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吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ  作者: 月輪林檎
新たなる地へと向かう吸血少女

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救国の英雄は救われない3

 空中を駆けるシキドウジと縦横無尽に飛び回る私とでは、動きに差が出る。それに私は空を飛ぶことも多いから、空中戦なら一日の長があるはず。

 飛び回りながら三百六十度あらゆる角度から攻撃を仕掛けていく。自分自身に掛かる力を支配して動きに淀みを持たせずに、加速し続ける。シキドウジはその全てを見切って防いで来た。

 それだけでは終わらずに、こっちの動きを先読みして攻撃を置くという事もしてくる。一日の長何てものはないと考えた方が良いかもしれない。それならそれでこちらにも考えがある。

 私はあらゆる属性の短剣を空中に作っていく。前によくやっていた物量攻撃だ。物量攻撃の利点は、私が全てを操るために、私が中に交ざる事が出来るという点だ。全方位から殺到する短剣達に紛れ込んで攻撃しようとしたら、シキドウジから勢いよく炎が吹き出て、私の短剣達を消し飛ばした。


「小細工は……通用せん……」

「みたいだね」


 本当に物理で戦うしかないみたいだ。空中にいるとフレ姉達の援護が見込めない。同じように空中を駆ける事は出来るけど、MPの消費があるし、長時間戦闘に向いていない。シキドウジが相手となると短期決戦といけるかも分からない。

 かと言って、一気に地上に戻るという手段は現実的じゃない。背後からシキドウジに着られるのがオチだからだ。そのタイミングでバルドルさんの祝福を使うのも何か違う気がする。

 なら、私がやるべきはシキドウジを押し込むという事だ。力勝負を挑むには双剣は心許ないけど、攻撃回数で補う。

 一気に加速して白百合をシキドウジに叩き付ける。シキドウジは剣で受け止めてきた。それで少しでも押し込めれば良かったのだけど、シキドウジは微動だにせずに受け止めていた。なので、そこで連撃を叩き込んでいく。双剣と尻尾の連撃をシキドウジは全て弾いてくる。弾かれる度に力を利用して攻撃を加速させていく。

 時々シキドウジの攻撃が挟まるけど、私も自分の勘と第六感で正確に弾くので互いにダメージを負わない。

 互いに残像が残るような速度の打ち合いが続いていく。正直、無呼吸でも生きていける身体で助かった。呼吸のタイミングが存在したら、確実にこっちが負けている。

 そのままどのくらい経ったのか。私とシキドウジは近づくものを全て斬り刻むような嵐となっていた。その中で変化が生まれる。打ち合っていた私の白百合と黒百合が砕けたのだ。【不壊】を持っている二本に耐久などないはず。邪神という異質の存在と打ち合う事で削れていた神殺しとは違って、相手はシキドウジに普通の剣のはず。

 いや、何千年も朽ちずにいる剣を普通と称するのはおかしいか。

 何にせよ、私のメイン攻撃手段が砕けて海に落ちていった。つまり、私の攻撃の手が緩んだという事になる。この隙をシキドウジが見逃す訳がない。私は即座にバルドルさんの祝福を使用する。

 直後に斬られた私はダメージを受ける事は無かったけど、抗えないノックバックが生じて、海に叩き付けられる。水切りのように水面を何度かバウンドしてようやく身体を止める事が出来た。

 シキドウジは即座に追いかけてくる。でも、こっちには武器がない。フレ姉が武器を渡してくれるとしても、この距離じゃ無理がある。

 突っ込んで来るシキドウジに背後から光が追ってきた。それはアーサーさんが投げたロンゴミニアドだ。シキドウジはロンゴミニアドに真っ正面から剣を当てて弾き飛ばす。HPが僅かに減っているけど、それだけシキドウジの鬼としての力の強さが窺える。

 ロンゴミニアドを凌いだシキドウジは再び私に向かって来る。

 その時、その場に歌が響き渡ってきた。その歌声は、メイリーンのものだ。歌声が聞こえた途端、シキドウジは動きを止めて歌声が聞こえる方向を向く。

 何故シキドウジが動きを止めたのかは分からない。メイリーンの歌にそれだけの思い入れがあったのか。ただ何にしてもこれで僅かに時間が稼げた。武器がない現状を打開するには、私が武器を生み出すしかない。そう思っていた私は突然自分と繋がっている何かが世界に現れたのを感じた。

 それが何なのか感覚で理解して手を伸ばした。


「来い!」


 目の前の空間が揺らいで唐突に刀が現れて飛んできた。それを受け止めると、身体から力が湧き出てくるのを感じた。私が刀を握った事でシキドウジの視線がこっちに向き、移動が再開する。シキドウジが突っ込んで来るのと同時に私は刀を抜く。

 真っ黒な刀身に一瞬赤いひび割れのようなものが広がった。同時に私のHPが半分持っていかれたけど、今は気にしない。

 シキドウジの剣と私の刀がぶつかり合う。周囲に衝撃波が放たれ、海面が凹んだ。

 力が拮抗したかと思ったけど、直後にさっきとは逆の変化が訪れる。シキドウジの剣が折れ、私の刀がシキドウジを斬り裂く。シキドウジのHPは一気に削れてなくなった。


「……見事」


 シキドウジはそう言って水面に倒れ込んだ。すぐにポリゴンに変わらない点は他のモンスターと違う。


「シキちゃん!」


 メイリーンがシキドウジの傍に出て来て身体を近くの岩場に引っ張って行った。刀を鞘に納めた私も付いていく。


「メイリーン……か……」

「うん。意識、戻ったんだね」

「ああ……だが……長くはない……俺の魂は……あの鎧に閉じ込められた……またあの鎧が俺を覆うだろう……」

「えっ……」


 今の話が本当なら、ここでHPを全損させてもシキドウジを倒した事にはならないという事だ。これではここまで戦った意味がない。


「ハク! どうにか出来ない!?」

「どうにかって言われても……あっ……」


 私が思い付いたのは、【土葬の吸血鬼】の力だ。あれは地面にアンデットを埋める事で完全に浄化出来るというもの。今のシキドウジが何か分からないけど、もしかしたらいけるかもしれない。


「シキドウジはアンデット?」

「ああ……分類的には……そうなるだろう……」

「なら、どうにか出来るかもしれない。でも、それはシキドウジの死を意味するの……それでも良い?」

「頼む……」

「お願い!」


 シキドウジだけでなく、メイリーンからも頼まれた。またあの状態になったシキドウジを見たくないのだと思う。


「【召喚・レイン】。レイン、メイリーンを海水と一緒に連れてきてくれる?」

『うん』


 シキドウジを埋葬するのなら、海岸近くには出来ても砂浜には出来ない。だから、メイリーンが最期まで見送れるようにレインに海水と一緒に持って来てもらう事にした。


「ありがとう」

「ううん。それじゃあ、急ごう」


 いつ復活するかも分からないので、シキドウジの身体に力を付与する事で持ち上げて陸地にある私達の開拓領域まで連れて行く。

 この状態であれば、シキドウジを開拓領域に入れる事が出来るらしい。折った剣も一応持って来た。

 そこにフレ姉とアーサーさんも戻って来た。


「ハク。どういう状況だ?」

「シキドウジを埋葬する。それがシキドウジを解放する唯一の方法みたいだから」


 正確に言えば、アンデットを浄化する方法を使えば解放出来ると思うけど、完全な浄化という点で言えば、これが一番のはずだ。


「そうか」


 さすがフレ姉。要領を得ない私の言葉から全部察してくれる。これが唯一クエストをクリアする方法だという事を。

 海岸近くの見晴らしの良い場所に穴を空ける。こういうとき支配系スキルを持っていて良かったと思う。一瞬で大きな穴が作れたから。そこに【血中生産】で作った棺を入れる。


「直に生き埋めでも良いが……」

「いや、私が嫌だから」


 さすがにこの状態で直に生き埋めにしようとかは思わない。棺の中にシキドウジを横たえさせる。


「メイリーン。最後に言いたい事があったら」

「…………シキちゃんはずっと馬鹿だったね。皆を守るため守るためで自分が危険になってもお構いなしなんだから」

「言ってくれるな……」

「こんな目に遭っているんだから、ちゃんと反省しなよ。向こうであの子も待っているだろうから、今度は悲しませないようにね」

「…………色々とすまない」

「ううん。シキちゃんは近くでライブがあると、いつも来てくれたからね。これはそのお礼。ちゃんと送られると良いね」

「ああ……」


 会話を終えたメイリーンは少し離れた。


「それじゃあ燃やすよ」

「ああ……」


 私は【火葬】で出した炎で棺の中を埋める。炎で炙られていてもシキドウジは一切動じずに痛みを感じている様子もなかった。そのシキドウジの棺に蓋をする。燃やしたのは念のため。ただの土葬だけで送る事が出来るのかよく分かっていないし、本当に念のためだ。

 棺の上から土を被せる。そして、適当な大きさの石材を使って墓石を作る。その墓石に窪みを作って、剣を填め込む。これを使えば強力な剣が作れるだろうけど、これはシキドウジのものだ。一緒に置いておきたい。

 後は祈りだ。最悪奇跡に任せておけばどうにかなるだろうという単純な考えだ。

 すると、地面の下から火の気配がなくなり、何か空へと上がっていったのが分かった。同時に私とフレ姉の前にウィンドウが現れる。


『ユニーククエスト『救国の英雄は救われない』をクリアしました。報酬として一億Gと英雄幽鬼の魂片を獲得』


 きちんとシキドウジを送る事が出来たみたい。


「終わった?」

「うん。これでシキドウジの魂は解放されたはずだよ」

「そっか。本当に最期まで自分は救われない生き方だったね。ありがとう、ハク。シキちゃんを解放してくれて」

「ううん。私が必要だと思ってやった事だから」

「後はあの鎧をどうにかしないとね」

「え? 鎧も埋めるべきだった?」


 鎧に関しては、本体を埋葬すれば終わりと思っていたからメイリーンの言葉に少し不安になる。


「ううん。あれはもうアンデットでもないから無駄だと思う。皇帝の妄執とシキちゃんの本能が鎧に根付いて別物になっていると思う。シキちゃんの抜け殻みたいなものかな。シキちゃんほどの強さはないと思うけど、無限に復活するんじゃないかな」

「今のところ、どうにかする方法はないって事?」

「多分。少なくとも私は思い付かないかな」

「そっか……」


 ユニーククエストは、多分全プレイヤーで一回しかクリア出来ない。だから、そのお零れみたいな感じなのが用意されているのかな。

 そこら辺は後々分かる事だと思うから今は良いか。とにかく今はシキドウジを倒せた事を喜ぼう。

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