アスタロトの好み
続いての衣装は、滅茶苦茶予想外の衣装だった。何故なら本当にしっかりとしたウェディングドレスだったから。装飾の全てに拘りを感じる。何故なら、私の象徴にもなる蝙蝠の柄になっていたから。普通はこんな柄にしないだろうし、本当に作ったのだと分かる。
「蝙蝠だけど、色は白なんだね」
「ウェディングドレスだからね。そこら辺はヘラ様の拘りじゃないかな。ウェディングドレスってあまり見ないから、これで正しいのか……いや、ちょっとだけ弄るかな」
アク姉はちゃんと綺麗に見えるように髪とかも調整してくれる。指示書にある通りにしつつも、最大限私を立てるようにしてくれている。
「うん。良い感じ。ベールガールは、イノちゃんとグラキちゃんが務めます」
「よろしくね」
『ん……』
『は~い!』
二人もおめかしして可愛い。頭を撫でてあげたいけど、せっかくセットした髪型が崩れそうなので我慢する。
二人にベールを持って貰いながらゆっくりと歩いて行く。ブーケはアンブロシアで出来ていた。そんな姿で出て来たら、女神様達を初めとした女性陣がうっとりとしたため息を零していた。最後にブーケトスをしたら、グィネヴィアさんがキャッチした。まぁ、未婚者を集めた場所じゃないから既婚者が受け取っても仕方ない。
「あのウェディングドレス良いですね。ハクちゃんに合っていますし。う~ん……あの形が良いのかな……」
「アカリ達の将来の話は置いておいて、試着せずにあそこまでしっかりと合わせられるというのは、ちゃんとハクを観察していた証拠ね。ハク自身が持つ魅了の力だけじゃなくて、純粋にあの衣装を着たハクに魅了されていたわ」
「花嫁って感じねぇ」
アカリは現実で私が着るドレスをどうするか考えているようだった。結婚式が出来るかも分からないけど、その時の目安にはなるかな。私としては、このドレスは大分気に入っている。ヘラさんが作ってくれたというのもあるけど、全体的に好みだったから。現実で作るのは大変だろうけど。いや、もしかして、アカリは自分で作る事を考えているのかな。いや、さすがにウェディングドレスの自作は……しそうだなぁ……
次の衣装は、赤を基調としたドレスだった。膝丈のスカートで、大胆に肩を露出している。フレアスカートになっていて、全体的にパーティーに着るようなドレスという印象が強くなる。首には真珠のネックレス。前腕に広がるように填める金のバングル。装飾はバラのイメージかな。それを両手に着ける。靴はハイヒールで足首にバングルと似たアンクレットを着けている。髪はシニヨンで纏めて貰う
「何かパーティー感が強いね」
「アフロディーテ様の作品だね。テーマは楽しいパーティーらしいよ」
「なるほどね」
「ヒールは平気? 念のためローヒールのものも用意してるよ」
アフロディーテさんは、私がハイヒールで歩けるか分からないと考えて二種類用意してくれたらしい。ただ、これまでもハイヒールくらいは履いていたので全然問題ない。
「大丈夫。行ってくるね」
「気を付けてね」
ランウェイを歩いて行くと、一気に皆の目を引く。赤という事もあって目立つからね。軽くポーズを取っていると、アフロディーテさんが、満足げに頷いていた。どうやらアフロディーテさんのイメージ通りになっているみたい。
「ハクちゃんは赤も似合いますね」
「まぁ、【吸血神姫】が血のドレスだから赤系は似合うわよね。でも、実際に布になると、こっちの方が良いわね」
「血よりも明るいわねぇ」
確かに【吸血神姫】で血のドレスを作る事が出来るから、あれと似ていると言えば似ているかも。ただし、アスタロトの言う通り、あれよりも明るい赤だから、若干イメージは異なってくるかな。
次の衣装は水色のシャツワンピースだった。スカートの裾に銀があしらわれていて、ワンポイントで銀の刺繍で弓矢が縫われている。
「アルテミスさん?」
「正解。髪型は自由だって。何かリクエストある?」
「う~ん……普通に梳かして」
「は~い」
この感じならロングのまましっかりとストレートでいくのが一番良いと思う。清楚っぽくなるし。シンプルだからこそ、私が属性を重ねずに清楚っぽさを重視した方が見栄えが良いと思った。アク姉も反対しなかったから、間違っていないはず。
その姿でランウェイを歩いていたら、皆が小さく笑顔になっていた。インパクトの強い服が続いたから、ちょっと印象が薄まるかと思ったけど、シンプルが故に目を引くようになった感じかな。
「良い感じでハクちゃんらしさが出ていますね。清楚でありながら、顔から元気が見えてくる。そんな印象でした」
「良い感じでアルテミスらしさも主張させているわね。少し子供っぽさを感じさせるけれど、それが良いわ」
「主人の元気は抑えられないみたいねぇ」
清楚で行こうとしたら、私の中のパッションが抑え切れていなかったらしい。まぁ、楽しさは感じていたから仕方ないと思おう。
次の衣装は、白いワンピースに上から胸当てと兜を被る。アマゾネスの人達が作ってくれた伝統衣装のように見えて、ちょっと違う。持つのも大きな盾と槍だ。
「う~ん……良し! ちょっと胸当てが緩そうだったけど、問題ないね」
「ベルト締めた方が良い?」
「ううん。このくらいなら大丈夫だよ。アテナ様の指示でも少し緩めにしておいたってあったから」
「そう? じゃあ、いってくる」
私がランウェイに出ると、オリュンポスの神様達が驚いていた。アテナさんはニヤリと笑っている。もしかして、この装備ってアテナさんのものだったりするのかな。皆、簡単に預けすぎね。まぁ、信用されているからなのだと思うけど。
「何というか守護者という感じを強く受けるものでした」
「まぁ、アイギスを持っていたらそうよね。そもそも都市守護の神だもの。加えて、衣装がアテナが着けるものに似ているから、余計に守護者らしさが出ているのね」
「凜々しさを感じさせるのは良いわねぇ」
やっぱりアテナさんの盾だった。妙にしっくりくるのは【神器の使い手】があるからなのかな。
次の衣装は黒いゴスロリ服だった。ゴスロリメイドって方が正しいかな。
「おぉ……光が作るのに似てるかも」
「ヘスティア様の作品だね」
「ヘスティアさん!? へぇ~……意外」
「まぁ、光ちゃんも作るから、白ちゃん、ハクちゃんは、ゴスロリが似合うのかもしれないね」
「そんな事ないと思うけどなぁ……」
全体的に見ても完成度が高い。あの光と同等レベルだ。気分が上がるのは、光も作ってくれるからなのか、私が心の底ではゴスロリ好きという事なのか。まぁ、深く考えないようにしよう。
アク姉がゴスロリに合うようにメイクをしてくれる。
「良し」
「じゃあ、いってくるね」
「は~い。いってらっしゃい」
これまでと印象が全く異なる姿で出たからか、皆が響めいた。メイクもしっかりとしているから、皆から見たら一瞬私だって分からなかったのかもしれない。ゴスロリだから、大分あざといポーズを決めたら皆が沸いた。男性が沸くのは分かるけど、女性の方がヤバいくらいに沸いていた。
「ゴスロリの良さをしっかりと出しているのが凄いです。アクアさんの化粧も相まって相乗効果がありましたね」
「そうね。でも、あの状態でもしっかりとハクと分かるのは良いわね」
「良いわぁ」
アスタロトはこういう服がお気に入りみたい。いつも以上にメロメロになっていた。でも、ちゃんと私だと分かりはしたみたい。ヘスティアさんのイメージにはなかったけど、ヘスティアさんは、ゴスロリが似合うだろうと思っていた感じなのかな。




