遺跡に残る資料
血液兵による探索をしながら、私達は真っ直ぐ最奥を目指して走っていた。途中の部屋とかには入って調べるという方針だ。因みに二層目は生活空間が広がっている場所だった。基本的には、二層で暮らしていたという事がよく分かる。その中に農場的な広い場所もあった。
「本当にここだけで暮らしていたみたいだ」
「ですね。全部枯れているのは、光を得られなかったですかね。私達が動力を戻さなかったら光は出ていないはずですし」
「これが太陽光とほぼ同じ効果を持つという事か。仮にここだけで暮らしていたとして、何故地上に出ない?」
「地上に出る必要がない。地上が危険過ぎる。何かから隠れていた。そこら辺ですかね?」
「つまり、ここが出来た時には既に地上が危ない状態だった可能性があるという事か」
「この先に答えがあると良いんですけどね」
「そうだな」
そうして三層目に降りた時、遺跡の様子が様変わりした。複雑さは無く、ただただガラス張りの大きな部屋が連なる形だ。その中は研究室という印象を受ける。全部を調べると時間が掛かるので、血液兵達に中のものを回収させていく。私達自身は最奥に向かって突き進む。
「研究施設というやつか」
「何の研究をしていたかは戻ってからになりますかね。血液兵達が拾った情報から何かが分かると思います。パソコンがあるような部屋があれば、情報を見られるんですが……」
『お姉様。あちらにあるようです』
「おっ、そこに行こう」
エアリーの案内で突き進んだところにパソコン室があった。まぁ、学校のパソコン室というよりもスパコンがある部屋って感じが強いけど。中に入って電源が点くかどうかを確認すると、普通に点いた。よく生きていたなと驚く。
文字は読めるので、普通に使える。パスワードも指定していないらしい。情報リテラシーを持っていない文明か。そもそも全員共通だから要らないだけなのか。多分後者かな。
出来る事を調べてみると、カードキーの更新が出来るらしいので、最大レベルの権限を私が持っているカードキーに持たせる。その処理を行っている間に、ここの研究資料を調べていく。
「何か分かったか?」
「資料見る限り……やっぱり十の存在に関する研究をしていたようです。対象は……大海歌姫のメイリーン?」
「シキドウジという戦士じゃないのか?」
「みたいです。海にいる十の存在らしいですね……んん?」
「どうかしたのか?」
アーサーさんは、自分の知らない文字を読めないので、私の反応を見て少し警戒していた。危険な相手だと考えたらしい。
「この十の存在なんですが、どう考えても危険そうに思えなくて」
「ん?」
予想外の返事にアーサーさんも戸惑っていた。
「大海歌姫のメイリーンは、メロディと同じでマーメイドらしいんですけど、海岸線でゲリラライブをしているらしいんです」
「ライブというと、ハクのところでもやっている音楽のあれか?」
「はい。これによって、人々を魅了し殺し回っているとかなら危険だと思うんですが、記録を見る限り、行っているのは普通のライブなんです。種族的な魅了の力は一切使わない純粋なライブですね。あっ、記録映像がある。流しますね」
映し出される画面を見るためにアーサーさんとエアリーが左右から顔を寄せてくる。そこに映し出されたのは、綺麗なマーメイドが本当に綺麗な歌声で歌っているところだった。何かアニソンみたいな歌もあったりするけど、そのどれもレベルが高い。メロディ達もかなり上手いけど、その上をいく上手さだ。
「これが十の存在なのか?」
「らしいですよ。普通に友好的に見えますが……あっ、危険視されている理由もありました。この歌唱力に種族としての力を使われてしまったら、人間達は抗えない。下手すれば、メイリーンが人間の軍隊を持つ事も可能だかららしいですね。ファンはいっぱいいたみたいですし」
「そんな事をするのなら、最初からしていると思うが」
「人間が恨みを買った場合の警戒みたいです。それでも必要ないような気がしますが。こうなると、あまり海を侵さない方が良かったかな……」
そう思って海を調べている血液兵達の視界を見てみると、目の前に映像でも見たマーメイドのメイリーンがいた。
「ぶふっ!?」
「どうした!?」
驚きすぎて変な反応になったら、隣にいたアーサーさんが驚きと心配の半分半分という感じになっていた。
「い、いえ、血液兵達の様子を確認したら、目の前にメイリーンがいて……」
「何? 大事ないのか?」
「はい。血液兵はダメージを受けてない……どころか、こっちを見て手を振ってます。私が見ているのを分かってる?」
メイリーンは決めポーズなどを取ってアピールする。私の指示で頭を動かすので血液兵が自分の事を見始めたという事が分かっているのかもしれない。
メイリーン氷で文字を作っていく。
『今日の夜ライブ予定 海岸に来てね♡』
最後に投げキッスをしながらメイリーンは去っていった。
「何かライブ告知をして帰って行きました」
「……本当に危険な存在なのか分からないな」
「ですね。取り敢えず、敵対はしていなさそうですから夜に見に行きますか。文字が使えるなら、言葉も通じそうですし」
「私達も同行しよう。何かあった時に対処出来る」
「お願いします。それじゃあ、最奥に向かいましょう。エアリー」
『はい。こちらです』
少しだけ想定外な事が起きたけど、私達は当初の目的通り最奥を目指して進んで行く事になった。四層に下り、物を集めるのは全部血液兵に任せた結果、私達の近くから機械兵が現れてアーサーさんがエアリーよりも早く倒していた。
そうして四層の奥にある最奥の部屋に入る。そこには偉い人がいそうな部屋があった。執務用の机みたいなものや本棚があり、そこに僅かに本とかが残っていたので、全部回収してから開拓領域へと帰る。
情報の整理は開拓領域の自分の屋敷で行う。アーサーさんは、開拓領域の防衛に戻った。フェネクスが甘えに来るので、取り敢えず膝に乗せて抱っこすると眠った。私の事をベッドか何かだと思っているのかな。
この状態でも資料は読めるので、このまま読んでいく。
内容的には、十の存在を調査するというもの。あの研究室は、メイリーンが残した鱗やファンになった人達から採取した毛髪や唾液、細胞などからメイリーンが力を使ったかの調査をしていたらしい。その結果は、全空振り。メイリーンは一切の力を使っていなかった。ここら辺はパソコンのデータにあったのと同じだった。
「あの死体に関しては何も無しか。日記でもあれば良かったけど……」
血液兵達が集めたものの中にも白骨死体に関するものは一つも無かった。あるのは、貴金属のアクセサリーとか研究資料ばかりだ。お金にはなるし、メイリーンに関する情報が集まるけど、肝心のメイリーンの攻略方法は分からない。
「もっと十の存在へのメタ的なものがあると思ったけど……いや、これがメタなのかな」
十の存在は、全部倒すのが普通なのだと考えていた。だから、いずれはメイリーンとも戦うかもしれない。現状何もなさそうだから、様子を見ようと思っていたけど、実はこれが攻略方法だったのかもしれない。
メイリーンは、プレイヤーと必ずしも敵対しない。良好な関係を築く事により、メイリーンとの共生やテイムが可能かもしれない。
「夜のライブは大事そうかな。メイリーンのライブ記録を読んでおこう」
メイリーンに関する記録のうち、ライブの記録のものを読んで備える事にした。




