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空中要塞グレイシアス   作者: ホワイトボックス
第二章 旅立ち編
19/93

第十八話「巡る異変」


 『昔、この遺跡に、小さな子人が佇んでいたとか、

 炭鉱をして、鉱石を採掘、そして蓄え、お金を作る。

 長く続いた歴史は、遺跡をとても立派な物にした。

 しかしそれは壊れた。

 遺跡の中には何も無くなってた。理由は今も分かっていない。

 その遺跡は今や群れをなした魔物の絶頂の住処になった。過去の栄光は突如として、虚空に消え去った』



―――キュロロ遺跡




 1日かけて、たどり着いたロベルトたち四人。


 キュロロ遺跡はアトリスほど広くはない。だが、しかし、その中に秘められた謎や危険は計り知れず、誰も中身を知る者はない。


 手にした情報は、グラスが兵士たちから引き出したものである。だが、その情報も極めて限られており、全部は分かっていない。


 そのため。遺跡の構造や内部の詳しい様子については、ほとんど不明。


 一発勝負。

 入れば未知の探検。



 ロベルトは、そこに入る――


 前に、遺跡後方の森にある馬車にて、皆で作戦を練っていた。



「キュロロ遺跡の入口にて、数体の魔物を確認いたしました。その強さはどれもD級程度。人影は見当たりませんので、アトリス王国兵士の姿はいないと思われます」


 セリータさんにより、キュロロ遺跡の情報が説明される。

 魔物はいるようだが、このくらいなら余裕だろう。問題は……。


「D級モンスターなら余裕だ。ならセリータ、この森の近くいるもっと強力な魔物――もしくは”変異獣”のような物はいるか?」



 変異獣



 普通の魔物とは異なる存在。単なる魔物が変異して、極めて高い知能と強力な力を持つようになり、従来の魔物よりもはるかに危険。戦闘能力も格段に上がっている。

 いわば、突然変異した魔物と言おう。


 セリータは少し沈黙した後、ゆっくりと答える。


「はい。私の魔力による周辺の感知では、この遺跡の近くに二、三体ほど、強力な魔物が存在すると見受けられます。いずれもB級程度ですが、それが変異獣だった場合、A級に相当すると推測いたします」


 その変異獣は、人の予想をはるかに上回るほど、強力な生物。

 どうやって生まれるか、なぜ生まれるか。


 いずれも不明。


 しかし、そんな相手と遭遇すれば、命を落とす覚悟が必要となる。


「「A級……!」」


 ロベルトと、グラスは。その言葉に緊張感を覚えた。一人を除いては。


「ねぇねぇ。私そういうのあんまり分かってないんだけど」

「はぁ……?」


 テトラの言葉にグラスは心底だるそうにため息を吐いた。


 グラスさんから聞いていたが、そんな知識も知らないのか。学校とか行って勉学に励んだりとかしていないのか? そういうの習うだろ。


(まぁ俺は学校なんて通っていないけど)



「では、”誰でも”わかるように説明いたします」


 誰でも、を誇張したな。



・現時点で魔物の格付けはS〜E級まで存在。


・E級 素手で余裕。


・D級 大抵棍棒など、なんとかなる

                   ←(一般はココ)

・C級 剣、弓など。武器があるなら安心


・B級 強力な冒険者。または魔法に冴えた者なら。倒すとなるなら5メートルほどの硬い岩を叩きつけるなりすれば大丈夫。


・A級 本当に強い。地形を破壊するほどの魔物もいれば、街に甚大な被害を残すほど、強大な魔物ばかり。巨大な魔物はやばい。壊滅の危機。


・S級 戦うことをおすすめしない。竜ドラゴンなどがここにくる。国の崩壊の危機とされるほど。今までに多数の死者が出ている。


 戦うならば、指定の強者を向かわせる必要あり。



 今回の変異獣ならばA級相当。

 A級ともなれば、その脅威は恐ろしい。

 一歩、関われば、命はない、死と隣り合わせ。


 冒険者ギルドにも、A級に会った場合、速やかに逃げよと、警告が出されている。


「……それ、すっごく強いんだよね」

「あぁ、そうだ。普通ーの人間では全く敵わないッ。死ぬ」

「やっばいじゃん! 見つかったらおしまい〜……!」

「もしかしたら、変異獣が遺跡の中にいる可能性もございます」

「こ、怖いこと言わないでよ……」


 しかし、セリータさんはいつにもまして真剣だ。俺はセリータさん並に魔物の感知とか、そういうのは得意ではない。やっぱり専門は頼もしい、冒険には必要不可欠だ。


「『戦わず逃げること』もし強大な魔物、変異獣と会敵したとき、選択肢は2つ――逃げる、死ぬ。それほど危険だ……分かったか?」



 グラスさんが、皆にそういった。

 冷徹で、皆の心をつかむほど張り詰めた声だ。


「わ、わかった……」


 テトラも恐る恐る答えた。流石に先程の話を聞いて軽い調子を続けることはできない。


 笑みなど微塵もない。


「ロベルト。いいな?」

「……はい」


 いつでも準備はできている。


「今回、遺跡に行くのは俺、テトラ、ロベルトの三人。

 セリータはここに残って遺跡周辺を感知魔法で索敵する」



 行くのは三人だけ、あまり大人数で行くのは良くない。

 残ったセリータさんは、遺跡全体を囲う『結界』を貼ってくれるらしい。この結界があれば、魔物を退くことができる。結界が壊れることは、そんなにない。


 もちろん、魔物だけでなく、人も入らせない。



「油断するな、ここからは、死地だ」


 ロベルト、グラス、テトラは遺跡へと歩みを進めた。




‐‐‐




「”結界”を貼ります。皆さん、お気をつけて」


 一言、遺跡に向かう皆に向けた言葉。


 深呼吸をした後、指をゆっくりと自分の唇に近づけ、静かな、だが確かな魔力を込めて詠唱を始めた。


『赫く染み渡りし領域より。煌々たる境界・表せ―――』


 その声とともに、上空に広がる”赫”

 緋色が、遺跡を覆うように結界を作っていく。



 その光景に、ロベルトは一瞬息を呑んだ。



 上空に広がるのは、鮮やかな緋色の光。

 まるで血のように濃い赤が、周囲の空気を染め上げ、遺跡を覆うように結界を構築していく。


 魔力が生み出した”赫色あかいろ”の結界。周囲の空間を無理なく隔て、内部と外部を分ける防御のバリアとなる。


 結界が完成したことで、遺跡の空気はまるで異なるものに変わった。異常なまでの静けさが漂い、仲間たちの足音すらも空気に吸い込まれるようだ。


 結界の力は、ただ単に魔物の進入を防ぐものではない。その赤い光が帯びた魔力の波動が、遺跡内の魔物たちの動きをも一時的に抑制し、彼らの感知を妨げる役目も果たす。



「……これが」


 ロベルトは、セリータの魔法の成就を見届けて、息を呑んだ。


「守護結界……基本的に魔物を退ける効果を持つ結界。敵の感知などを阻害することもできる……目に苦痛を覚えるのが難点だ」


 結界自体は俺でもわかるが、すごい精密な魔力を感じる。

 ここまでの結界が作れるなって。

 やはり、結界など、そういう分野に特出した人というのは、ここまでのものか。


(だけど……見ていて目が痛いな、これ)


 周囲は結界により真っ赤に染まっている。

 すべてが真っ赤というわけではない。


 だとしても、真っ赤すぎる、色合いが鮮烈で、強烈だ。

 ロベルトは片手で目をこすりながら、再び周囲に目を向ける。その時、目の前で苦しそうな表情を浮かべたテトラとグラスが目に入った。


「真っ赤っ赤……私の髪の毛赤色だから、わかんなくなっちゃう」

「あんまり見てたら目が悪くなるな。入るぞ」


 グラスが手で目を押さえながら、早足で遺跡の入口に向かう。


 結界が放つ光は眩しい、そして強い。

 とにかく、後を追って中に入ろう、目が疲れる。




 三人が遺跡の中に足を踏み入れた瞬間、空気が一変する。


 セリータが作り出した結界は、遺跡内部へと侵入したため、見えなくなる。結界により、少し赤みのかかった遺跡には静寂と重圧感が漂っていた。

 足元の石床は冷たく、ひんやりとした感触が足裏を伝えるが、それよりも何よりも驚くべきものが、目の前に広がっていのだ――


「……え?」

テトラが小さく呟いた。


「これは……」

グラスが重苦しい声で呟いた。


 ありえない。


 これは、一体……どうなって。



 目を見開いて、ロベルトはその景色に圧倒される。

 それもそのはず、遺跡内部は―――”ありえないほど広大だから”


 天井は、目に見えないほど高く、どこまで続いているのかさえ分からない。広さも予想を遥かに超えており、ここが遺跡というより、別の世界の一部であるかのようだ。


 上を見上げても何も無い、虚空だけが広がっている。

 暗闇の中で、上空に続く無限の空間が広がっている。


「これ、どうなってんの……?」

テトラがその場で立ちすくむ。


 声を上げることもできない。ただただ圧倒されているだけだ。目の前に広がる異常な空間に、心の中で疑問が渦巻く。


(こんな広さ、どう考えても……あり得ないだろ)


 目の前の空間は、遺跡に収まりきるような規模ではない。実際、建物の外観から想像される広さとはまったくかけ離れているからだ。


 ロベルトがその景色に圧倒されていると、誰かが呟いた。



「幻覚……ではない……」


 それはグラスの声だ。いつもより重く冷静な声。

 その目は鋭く、周囲の空間をじっと観察している。

 

「グラスさん、これって……」

「……おそらくだが。空間を歪ませる力――かもしれない」


 衝撃の発言。

 

 グラスさんの口からは、今確実に”空間を歪ませる力”と聞こえた。ありえない、空間を歪ませるなど、誰ができようか。

 魔法使いでも、次元に干渉するなど……不可能なはず。


「……これだけ広い空間が、どうしても遺跡の規模に見合わない」


 グラスは、少しだけ黙った後、無駄に深く考え込むことなく続けた。


「多分。何らかの力が働いて、空間を引き伸ばしている。もしかすると、この遺跡には、空間を操作する魔法や技術が仕掛けられているか、あるいは何らかの超常的な力が働いている」

「超常的な力……って、そんなことあるの?」

 

 テトラは半信半疑な表情を浮かべる。

 

「可能性はある」


 グラスさんは、そう言い切る……だけど、本当にそんなことがあり得るのだろうか、いやでも、いま現時点で起こっていることだ。


 だけど、空間干渉なんて、魔導書には―――まてよ?


 魔導書には書いていない。

 存在もしているかどうか怪しい。

 しかしグラスさんは知っていいる。


 知るものが少ない。

 それは、この魔法が一般的な魔法でないことを示す。


 この魔法が存在するならば、それは古代魔法。


(もしかしたら……これは、”禁呪魔法”か?)


 

「とにかく、固まって動くぞ。一人でこうどうは――」

「あーーーっ!!!」


 と、その時。テトラの大きな叫び声が聞こえた。


 その叫びに、ロベルトとグラスは驚き、すぐさま彼女の方に視線を向ける。


 二人は慌ててテトラの前に駆け寄ろうとするが、目の前の光景に思わず足を止めてしまった。


 テトラは、まるで何かを必死に指差している。その指先を追った瞬間、ロベルトは驚愕の表情を浮かべた。

 

 予期しなかった異常。


「なんだと……?」


 テトラが指差していたのは、三人が遺跡に入ってきたはずの入口だった。


 だが、その入口は――まるで最初から存在していなかったかのように、消えていたのだ。

 

 壁には、何もない。

 入口を示すものが、完全に消え失せている。

 そこにあった出口は、超常的な力に塞がれていた



「入口がなくなってる! なんで!? こ、ここから、入ってきたよねっ!?」

「落ち着けテトラ……っと、うん……まいったな」


 グラスさんが壁に駆け寄り、手探りで触ったり、押したりと、なにか行動をしてみる……。数秒の調べの末、結果は得られなかった。だめだったようだ。


「閉じ込められた」


 俺の口から出た言葉に、テトラの顔が青くなっていく。

 言葉どうり、俺達は、この遺跡に閉じ込められた――。

 


「……動揺している場合じゃねぇ。閉じ込められた? つまりそれは、俺達を誘ってるのと同じことだ」

 

 グラスさんは、自慢の中折帽子にかっこよく手を当てながら、進んでいく。そして入口とは反対方向。遺跡の奥へと歩き出している。


 迷いない男の歩みだ。


「行くぞ」

「うっそでしょ、グラスさん!」


 グラスの言葉にテトラは焦りながら声を浴びせる。

 否定の色が見える。なぜ先へと進もうとしているのか、わからない。そんなとこだろう。


「グラスさん、本気で進むの? この先に?」

「あぁ、そうだ。何か問題があるのか」

「あるよ! さっきから、こんな……超常的な現象が巻き起こっているんだよ!?」


 声が震える。目の前に現れた数々の不自然な現象――あまりにおかしい遺跡内、消える出口。異様な気配すら感じる。どれも普通ではない。


 この遺跡はおかしい。


 空気が重く、冷たく感じる。なにか潜んでいる。今にもあの岩陰からなにかが飛び出してきそうだ。それを感じ取るのは本能的。


「ここはさ、進むべきじゃなくない? ほら、先に進んだらまたなにか起こるかもしれないし、不安だし……」


 言葉に詰まる。

 テトラは指を弄りながら、途方もない虚空を見つめて、グラスに提案する。


 テトラの言うことは理解できる。先程から起きている超常現象。普通ではない、魔法でもここまでいかない。……いくら異世界だとしても、ここまでの事は初めてだ。


 錯覚でも見ているのか? 知らん。

 ただ、先へ進んだらまたなにか起こる、ということは分かる。


 それに、変異獣もいるんだ、相当心配したほうがいい。


 だが、グラスはその心配を一蹴するように肩をすくめて、冷たい目線と少しの嘲笑をテトラに投げかけた。


「ふっ。怯えるなテトラ」

「怯えてないわっ!」

「じゃあ安心だな、先へ進むぞ、前へいかなきゃなにもならんしな」

「いや……」

 

 テトラは言葉に詰まり、下にうつむく。グラスは横目にテトラを見る。一向に先へと進まない。俺一人で進もうか……いや、ダメだ迷うな。


「テトラ」


 沈黙のなか、グラスさんがテトラの名前を呼ぶ。


 グラスは軽く首をかしげたあと、ゆっくりとテトラの方へ振り向いた。目をじっと見つめる。表情は変わらない。だが、その瞳には、強い意志が感じられる。


「聖閤堂は志強く、なにものにも立ち向かう……強い心を持った者たちが集まる場所だ。テトラ、お前もその一員だ」

「一員……」


 深淵のように重く、響く言葉。

 胸に広がる。

 

「俺達は進まなければならない。どんなことがあろうと、挫けず怯えず。超常だろうと災害だろうと、聖閤堂は決意がある」


 力の強さ、意志の強さ、そして仲間との絆。

 聖閤堂のはそんな店だとグラスさんから聞いた。


 そしてソレを紡ぐのは、強き心。

 誇り高く、鳴り響く強靭な精神。


「テトラ。お前にもそのココロがあるだろう?」


 だって、


 彼女も聖閤堂の一員なのだから。




「わたしは……」


 テトラはその言葉を飲み込み、もう一度深呼吸をした。

 遺跡の中テトラの呼吸音が響く、今。テトラはココロを整理する。怯えた自分を打ち消す。グラスさんの言葉を、自分に留める。


 心の中は、まだ不安はあるけど。

 しっかりしなきゃ、私は………聖閤堂の一員。

 

 勇気だ、なににもまけない勇気。

 強い心には勇気が伴う。

 覚悟あれば、怯えなんか。


 怯えなんか、なんともない。

 私には効かない!



「私……わかった、行く、ついてく」

「うん、いい子だ。遅れないようについてこいよ」


 言葉だけ聞き、グラスは遺跡の先へと進んでいく、やっぱり恐れなしだなぁ……変わらないや。

 グラスの言葉を聞いてテトラは歯を噛みしめ、手に力を込める。


「大丈夫か?」

 

 気づけば横には、依頼人のロベルトが立っていた。

 心配してる顔、私のことを見てる。


 って、私何してんだろ。

 依頼人に心配されちゃ、かなわないよ。

 

(もっとしっかりしなきゃ……聖閤堂ナンバー2! 行くよっ!)

 

 テトラは一歩進みだした。

 確かな足取り、怯えや迷いはない。

 彼女のなかの勇気は、満ち溢れている。



‐‐‐


 


 遺跡を進む三人の足取りは、次第に重く、慎重なものになっていった。


 光源は、俺が使える光魔法。テトラが召喚により出した――青蝶の2つ。どれも全体を照らすのには十分だ。それでも暗いけど。

 どこからか低い風の音が聞こえてくるが、それがどこから来ているのかは分からない。


 遺跡の内部は予想以上に広大で、その広さに圧倒されることもしばしば、足元の道は、時折広がっては狭くなり、道に迷う感覚を覚えることがある。


 その広さや狭さの不規則さは、異変とよぼう。

 あまりにも、むちゃくちゃで、予測のできないものばかり。

 

 ふとした瞬間に現れる落とし穴や、道の先に架かる古びた橋――数えるほど、異変にあった。こうも異変にあったら、頭がおかしくなりそうだ。


 しかし、異変のはずなのに……元から自然的に存在していたと、錯覚しているのは……俺だけか?


 

 異変などはまだ把握できる。

 問題はモンスター。遺跡内の魔物のことだ。


 この遺跡は数千年前に滅び、人が誰も立ち寄らない、魔物にとっての恰好の住処となった。だが……どうだ。


 三人はこの遺跡に入ってから、まだ一度も魔物に遭遇していない。



 最初にセリータさんが言っていた通り、遺跡にはD級程度の魔物、それに加えて、B級……もしくは、突然変異の変異獣がいる可能性がある、注意しながら進んでいるのだが……。

 

 今のところ、魔物の気配すら感じられない。


 もちろん人の気配もだ。

 情報どうりならば、この遺跡に……馬車を襲撃した犯人がいるはずなのだが……一人もいない。暗闇に隠れているわけでもない。


 第一、俺にとって目的は襲撃犯を見つけること。

 そして情報をはかすこと。


 闇神の幹部下にある部下。

 数年前のアイツと同類のはずだ。

 早く見つけて奴らを……。


 周囲を見渡しても、どこにもそれらしい気配はない。ただ、ひたすらに暗く、静まり返った空間が広がるばかりである。

 自体は急変しない、ずっと同じ状況が広がっている。


 が、ソレは突然訪れた。



「なんだこの臭い……」

グラスが立ち止まり、ゆっくりと辺りを見回す。


 グラスさんの言っていたとおり、この近くから……悪臭が臭う。腐ったような臭い。これは、なんお臭いなんだ? どこから来ているんだ。


「うっ……」

テトラが顔をしかめ、手で鼻を覆う。


「何これぇ……っ。どこから?」


 腐敗臭だ? 動物が死んだ後のような、またはそれ以上にひどい悪臭。耐え難い悪臭だ………うぇっ。


「死体でもあるのかぁ?」

グラスが低い声で呟く。


 彼は再びゆっくりと歩き出し、慎重に周囲を観察しながら進んでいく。その後ろについて、ロベルトとテトラも少し遅れて歩みを進める。


 周囲にはただ、古びた石壁と足元の砂利だけが広がっている。だが、その石壁が不気味に湿っていて、ぬるぬるした感触を覚える。まるで生物の体温が残っているような感覚だ。


「もしかして、遺跡内の魔物?」

「かもな。臭いはこの先だ……何が待ち受けてるか知らんが、歩みは止めない。遅れないようについて来い」

「ま、待ってよ……」


 思いの外足取りの早いグラスに、ついていくテトラ。

 おっと、俺も遅れていてはダメだ。


(この先。なにがあるんだ……)






 





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