次の障害
休憩を終えた私とアカリは、登山を再開した。最初の凸凹地帯と崖が難関だったのか、崖を超えた先は、少し緩やかな坂になっていた。崖の連続じゃなくて、本当に良かった。
「最初と崖を考えると、かなり楽だね」
「そうだね。でも、ちょっと寒くなってきてない?」
「そういえば……」
結構な高さまで登ってきているからか、周囲の温度が少し下がっているように感じる。アカリも意識したら、気付いたみたい。ガクンと下がっていたら気付くけど、ちょっと肌寒くなったかな程度なので、私が敏感に感じ取り過ぎなのかもしれない。
「これ以上寒くなるようだったら、防寒具貸してあげるね」
「ありがとう。頂上は……まだ先か。緩やかな坂だけど、近いようで遠いね」
「ね。私としては、このくらいの坂は有り難いかな。下とか崖とかだと疲れちゃうよ」
「確かにね。まぁ、この坂も長く続いたら辛いけど」
「それはそうかも」
アカリはそう言いながらも、小さく笑った。ただの坂道だからか、そのくらいの余裕が出来たみたい。アカリが笑ってくれた方が、私も楽しいから、ちょっと有り難いかも。ここまで、アカリは結構必死に登っていたから。
私は、【脚力強化】のおかげで、割と楽に出来ていた。【脚力強化】様々だ。
それから三十分程進んでいると、どんどん寒くなってきた。途中で、アカリから【寒冷耐性】が付いた外套を借りて着替えた。外套二枚重ねは、さすがに出来なかったから。
「北エリアに行ったら、ずっとこんな感じなのかな」
「多分、そうだろうね。でも、ハクちゃんが、北に行くのは、まだまだ先じゃないかな。西に加えて、一応砂漠もあるし」
「砂漠かぁ。お金貯めて、早めに装備を作って貰おうかな」
「砂漠用にどっちも付いたアクセサリーにしようか。北用は、北用で全装備作るよ。寒さのレベルが段違いらしいから。フレイさんもアクアさん達も北用で装備を入れ替えているしね」
「そうなんだ」
砂漠はアクセサリーで足りるみたいだけど、北の寒さになったら、全装備変えないと厳しいみたいだ。まだまだ先だから、お金稼ぎを頑張ろう。
「そういえば、山のエリアはないの?」
「山は聞かないかな。ちょっと小高い丘くらいはあるけど」
「それじゃあ、【登山】を取る意味は、本当にないね。ここで取らせるつもりだったのかな?」
「どうなんだろう。でも、無駄になるようなスキルは用意しないと思うんだ。使い勝手が悪いならともかく、無駄になるのは、ゲームとしてどうかと思うし」
アカリの言う通り、無駄になるようなスキルを置いておくのは、意地悪が過ぎる。超絶不人気スキルである【吸血】も育てていけば、有用スキルをポンポン生み出してくれた。デメリットはキツいけど、それでも無駄なスキルではない。
だから、使いどころが限られていても、無駄になるようなスキルは一つもないと思う。【登山】と同系統に【水泳】のスキルもあるくらいだから。
「その環境とか状況に適したスキルは、使い勝手は悪いけど、あったら便利って感じなんだろうね。実際、さっきの崖登りもスキルを取っておいたおかげで、登れた感じがするし」
「状況特化スキルか……それも取っていったら、スキルの入れ替えが重要になってくるのかな。プリセット登録が出来るようになると良いんだけど」
「スキルのプリセット登録かぁ。確かに、欲しい機能だね。他のゲームにもあるやつはあるし。それだったら、装備のプリセット登録も欲しいけどね」
「まぁ、それは確かに」
このゲームには、プリセットがないので、装備の入れ替えをするようになったら、ちょっと不便かもしれない。私は、まだ必要になっていないけど、上位のプレイヤーになったら、欲しいと思うかもしれない。
「わぷっ……!?」
アカリと話ながら歩いていたら、突然、今までよりも強烈な風が吹いてきた。踏ん張れない事はないけど、進む事が難しくなる。
「うわっ!?」
アカリは、踏ん張りが利かずに、後ろに倒れそうになった。すかさず、手を伸ばして、アカリの手を掴み引っ張る。
「よっと。大丈夫?」
「うん。ありがとう」
何でもかんでも【脚力強化】のおかげというのはどうかと思うけど、実際、そのおかげで踏ん張れている。だから、取り敢えず、アカリの前に立って、風除けになる。
「崖とは反対になったね。私の腰を掴んでおいて。ゆっくり進むよ」
「ありがとう」
アカリは、私の腰に手を回して、身体を固定する。これで風に煽られる事もない。一歩一歩踏みしめるようにして歩いていく。本当にゆっくりだったら、少しずつ進む事が出来る。一歩進む毎に、しっかりと踏みしめないと私も倒れそうだ。
最初は、悪路。次に、崖。その次は、この突風。これが、この山の妨害ギミックだ。そして、私には、これで終わりとは思えない。どのギミックも死の恐れがある。けど、遺跡のような直接的に殺すギミックではない。だから、最後の最後に、そういったギミックがあってもおかしくはない。
「アカリ、大丈夫?」
「うん。大丈夫。ハクちゃんこそ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。動きにくいだけ」
「風除けになりそうなものもない感じ?」
「全然。気休め程度の岩も見つからない」
この場所には、私達の腰程度の岩もない。だから、風除けになるような場所はどこにもない。
「ハクちゃん、頑張れ」
「ありがとう」
アカリの励ましもあり、私達はこの暴風領域進んで行く。そして、二時間半掛けて、ようやく抜ける事に成功した。
「急に風が止んだ……」
「良かった。ここからは、私も歩けるね。ちょっと休憩する?」
「そうしたいところだけど、ちょっと警戒した方が良いかも」
「また別のギミックがあるかもだから?」
「うん。休憩ポイントがあれば良いけど、もしなかったら、すぐに来るかもしれない」
怖いのは、ここに来てボスモンスターの襲来だ。遺跡でも、最後はボスモンスターだった。山頂までは、もう少し。本当にもう少しだ。だからこそ、ボスモンスターが現れる可能性を疑わないといけない。
「あっ、ねぇ、ハクちゃん」
「ん?」
アカリが私の肩を軽く叩いて、背後を指さす。それに従って、振り返ってみると、そこには広大な森の景色が広がっていた。私達が初日に降り立った森まで見えているのだと思う。
「広いね……」
「うん。それに見て、あっちには砂漠らしきものと、向こうには雪景色、奥には霧みたいな壁がある。本当に色々な場所が用意されているんだね。全部回って見たかったかも」
「さすがに、そこまでの時間はないだろうね。山の中には、入り組んだ洞窟もあるし」
「探索イベントだけど、百パーセント探索は無理なように作られているのかな?」
「だろうね。さすがに、広大すぎるし」
この景色は、思わず見入ってしまう。ここまで来たプレイヤーへの些細なご褒美みたいなものかな。登って得たものがこれだけだったら、さすがにショックだけど、ゲームとして、それはないと信じたい。
きっと何かしらの報酬はあるはず。この先にあるかもしれないギミックを突破すれば、それに出会えるはずだ。
「行こ。頂上は、すぐそこだよ」
「うん!」
私達は、気を取り直して、頂上へと向かう。気が付けば、もう昼。イベント折り返しの時間だった。




