第十三話「不運は突然起こるもの」
―馬車の中―
馬車の揺れに身を任せながら、アトリス王国へと向かう。
外の風景は次第に変わり、野原を越え、険しい山々を抜け、そして穏やかな川をいくつも渡っていく。
辺りが金色に光る森の中、木の一つもない大きな野原、簡単に地面が崩れていきそうな山々、綺麗な滝。昔も、ここを通ったことがあったが、ここまで変化しただろうか。
たった数年。
知らない間に地形が変わった、大きな地震が起きたという噂は聞いていない。理由は知らないが……記憶の中の風景が変わたび、失ってしまうものがあった。
だが、この大空が広がる豊かな自然は、どこか懐かしいと思っている。
それでも、目の前に広がる光景は、記憶に覚えていたものとは異なる。
馬車が崖の道を進むにつれて、視界が一気に開けた。
そこには、広大な湖が青く光り輝いていた。
透き通るような水面が、太陽の光を反射して宝石のように輝く。
湖の周りには、緑豊かな木々が生い茂り、鳥たちがその枝にさえずっている。幻想的な景色だ、目が止まらない。
周囲の山々はその姿を誇らしげに見守り、風が木々を揺らす音が耳に心地よく響いていた。
(大魚でもいそうな川だ)
湖の底には不思議に満ちた生き物が潜んでいるかもしれない。はは、想像すれば心が踊ってくる。
美しい湖を眺めながら、興奮した。しかし同時に、心の中に押し寄せる想いを。俺は強く握りしめた。
(今はその時ではない、俺の旅は……簡単なことではない)
俺の旅の目的は、妹を探すことだ。
妹との思い出は、決して忘れることはない。
……それが、今の俺を締め付ける。激しい、苦難。
あの時の無力さは忘れられず、今でも自分非難している。
時間は無情に過ぎていくだけ。リシアのことを思うと、焦りが湧いてくる。
一刻も早く、リシアを助け出す。
俺にはそれしかない。
その言葉が、頭の中を何度も繰り返す。
妹のために、必ず助ける。リシアがどこにいるのかも分からないが、兄ちゃんが必ず守ると誓った。
兄として、何が何でも助け出すと。
リシアの無邪気な笑顔。
あの笑顔を取り戻す。
そして、もう一度、俺に見せてくれ。
あの時とは違う、成長して、リシアの頼りになる兄らしくなった、ロベルトに。
(子供の頃の不甲斐ない俺はいない)
過去の弱き自分に、さようならを告げた。
新たな自分が立っている。鍛え上げた身体、巧みな剣術、自由な魔法、研ぎ澄まされた精神力、そしてこの心の強さをもって、妹のもとへ向かう。
行く先で危険は絶対に起こるだろうが、それでも進んでいく。
想う気持ちは、人を強くする。
風が吹き抜け、白い鳥の群れが空に飛び上がった。
綺麗に列を組み、青い大空を飛んでいる。青と白がマッチしているからか、芸術的な美しさを感じ出していた。
白鳥が群れをなし、空を飛んでいく。
舞い上がる姿は、目を癒す。
しかし、突然白い鳥の群れに向かって、大きな黒い鳥が突撃してきたのだ。
その黒い影が、空を覆い隠すように現れた。
大きいからか、下からでもよく姿が見えた。
黒い鳥は、獲物を狙う猛獣のように白い鳥たちに襲いかかった。
それにより、何匹かが黒い鳥に襲われて落ちてしまった。
上空で悲鳴のような声と、高鳴りのような声が響き渡たった。
「……不吉だな」
思わず声が漏れる。
馬車の中に座り込み、微かにほくそ笑みが浮かぶ。こんな場面を突然見てしまったのだ、驚きに満ちてしかたないだろう。
(……白い鳥が祝福だとする、そして黒い鳥はそれを脅かす闇……)
あの時妹をさらった奴と同じ雰囲気を感じ取った。
闇と闇は、何かが違ったとしても……系統は同じ。どれだけ性格の良いやつでも、所詮は闇は闇属性。
相手が闇である限り、俺はその闇を消し払う。
‐‐‐
山に入ると、心地よい風が吹き抜け、周囲を包み込んだ。
木々は生い茂り、深い緑に覆われている。
空気が清々しく、精神が和らぐ風が吹いている。
しかし、ロベルトは脊髄で感じ取っていた。木々の間、何かが潜んでいるような気配を。
「気のせいだろう」と、思うだろう。
だが、木々の間に目を凝らすと、何か不確かなものがひっそりと存在しているように感じられた。
無意識のうちに、彼は警戒を深めていた。
『ここを越えればアトリス王国は近い』と、自分に言い聞かせるように、ふぅ、と一息ついた。
森の静けさが、心の奥を和ませてくれる。疲れが、取れるような感覚を感じる。自然のパワー、それとも生命の強さだろうか。
木々の間を吹き抜ける風が、さらさらと音を立てる。
その音は綺麗に透き通っている。
(あと少しの辛抱だ、ここを越えればアトリスだ)
しかし、木々の影から感じる視線。
彼はそれがどうしても気になるようだ。
魔物か、それとも人なのか。
無邪気な森の裏の姿には、ひょっとして何かがそこに潜んでいるのだろうか。しかし、おそれに囚われている暇は彼にない。
土魔法の魔導書を手に、気休めにページをめくりる。気づけば、いつの間にか山を越えていた。
視界が広がっていく。
遠くの景色が見渡せるようになっていた。
足元には小さな草花が揺れている。
そして、アトリス王国の姿が現れた。
青空の中でまるで誇り高き巨人のように居城がそびえている。
見ているうちに、ロベルトの中でなんとも言えない懐かしさが込み上げてくる。
昔の記憶も、薄っすらと蘇ってきた。
……ような気がした、彼はあまり覚えていないかった。
「そろそろ切り替えよう」
ここからはアトリス、王都だ。
アトリス王国は、世界の国と言っても過言ではない。
その偉大さは、訪れる者に深い印象を与える、俺もその印象を受けた者だ。記憶はおぼろげだが。遠くから見ると、高くそびえる居城が特に目立ち、立派な塔や装飾が施されているのが一目でわかる。
(しかし……またあの人だかりの大通りを通らないといけないのか………)
それは辛いな。
その時、突然馬車が止まった。
「なんだ?」
理由もわからず、馬車がいきなり停止したことに驚き、身を起こす。
アトリス王国にはまだついていないはずだった。ならば、なぜ馬車が止まったのか――御者に問いかけるべきだろう。
彼は前へと出て、管理人の方へ歩み寄ろうとした。
しかしその時、驚くべき光景が目の前に広がっていた。
三人の黒い馬に乗った謎の集団が、馬車の前に鎮座していた。
黒い鎧を身にまとい、フードで顔を隠している。
その姿は影そのもののように見える。
どこか不気味で威圧的だった。
そして、最も不安を掻き立てたのは――その雰囲気が、妹をさらったあの男と似ていることだった。
(まさか……仲間か?)
心に疑念が湧き上がる。
あの時、妹が代わりにさらわれたことが頭をよぎる。
眼の前にいる集団は、あのときの男と同じ仲間であり、また俺を狙って現れたのではないかと、考えた。
馬車の馬は一歩も動こうとしない。
空気は重い。緊張が支配するその空間。
馬車の御者は顔を青ざめさせ、恐怖に震えながら集団を見つめていた。
「くそ、まずいことになった……」
思わず舌打ちが飛び出す。
そして、内心で冷静さを取り戻す。
もしあの黒い集団が妹をさらった男たちの仲間なら、今ここに現れた理由は明白だ。奴らは自分を狙っているのだろう。
あの男も、輝く石と俺が目的で現れた。
(今になって再び攫おうとしているのか……面白い)
冷静を沿いながらも、心のなかで湧き上がる怒り。
怒りが彼の中で一瞬、火を灯すが、すぐに冷静に戻る。
まだ、感情を暴走させるときではないと、理解しているのだ。
そう思いながら、荷物とともに置いておいた剣に手をかける。
「こうなったら、前に飛び出てやる!」
馬車の扉を開けて飛び出した。
地面にさっと着地。すぐに立ち上が。足取りは慎重に、黒い集団に向かって一歩一歩踏み出した。
「何者だ? 名乗れ」
敵を睨めつけながら、問いかける。
その声に、黒い集団の一人が冷徹に答えた。
「お前はロベルト・クリフだな」
ロベルトは一瞬言葉を失った。
その声は、恐ろしいほどの力強さを秘めており、この明るい場所とは到底似合わないものだ。地底のそこから湧き上がるような、深く、重い響き、空気を揺さぶる。
「……そうだ」
素直に答える。
その返事を受けて、黒い集団の一人がゆっくりと歩み寄ってきた。
彼の全身を覆う黒い布は、まるで影のように動き、暗闇そのものをまとっている。顔が見えないため、相手の表情や反応は一切わからない。しかし、彼の歩みは止まらず、確実に迫るばかり。
「我らと共に来てもらいたい。
主君がお前の存在を望んでいる」
主君――その言葉が意味するのは、単なる一個人ではない。奴らにはボスがいる。
盗人の山賊ではない。
単なる集団でなく、組織的な何かだということが、自然と理解できた。
「主君か……」
主君が彼を求めているというならば、そこには妹も関わっているはずだ。思い返すと、妹をさらったあの男たちと同じような雰囲気が漂う。
ならば、答えは一つだ。
「残念だったな、俺の答えは――断る」
その言葉が口から飛び出すと同時に、周囲の空気が一変した。
黒い集団の面々が一斉に彼に冷たい視線を注ぐ。その視線だけ、凍りつくような圧を向けてくる。
顔は見えないが、その視線から伝わる感情は、まさに殺気そのものであった。
「ならば、武力で連れかえろう!」
その声が響き渡り、彼らの中から三人が馬に乗り込んで突進してきた。
馬の蹄音が大地を揺らし、奴らが持つ武器が光を反射する。
後ろには馬車の御者。向かってくるのは、馬に乗り、鋭利な武器を持った黒い三人の男たち……一体どうするか?
対応できるか?
御者を守ることはできるか?
(大丈夫だ)
その決意とともに、黒い集団のなかのひとりが向けた刃を。
俺の持つ鋼でできた剣が、激しく弾いた。
金属同士の衝突音が響き渡る。心臓が高鳴る!
相手の剣は重く、力を入れねば受け止めきれない。
(剣がぶつかっただけでこの威力か……父ほどじゃないにしても、なかなか重いやつだ!)
黒に覆われた奴らの衣装が、妖しく揺れ動く。
影がまうように。
ふらふらと、彼を惑わす。
三人による攻撃はやまぬことはない。
次々に武器がこちらに襲いかかる。
剣での受け流しや、弾きは得意だ。
しかし、数が不利だ。
それに加えて、御者を守りながら戦っている。それにより、この場にて攻撃を受けねばならない。
(あまり自由に動けない)
後ろを見る。馬車の管理人は恐怖の表情を浮かべながら俺を見つめている。守るしかない、俺の役目は彼を、そして馬車をこの襲撃から守ることだ。
黒い影の一体が、剣を振りかざして再びこちらに向かってくる。俺は身を屈め、鋼の剣を振りかざす。
力強い衝撃が腕を震わる、すさまじい力だ。
だが、彼らは慣れていると同じ、俺も手慣れだ!
次々と襲いかかる攻撃をかわし、受け止め、反撃しカウンターをいれる。
うまく決まり、強い一撃が相手の脇腹へと入る。
しかし、切れた感触はない。
それよりも、硬い、岩にぶつけたような感触が、腕に走る。
(鎧か、厳重だな……!)
鎧ごと切るように、剣先を強く、鋭く切り払う。
しかし、奴らは手強く、攻撃もままならない。
「くっ……!」
俺は一瞬の隙を突かれ、脇腹に刃を受けそうになるが、すんでのところで防ぎきった。自由に動ければ、簡単に倒せる自信がある。
だが、今は人を守りながらの戦闘、そして相手は騎兵。
不得意な相手だ……辛いな。
『守りを固めろ』
俺は心の中で自分に言い聞かせ、攻撃を続ける。
剣を振るい、魔法を使い、土でできた防護柵を地面に発生させる。父の先は鋭利。これで少しは相手の足を止めることができる。
だが、思惑通りには事が進まない。
気づけば、後ろからは御者の悲鳴が聞こえきた。
反射的に反応し、御者を襲う黒い集団の一人に、渾身の蹴り技を打ち込む。それを暗い、少しよろめく敵。
しかし、状況は簡単には変わらない。
……まずいな。
一瞬の隙を見計らって、黒の集団が連帯を組み、馬車を囲うように動く。挟まれたのだ。
思考が駆け巡る。
この状況から打開する方法はなにか……。
考える。
そして浮かんできた。
「御者」
「!……な、なんで、しょう?」
怯えている。いまにも気絶しそうな勢いだ。
だが、待ってくれ。俺が話すことは大事なことだ。
ロベルトは前を警戒しながら、御者に近寄り、耳元に口を近づける。相手に聞こえないよう小声で説明する。
「俺が囮になって山へ駆け込みます。そのあいだに逃げてください」
その言葉を聞いた瞬間、御者は目を大きく見開いた。
そして反対するように首を大きく振った。
「そ、そんなこと……」
「しっ。奴らは俺が目当てです。責任は俺にあります」
真剣な眼差しで、御者の目を真っ直ぐに見つめ、言葉を続けた。
「し、しかし……」
「任せてください」
その言葉が、御者の心に届くことを願った。怯えた表情の中に、少しだけ決意が宿るのを感じる。
そして、深い息を吸い込み、顔を上げた。恐怖が全身を包む中でも、何かを決断しようとしている。瞬間、目が真剣になり、震える声で言った。
「わ、わかりました。あなた様に託します」
その言葉を、しかと受け取った。
無謀な提案をした自分の言葉を、きちんと受け入れてくれた。
感謝の気持ちが浮かび上がる。だが、その感情を表に出すことなく、冷静を装いながら、
「ありがとう。任せたぞ」
と、頼んだ。
「なにを話している」
その声は、周囲に響き渡る。
見透かされたような気分だ、だがそんなことはどうでもいい。
「お前たちに関係ないことだ」
ロベルトは冷静を装い、強がって返した。しかし、内心は緊張でいっぱいだった。ロベルトはここで足を止めるわけにはいかないのだ。
「俺が飛び出したら、馬車を走らせてください」
「わ、わかりました」
声は震えていたが、必ずやってくれるはずだ。
さて、これでいつでも実行できる。
深呼吸し、自分の心を落ち着かせる。周囲は静まり返っていて、緊張感が漂っていた。今、この瞬間に全てがかかっている。行動を起こさなければならない。
奴らは俺が狙い。管理人など眼中に無いはずだ。
それを確信し、ロベルトは一度周囲を見渡す。
敵は俺に集中している。やるならば、今、この瞬間だ。
「さぁ……!」
ロベルトの声が響き渡り、黒い集団も武器を持って攻撃に移る。
黒の集団に向かって鋼の剣を尖らせ、全力で突っ込んでいく。周囲の空気が重く、敵の冷たい視線が背中を押すように感じる。
剣を振り上げ、一瞬の隙を突こうとした。
その瞬間、周囲の動きが一瞬止まった。
突如、ロベルトが空中に飛び上がった。その動きはまるで弓矢のようにしなやかで、黒い集団の背後に着地した。剣は振らず、静かにその場に佇んだ。
黒い集団が俺の方向に向き直る。
その瞬間、馬車が轟音を立てて走り出した。
彼らの視線は馬車ではなく、ロベルトに集中している。
やはりそうであった。敵の視線は、常にロベルト・クリフ一人に集中している、馬車のことなど眼中にもなかった。
他のことなど。いや、主君の命令以外どうでも良いのだろう。まぁ、そのおかげで管理人が助かった。
ありがたいことに、それが御者を助けることとなった。
(が、今はそんな感謝してる場合ではない)
今は逃げることを優先しよう。
だが、相手は騎兵、うまく逃げられるかどうかは分からない。
しかし、ぐずぐずしてはいられない。
「ついてこい、その黒い装備じゃ、大変だろうがな!」
挑発を口にする。
これもただの強がりだ。
足元は不安定で、木の根や石に躓きそうになるが、気にしている暇はない。今はひたすらに前を進むだけだ。
森の中は金色の空間だった。木々に差し込まれる太陽の光がそうしていたのだ。その明るさが、今の状況の助けとなった。
どこからか、川の流れの音も聞こえてくる。このあたりの近辺に滝でもあるのだろう。
黒い集団が馬の蹄の音を響かせながら迫ってくる。その音は次第に近づいてきて、心臓が早鐘のように高鳴る。
「まだまだだな、捕まえてみろ!」
挑発すればするほど、相手の反応を呼べる。
だが、周りはごちゃごちゃとした山の中だ。足元の不安定さに苦しみながらも、ロベルトの感覚が告げる。この場所をうまく利用すれば、逆に奴らを撒けるかもしれない。
しかし、黒い集団の騎兵たちは速い。
いずれは追いつかれてしまうだろう。
(だが、いつまでも走っていると体力が持たない)
心の中で計算する。
周囲を見渡す。
木々や岩、馬の障壁となるものがたくさんだ。
時間は稼げる。
「――そうと決まれば!」
そう言って急に右に曲がる。
木々の間を縫って進むと、馬の足音が少し遠くなったように感じる。こんなごちゃごちゃした場所では、馬も一筋縄ではいかないだろう、決まった。
だが、油断はできない。
振り返れば、まだあの黒い影が追ってきていた。
思った通り、この程度では撒けない。
逃げるだけではだめだ。
逆に奴らを引き離す方法を考えなければならない……引き離す、引き離す……。
一度、隠れよう。
「!」
ロベルトの進行上に大きな岩を発見。
そしてこの岩の下、そこは空洞ができている、この下に隠れれば、奴らの目を逃れることができるかもしれない。
大きな岩の陰に身を隠し、息を潜める。
心臓はドクドクと激しく脈打ち、冷や汗が額を流れ落ちる。
と、そこへ黒い集団の一人が、馬に乗り。
ロベルトのすぐ真上に接近。重圧がロベルトに感じ渡る。
(下を向かないでくれ……)
心の中でひたすら祈りながら、その瞬間を凝視した。
「………」
奴はロベルトのすぐ上にいるのに、気づくことなくそのまま進んでいく。ロベルトは息を潜め、少しでも音を立てないように耐えた。
数秒、いや、数分のようにも感じられるその時が過ぎた。
黒い集団の一人は、遠ざかっていこうとと――した。
その時だった。
周囲が突如として光り輝いた。
「なっ……なんだ!?」
彼らは一瞬足を止め、辺りを見回す。その目は、光の源を求めて一斉に動き、周囲から発せられる強烈な輝きに引き寄せられた。
ロベルトは眩しさに目を細めながらも、その光を注視する。
その光は、空気を切り裂くような輝きだ。
ふと見ると、敵は目を見開きながら何かを叫び、痛みに顔をゆがめている。
「なぜこんな光が……! まさか」
思い当たることがあった。
それは昔の記憶。
あの子供の頃、妹と一緒に見つけたあの輝く石。
田舎の村で、あれはただの石だと思っていた。
しかし、洞窟で触れた瞬間、光り輝いた。あの時と全く同じ光だ。
あの時と同じ光だ。
その記憶は、ロベルトに恐怖、そして”興奮”が入り混じった感情を抱かせる。光の方へと目を向けるが、眩しさで目をやられる。
しかし、ロベルトは抵抗した。
「グォォッツ、アァッ!!!」
敵の一人が苦しそうに叫んでいる。
光にさらされながらももがいているようだった。いったい何が起きているのか、彼には分からなかった。
しかし、明らかに異常な事態が進行しているのは確かだ。
そのとき、光はますます強烈に増していき、金色の光が地面から空へ、音もなくすっーと伸びていく。ロベルトの目には、それが金色の線に見えた。
「な、なにが起こってるんだ……?」
焦燥が胸を締め付ける。
光の揺れはますます激しくなり、周囲の空気が震えるのを感じた。
そして、突如として、周囲が激しく揺れ始めた。
光が全てを飲み込み、あたり一帯が震える。金色の線が空に向かって伸び、光の渦がロベルトを中心に広がっていく。
その強烈な力に引き寄せられ、とてつもない衝撃波を放った。
「うあぁぁーーっ!!!」
衝撃波がロベルトにまで届き、その圧倒的な力に抗うことができず、吹き飛ばされてしまった。
ロベルトは、力尽きて吹き飛ばされる。その先に待っていたのは、川へとつながる滝だった。そのまま滝の下へと、真っ逆さまだった。
滝の下に落ちると、冷たい水が勢いよく彼を包み込む。
意識が遠くなり、体が水の中に沈んでいく。目の前が真っ暗になり、何も感じられなくなった。
ロベルトの意識は、そこにない。
光は、ロベルトのいる場所、それを超え、更に森全体へと広がっていく。その光は別の場所にいた黒い集団をも飲み込んでいった。
そして……アトリスへと急ぐ馬車ですらも、飲み込んでしまった。
光が消え、静寂が戻る。
辺りに残るのは、ただひとつの存在。
そこには、金色に輝く石があった。
光を失ったその石は、静かに眠っているように見えたのだった。
妹の写真が入ったペンダントを見て、夜の夢におちる。




