文化祭を守ったオッサン用務員
「それで~私たち今度の文化祭で『下校後おやつタイム』っていうバンド組んでライブすることになったんですよ~」
「なんか、聞いたことのあるバンド名だな……でもまぁ、楽しそうでいいじゃないか」
「そうですよ~! 当日は牟院さんも絶対に見に来てくださいね!」
そう言って走り去る女子生徒を、用務員である牟院は微笑ましく思いながら見守る。だが牟院はそこで。はたと立ち止まる。
校内に侵入者がいる。
それを本能で察知した牟院は、中年男性とは思えないほど俊敏な動きで校舎を駆けた。そうして「侵入者」である危なげな雰囲気の男性を見つけたのは、理科準備室だった。
「ここなら爆弾の材料も山ほどあるからな……コイツで爆弾作って、文化祭もろともめちゃくちゃにしてやるぜ」
「――ご丁寧に説明ありがとよ」
牟院は音もなく男の背後に回ると、その首筋にボールペンを当てる。
文房具ではお馴染みのボールペンも、急所を的確に突き刺せば相手の命を奪うのも可能なことだ。侵入者は慌てて、牟院に話しかける。
「な、なんだテメェっ! 俺を殺す気か!?」
「お前はこの学校の生徒を殺そうとしていただろうが」
「いや、だが……学生時代、楽しい青春が過ごせなかった俺は文化祭を楽しむガキどもが憎くて……その恨みを晴らすために俺は、プロの殺し屋に弟子入りしたんだぞ!」
「一応、本物の殺し屋と関係があるのか。なら、『ヨウ・ムイン』の名前を聞いたことがあるか?」
その名前を聞いて、さっと侵入者の顔から血の気が引く。
「まさかお前……数百人の警護の目を掻い潜って標的を暗殺し、その手腕が評価されFBIやCIAからもスカウトを受けたがある日いきなり姿を消したという、あの伝説のヨウ・ムインか……!?」
「……本当に、よく丁寧に説明してくれるな」
言いながら牟院はボールペンを握る手に、ぐっと力を込める。
「今の俺は用務員だ、この学校の生徒に危害を加えるのは許さん。それでもやるって言うんなら……」
「わ、わかった! もう止める! だから、だからとっとと開放してくれ!」
牟院の圧倒的なほどの実力と確実な殺意を感じ取った男は、あっさり降参しそのまま牟院の手で警察へと突き出されることとなった。
文化祭当日。拙い演奏に決して高くはない歌唱力、それでも一生懸命にステージで歌う生徒たちに牟院は目を細める。
(この子たちの笑顔が守れて良かったな)
そう考える牟院の活躍は、学校にいる誰も知らない事実であった。