もう一つの天上界
悪魔界から帰ってきてセフィロトの傍に出たら、メタトロン達がお揃いで待っていた。その中にいるセラフさんが苦笑いしている。何となく状況は読めた。
「天上界に行くって話?」
「そう。大正解。正確にはセラフが治めてくれているところの一つ上の場所だけどね。悪魔界に行ったなら、こっちにも来てもらわないと」
「ふっ、天使のくせに嫉妬か? 相も変わらず、堕天使と似たような思考回路だな」
「やっすい挑発だね。ああ、君の安っぽい頭じゃ、そのくらいの挑発が限界って事だね。辞書でも読んで語彙を増やしてみたら?」
安い挑発に乗って安い挑発を返している。まるで、子供喧嘩だ。天使と悪魔の喧嘩は大体こんな感じだ。暴力的なものに発展しないのは、天使も悪魔も私に仕えているという自覚があり、私が禁止しているから。その代わりの口喧嘩って感じだ。
「そのお飾りの頭には大層ご立派な語彙が詰まっているのだろうな。お飾り過ぎて自分で考えて行動するという事も出来ない操り人形が」
「一生反抗期でいる事を美徳と考えているかな? 早く大人になりなよ」
「誰かの言うとおりに生きる事が大人か? 傀儡の間違いだろ」
「他人の不幸しか楽しめないような性格破綻者が喚くねぇ。あっ! そっか。性格が破綻してないと誰にも構って貰えず拗ねちゃうもんねぇ」
どんどんと子供っぽい喧嘩が酷くなってきているので、取り敢えず私が手を鳴らして意識をこっちに向ける
「はいはい。喧嘩しないの。取り敢えず、皆は悪魔達が来たら、ここの説明とかをしっかりとしておいて。問題を起こしそうな悪魔は言い聞かせるか、悪魔界に帰す事。後日、私が面接するから。はい。解散! フェネクスも天上界には行けないから、また後でね」
「む……」
少しむくれたフェネクスは甘えるように私に顔を擦り着けると、私から降りてマモンに抱っこされながら戻っていった。
「さてと、メタトロンもだよ。あまり喧嘩しないの」
「善処するよ。それじゃあ、行こうか」
メタトロンが手を差し出すので、その手を取る。そして、メタトロンがセフィロトに触れると、また転移が始まる。
転移した先は白い地面に少し緑がかった空の世界だった。セラフさん達が住んでいる天上界とは違う場所だというのが一目で分かる。
「全然違う」
「はい。こちらは名を持ち通常の天使よりも上位に存在する天使のみが暮らす世界です。セラフ達が治めてくれている世界は、名を持たない通常の天使達が暮らす世界です。この違いは、セラフ達の扱いを見ていれば分かると思いますが、同じ土地で暮らすには存在の違いが大きすぎるのです。なので、ある程度住み分けをしています。セラフ達が住み分けの境界線にいるとお考えください」
私の疑問を先読みしたように、ザドキエルが教えてくれた。確かに【熾天使】の状態で私が行った時にも天使達が私に跪くような形になった。向こうからしたら、無条件で敬わないといけない相手になるからだ。それが名前持ちで守護天使だったりする皆だったら、もっと酷い事になると思う。そうなると、こうして住む場所を分けている理由も納得出来た。
「さてと、本当は皆を君に仕えさせたいのだけど、さすがに私達の神が相手でも中に悪魔の要素とかを強く持っているから、警戒されちゃっているね」
「悪魔界でも警戒されてた。やっぱり神様でもいきなり来た知らない人は警戒しちゃう?」
「当たり前だ。神だからと言って誰でも受け入れる訳では無い。基本的には受け入れるだろうが、それはその神を知っているからというのが大きいからだ。同じ神として相手を認識出来るか、貴様の話を聞いているという事情がなければ、ある程度は警戒されると思っておけ」
サンダルフォンの言葉は納得出来る。やっぱり神様と分かられていても、悪魔っぽい要素を持っていたり、そもそも知らない神である事が警戒の対象にされちゃう原因になっているみたいだ。
「堕天使に思われるかな?」
「それはないと思うわ。堕天使には堕天使の気配があるから。貴方の気配は天使と悪魔と神と精霊と竜と鬼という感じで複数が個別に存在するような感じなの。重なり合っている部分もあるけれど、堕天使や邪神という気配じゃないのよ」
「それに私達が近くいるんだ。守護天使が一緒にいるのに堕天使だとは思わねぇだろ。使役されてんのは気付かれてるかもしれねぇけどな」
ハニエルとカマエルの言う通りなら、堕天使扱いはされない。でも、皆が私に仕えている状態になっているのはバレている可能性があるらしい。私が神の属性だけを持っているのであれば、守護天使の皆が仕えていてもおかしくはないのだけど、悪魔の属性も持っているが故にややこしい状態になっているのかも。
「取り敢えず、今日は世界に挨拶ってだけで良いかな。天使達も自由にこっちの世界に来て良いから」
私がそう言うと、天上界とギルドエリアが繋がったというメッセージが流れる。これでここにいる天使達もギルドエリアに来られるようになった。
「あっ、でも、ちゃんと皆が指導してね。悪魔達の喧嘩は無しだよ。後、契約するなら身体が女性になるって事も伝えてね」
「了解。任せて。問題を起こすようなら追い返すから」
「うん。下手すると、神様の皆が怒ると思うから」
「何にしてもそこが一番大きいかもしれませんね」
神様が怒るという点でラジエルが納得していた。ギルドエリアは、神様達の憩いの場にもなっているので、そこで問題を起こすと怒る神様が出て来てもおかしくなかった。それは関係無しに、私の世界だからニュクスさんとかガイアさんがキレる可能性もあるけど。大きな力を持つニュクスさんとガイアさんが、完全に私を娘として見ているから、あそこで問題を起こすと私のためにという行動出る可能性が滅茶苦茶高かった。
「それじゃあ、戻ろうか」
「うん」
私は一度頭を下げてからメタトロン達と一緒にギルドエリアに戻って来た。ここで解散となる。メタトロン達はそれぞれ飛んで行く。色々と仕事があったり休むのに良い場所とかがあるから、基本的に皆が揃って行動する事はない。
戻って来た私の元にフェネクスがトテトテと来るのが見えたので、こっちから迎えてあげてフェネクスを抱っこしながら皆の様子を見て回る事にする。探索する場所も特にないし、街を見て回っても良いけど、その前に自分の世界に住んでいる皆の様子は定期的に確認しないとね。下手すると変なものを作るから。特に酒源の里。いつの間にか、滅茶苦茶度数の高いお酒が造られていたし。あれは最早消毒用のアルコールなのではと困惑したくらいだ。
後は親方が魔剣を量産していたりする。私の魔剣よりは下になるものだけど、神器の器としてギリギリ使えるくらいの性能があるらしい。せっかくなので、派遣で皆に使って貰っているけど、普通にプレイヤー達が喉から手が出る程欲しいものが量産されているというのは、若干どうなのだろうと思った。
こういう事があるので、ちゃんと作っているものの確認をするようにしていた。後は、こういう時間があればフェネクスのように皆が近づいて来て交流をする事が出来るからね。基本的に抱っこする事になるのは、フェネクス、イノ、グラキだけど。他には、メアが時々肩車をせがむかな。メアを肩に乗せるとメトロノーム状態になるから、結構大変だ。まぁ、メアが楽しいなら良いのだけどね。




