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空中要塞グレイシアス   作者: ホワイトボックス
第一章 幼年期
11/93

第十話「妹が石を拾ってきた」

 

 俺は時折、変な夢を見る。


 いや、夢を見ると言っていいのか、でも、それは寝ているときに流れてくる、とても不思議な夢だ。現実と夢の境界が曖昧になってる。

 夢の世界に入り込んでる。俺の想像力が豊かだからだろうか。

 

 そこで、自分は旅をしてる。

 人と出会った、戦う。魔物と出会って、殺す。

 そして小さい頃から神様がいて、手助けしてくれた。


 どこかしら「何か」が秘められていて、どうしても終わることがない。永遠に続くような感覚だ。


 

――今日の夢も、いつもと同じように始まった。



 足を踏み入れ。広がる草原と上空の暗闇。


 圧倒的な暗闇。その暗闇を切り裂くかのように、数え切れないほどの星々が、ぎらぎらと輝いている。いや、星々という言葉では足りない。


 それらの光点は、まるで生きているように輝き、そして沈黙の中で微細な音を響かせている。夜空が、世界が、自分の存在を見透かすように。

 

 まばゆいほどに煌めき、圧倒的な力を持ち、迫ってきた。


 星々の光は強烈だ。目を閉じることができず、まぶしさに思わず目をそらすこともできない。光が体を、精神を切り裂くように、落ちる。

 流星のような光だった。それが自分に直撃する。

 体に痺れが走り―――



「……!!!」


 目が覚めた。





 ロベルト・クリフ――12歳。



 

 その日、彼は妹のリシアと一緒に遊んでいた。


 リシアは7歳であり、無邪気に笑いながら兄を追いかけてくる。ロベルトにとってそれはいつもの事だった。毎日毎日仲良しいっぱい。

 ロベルトはその笑顔に、安堵を感じていた。

 妹を守りたい――それが彼から妹への思いだった。


 ロベルトが思う限りで一番、大切な存在だ。

 

 

「これ、どうしたんだ?」


「わかんない。さっき庭で見つけたんだ」


 ある日、リシアが不思議な石を拾ってきた。

 

 その石は見たことのない石だった。普通の欠片とは違って、四角くて、黒い模様が重なっており、人の手が加わったようなものだった。

 もしかしたら、と。俺は本を探った、家の中でも古い書物を調べてみた。


 だけど、リシアが拾ってきた石は……どの書物にも乗ってなかった。


 父さんに母さんにも見せてみたが、どちらとも見たことがなかったそうだ。


 父さんが調べるために、石を渡すよう言ってたけど。リシアがそれをがんに嫌がっていつも持ち歩いてる。装飾品のように。


 それだけならまだ、不思議な石で済ませられた。

 済ませられたんだ……。


 

 リシアが持ってきた石に、俺が振れた瞬間。その石が、眩しいほどに大きく光はじた。強烈な光だった。

 手で視界を防いでなかったら、失明していたかも知れないほどに。

 

 光がやんできて、なんだったんだと俺は思った……だけど、その時、石に違和感を感じた。そう――石に纏わりついていた、黒い模様が取れていたのだ。


 それから俺は、その石に触れることを避けた。直感的に、それが何かただならぬものであることを感じていたからだった。

 


 今日は妹と一緒に村の近くの山奥に来ている。

 山奥はモンスターが出るけど、この道はよく知ってるから大丈夫だ。

 周りを警戒して、静かに通る。そうすれば安全だ。


 で、リシアとふたりきりで、なぜこんな山奥まで来ているのか、それは山奥にある、秘密の場所――秘密基地

 を、目指しているからである。今はリシアもそれに入っている。


 秘密基地を作ってから、もう5、6年くらい立つだろうか。懐かしいな。この場所にたどり着いた時、魔物使いのあの人にあった時、見たこともない……その、不細工な生き物にあった時。

 

 あれが今ではもう何年か前のこととなるのだ……時間が立つのは早い。


 秘密基地と言ったが、基本的に物置に変わりない。

 強いて言えば、秘密にしたいことを置く場所である。

 隠し事、ロマンあふれる。

 

 秘密基地は、椅子や机などを置いて、一応生活できるようにもしてある。焚き火も置いてあるから、寒くても、火をつければあったかい。

 俺は魔法が得意だから、それにいろんな応用もできる。

 魔法を駆使し、秘密基地を、超秘密基地とする……。流石に、巨大な塔とか、城とか、はたまた大穴とか、天空要塞とか、宇宙ステーションとか。

 そんあスケールの置きさにはならない。流石にね。


 まぁでも、俺が生きていた世界には魔法なんてなかった。魔法がなくたって、全部機械で代用できたしね。


 しかし、今は存在する。数百、数千とも言える数の、魔法が。


 魔法が使えるのなら……飛行要塞とかも、作れるよね……? 作ってみたいな!! 無理か!

 


その他にも。

 

 使いがけの折れた剣があった。

 明らかにゴミだらけ、乱暴に捨てられたもの。

 変な臭いを発している、腐った作物など。いろいろある。


 もちろん……あの石もある、いつもそこにある。


(こんなもの、さすがに親には見せられないな……)


 流石に親にも見せれないので、元の場所で放置している。ま、そもそもの話、こんなものを家に運ぶのも大変だ。

 

 神秘的な場所で手に入れた不思議なんものはぜひ持って帰りたいが……ロベルトは思いだした。

 奇妙な出来事や、伝説的な物、そして不思議な力を持つもの――それらは、一度その場所から取り出されると、時間とともに必ず元の場所に戻ってくるという。


中略

 『最後には戻る』このフレーズは「回帰」というテーマを扱っており、物事が一度外に出ることで本来の秩序や意味が乱れることなく、最終的にはその源へと戻っていくことを意味している。

 それは運命、心理的成長、文化的伝承、あるいは自然界の法則にまで関連する普遍的な概念であるのだ。


―――著者.ダクディ


 

 こんなふうに、最後には元の場所に戻る。その源に、帰って来る。大人になったらたびに出るつもりだ、世界を回る旅に。

 でも、最終的にはここへ帰って来る、どんな事があってもな。


 と、なんて変な話をしてしまったな。

 いやぁ、ちょっと難しい話をすると、頭良くなったみたいに思えるよね。

 


 謎に難しい話を披露し愉悦に浸ったロベルト。彼は、リシアと秘密基地を抜け、家族待つ家へと帰っていった。


 今日は本を読んで寝るとしよう。




 ―夜―




 それは、世界が黙って息をひそめて、時間が布団に潜り込むような時間帯である。俺とリシアは本を読みながら、仲良く、喋っていた。


 本来ならもう寝る時間だが、こっそりと起きているのだ。

 

(何してんの、俺たち。って思うだろ? 知ってる。俺も思ってる)


 いわゆる“悪い子”。

 でも違う。必要悪である。

 つまり、義務感、というよりも、俺が深夜の兄妹会話をやりたいから。

 なぜなら隣にかわいい妹がいるから。

       


「リシアは大きくなったらなにしたい?」


 俺はリシアに聞く。兄として妹に。

 妹が何を夢としているのか、気になったんだ。


「うーん、何したいか……う〜ん」


 リシアは唸る。考えている。唸りながら、考えている。唸る時間が長い。でも唸るのは、大事なことだぞ。

 

「自分が思ったものを言ってみて、なんでも」

「わたし……えーっと、研究者?」

「……研究者? え、ほんとに?」

「うん。頭良くて、かっこいいじゃ〜ん!」


 研究者。


 驚いた、研究者が出てくるとは。

 完全に予想外、ノーマークだった。

 だって、子どもって普通、「プリンセス」とか「魔法使い」とか「ドラゴンライダー」とか、そっち寄りじゃないか?


 研究者、渋いな。ファンタジーに科学はいらないぞ。


 でも……思い返せば、リシアは常に未知に目を向けていた。気になるものは調べ、本で読み、俺に聞き、果てには父親の本棚を漁るという好奇心妹。


 ああ、なるほど。

 リシアは、なるべくして、研究者になりたいと言ったのだ。

 その根源にあるのは探究心。

 

 案外合ってるかもしれないな……。


(ま、どれでも俺は応援するさ)


「兄ちゃんは応援するよ」


 この言葉に、嘘はない。誇張もない。

 ちょっとだけカッコつけたけど、まぁそこは許してほしい。


「ありがとうお兄ちゃん、えっと、そのことなんだけど……」

「なんだ?」


「えっと……わたしに、勉強教えてくれる?」


 もじもじして、恥ずかしながら俺に告げた。


 愛おしい……そのくらいお安い御用だ。


「リシアのためなら全然、やってやるさ」

「!……じゃあ、お願いします!」


 リシアも良い夢を持っているじゃないか。


 研究者、良い響きだ。

 で、俺はどうだろうか。

 今のところは親から推薦されている、『魔法剣士』だな……なかなかにハイブリット職。いや職業なのか?

 器用貧乏になりそうで、不安な道だ。

 

 それもいいけど……やっぱり。


 俺は旅人になって世界を歩いて旅したい。放浪だ。

 

 気ままに旅する放浪が俺に似合ってる。まぁ、お金とかも必要だけど……そこは、冒険業でなんとか補う………うん、これは"ロマン"だ。


「じゃ、じゃあさっそく、魔法を教えて! まほう!」


 急にテンションが高くなる妹。

 俺が夢に浸ってる間に、リシアは現実に引き戻してくる。

 自分のことは後、いまはリシアだ。


(よし……魔法ね、はいはい、まかせて)


「良いよ。どの魔法?」

「光!」

「光ー……なるほど……光かぁ。……よしわかった」


 妹のためだ、やってやるさ。


 でもリシア………光は俺苦手なんよ。


 光はなんだが感覚が掴みにくくて……見えない魔法は得意だけど、見える光はちょっと……いやいや、言い訳するな俺。

 兄だろ? 下の子に頼られたら、やるしかないじゃんか!


 そして何より。


 妹に教えながら……俺も光魔法の勉強をすれば良い。

 一石二鳥ってやつだ。


(よし……やるぞ!)


 その後、苦戦しながらも、妹に勉強を教えた。

 知識は乏しく、完璧かも怪しかったが、リシアは目を輝かせていた。

 その瞳が照らすものなら、たとえ光魔法でなくても、十分輝くだろう。


 『カッコイイ!』

 


―――



 

 朝、今日は風が吹いている。

 天気は良いけど、やけに風が吹いている。めちゃくちゃに吹いてる。洗濯物はおろか、人まで吹き飛ばしそうな風。


 天気は良い。晴天、快晴、空は青、雲は白。

 どうしてここまで張り切ってるのだ、風よ。


(……吹き飛ばされたり、しないよな、俺)


 だけど、こんなに強い風は何時ぶりだろうか。記憶を遡っても思い出せないくらい、久しぶりだった。何かが始まる合図の風。

 

 虫のしらせ、っていうやつか? いや、風の知らせ?

 

 ともかく、何かが起きる、そんな気がする。


 そして、そんな予感の正体を確かめに、俺は“秘密基地”へ行くことにした。なぜなら、あの石。輝くあの不思議な石、いまだ気になっていたからだ。

 気になる、気になって夜しか眠れない。昼は少なからず、頭の隅でこの”気になる”思いがうずいている。

 

 精神はもう大人だが、肉体は子ども。

 だからこそ、子どもに引っ張られる、好奇心は一方的だ。


「ロベルト、今日は風が強いから。風が弱まるまで、家事手伝ってほしいわ。お願〜い!」


 と……出かけようと思ったが、先に母さんから要望が入った。

 外は風も強い。仕方ない、とりあえずここは風が弱くなるまで、母さんの手伝いでもするとしよう。


「わかったよ、母さん」


 俺はとりあえず、母さんの手伝いをして、時間を潰すと事にした。

 皿洗いと片付け、そして空を眺める……本当に風が強いな、出なくてよかった。


 こうして俺は母さんの手伝いをして時間を潰していった。そして気がつけば、風は弱まり、外はこれいじょうのない快晴の天気となった。

 


 ちょうど妹も暇している。だらしなく寝っ転がって本を枕にしてる。寝るのか寝ないのか、眠気を誘う不安定な呼吸が聞こえる。


(なんだか、このまま声をかけないと寝てしまいそうだな……)

 

 いや……あれは寝るだろうな。

 なにせ、頬を本にくっつけてる。あのまま爆睡して、また本によだれを垂らすのがオチだ。さて、どうしよう、声を掛けるぁ。それとも寝かしとくか。


 いや、でも石だ。リシアはあの石を大切に持っていた、がんに譲らなかった。よし、声をかけよう。うん。二人で行こう。

 

 

「リシア。こっちにこい」

「え、なーに?」

「あそこへ行こう、ほらあそこ。ぼくたちの……」

「!……ついてく」


 俺は妹を呼び出し、洞窟の秘密基地へさそう。


 結果は当然オッケーしてくれた。


 ちなみに親に聞こえないよう、小声でこそこそ話している。他から見れば怪しく見えるが、俺達ふたりとも子供だ。

 お父さんもお母さんも、怪しむことはないだろう。そのはずだ。


 は玄関へと向かい外に出る……まえに、親に行ってきますの挨拶を言う。


「母さん、外へ行ってきます」

「あらそう。風が吹いた後で、大丈夫?」

「全然平気だよ」


 風くらいじゃ、俺は吹き飛ばされませんよ。なにせ、150cm・12歳だから。


「リシアも、ちゃんとお兄ちゃんについていくのよ、いい?」

「うん。わかった」

「よし。気をつけて、夕方までには返ってくるのよー!」

「はーい! 行ってきまーす」


 母さんに挨拶をした後、ロベルトは家を出た。外の空気を吸い込むと、不意に全身の緊張が溶けたような気がする。


 出かける前に、俺はひとつの袋を準備した。石があまりにも異質で不安だったから、持ち運ぶ際に何か問題があってはいけないと思ったのだ。

 あの石を触った瞬間、光り輝いて模様が消えたのを忘れられない。まるで何かを感じ取ったかのように、突如として、石に変化が現れた。


 あの光は俺にだけ現れた。俺はあの時から一度も触ってないが、妹は触り続けている。しかし、あの光はまったく起こらない。

 リシアだけじゃない、父さんも母さんも同じだった。


 きっと俺だけなのだろう、偶然か、必然か。それはわからない。

 

 また触れたら、今度は何が起こるかわからない。そのために、この袋を持ち歩いているのだ、触れずにすむように。


 林へと向かって歩き出す。道すがら、目の前に広がる森の匂いと、どこからか鳥のさえずりが響いてきた。

 森に囲まれると、やっぱり落ち着く。自然豊かな恵みは、自分に祝福を与える……俺はこの自然から、祝福をもらったんだ!


 

 林の中を少し歩いた後、ようやく秘密基地へと続く入口が見えてきた。


 入口は普段、木の枝や葉っぱで隠してあり、外部の人間には全く分からないようになっている。

 もちろん、妹のリシアと自分しかその存在を知っていない。

 二人だけの特別な空間であり、誰にも邪魔されることなく遊べる場所だった。


 しかし、今日は何かが違う。


 

「……荒れてる?」


 

 

 そう、荒れていたのだ、言葉通りの意味だ。


 閉ざされていたはずの入口が、今日は不自然に乱れていた。

 木の枝や葉っぱが散らばり、どこか引き裂かれたように見える。

 

 俺はこんな事などした記憶がない。


 どこかのバカガキが偶然見つけて荒らしたのか、それとも獣でも暴れたのだろうが。


(でも……獣にしては、痕跡が不自然のようにみえるなぁ……)


「リシア。もしかしたら中に誰かいるかもしれない……気をつけて行こう、足元に注意」

「え、あ、うん……」


 突然の忠告に、リシアは驚いていた。


 足を進めるたびに、ロベルトの心の警鐘が鳴り、じわじわと胸の中に不安がひろがっていっていた。



 ロベルトとリシアは、お互いに気をつけながら、洞窟の入り口をくぐった。周りは何も見当たらない。

 とりあえず、足元だけ注意しておこう。


「大丈夫、リシア。気をつけて。」


 ロベルトは妹のリシアに小声で声をかける。リシアはうんうんと頷き、しっかりとロベルトの服を掴み、後ろをついてきた。


 洞窟の中に入ると、少しひんやりとした空気が漂っている。松明が消えているため、真っ暗だ……。

 まぁでも、俺は夜行性だ、こういうのには慣れてる。

 通路は狭く、足を踏み外さないように気を使いながら進むが、やがて二人は広い中央の空間に出た。


(ここは……中央か)


 中央、天井から光が指す場所へと通じる、秘密基地までの中間地点。


 どうやらここはそれほど荒れていなかった。入口周辺のように木や草が倒れていたり、何かが荒らした跡が見受けられることはない。


「よし……中は荒れていないな」

と、ロベルトはホッと息を吐いた。


 どうやら、動物が入ってきたわけではなかったようだ。モンスターでもない。良かった、巣にでもされたら困ったもんだからな、ははは。


 安心が蘇えった。


「じゃあ、人の仕業か…」

ロベルトは眉をひそめた。

 

 誰かがここに来ていたということだ。そうなると、何かしらの目的があってこの場所に足を運んだのだろう。いったい何の目的だ……?


 目的、目的を考えるとすれば………ん、ハッ!!!


 

 ふと頭をよぎったのは、あの不気味な石のことだった。


「そうだ……石はどうなった!」

ロベルトは思わず声をあげた。


「あっ、ほんとだ!」

思い出したかのように、妹も声をあげた。


 妹に耳打ちすると、二人は急いで石のあった場所へ向かう。

 

 洞窟の中を進む。

 無言で、しかし急いで。

 だってあの石がどうなっているか、確認しなければならないから。


 だから急げ、急げッッ! と、内なる自分が叫んでる。



 そして、たどり着いた瞬間――ロベルトは息を呑んだ。

 

 石は、輝いていた。

 いや、前よりも強く光っているように感じる。

 鮮やかなオレンジ色の光が洞窟内を照らす。その周りに不思議な模様が浮かび上がっている。意味の分からない記号が、意味ありげに空中へ浮かび上がっている。


 何だ? あれは?


「………?」

ロベルトは目を凝らし、その光の中に何か異常を感じ取った。


 そこに、何かがいる。

 何かが、いた。

 いや、“いる”じゃない。“やってる”だ。

 あの石に、何かをしている。


 その姿に、俺は──足を止めるしかなかった。


 黒い影。

 

 漠然とした“それ”に、俺は確かに感じ取った。

 得体の知れない、吐き気がするような、“本物の恐怖”。


 やばい。



(盗むきか!!!)


 アイツが、あの石を――自分たちの手に入れたかったのだろうか。


 だとすれば、これはただの偶然ではない。意図的だ、明確な意思。



「――誰だ……!」


 ロベルトは声を張り上げ、黒い何かに向かって一歩踏み出す。

 敵意を向ける。それは、少年の勇気ある行動であった。


 

(怖い……!果てしなく怖い!)


 内心で怖がる、怖いけど、それ以上にやばい。


 黒い何かはゆっくりと、こちらに顔を向けた。いや、顔かどうかも分からないが、こっちを“見る”という行為をした。

 ロベルトの心臓が一気に”早鐘”のように打ち始める。


 目を凝らす。正体を見極める。

 見えてきたのは――人の形。人……人?

 

(人だ……間違いない、それにあれは……)

 

 黒いローブ。黒いマント。重厚な鎧。まるで伝説の物語から抜け出したような、いや、悪役として最初に出てくる、強い”黒騎士”。


 そのマントには、脳裏に焼きつく謎のマーク。

 古めかしく、禍々しく、意味深く、意味不明。


 予想通りだ、やばい奴に関わってしまった。


 

「お前は、誰だ? ここで何をしている」

声が少し震えた。


 手に持っていた木刀、相手に向ける!

 リシアは俺の服を掴んだまま離さない……大丈夫、妹は守る。



 黒騎士がゆっくりと口を開いた。

 その声は低く、どこか不気味で、冷たく響いた。


「……本当に子供か、男と女の……。男の方、貴様を待っていた」


 ロベルトはその言葉に驚き、心臓が跳ね上がるのを感じた。


(俺を……待っていただと………?)


「えっ、俺……を?」

「そうだ。貴様を待っていたのだ……ここにある石は、貴様が触れると光るであろう?」


 !?


 あぁそうだ。

 その石は、光った。

 俺が触ったときだけだ。


 そのことを、知られている。知られているってことが、何より怖い。

 

「貴様はまだ子どもだ、まだわからんだろう。この現象、この輝き……特別なことだ……。連行させてもらう」


 黒騎士はそう呟くと、ロベルトとリシアの間をゆっくりと歩み寄ってきた。その足音は鎧のせいで重く、じりじり……音が地盤まで響く。

 

 黒いフードで顔は見えず、なにを考えているのか、どんな顔をしているのかも分からない。

 

「貴様は必要だ……。拒否は求めない、石とともに来てもらおう」


 奴は、俺のことがとても必要らしい……なぜ!?


「な、なぜ俺なんだ!」

「必要だからだ」

「お兄ちゃんは、渡さないっ!」


 と、その時リシアが俺の前に出て叫んだ。


「……むっ? 女のほうの子ども」

「リシア、前に出ちゃ」

「来ないで! お兄ちゃん渡さないから! 私のお兄ちゃんだから! あっち行って!!!」



 空気が割れたような感覚とともに、リシアが叫ぶ。


「リシア……!」

「お兄ちゃんは渡さない!」

「邪魔をするな、無力な子どもよ。貴様の兄は必要な――」

「知らない! あっち行って!!!」


 リシアは両手を広げ仁王立ち。

 リシアは相手の言葉を遮り、そう叫んだ。

 その声に。八歳からでる強い言葉に、相手ては一瞬たじろいだ。



 目の前にいる小さな少女――その瞳の奥に宿るのは、臆病でも無謀でもない。これは、勇気だ。

 闇の中から生まれ、名を持たず、影そのものと同一視された存在を。

 小さくて、か弱くて、本来ならばその場に立っていることすらできぬ存在。

 だが、その小さな存在が、兄を前に、立った。


(こんな子が……)


 黒騎士は、僅かに―――


「だが、邪魔をするなら、致し方ない。子どもであろうと」


 闇が動いた。

 空気を滑るようにして、黒騎士の掌から黒い波動が奔る。

 形なき影が濃縮され、指先から放たれる。


 あ。

 まずい。

 リシアに向かっていく。

 


 その瞬間、リシアが宙に浮いた。

 そして吹き飛んだ。


 ドンッッという音。風。埃。土くれ。


 静寂ゆえか。

 妹の身体が、岩肌に叩きつけられる音が、空間の底にまで響いた。


 一瞬何が起こったか、わからなかった。

 

 

 胸の奥に込み上がる、熱い怒り、憤怒。

 瞬時に体が動いた。


「なにをするんだァァァ!!!」


 恐怖はない、明確な憤怒。

 燃え盛る熱い敵意、殺意。

 ロベルトの瞳が変わった。


 積み重ねた人生と、兄としての誇りが、覚醒する。



 洞窟にある、折れた鉄の剣を持ち上げ、地面を蹴り上げ、男の方へ駆け出す。


 剣はとても重い……だけど、関係ない!


 妹をつき飛ばした! あの男だけは許さない! 絶対に!


 俺は鉄の剣で斬りかかった。

 

 俺の渾身の一閃を男に向かって、斬りつける!


 切った!

 そう思った。


 だが、違った。


 俺が振り上げた渾身の剣は、受け止められていたのだ、素手で。

 綺麗に、手で俺の剣を受け止めていた。

 

「うそ、だ、ぐぇッ!」


 俺が、いいかける前に頭を足で蹴られ、無様に洞窟に転げた。


 頭が痛い、視界がぼやける……多分、どこか出血してるだろう。

 体も痛くて動けない、剣も飛んでいってしまった。

 

「子供にしては勇敢なものだ。しかし、強引に攻めすぎたな……怒りに溺れ力任せで突撃とは」


 男は石を回収し、懐に入れたあと、手を俺に掲げる。


「テレポートの魔法をお前にかける、安心しろ、一瞬ですむ」


 そう言うと、男の手に向かって、青白い光がどんどんと溜まっていく、それより……テレポート魔法だと? そんなの聞いたことがない。


「残念だが、そこの妹とはお別れになるだろう……」


 お別れ……ぐっ。……?


 クソ、上手く声が出ない。

 抵抗はしているが、意識がそろそろ限界だ。


「安心するがいい。

 私も一緒にテレポートする」


 あ……だめだ。


 ここまでか……終わりだな、なにもできない。


 でも、空中要塞に行けるのなら、それでもいいかもしれない。いやだめだけど、でも……うっ。


 だけど、妹は、守れた。


 結果的に俺だけだ、妹は……吹き飛ばされたが、大した怪我はしていないはずだ。妹を最後の最後に守れた、結果オーライだ。兄としてばんばんざいだ。良かった。よかった……。


 魔法が放たれようとした時、1つの影が俺の前に現れた。

 それは妹だった。


「お兄ちゃん……お兄ちゃんは渡さない! 絶対っ!!!」


 寝転がり、失神しようとする俺の前に仁王立ちに立つように。

 俺を、守るように。


「なんだと!?」

「は……? リシア!?」


 その時、男から魔法が放たれ、リシアに魔法が直撃する。


「! まずいッ!!」


 そしてその瞬間、男が一瞬にして消え、それに続きリシアも……俺の前から姿を消した。ひとつも残らず。まるで最初から居なかったように。

 俺の前から、姿を消した。


 消える前のリシアの顔は泣いていた、しかしなにか、達成感があった。


 俺は一人啞然としていた。

 男もリシアもいない。

 そして意識がもうすぐ落ちる、気絶してしまう。


 そして、あることに気づいたのだった。気づきたくなかったことに。

 

(俺は妹に守られたのか?)


 守るはずだった妹に、俺は守られた。

 その結果、妹でもあるリシアは、俺の前から姿を消した。


 兄から頼まれたくせに妹を守れなかった。


 最後の最後に。

 


 


 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 ふぅ、一応これで一章は終了です。

 長くかった、目標の10話までに抑えられた気がします。

 あと1話、この話の続きを挟みますが。

 次は『旅立ち編』を書く予定です

 

 物語を再確認するため、少し投稿を休みます、そこの所はご了承くださいませ。

 

 ポイントとブクマ、感想をもらえると、作者のモチベが上がるので是非よろしくお願いします。



 第1章 ―終―

 

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