頂上
頂上へと向かっていく先で、一つ目立つものがあった。
「あの木は、なんだろうね?」
「頂上の証かもね。本当に何もないのかな。それはそれで、拍子抜け……いや、その前の時点で死ぬプレイヤーが多いって感じかな」
「最初の悪路はともかく、崖と突風は、厳しいと思うよ。【登山】と風魔法と土魔法があれば、どうにかなるかもだけど」
「魔法があったら、楽だったのか」
「どうだろうね。私達は、ゆっくり進んで二時間半くらい掛かったけど、魔法があったら、障害を取り除けるから楽だった可能性は高いかな」
「踏破出来るまで、魔法が保てばの話になるか。それに、実際に魔法を使って、どこまで効果があるかも分からないし」
私もアカリも魔法を使えない。だから、魔法を使って、どこまで楽を出来るのかは、全く分からなかった。アク姉に訊けば全部分かるだろうけど、アク姉がここまで来ているとは思えない。きっと、途中で見つけた洞窟に直行しているはず。アク姉達もそういうプレイヤーだから。
周辺を警戒しながら進んで、ようやく頂上に着くことが出来た。本当に、頂上に着くまで何もなかった。その事が逆に警戒心を高めさせる。
「ハクちゃん。木の根元に宝箱」
「【感知】には、何も引っ掛からない。あの宝箱と一緒だ」
「じゃあ、ミミックじゃないかな?
「それは、まだ分からないよ。情報が少なすぎるから。取り敢えず、前と同じようにやろう」
「うん」
アカリが細剣を抜いて、いつでも攻撃出来るように準備する。周囲を見回して、木の周りや木の上も確認したけど、罠らしきものは一切ない。
アカリと目を合わせて、頷き合ってから、宝箱の蓋に手を掛ける。そして、蓋を開ける。
「ふぅ……今回もミミックではなかったね」
アカリが息を吐いて安堵していた。その間に、宝箱を覗くと、そこにはチェーンタイプのブレスレットが二つ入っていた。私達は、一つずつブレスレットを手に取る。
すると、触ったブレスレットが変色していった。私が持ったブレスレットは、チェーン部分が黒くなり、あしらわれていた葉型の装飾に付いていた宝石が赤く染まった。アカリの方は、チェーンは銀色のままだったけど、宝石が青く染まった。
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霊峰のブレスレット(漆黒鮮血):闇の力に犯された霊峰の加護が付いたブレスレット。ルビーが填められている。【霊峰の加護】【闇属性耐性+】【火属性耐性+】
霊峰のブレスレット(白銀蒼月):霊峰の加護が付いたブレスレット。サファイアが填められている。【霊峰の加護】【水属性耐性+】
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どうやら、持ち主に合わせて変化するアクセサリーみたい。このブレスレットを手に入れた事で、一つ分かった事がある。それは、颪によって気持ち悪さを感じた理由だ。
「霊峰だから、颪に聖属性が含まれていたって事かな」
「ああ、なるほどね。ちょっと納得かも」
それにしても、私が手に入れたアクセサリーは、アカリのものと比べて、より強いものになっている気がする。耐性の追加効果が二つもあるのが証拠だ。
「闇の力って……【吸血鬼】か。そのおかげで、普通に貰えるものよりも強いものになった感じかな」
「闇属性と火属性の耐性って、変な組み合わせって思ったけど、火属性の方は、宝石由来みたいだね。私の方は、水属性の耐性だし」
「その宝石は、私達の瞳の色で決まっているのかもね。丁度私が赤で、アカリは青だから。それぞれの色に合った宝石とそれに合った耐性を貰えるって感じかな。後は、この【霊峰の加護】ってやつだね」
私は、【霊峰の加護】の説明を見る。
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【霊峰の加護】:ちょっと良い事が起こるようになるかもしれない。
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滅茶苦茶曖昧な効果だった。
「この内容だと、【運強化】みたいな感じかな」
「それは有り難……い?」
これにはアカリも首を傾げていた。実際に、良い効果なのかどうか判断するには、時間が必要だ。
「取り敢えず、山頂まで登った報酬としては、良い分類に入るんじゃない?」
「属性耐性と特殊な追加効果だもんね。来るだけの価値はあるかも。そういえば、この先はどうなってるんだろう?」
「確かに。勝手に、ここがエリア限界だと思ってたけど」
私はそう言いながら、頂上の奥に向かって進んで行く。アカリも私の後に続いてきた。頂上を過ぎて、少し下り始めると、透明な壁にぶつかった。
「へぶっ!?」
「ハクちゃん!? 大丈夫!?」
「痛つつ……大丈夫。ここまでみたいだね。この奥にもエリアは見えるけど、行けないようになってるみたい」
この先にあるのは、広大な森だった。森の向こうに何かが見えるような気もするけど、そこはぼやけていてよく分からない。
「何だか次を期待しちゃう光景だね」
アカリが言っている次は、次のイベントの事だろう。確かに、この先のエリアが舞台になる可能性はある。だけど、私は、もう一つの可能性を考えていた。
「もしかしたら、あれ前のイベントのエリアかもよ?」
前のイベントエリアは、森の中だった。今見ている場所が、そのエリアであっても不思議はない。
「なるほどね。前は、あんな森の中だったんだ。それなら、あり得るかも……あっ、ハクちゃん、私達重要な事を忘れてたみたい」
「ん? 何?」
忘れていた事と言われて、私は、何も思い付かなかった。一体、何の事を言っているのだろう。
「私達、今から、ここを下りるんだよ」
「あっ……」
すっかり失念していた。そうだ。登山をした以上、私達は、下山をしなければならない。先程の暴風、崖、悪路を再び通らないといけないのだ。
「どこかに都合良く転移するための魔法陣とかない?」
「う~ん、私が見た感じだとないかな。もう、歩いて帰るしかなさそう」
ここまで来たご褒美にブレスレットを貰ったけど、帰還はご自分でとの事だ。ご丁寧に、帰還用の転移魔法陣を置いておいてくれるなんてことは無かった。つまり、行きのリスクと帰りのリスクを合わせて、ブレスレットが報酬という感じだ。確かに、それに見合った報酬ではあるかもしれない。
「はぁ……下山か……ねぇ、この日傘って、どこまで耐えられるかな?」
「骨の話? それなら、現実の傘よりも断然強いよ。生地の方も、あの暴風を受けても破れないと思う」
「人二人の体重に耐えられると思う?」
私の質問に、アカリは、少し怪訝な顔をしてから、目を見開く。
「えっ、もしかしてだけど……傘にぶら下がって下りようとしてる!?」
「さすが、アカリ。私の考えはお見通しだね」
「さすがに、あそこまでヒントを出されたら、分かるよ。う~ん……どうだろう? そこまでの検証はしてないから、どうなるか分からないよ」
「検証……してみる?」
私は、悪い笑みを浮かべて、アカリを見る。悪戯っ子の笑みともいうかもしれない。でも、それにアカリも呼応するかのように笑みを浮かべる。
「私の腕を信じようかな」
「それじゃあ、やろうか」
私は、アカリの身体をお姫様抱っこする。アカリも私の首に手を掛けて、しっかりと身体を固定した。
「それじゃあ、準備は良い?」
「うん。良いよ」
若干怖いのか、アカリの声は震えていた。そういえば、絶叫系の乗り物も乗れるけど、凄く得意ってわけじゃなかった。
アカリに安心させるように微笑んでから、駆け出す。




