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空中要塞グレイシアス   作者: ホワイトボックス
第一章 幼年期
12/93

第十一話「決意」

――ギデカルド視点――


 


 ロベルトとリシアが外に出かけてから、しばらくが経ったが、まだ戻ってこない。時間はすでに夕方を回り、空はオレンジ色に染まり始めている。


 おかしい。


 ギデカルドは不安を胸に抱きながら、ふと心の中でつぶやいた。

 普段ならば、もう家に帰って来るはず。

 家に帰って、美味しいスープを、家族で食べている、そのはずだ。

 

 だが、今日は違った。


(だが帰りが遅い……秘密基地に行ってるんだろうが、さすがにこれは、なぁ……)


 秘密基地。それは、ロベルトとリシアがよく遊びに行く場所だ。


 自分たちも、秘密で子どもたちの秘密基地の場所を知ってはいる。もちろん、子どもたちはそれを知らない。

 それを他の人に知られるわけにもいかない。


 あくまで「秘密」としておくべき場所だからだ。


 だが、あまりに帰りが遅すぎる。

 なぜこんなにも、遅いのか。


 そんな不安が、胸の奥でじわじわと膨れ上がっていく。

 

(……もしや、何かあったんじゃないのか?)

 

 ......心配だ。



 その予感は次第に確信に変わっていく。ギデカルドは立ち上がり、下に目を落とすと、手を取ってくれたフリナの存在に気づく。


「母さん、二人は……」

「まだ、帰ってないわ……うん、どこに行ったのかしら……」


 フリナは冷静に返事をするが、その手のひらには微かな震えが感じられた。不安に駆られているのだろう。


 まだ帰ってきていない。

 そんな、不安が徐々に募っていく。


 ギデカルドは深いため息をつく。


 俺は………どうする。

 このまま、二人を待つのか、それともなにかすべきか。

 母さんも、落ち着きが止まっていない。


 こういう時、俺はどうする? 

 二人の父親として、どう行動する。


(いや、待っているだけでは駄目だ)


 決意を高めるがいい、ギデカルドよ。


 

 探そう。

 探しに行こう。

 子供になにかあったら、そこへ駆けつけ助けるのが親というものだ。


 ロベルト、リシアの身の安全が一番だ。

 

「母さん、流石に時間がかかりすぎた、なにかあったのかもしれない。探しに行こう!」

「!……うん、そうね、遅いものね………分かったわ、行きましょう」


 フリナの承諾を得られた。

 だが、忘れてはいけない、フリナの顔には、まだ隠しきれない、不安と同様の色があったことを。

 

 ギデカルドはすぐに決断した。父親として、今できることはただひとつ。ロベルトとリシアを見つけ出し、無事を確認することだ。


 さて、二人の居場所だが。


「多分、秘密基地にいるはずだ、急ごう」

「無事だといいんだけど……」


 ギデカルドとフリナは、こっそりだが、二人の秘密基地を、前々から知っていたのである。

 これは、内緒である。

 なにせ、秘密基地だからだ。



 二人は家を出て、急いで秘密基地の方向へ向かう。道中、周囲にはあたりの静けさが広がり、心をざわつかせる。


 秘密基地までは遠い。

 林を越えて、木々や草木がたくさんある、迷いやすい中。

 まず、どこにあるのか見当たらないというのが問題だ。

 探しにくい。


 だが、急がねばならない。


 ギデカルドとフリナは秘密基地がある予想の場所にに到着した。

 秘密基地の存在は知っているが、場所は分からない。

 入口を探し、中に入ることが難所だ。


「母さん左側を探してくれ、俺は右側を探してみる!」

「わかったわ、頼みますよ!」


 二人は左と右に別れる、秘密基地、洞窟への入口を探す。

 草が多い茂っていて邪魔だ。


 二人は草むらの中へ分かれて進み、入り口を探し始める。茂みが深く、時折草に足を取られながらも、ギデカルドは剣を抜いて、慎重に草を切り払っていく。


 少しずつ、少しずつ、前に進みながら、心の中で焦りが募る。

 時間が経つごとに、夜の気配が強まってきている。


(見つからない…どこだ)


 汗が額に滲み、息が荒くなる。けれども、目の前に見えるのはただの木々と茂みばかりだ。


 秘密基地としての完成度は高い。

 ここは、さすがは息子よ、と言おうか。


(しかし、完成度が高ければ高いほど……見つけるのは困難となる)



 ギデカルドは必死で草を払い続ける。


その時、

「あなた! 見つけたかもしれないわ!」

「ほ! ほんとか!」


 突然、フリナの声が響いた。

 ギデカルドは反応し、すぐにそちらに駆け寄る。

 

 フリナが指差す先には、草木が荒れた場所と、そこに開かれた洞窟の入口が見えた。


 入口は確かに、荒れた跡があった。まるで何かが通ったかのように、草が踏み荒らされている。もしかしたら、獣が出入りしたのかもしれない。

 だとすれば、子どもたちが危険にさらされている可能性が高い。


「急ごう、気をつけて!」

「えぇ……慎重に入ってみましょう」


 ギデカルドとフリナの二人は洞窟の中へ入っていく。

 二人は秘密基地を知ってはいるが、入ったことはないので、未知の領域だ。

 

 中は普通の洞窟だった。

 内部は狭く、岩がゴツゴツしているが、ギデカルドは冒険者であり、このような場所には慣れている。


「大丈夫、母さん、ついてきて」


 ギデカルドはフリナを守りながら、進んでいく。暗闇の中、奥へ進んでいくと、ふと視界が広がる。

 

「お、あそこに松明があるな」


 松明に火をつければ、あたりが良く見えるだろう。

 俺は魔法が使えない、ここはフリナの出番だ。

 フリナは頷くと、手を掲げて炎魔法を発動させた。


「これで見える」


 ギデカルドは松明を持ち、前方を照らしながら進む。目の前に広がる暗闇の中、何かを見つけたフリナが声を上げた。


「ん、あなた、ここになにかあるわ……」


 彼女の指が指し示す先に目を凝らす。

 それはもの……ではない、なにか人影。


 子どもだ。


 息子だ!


 ロベルトだ!


 

「ロベルト!」

 

 ギデカルドは駆け寄り、松明をフリナに渡してから、ロベルトを揺さぶる。

「ロベルト、しっかりしろ!」


 ロベルトは目を開けない。

 気絶しているようだ。生きていて、本当に、良かった。


「大丈夫だ…」


 しかし、ギデカルドの胸を締め付けたのは、ロベルトだけではなかった。

 

(待て、ハッ!……リシア。リシアがいない!)

 

 ギデカルドとフリナはその後洞窟を隅々まで、探した。

 しかし、リシアはいなかった。

 

「いない…リシアはどこだ?」


 ギデカルドの声に焦りが滲み始める。

 だが、時は刻一刻と過ぎ、夜が迫ってきている。

 無念……ギデカルドは、一旦、ここを離れることにした。


 思いを胸に抱えながらも、ロベルトを抱えて洞窟を後にする。

 帰り道、暗くなる空の下で、ギデカルドは心の中で問い続ける。


(リシアはどこに行ったのか?何が起こったのか、ロベルトに聞こう…でも、今は無事を確認することが最優先だ)

 

 その思いは、どこまでも暗く、深く、重たかった。

 

 ………。




‐‐‐




 ……暗い。なにも見えない。


 意識がゆっくりと戻ってくる。

 頭が重く、体が鉛のように動かない。


 まるで、深い闇に包まれているようだ。自分の身体がどこにあるのかも分からない。ただ、温かいふかふかな所に横たわっていることだけは感じ取れる。


 ああ…そうか、俺は倒れたんだ。

 妹を守ろうとした、その最後の瞬間まで、気を張っていたのに…。


「リシア……」


 声は届かない。届いてほしくても、何も返ってこない。

 あの後、俺は意識を失って、こうして暗闇の中に放り込まれたのだろう。リシアを守らなきゃいけなかったのに。

 

 でも、逆に俺が倒れて、彼女に守られたんだ。


 俺は、ほんと……だめな兄貴だ。


(ん?ここは……家、か……)

 

 意識が更に鮮明になり、ようやく周囲の状況がわかってきた。ふと目を開けると、見覚えのある天井が目に飛び込んできた。


 自分の部屋だ。


 

 ベッドの上で横になっている。身体の違和感を感じながら、どうしてここにいるのかを考えた。


 父さんか、母さんが連れて帰ってくれたんだな。

 しかし、妹はいない。


 疲れた。

 身体的もそうだが、なによりも……精神的に辛い。

 俺の心は急降下、急な下り坂をゆっくりと歩いている。

 空っぽな感じ、動きたくない。

 


 すると、部屋のドアが開き、父さんが入ってきた。


「! 起きたのか」

「……うん」


 父さんの声が、優しく、けれど少し驚いたように響いた。


 父さんは荷物を手に持ったまま、俺のベッドの横に座り込んだ。重い足取りで歩み寄り、手を伸ばして俺を支えるように座った。


「具合は、大丈夫か?」

「うん、ちょっと頭痛いけど、特にはね……」


 声を出すのも少し辛いが、なるべく普通に返す。

 でも、内心は全く普通じゃない。


 だって、リシアがいないんだ。


「そうか、無事で良かった」


 そう言って、俺の頭を撫でてくれた。

 頭に感じる温かい手のひら。大きな父さんの手が、俺の頭を包み込む。


 一瞬、心の中で何かが解けたような気がした。

 小さな頃、何度もこの手で慰められたことを思い出す。父さんの手は、大きくて温かい。強くて、優しい。


「ロベルト、一体何があった?」


 父さんが静かに尋ねた。


 その言葉が、胸に深く刺さる。あの出来事が、今、言葉として浮かび上がる。けれど、どうしても口にするのが辛い。

 無力感、そして自分を責める気持ちが、言葉にならない。

 いや、言いたくない。


 でも、父さんは知りたがっているんだ。


「………父さん、その……基地のこと、知ってたんだ」

やっとの思いで言葉が口をついて出る。


「あぁ、すまない、黙ってて」


 すでにバレていたのだ。

 いや、前から少しは気づいていたのかもしれない。

 でも、今はそんなことどうでもよかった。


 静かな部屋の中で、二人はしばらく黙っていた。言葉が見つからない。


 でも、話さなきゃ。


「えっと」

何かを言わなきゃ。


「ゆっくりでいいぞ」


 父さんが優しく言った。

 その言葉に少し安心して、深呼吸をひとつ。


「俺は……妹と、秘密基地に行って……そこで、いつも楽しく遊んでた」

「そうか」

「いつも通り、洞窟に行って、いつものように、妹と遊ぼうとした…」


 でも、今回は違った。

 あの場所が、あまりにも異常なありさまで、驚いた。

 秘密基地が、どこか……おかしくなっていた。


「秘密基地で、何があった?」


 その問いが、今も心に深く残る。あの時の出来事が、目の前で鮮明に再現されて、冷たい空気が身体を包む。


「変な人がいた。その人が言うには、お、俺と、あの石がほしいって」

父さんは静かに聞いていた。


「ふむ……」

「それで、俺は、抵抗した…でも、簡単に、あっけなく、弾かれた」


 その瞬間、俺は自分の無力さを痛感した。


 対抗できる力なんて、俺にはなかった。

 でも、それでも…それでも、妹だけは、守らなきゃいけない。


 どうしても、守らなきゃいけなかった。なのに…


「……ロベルト、お前は悪くない。悪いのは――息子のお前ならば、大丈夫だろうと大事にしていなかった、父さん自身だ」


 父さんは、自分が悪いと、そう言っている。

 納得行かない、なぜ、父さんが悪いんだよ………。


「俺は、リシアを…守れなかった」


 声が震える。言葉が途切れる。胸の奥が痛い。


 言いたくない。でも、心の中でどうしても吐き出さないと……


 っ……うっ、息ができない。


「………」

父さんは何も言わない。ただ、じっと俺を見ている。


「妹が…俺の、犠牲になって…兄のくせに…俺はッ!!!」

 

 瞬間、感情が溢れ出す。涙が止まらない。


 泣きたかった。こんな気持ちをどうしても消せなかった。

 でも、泣いても、何も変わらないんだ。


 結局、俺が悪いんだ。


「俺のせいなんだ」

低い声で、つぶやく。


 俺が、リシアを連れて行ったから。


「俺が秘密基地に行こうって、誘ったから………」


 心が痛くて、胸が張り裂けそうだ。それなのに、父さんは黙って俺を見守っている。その時、突然、父さんが俺を強く抱きしめてくれた。


 大きな体で、俺の全てを包み込んでくれる。まるで、すべてを引き受けてくれるようなその温もり。

 心の中が、少しだけ、暖かくなる。


「わかった、わかった…十分分かった。もういい」


 その言葉を、父さんが繰り返す。


 いつもは豪快な父さん。強くて、頼もしくて、頼りになる、憧れの存在だ。でも、今は違った。

 今日はなんだか、母さんのように優しい。

 その優しさが、胸に染み込んでくる。


「……ありがとう」




「ロベルト……お前は、悪くない」

 

 その言葉が、まるで心の奥深くに響くようだった。

 驚きのあまり、声が出せずにただ父の顔を見つめる。

 

「父さん……俺、妹を守れなかったんだよ?」

「守れなかったとしても! お前は兄として、立派な事をした!」

「………」

「だから、大丈夫だ…今は自分を休ませろ、後の事は……父さんに任せてほしい」

 

 考えすぎ、か……。


 俺、無理してたのかもしれない。リシアを守ることだけに必死で、自分を後回しにして、あんな結果になってしまった。

 衝撃があまりにも大きかったから、もうしばらく立ち直れないと思っていた。


 今は休むべきだ。

 でも、妹のことは忘れられない。 

 

(うまくないな俺って)


 父親の中で、久しぶりに泣いた。

 いや、初めてかもしれない。

 子供の頃は、母さんに怒られたことがあったけれど、その時はただ身震いをして泣きはしなかった。


 でも今は、心の中に溜まったものが一気に溢れ出して、涙となって流れた。

 

 こんな風に、泣くことができるんだなと思う。

 この気持ち、忘れたくない。


 涙を流すのはこれでおしまいだ。



 俺は父さんにすべてを話した。


「………分かった」


 父さんは黙って、じっと聞いていた。俺が話し終えると、少しの間沈黙が続いた。


 にわかには信じがたいこと。


 ロベルトが言った事が本当かどうか、信じがたいことばかりだから。

でも、それが事実だとしたら、ものすごく危険なことだ。


 ただ、父さんは信じてくれているようだった。俺の言葉を、そして涙を。

 その時、父さんはにわかに薄く笑った。 


(まったく、長く生きると、こんな事が起きるのか。まぁ、まだ十二歳だけど)


「だが、父さんは信じるさ」

 

 でも、父さんは信じてくれる。

 父さんは、俺のことを受け止めてくれるから。


 

「父さんも、黙っていたことがある」

「――え?」

「お前が持ってきた石。調べてみたが……アレは魔法石とも、水晶石とも違う、別物だ。父さんも、古代の文献を調べてみたが、情報はなかった」


 父さんは、真剣な顔でそう言った。


 どうやら、父さんは先に調べてくれたようだ。

 石のことについては、俺も詳しく知らない。


「だが、あの石には、魔力が秘められている……多分、あの石は、不運を寄せたり、強くしたり、そんな効果があるのだろう」

「………」


 俺は黙ってその言葉を聞いた。


 そして、興味が湧いた。


 だって、そんな石があるなんて。

 普通なら考えもしないことだ。

 気になるじゃないか、そんな石を。


 でもその石が、リシアや俺に災いをおびき寄せた。元凶の塊。今すぐにでも、破壊してやりたかった。


 そんなこと、俺はできない。


 いや、やらなかった。



 俺は何も言えなかった。石を知れば知るほど、それが危険なものだと感じる一方で、どうしてもその力を理解したいという好奇心も湧いてきた。


 でも、今、俺がそのことに手を出している場合じゃない。

 妹が、リシアがどこかで苦しんでいる。

 このままでは、後悔するだけだ。


 あの男とリシアは、いったいどこに行ったんだろう。

 その疑問が、俺の中で渦巻いていく。


「父さん。俺、リシアを助けにいく」

「な、なんだと!?」

父の声が一気に上ずった。


「今から! 早く行かないと、妹に何があるかわからない!」

 

 俺は急かすように言う。

 もし、妹があの男の手にかかっていたら……。

 俺には、それを止める力がない、でも、なにか……行動を起こせば。


「ゴホン! それはだめだ」


 俺の決心を迷いもなく、切った。

 心を打ち砕かれるような言葉だった。

 

「な、なぜ!」


 当然、俺は講義した。

 

 早くいかなければ、妹を早くできるだけ早く救いたい!

 妹が俺を待っているかもしれない。

 

 それに、妹はまだ、7歳だ。

 

 まだか弱い子どもだ!

 そんな妹を一人、何年も待たせれるか!


「ロベルト、お前の行動は無謀だ!」

「で、でも、妹はまだ子供なんだ!」

「それはお前もだ!」

「!?」


 心の的を突かれた言葉だ。


「妹を心配する気持ちも分かる、ただ、だからといって、この事は子供が関わっていいことではない! それが、妹だとしても、だ」

「ッ......!」


 ギデカルドは力強く、威圧的な様子で物をいう。

 しかし、どこか、優しさが溢れている。


「でも、妹を待たせるわけには………大人になるまでなんて」


 そんなの、遅すぎるよ。



「………17になるまでだ」

「......17歳」

「そうだ! 17歳、子供と大人の分かれ目、その時まで。俺がお前を全力で鍛えてやる!」


 17歳。

 今から5年後だ。

 父さんの言葉を聞いて、俺の胸は複雑な思いでいっぱいになった。


 5年間の修行――それが現実になるのか。

 どうしても今すぐにでも妹を助けに行きたい気持ちが強かった。今、1秒でも早く妹を守りたかった。決めがたい事だ。


 俺の中で。

 今旅立つ、17歳から、旅立つという、2つの考えが、殴り合いをしていた。


 今、すぐにでも旅に出るべきなのか、それとも5年間、父さんに従って訓練を受けて強くなり、もっと確かな力をつけてから挑むべきなのか。

 

 

(仕方ない)


 いや、行きたい。

 でも、ダメだ。


 今は我慢するしかないのだろう。

 心の中で、必死に理由をつけて、冷静になろうとした。

 妹を助けるために必要なのは、確かな力だ。

 そして、俺にはその力をつける時間が与えられた。5年という時間。


(うん、冷静になってきた。思考が回り始めてきた)


 よくよく考えてみれば12歳の子供が、たびに出る、妹を探し出すという、情報もない、途方のない旅に。

 

 仮にだ。もしいけたとしても、あの男に全くといって、敵わなかった。

 復讐してやりたい……そんな言葉が広がる。でもだめだ……そうなったら、俺はアイツを殺すことになる。それだけは……だめだ。

 それに……今、行ってもまたやられる。


 もしくはこちらが殺される。


 なら、今から鍛えて、倒せるようになる。

 最強とは言わずも、強くはなれるように。


 それが、今俺のすべき事じゃないのか?


「そうだ、わかったよ。やるよ!」

「うむ、その意気だ。 さて、明日、いや明後日からお前を鍛える、お前のためにも、心の準備を忘れるな!」

「っ――はい!」



 5年後――その時、俺は17歳になっている。

 

 前世で成人を迎えることなく死んだ俺が、今度こそ成人を迎えるのだ。考えようによっては、17歳という年齢は大人への第一歩。

 だけど、5年後の俺は、見た目は青年でも、精神的には30歳くらいにはなっているだろう。そして、きっと強くなっている。

 

 見た目は青年、中身はおっさん。


 それでもいい。


 俺には5年の時間が与えられた。

 この5年で剣術、魔術や知恵を身につける。

 5年だ、成長する。

 

 人が変わってしまうかもしれない。

 

 今の自分が変わる……それは怖いことだ。

 

(いや、そんな覚悟で妹は救えない)




 決意した。

 

 必ず妹を助け出すと。

 

 ロベルトの人生は、ここで動き出す。


 

 まさに、人生の分岐点である。

 

 


 これにて、第一章は完です。

 ここまで読んでくださって、嬉しい限りです。


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 ぜひぜひ、ポイント、ブクマ、よろしくお願いします。

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