周辺探索
アカリに一通り説明をしていき、今後の方針を共有する。
「ひとまずは住居を確保しつつ、港の建設ね。基本的にはモートソグニルさんが担当するから、私がやるべきは資材集めかな。ギルドエリアの資材は使わないって事で良いんだよね?」
「うん。なるべくなら、こっちのもので楽しみたいでしょ? ギルドエリアの資材使ったら滅茶苦茶余裕だし……」
「まぁ、倉庫に溜まってるからね。資材はここら辺にあるのね。さてと、それじゃあ早速資材を集めるかな」
「あっ、じゃあ、護衛を連れて行ってね。アーサーさん」
「ああ。アカリが行くのか。なら、私が付いて行こう」
「お願いします。じゃあ、ハクちゃんまたね」
「うん」
アーサーさんが護衛について、アカリは石材などの資材を集めに向かう。木材は現状ラウネがしっかりと作ってくれているので、あまり問題はない。開拓領域内にある木々は、基本的に木材にする事にしているので、家をいくつか建築するのは余裕だろう。
「それじゃあ、私はマッピングで周囲にあるものをしっかりと調べるかな。お母さん。ちょっといっぱい飛んできますね」
「そう……なら……神殺しを……預かるわ……修理……必要でしょう……?」
「あ、はい。じゃあ、お願いします」
ニュクスさんに神殺しを預けて、ヘファイストスさんに修理して貰う事にする。まだ属性刀や白百合、黒百合があるからなくても大丈夫だしね。
「それじゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい……」
「気を付けるのよ」
「は~い!」
ニュクスさんとガイアさんに手を振って、【熾天使翼】を広げた私は開拓領域から出る。さすがに音速を超えるような速度では飛ばない。衝撃波が散って何が起こるか分からないから。海の上とかだったらありだけど。
「この3Dマップっていうのが厄介なんだよね……宇宙までマッピング出来るって事からか、本当に自分が通った周辺だけしかマッピング出来ないから、空ばかりマッピングしていると地上のマップが出来ないし。でも、今は空から全体の把握をしたいし、ひとまずは、空から……いや、見回すだけならラートリーさんの祝福で良いか。なら、森の外周を飛びながら、ラートリーさんの祝福で広範囲を見る。良し!」
方針を決めて、森がどこまで広がっているかを確認する。その間、ラートリーさんの祝福で空から見下ろし、何か変わったものがないかを探すという形だ。マッピングをしながら探しものを出来るという点で、ニュクスさんのアクセサリーとラートリーさんの祝福の組み合わせは凄い。
まぁ、身体の操作が大変なのだけど。一昔前のシューティングゲームと思えば……あればレバー操作だし、自分で身体を動かすこれとは違うか。でも、ある意味身体の操作の練習になるので、このまま進んで行く。
海と森の境界線を飛び続けて十五分くらいすると森が途切れる。二十キロメートル以上はあるかな。結構大きな森だ。隣にあるのはこれまた広い草原だった。ただ違和感があるのは、草原に沢山の窪みが出来ているという事。自然に出来た窪みに見えない。どちらかというと戦場の跡のような印象を受ける。
「草原も結構広がってるなぁ。でも、アカリが言っていたみたいな城の跡とかは見えない。方角とかから考えて、私達がいるのは東端。それで、私が開拓領域から向かった方角は南。つまりここは南東……南東にあるのが戦場? マップのメモ機能を使って、戦場跡有りと。これが何かしらのストーリーに関係してくるのかな。戦場って事は、戦争をしていた可能性もあるよね。そうなると、他のプレイヤーがいる城の跡とかは、そのうちの一つの国って感じかな。同じ大陸にあるのか、海を渡ってきた侵略軍か。剣とかが落ちていたら時代とかも分かりそうなものだけど……あっ、金属片? 錆錆……う~ん……分からん! こんなもので時代が分かるわけないわ。アカリに分析して貰おう。適材適所! そのためには」
錆びていても金属である事には変わりないので、私の支配範囲に存在する。草原に散らばる錆び付いた金属を集めて回収する。ソイルを呼べばもっと早く出来るけど、今は開拓を頼んでいるので、自分の手で行う。
「何か剣っぽくない形をしてるものもあるなぁ……相手は機械兵? 取り敢えず平原を調べるなら人海戦術かな」
【軍隊創造】と【血中生産】で血液兵を量産していき、草原の探索を命じて、一部は森の中の探索を命じる。
「基本的にモンスターは倒して良いよ。手に入れたものは血液に収納すること。はい! 行動開始!」
血液兵達が十人単位の分隊となって探索を開始する。問題は、血液収納に入ると私が確認しづらいこと。入って来たものが頭の中に入るのなら良いのだけど、そういうものもない。ただただ血の中にものが増える感じだ。だから、後で血液の中を確認しないといけない。
「さてと、マッピングは……出来てるね。私の血だから、私が歩いた判定になるのは嬉しい。ただマッピングは出来ても遺跡とかのメモが出来ないから、結局自分で確認しないといけないんだよなぁ。この辺りは面倒くさい……」
ラートリーさんの祝福で周囲を見回しながら、森の外周を調べに向かう。平原周辺は血液兵に任せる
私は森の外周を調べに戻る。その途中嫌な予感がした私は、ラートリーさんの祝福を切って、白百合と黒百合を出し、その方向に振う。すると、一振りの剣とぶつかり合う。その正体は、黒い鎧武者だった。和の雰囲気を持っている鎧武者は、赤く光った目を私に向けてくる。でも、その奥に眼球は見えない。既に死者のような感じだ。
鎧は和の雰囲気なのに剣は西洋の剣だ。刀ではなかった。攻撃を弾いて、【雷化】で距離を取る。その動きに鎧武者が完璧に付いてきた。振われる剣を弾きながら、距離を取ろうとしているのだけど、一度も距離が取れない。
何十回か剣を受けていると、ようやく動きが止まった。そこでウィンドウが出て来る。
『十の存在・彷徨幽鬼のシキドウジと遭遇しました。ユニーククエスト『救国の英雄は救われない』を開始します』
どうやら目の前にいる鎧武者は彷徨幽鬼のシキドウジという名前の十の存在に数えられるモンスターらしい。
「十の存在……」
ウィンドウが消えた途端、シキドウジが動き出す。私の【雷化】とほぼ同じ速度だ。嫌な予感と第六感を頼りに攻撃を弾く。あの邪神との戦闘が、ここで功を奏した。久しぶりに感覚に身を任せて動かす戦い方をやったばかりなので、身体がスムーズに動く。
血液で白百合と黒百合を強化して、【灰燼】を使用する。広範囲の火属性攻撃をシキドウジは斬った。炎を切り払い消すという離れ技だ。そのまま私に接近して攻撃してくる。
実のところ、この一切離れない戦い方というのが一番厄介だった。虚無や雷霆などを放っても、その攻撃を事前に察知されて避けられる。そして、即座に接近される。
速さで言えば同格。これが何よりの異常だった。私の【雷化】とほぼ同じ速さを【雷化】無しで使用してくれるというのが異常だ。加速出来れば、【雷化】よりも速く動けるけど、その加速をさせてくれないから、これも無理だ。
そして、シキドウジの攻撃は私が力を付与して減速させようとしても無駄だった。私が付与出来る限界の力を付与しても簡単に引き千切られる。つまり、それ以上の力を常に発揮しているという事だ。
ならばやる事は一つ。相手の攻撃を弾きながら、こっちの攻撃を当てる。パリィのタイミングが掴めないから、本当に受け流すとかしか出来ていないけど、その直後に攻撃を当てる事は出来た。
HPは、滅茶苦茶僅かに減った。鎧か何かの効果で強制的に一定ダメージなるのかもしれない。息もつかせないような攻防。呼吸がほぼ必要ない身体で良かった。ただ久しぶりにソルさんとの戦闘みたいな一瞬も油断出来ない戦闘になっていった。




