開拓領域にて
ノマドの厚意で開拓領域まで運んでもらった私達は、再びニュクスさんとアマテラスさんに抱き抱えてもらって開拓領域に降りる。私は普通に飛べるから必要ないのだけど、ニュクスさんを安心させるために大人しく抱えられる。
「それじゃあ、ありがとう、ノマド」
『ああ。何かあれば知らせる。それと汝の土地を脅かすものに対しては、我も加勢しよう』
「良いの?」
『汝はこの星の者ではない。ならば、構わないだろう』
傍観者でいるという事で結構頑固なのかと思われるけど、こういう話をしていると、割と柔軟な考えの持ち主である事がわかる。リリィルーナの件に関してもそうだしね。
『リリィルーナ、達者でな』
「ありがとう、ノマド」
リリィルーナにも本名を教えたみたい。
ノマドは、空高く上がっていくと、どんどんと離れていった。また回遊に戻るのかな。システム的に制限されているわけじゃないと思うけど、見守りルートを自分で決めているから基本的に同じルートを通るのかな。
システム的な制限がかかっていたら、今みたいに私の開拓領域に連れてきてくれたりしないと思うし。
ニュクスさん達に抱えられたまま着地した私たちの元に、アスタロトとアク姉とアメスさんがやってきた。
「ハクちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと予想外の展開になったけど、皆に伝えておいた通り、リリィルーナを迎え入れる事が出来たよ」
そう言いながら、アマテラスさんが地上に降ろしているリリィルーナを見る。アク姉とアメスさんは、二人揃ってリリィルーナを見た。
二人ともリリィルーナが十の存在として存在する事と私がリリィルーナを開拓領域に連れてこようとしていた事を知っている。ちゃんとギルドのメッセージに、私の予定を載せておいたからだ。
そうじゃないとノマドの鱗とか、メイリーンとか、シキドウジのお墓とかわからない事が多くなるからだ。私がギルドマスターなので、基本的にギルド内の事は私やアカリに任されている。でも、ちゃんとやった事とかは、報告する事と叱られたので、こうするようになった。
英雄の皆や妖精達の皆など、住人が急に増えたってなって混乱したからというのが原因だ。
アク姉は、ニコニコと笑いながらリリィルーナに近づいて、しゃがみながら目線を合わせる。
「こんにちは。私はアクア。ハクちゃんの二番目の姉だよ。一番上の姉はフレイって言うんだけど、神様のフレイ様とは違うからフレちゃんとでも呼んであげて。私は、アクアちゃんとかで良いよ」
さりげなくフレ姉の紹介もしているけど、フレ姉から怒られそうな内容が含まれていた。まぁ、現実でシメられるだけだから放っておこう。
「私はアメスよ。アクアの親友ね。よろしく」
「私はリリィルーナ。よろしく」
リリィルーナは、簡単に自己紹介していた。皇女だった事もあってあれが素の姿なのかなと思っていたら、リリィルーナがちらちらと私を見て困ったような表情をしていることに気付いた。
ただの人見知りだったみたい。
なので、リリィルーナを安心させるために傍に近付いておく。
「リリィルーナは、ここで守る事になったから、その時はお願いね」
「任せてって言いたいところだけど、結構留守にしてる事が多いからなぁ。その時にここにいたら、全力で守るね」
「そうね。その時は絶対に守るわ」
大学を含めて現実でやる事が多くなっている皆は、ログイン時間が短くなっている。それでもログインした時にそういうことが起こったら、ちゃんと守ってくれると約束してくれた。
リリィルーナの目の前で約束させることで、リリィルーナに二人は頼っても大丈なのだと思わせることができるはず。
「そうだ。ハクちゃんに報告。なんか初期リス地点方面にある大きなお城跡から黒い靄が噴き出したって。これは知ってるよね?」
「うん。現場の上空にいたからね」
「やっぱり……最近はハクちゃんの他にも【反転熱線】を持っている人が増えているけど、熱線を集束させたり、反転物質による爆破やよく分からない黒い砲撃ってなったらハクちゃんしかいないと思った」
どうやら既に掲示板で話題の的になっているらしい。というか、あの周り普通にプレイヤーがいたのか。下手したら、反転爆発で軒並みキルするところだった。危ない危ない。
「まぁ、それは置いておいて。どうやら、靄の発生後は城跡に入れなくなっているらしいの。物理的に弾かれちゃうんだってさ」
「ええ!? 探索できないじゃん!」
「順序的には、城を探索するのが先でしょうしね。私達の探索順序が狂っているのよ」
「ふっふっふっ、私のせいですね!」
「威張らないの。まぁ、やろうと思えば向こうに戻る事もできただろうし、ハクちゃんなら飛んですぐだろうから、完全に自業自得って感じね」
「まぁ、探索できるようになったら行けば良いで考えましょう」
「そうだね」
「そうね」
ある程度予想はしていたけど、はっきりと侵入できない事が判明したのでちょっと落ち込む。多分皇帝やリリィルーナの資料が落ちていただろうから。
まぁ、真隣にその生き証人がいるから、ほとんどは必要ないだろうけど。あそこで見つけないといけなかったものは、皇帝と邪神の関わりくらいのもの。
十中八九関わってはいるけど、それがどのようなものだったかを知るための資料が隠されている可能性は十分にあった。
ただ過ぎた事を嘆いていても仕方ない。私たちにできることは、その謎を解明するべく十の存在に関する遺跡の調査と十の存在のユニーククエストをクリアすることだけだ。
まぁ、また手がかりはゼロになっているのだけど。
「ひとまず、リリィルーナの家を用意するところからかな。それまでは私の家を使って良いから。それとメイリーンにも挨拶しないとね」
「あ、うん」
「それじゃあ、アク姉、アメスさん、またね」
「うん。またね」
「外に出る時は気を付けるのよ」
二人も用事があるだろうから、ひとまずここで別れる事にした。リリィルーナを連れて海に行くと、リリィルーナはシキドウジのお墓に反応した。
「あのお墓……」
「シキドウジのものだよ。私が倒して弔ったの。もう魂も解放されてるから、その辺りは安心して」
「そう。それは良かった……」
リリィルーナは、本当に安堵したような表情をしていた。同時に、少しだけ申し訳なさのようなものも感じる。シキドウジをあの鎧に閉じ込めたのは、皇帝だ。その事に罪悪感があるのだと思う。
「お参りだけしておく?」
「良い?」
「勿論」
リリィルーナは、シキドウジのお墓の前に跪く。
「ごめんなさい。どうか、安らかにお眠り下さい」
シキドウジにリリィルーナが謝罪している間に、浜の方にメイリーンがやって来ていた。メイリーンが歌い始めると、リリィルーナは顔を上げて浜の方を見る。
メイリーンと目が合うと、メイリーンの方が手を振る。
「やっほ~、リリィルーナ、久しぶり」
「メイリーン……貴方にも謝らないといけませんね」
「ん? いやいや、全然気にしないで良いよ。あの時リリィルーナを助けたいと思ったのは、私の意思だからね。私としては、こうして昔の知り合いに会えた事が嬉しいしね。ほら、前みたいに普通に話して良いよ」
メイリーンは朗らかにそう言う。リリィルーナは、少し面食らっていたけど、すぐに笑みを浮かべた。
「変わらないね」
「千年やそこらで変わってたまるかってね。私もここに住んでるんだ。だから、これからは毎日会えるね。ライブもやってるから聴きに来てね」
「うん。またよろしくね」
「こちらこそ! ハク、ありがとうね」
「ん? うん。どういたしまして」
一瞬何にお礼を言われたのか分からなかったけど、多分リリィルーナを連れ戻す事が出来た事に対してだろうと思ってそう返した。二人とも昔からの知り合いに会えた事で、ここに住みやすくなるかな。




