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吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ  作者: 月輪林檎
新たなる地へと向かう吸血少女

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それぞれの側面

 続いての衣装は、白を基調としたドレスだった。背中がぱっくりと開いている。もう一つ特徴的なのは、スカートの裾が、様々な色のグラデーションになっている事。


「【熾天使翼】と天使の王冠を使ってね」


 そう言われて【熾天使翼】と【メタトロンの寵愛】で羽と光の王冠を用意する。


「天使の皆の作品?」

「そう。主導はメタトロンさんだから、基礎的な色が白。スカートの裾に皆の色を並べるって形だね」


 アク姉に送り出されてランウェイを歩くと、天使の皆だけでなく悪魔の皆も魅入っていた。元々天使だったというのもあるのかな。天使のポーズがよく分からなかったから、取り敢えず玉座を生み出して軽く足を組みながら座ったら黄色い歓声が上がった。特にアスタロトから。


「あの見下す眼がたまらないわぁ」


 そんな眼はしていない。アスタロトの幻覚だろう。


「ハクちゃんの力を上手く利用していますね。衣装との調和が良かったと思います」

「天使としての側面を前面に出した形ね。それにあのスカートの裾はそれぞれの羽根を織り込んだのかしら。天使を統べる存在という印象を与えるような良い衣装だったわ」


 それは初耳だ。このスカートの裾に羽根が織り込まれていると考えたら、途端に高級品に思えてきた。てか、さりげなくアストライアーさんもアスタロトとほぼ同じ意見を言っている気がする。玉座に座った時、そんな眼はしてないと思う。玉座というオプションが見下し要素になっているだけだ。きっとそう。

 次の衣装は、黒いスーツのようなものだった。会社員というよりは、男性貴族のような印象を受ける装飾が施されている。


「【悪魔王翼】を使って行ってね」

「あ、これアドラメレクの作品?」

「ううん。悪魔全体で話し合って決めたらしいよ。審査員としてアスタロトさんは話し合いに参加しなかったみたいだけど」


 本当にアスタロトは、変なところでしっかりしている。最後に軽く髪を纏めてランウェイに出る。さっきとは違った黄色の歓声が響き渡る。こっちは玉座とかは使わずにちょっとだけ格好付ける感じのポーズにする。それだけで更に歓声が響き渡った。


「こっちで来たかって感じですね。悪魔の羽がより格好良さを引き立てているので、悪魔の王子様という印象を受けます」

「煌びやかな装飾を凝らす事で贅を持っているという風に見せているのが、よりそういう印象を引き立てているのかもしれないわね」

「見下す眼がたまらないわぁ」


 本当にアスタロトだけ見下してあげれば良かったのかと思うくらい見下されていると思っているらしい。どこから見下し要素を見つけているのだろうか。取り敢えず、アスタロトだから仕方ないと思っておこう。

 次の衣装はさすがに困惑した。


「これ水着じゃない?」

「うん。悪魔の中で唯一個人参加のリリスさんの作品だよ」

「リリスの? 水着が一番露出が多いと思ったのかな……」

「でも、結構可愛らしい水着だよ」


 アク姉の言うとおり可愛らしくはある。ビキニの形をしていて、全体にフリルが付いている。黒を基調にして、赤で小さく蝙蝠の模様を紐が繋がる場所に配置されていてそういうブランドみたいな印象を受ける。


「リリスにしてはまとも」

「リリスさんは服が露出まみれなだけで、ちゃんとハクちゃんに似合うようにしてくれたのかもね。この衣装は特に指示はないから、そのまま行っちゃって」

「うん」


 こっちでは【悪魔王翼】を使わなくて良いみたい。天使の側面や悪魔の側面を出した衣装とかではなく、私そのものを押し出すような衣装にしたのかな。何故水着なのかだけ疑問だけど。

 今度は黄色の歓声とかではなく、ピンク色の歓声というべきなのかな。そんな感じの歓声が出ていた。そこまで派手にポーズをするような衣装でもないので、軽くポーズを取ると、リリスがサムズアップしているのが見えた。これで正しかったらしい。


「ここで水着とは驚きました。しかも、しっかりとハクちゃんの白い肌に映えるような可愛らしい水着ですね」

「意表を突かれたわね。下品な印象は受けないものをしっかりと作っているのは評価出来るわ」

「パレオがあっても良かったかもしれないわねぇ」


 アスタロトからすると、パレオが欲しくなる感じだったらしい。でも、全員意表を突かれた感じだから、リリスの作戦は成功したのかな。これで審査員の印象には残っただろうし。

 次の衣装はかなり薄い感じの布だった。全体的にキラキラとラメが入っているような感じがするけど、実際はそんなこと無い。布そのものが細かく光を反射しているみたいな感じだ。


「次はティターニアさんと妖精、精霊達の作品だよ」

「何か不思議な感じ」

「見たことない布だからね。向こうの世界で作られているものなんじゃないかな。ティアラも着けてね」

「うん」


 アク姉が指示書通りに私の髪を素早く整えてくれたので、その上からティアラを着ける。布が薄いから下が透けないかと思ったけど、全然透けていない。布は薄いけど光を通さないとかなのかな。

 ランウェイを歩くと、精霊や妖精の皆がうっとりとして見ていた。ドレスっぽいので、軽く身体を回してスカートをふわりと浮かせてからポーズを取った。


「まるで精霊や妖精のお姫様ですね」

「実際、それを狙っているのだと思うわ。ハクの精霊の側面を衣装だけで引き出している感じね」

「美しさと可愛さを兼ね備えたお姫様ねぇ」


 そもそもティターニアさんの娘にはなっているから、お姫様というのも間違いではないのかもしれない。精霊や妖精の皆から見たら、お姫様のお披露目のような感じだったのかな。ティアラも乗っているから、お姫様度で言えばかなりの高得点だっただろうし。

 次の衣装は和服ではあるのだけど、かなり豪華な感じだ。というか華やかというべきなのかな。頭にもいくつものかんざしのようなものが挿された。アク姉が素早く化粧を施してくれる。

 靴もかなり高い下駄だった。身長が十センチくらい伸びた感じだ。


「歩けそう?」

「ゆっくりなら。これって花魁?」

「そうだね。玉藻ちゃんや胡蝶さんの作品だよ。ちょっと重いかもだけど大丈夫そう?」

「うん。このくらいなら」


 ランウェイに入る直前までアク姉に支えて貰いながら移動する。そうしてランウェイに入った瞬間に、多くの妖怪が上がって来た。その光景はテレビとかで見るような花魁道中という感じだった。さすがにポーズをするような余裕はないので、軽く微笑むだけになった。


「あの衣装に負けない主人が凄いわねぇ」

「寧ろ、ハクちゃんを際立てるように調整したのかもしれませんね。お化粧は簡単なもののようですが、あまり気になりませんでしたし」

「歩き方が慣れていないという点が残念だったわね。試着の禁止がここで影響してくるとは思わなかったわ。でも、あくまで評価対象は衣装だから、歩き方とかは評価に入らないのは良かったわね」


 やっぱり歩き方だけはちょっとぎこちなかったみたい。でも、あくまで私に似合う衣装の評価なので、歩き方は評価対象にならない。私のせいで減点とかにならないので、そこだけは助かった。

 現実では出来ない事を出来たという点で言えば、この衣装はちょっと楽しかった。

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