穢れを知らぬ少女は幸福を求めて漂う
邪神が消えたところで、ゼウスさんとオーディンさんは帰っていった。ニュクスさんとアマテラスさんは、邪神警戒のために傍に残る事にしたらしい。
私が大ダメージを負った事も要因の一つだと思うけど。ノックバック率が低いはずの私をノックバックで永遠と防御させないというほとんどハメ技をされていたから、結構HPが削れている。まぁ、自動回復があるから、放っておいても五分くらいで全回復するし、最悪そういう薬を生み出せるから大丈夫なのだけど、アマテラスさんが光による回復を続けてくれていた。
ニュクスさんは私を抱っこした状態だ。その状態でリリィルーナの元に向かう。リリィルーナは、もう攻撃はしてこなかった。それどころか、私達に合わせて身体を縮めていった。
「リリィルーナ」
私が名前を呼ぶとリリィルーナは、少し驚いたような表情をしていた。
「どうして名前を……?」
「メイリーンやノマド……ミズチから聞いたの。あ、自己紹介してなかった。私はハク。こっちはお母さんのニュクスさんとアマテラスさん。あの時からリリィルーナの事が気になってたんだ。地上を調べて、色々と事情も把握してる。その上で言うよ。私と一緒に来ない?」
手を伸ばす私にリリィルーナは警戒したような表情になる。よく知りもしない相手からこんなことを言われているのだから、警戒は当たり前だ。だから、ここからはリリィルーナをどう口説くかの勝負になる。
「私は……怖い……あそこには悪意が渦巻いているの……」
「皇帝の意思?」
「うん……私は……お父様が怖い……ずっとそうだった。あの人が私達を見る目には……お母様のような愛情はなかったの。あの人にとって、私達は帝国繁栄のための道具に過ぎなかった……」
「でも、それが変わった。帝国を自分以外に与えるのが嫌になった。そうだよね?」
「うん……」
リリィルーナは伏し目がちに頷く。その中には、何か言いたい事があるというような感じを受けた。私の気のせいかもしれないけど、確認はしておきたい。
「何か間違ってるところがあるの?」
どう訊けば良いか分からないから、直接的な感じで訊いてみた。それを受けて、リリィルーナは真っ直ぐ私の方を見てくる。こういう凜とした姿は、皇女としての素質を感じさせられる。
「あの人が私達を皆殺しにしようとした理由は、ハクの言っている事で合っているけど、そう思うようになったきっかけがあるの」
「きっかけ……?」
つまり、帝国を他の者に渡したくないと思うようになったきっかけという話だ。正直、それ自体が理由になるから、きっかけと言われても老いによる耄碌としか考えられない。
「あの人は不老不死に至る道を見つけたの」
「不老不死? え? でも、地上は……」
「滅んだ。私は、その前にここに上がったから、理由までは分からない。でも、あの人は不老不死には至れなかった。それだけだと思う。でも、私にはあの星から悪意が漂っているのを感じる。全てを穢すような悪意を……」
これはリリィルーナだから感じる事だと思う。その理由は、皇帝の娘だからか。星に残った皇帝の悪意を敏感に感じ取ってしまっているというように考えれば納得出来る。
「皇帝が生きてるって感じはないの?」
「それはないと思う」
「そっか」
こればかりは、まだ調べられていないから何とも言えない。でも、リリィルーナからすれば、現状生きているとは思えないという感じらしい。
「それじゃあ、改めて言うね。私達のところに来ない? さっきみたいな邪神が来ても、撃退出来るだけの戦力は揃ってるし、リリィルーナを害そうするのが出て来るなら、しっかりと守れる。もう一人でいる必要もないよ」
「でも……私が地上に戻ったら……迷惑を掛けるかもしれない……」
「そんなのどんと来いだよ。トラブルを引き起こす割合なら、私の方が多くなるだろうし」
笑いながらそう言うと、リリィルーナは目を丸くしていた。ニュクスさんとアマテラスさんは、私の言っている事を否定出来ないからか何とも言えないような表情をしていた。
そして、リリィルーナは吹き出して笑い始めた。
「あははははは! 否定されないって事は、本当にトラブルを引き起こしちゃうのね」
「あの邪神だって、私が呼び寄せたようなものだろうしね……」
「邪神……そういえば、あの感覚に覚えがあるような気がする」
「邪神の感覚に? それって私が宇宙に投げ出された時の事?」
私は、この星に来る時に邪神との遭遇戦をしている。そして、そこから抜け出す時に邪神は少しだけ世界に顔を出していたと思う。その時に受けた感覚なのではと私は思っていた。
でも、リリィルーナは首を横に振る。
「ううん。もっと昔。私が地上にいた頃に……」
「そんな昔に?」
「うん」
リリィルーナが地上の城にいた頃となれば、かなり昔の話だ。それくらいは私にも分かる。その時に邪神の気配を感じていたとなると、あの邪神が顔を出してきたのは私のせいだけとは言えなくなる。
「あの邪神が皇帝の乱心に繋がってる?」
「その可能性はあるのう」
アマテラスさんが、私の呟きを肯定する。
「あの邪神の笑い声には、人の神経や精神を刺激するような要素が含まれていたのじゃ。人心を操るなど造作もない事だった可能性は十分にあり得るのじゃ」
邪神が発していた金属を擦るような笑い声。あれが人の精神を侵す力の可能性。確かに、それは十分にあり得る。そのくらいには不快で仕方ないものだったから。
皇帝は、自分が帝国を統べる存在であり続けたいといくように願っていた。それこそリリィルーナ達が羨ましい疎ましいと思うくらいに。
邪神がその心に付け込んで、本格的に狂わせた。あるいは、邪神が不老不死の力があると騙した。この辺りが考えられるかな。
「なんためにって言ったら、やっぱり……」
「退屈しのぎか……それが……喜びだから……」
「ですよね……」
相手が神様ということもあって、この可能性がかなり高い。神様の行動原理としては、何にも不思議ではない。寧ろ、それ以外には考えられない程だ。ニュクスさん達も自覚しているみたいだ。
「そらなら尚のこと、私達のところに来て欲しい。ここにいたら、また邪神がリリィルーナにちょっかいを掛けにくるから」
「今までなかったのに?」
リリィルーナが宇宙を漂い始めて何千年も何もしてこなかったのに、今更そんなことをするのかとリリィルーナは疑問に思ったらしい。その感覚は正しい。でも、相手が私が思っているような邪神であるのなら、私との接点ができていて、自分にもちょっかいをかけてきたリリィルーナに対して何もしないとは言い切れなかった。
「私と接点が出来たし、さっきの戦いでリリィルーナは邪神にちょっかいを掛けちゃったから、邪神の敵……あるいは、おもちゃ判定を受けた可能性がある。相手は、邪な存在でも神である事には変わりない。あの力があるリリィルーナでも、相手にするのは厳しいと思う」
私の正直な言葉を受けたリリィルーナは、少し黙り込んで考える。そして、星と私を交互に見てから頷いた。
「信じて良いんだよね……?」
「勿論」
そう言って差し伸べる手を、リリィルーナは少し躊躇いも見せつつも取ってくれた。私はリリィルーナのこの信頼に応えないといけない。そのための防衛布陣はある程度完成している。というか、アーサーさんをはじめとした英雄の皆と悪魔達と天使達がいる時点で、私の開拓領域がこの世で一番の安全地帯と言える。ダメ押しに神様達もいるわけだしね。
『ユニーククエスト『穢れを知らぬ少女は幸福を求めて漂う』をクリア。報酬として百億Gと漂白無垢の魂片を獲得』
『漂白無垢の魂片を吸収し、スキル【漂白無垢との繋がり】を獲得』
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【漂白無垢との繋がり】:漂白無垢のリリィルーナと魂で繋がる。漂白無垢のリリィルーナの居場所を認識しやすくなり、プレイヤーに対してモンスターの表示が出なくなる。控えでも効果を発揮する。
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しっかりとリリィルーナのクエストをクリアした表示が出た。これがリリィルーナが信じてくれた証になる。




