今のところ、そういう派手な事はない。
だから、まぁ……1歳にも満たってないのだろう。
この家には電気機械などは見た所ない。
食器などは同じだが、火などは見た感じロウソクを使っているようだ。
水は川や湖からかと思ったが、さすがにそこまで原始的ではない。
外へ行って井戸から水を組んでいたところを視界に収めた。
前世と比べるとかーなーり、原始的な暮らしだ。
便利なものを毎日当たり前の様に使ってきた生活が、俺の基本だった。
これは慣れるのに時間がかかるな。
さて、前置きはここまでにしよう。
俺にとっての本題に、入るとしよう。
これが、俺が今生きる世界の基本と言っていいことだろう……正直、びっくりした。夢でも観てるんじゃないかって……。
本当に『はっ!?』……そうなって、顔見した。
父親が《剣》を使い。
母親が《魔法》を使ったのだ。
あぁ、今にも思い出す。
あの時の衝撃。
あのときは確か……庭を見ていたのだったか。
庭を見て、自然的な景色を楽しんでいた。それで、ひとつ。珍しい花があって、それを眺めていたんだ。暇だったから。
赤い花だった。
灼熱のように炎のように真っ赤な花だ、燃えてはいないぞ。
全体的に緑な自然の中の、ひとつぽつんと咲く、赤い花。
燃えるような赤い花。
知らないけど、きっとこの花は、特別なのだろう。
(珍しい花だなぁ……)
そう思っていた時、突然。
父が庭へと出てきたんだ、手に、木刀を持って。
(木刀なんか持ってなにを……お?)
そう思って、父を見た。
その時だった。
父が木刀を両手で持ち、構えた。そして、思い切り振り下ろした。
木刀を振ったあたりに、風が舞った。
それを見て、俺はギョッとした。
(と、父さん? 何してんだ?)
なんで木刀なんか、振り回してんの?
それ、意味あるわけ???
はっ。まさか、これがよくに言う……中二病てきなものなのか?
父さんが中二病……。
事実に耐えきれず、俺は頭から床に落ちた。
(いた、いよ)
その音を聞いて、母親が駆けつけてくれた。
やさしく、俺を抱いて。打ったところを確認してくれた。
視線があうと、ほっとした表情になった。
(よかった。母さんはそんなことなかった)
しかし次の瞬間。その思いは砕けた。
母さんは、俺の頭に手を当て目を閉じて、ひとつ呟いた。
見て分かる通りの意味深な動作。
俺は、またもや困惑した。
と、思ったのもつかの間。
母親の手が淡く光ったと思った瞬間。
俺の頭から、痛みが消えた。
(?)
痛みが消えた後、母親は大丈夫と言ってくれた。
そしてそのあと、『まほう』という言葉が聞きとれた。
まほうって、あの魔法?
ファンタジーの魔法?
だとすると、さっきのも魔法なの、え?
とまぁ、こんな感じだ。
俺はそのあと、体験したことを考え、ある結論に至った。
剣と魔法だ。
おとぎ話の、創作だけに存在するアレだ。よくあるファンタジー小説でよく出てくる、存在しないもの事を言う。
(あ、剣はあるか)
だが魔法は無い。
しかし剣と魔法が、存在している。
手品でもトリックでもない。
父親が剣を振り回している。
こんな事している人普通はいないさ。
特別な仕事にでも、ついてない限り。
そして。俺が怪我をしたときに母親が魔法だろうか。1つ、なにかの言葉を唱えただけで、痛みが消え失せた。
(嘘じゃない。本当に、一瞬で)
魔法だから……回復魔法ってところか。
魔法で傷を治すってのは、ちょっと無理な話だけど。
こんな体験を味わったのだ。
あと、これは自分だけの話。
前からなぜか思っていたことだ、なんでかわからないけど。
これ……前にも起きたような気がする。
前世の話しではない、この世界のことだ。
未だ説明できない。
……それか夢でも見ていたのだろうか。
‐‐‐
俺の名前は
『ロベルト・クリフ』
この世界に来てからの俺の名前だ。
名前は生きる事にとって一番重要であると過言ではない。
この名前こそが、俺がここにいた事の証になる。
二足で立って歩けないが、半年も立つと、ハイハイで移動することはできるようになった。ハイハイは移動に手間が掛る、ここが難点だ。
だけど、それよりも。
疲れない。
本当に全然疲れない。
若いゆえの身体能力の高さだろうか。
どれだけハイハイしても、少し走り回っても、全然疲れを感じない。
元から俺の体は運動向きの体なのだろう、将来はアスリートにでもなるか。
言語が大体わかるようになると、親からの反応も曖昧だけど分かる。意思伝達が可能となる、ずいぶんと早い成長だろう。
親は俺の事など結構心配してくれる。過保護と言うわけではない、普通に愛されて大事にしてくれる。
……心物足りないけど、少しだけ、ここの言葉を話せる。
聞く単語は、俺の全く知らないものばかり。俺がいるここでさえ、どこにいるのかはわからない。俺は怖い、未知だらけのこの世界が……嫌だ。
そんな時に現れたのが……剣と魔法だ。
剣。武器ならば分かる、俺の住んでいた世界でも武器はあった。武器を持ち、相手と戦う、戦闘に慣れた人ならば、よくある話だ。
しかし、魔法……魔法って、ククク………はぁ。
高度な科学技術が進んだ現代、魔法などという空想にしか存在しない、得体のしれないもの。科学で言うなら……"呪学"とういうか。
魔法は、物語の中にある。
―――ファンタジーは、人の心を揺さぶる。子供は、冒険の物語に胸を躍らせ、ドラゴンや魔法使い、勇者に憧れた。だがそれはあくまで物語の中だけの話。
魔法が存在しない世界、そしてその魔法の起源やメカニズムを考えることすらできない現実に生きているはずだった。
魔法は、やはり物語の中だけにあるものだ――そう思っていた。
しかし、違った。
俺が今いる場所、この世界には、確かに魔法が存在する。俺におきた出来事が、その証拠だった。俺がちょっとした怪我をしたとき、母が手をかざすと、その傷が一瞬で治った。
痛みも、血も、傷跡すら残らず。
今思っても、説明できない。
目の前に、光の玉が現れたる。空気が歪み、何かが変化する瞬間を感じた。それが魔法だとしたら……一体、それはどんな存在なのか?
何がどうなって、あの現象が起こったのか。物理法則に反する現象が、目の前で簡単に行われるのを見て、俺の頭はパニックに陥った。魔法――その概念が本当に存在していたとして、それはどんな仕組みで働いているのか。魔法はどうやって、この世界に存在するのか?
そして、俺はようやく理解した。
この世界自体が、おかしいのだ。
この世界は完全に異質だ。全く別の次元から来たような感覚だ。いや、俺は別次元に来てしまったのか?
生まれた時からそうだ、この世界は……現実と違う。
心の奥底では確信が生まれてきた。
この世界には、俺が知っている常識を覆す力がある。
この世界には、魔法が確かに存在するのだ。そしてその力は、科学では決して説明できない。解明できない力が、目の前で確かに存在している。
―――異世界。
その言葉が、頭の中をぐるぐると回り続けていた。
暗闇が広がる夜空に、無数の星々が輝いている。その静けさに、身を寄せる。異世界……そんなことありえるのだろうか。
しかし、そこに魔法があった。
科学では説明できない、魔法という存在が、ここに。
そして、現実に触れることすらできないような力が、この世界を支配している。
(俺は………どうしてここに来たんだろう)
死んだからか、生きている間に悪いことをしたからだろうか。どこから、何が始まったのかも分からない。
でも。
ただ、ひとつ確かなことは――
「これは、異世界だ」
確信に変わったその瞬間、心の中でその言葉が響いた。俺が今立っている場所、ここは間違いなく異世界だ。広がる空と大地、そこに流れる空気。
異世界には、魔法がある。
そして、魔法とは、現実では説明しきれない未知の存在だ。空想の中だけに存在していたものが、ここでは生きている。
目の前で魔法が使われている。その力が、この世界には息づいている。
世界は広い――。
自分が今いるこの場所が、どれほど広大で未知の可能性を秘めているのか。理屈や法則にはずれる、あらゆる空想や幻想がこの世界では現実となる。
この世界に"学"あるならば。
魔法がその一部として存在するこの場所で、俺はどんなことを学び、どんな答えを見つけるのだろう。
「知りたい」
心がそう言った。
魔法、力の源。
この世界の秘密。
魔法というのは、どんなものなのか、どんなにあるのか。
それらを知りたい。
この世界に潜む秘密を少しでも解き明かしていきたい。
(あぁ、そうか……)
この異世界に生まれ落ちた時から――俺の冒険は始まったのだ。
・この世界には、魔法が存在する。科学や常識を越える未知の力は、常に未知数。