一旦お休み
暗転して、一分後にリスポーンするというメッセージが出ている。アカリの姿はない。これは当たり前と言えば、当たり前なので、特に動揺はない。
取り敢えず、私達は負けた。一対一なら対処出来なくはなかったけど、一体増えただけで瓦解した。私達に足りなかったのは、恐らく経験と相手に関しての知識だ。ボウシャドウの矢に状態異常効果がある事なんて知らなかった。これが一番大きい。
硬質化で防げた事から、矢が刺さる事で効果を発揮するタイプのものという事が分かる。
「あの時、硬質化で自分だけでも助かるべきだったのかな……」
何もない空間で発する声に応えるものはない。
本当なら、背中に連続で撃ち込まれる矢を硬質化で防ぐ事は出来た。でも、あの時は、その判断をしなかった。このままアカリが死んでしまう事は分かっていたし、私一人で生き残って切り抜けても、その先がなかったからだ。
結局、一緒に死ぬことを私自身が選んだだけ。最後まで抗う事を諦めただけだ。
そんな風に考えていたら、最後に訪れた安地である山の麓にある平原で復活する。アカリも同じタイミングで復活してきた。
「ハクちゃん、ごめんね」
再会するや否や、アカリが謝ってきた。自分が動けなくなった事が敗因と考えているみたい。
「アカリのせいじゃないよ。私達が知らなすぎただけ。それに、私が死んだのは、諦めたからだし」
「その選択をしたのは、私のせいでしょ?」
「あそこで生き残って最後まで戦っても、先がないと思ったからだよ。後は……」
そこで言葉に詰まる。あの時、自分が思った事を改めて考えている内に出て来たもう一つ答え。それは、アカリを一人にしたくないという想いだった。
「後は?」
言葉が途切れたので、気になったのか、アカリが促してくる。でも、私は、続きを答えずに首を横に振った。
「ううん。何でもない。取り敢えず、今日は、これくらいにして休もう」
「そうだね」
アカリは追及したそうにしていたけど、頷きながら、テントを取り出す。そして、二人で中に入った後は、すぐに眠る事はせず、今後の話し合いを行う。
「取り敢えず、どうしようか? 一体ずつなら戦えるし、入口付近で戦闘系のレベル上げする? 洞窟なら太陽関係ないし、いつでも潜れるけど」
「う~ん……そうだね。入口周辺もマッピングがちゃんと出来ているわけじゃないし、そこを探索しながらレベル上げで良いかもね。それと、もう少し上の方に登ってみるのも良いかも。後は、フレイさん達と合流するか」
「フレ姉達と合流は、もう少し先でも良いかな。フレ姉から攻略してみた感想を聞いて考えよう。それと、山に登るのは、私も賛成かも。もしかしたら、頂上に何かあるかもだし」
「それじゃあ、今から行く?」
現在時刻は午前三時。まだ夜明けまで一時間から二時間ある。探索を続けるのは可能だ。それでも、私は首を横に振る。
「ううん。さすがに疲れたし、休もう」
「了解」
私達は寝袋を広げて、中に入る。すると、アカリが昨日よりも近くに寝袋を広げていた。
「どうしたの?」
「ハクちゃんの元気がないなぁって思ったから、久しぶりにくっついて寝ようかなって」
確かに、シャドウ達に負けた事もあって、ちょっと元気はなかったけど、意気消沈まではいってないのに、アカリにはすぐ気付かれた。
だからって、寄り添って寝て貰う必要はないのに。そこまで考えたところで、これが私だけの事じゃないと気付いた。アカリの方も負けた事で落ち込んでいた。それに気付けないぐらいには、私も周りを見られていなかった。
私は、寝袋ごと自分の位置をずらして、アカリに近づく。
「並んで寝るのは、結構久しぶりかも」
「えっと……最後は、小学校くらいかな? 中学からは別々に寝てたもんね。いっそのこと、一緒の寝袋に入る?」
「それは、物理的に厳しいものがあるんじゃない?」
私達が寝ているのは、一人用の寝袋なので、二人で入ったらギチギチになってしまう。
「じゃあ、今度は二人用の寝袋を買わないとね」
「そんなもの売ってなかったでしょ。そういうのは、現実でね」
「キャンプに行く機会なんてあるかな?」
「キャンプじゃなくても、泊まりの時に同じベッドで寝れば良いでしょ」
「なるほど。次のお泊まりが楽しみだね」
「まぁ、いつするか分からないけどね」
私達は互いに顔を見合わせて、笑い合う。いつの間にか、二人ともいつも通りに戻っていた。やっぱりアカリと一緒に話しているだけでも、元気は出て来る。
「それじゃあ、そろそろ寝る」
「うん。おやすみ」
私とアカリは、二人並んで眠りについた。ほぼほぼくっついて寝ていたけど、両端に空間が出来ているので、特に狭いという感覚はなかった。
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五時間睡眠をとって、目を覚ました私は、身体を解しながら起き上がる。不思議とすっきり目を覚ましたので、このまま二度寝をするのは無理そう。隣では、まだアカリが寝息を立てている。
アカリの寝顔は可愛い。容姿端麗に設定したエルフだから、寝顔だけで美術品級の綺麗さがある。まぁ、現実世界での光も十分可愛いけど。
アカリの頬に軽く撫でると、アカリの瞼が開いた。
「あっ、ごめん。起こしちゃったね」
「ううん……大丈夫。ふわぁ~……もう朝だね。まだ寝る?」
「完全に起きちゃったから、全然眠くないんだよね」
私がそう言うのと、アカリが身体を伸ばして起きるのは同時だった。アカリも二度寝をする気はないみたい。
「それじゃあ、洞窟に行く?」
「ううん。逆に山を登ろう。【感知】を信じて良いのなら、山の表面にはモンスターはいないんだし」
「ハクちゃんは大丈夫なの?」
「大丈夫。アカリが作ってくれた日傘があるからね」
「ハクちゃんがそう言うのなら、そうしようか」
アカリは、ちょっと嬉しそうにしながら寝袋を仕舞った。私も寝袋を仕舞って、テントの外に出る。
テントから出てすぐに周囲を見回して、寝る前と何か変わった事がないかを確認する。見た感じ、特に何も変わっていない。プレイヤーが来ているという事もない。
「穴場?」
「それか、中級エリアで足踏みしているかだね」
私に続いて出て来たアカリが、私の呟きを聞いてそう言った。私達は、モンスターの少ない場所を私の全速力で突破して、どうしても戦う事が避けられないところだけ戦うという形で無理矢理切り抜けた形だ。
でも、時間を掛ければ切り抜けられた可能性は高いと思う。対応自体は問題無く出来ていたわけだし。
「ブラックレオパルド自体と戦った経験があるプレイヤーも少ないと思うし、苦戦するんじゃないかな?」
「まぁ、私もあまり戦えてないし、そうかもしれないね」
通常エリアでのブラックレオパルドとの遭遇率は、かなり低い。だから、新人プレイヤーになる程、ブラックレオパルドと戦った経験が少なくなる。
中級エリアに苦戦するプレイヤーは、意外と多いのかもしれない。
私が日傘を差していると、アカリがテントを仕舞った。これで準備は完了だ。
「それじゃあ、登山頑張ろ~!」
「お~」
テンションの高いアカリと一緒に、また山に向かって歩き始めた。