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上級エリアの洗礼

 アカリが回復薬を飲みながら血を与えてくれたので、HPはしっかりと持ち直した。このHPの減少は、五分程続いてから落ち着いた。


「ふぅ……ありがとう」

「ううん。大丈夫?」

「大丈夫……だと思う。身体の麻痺も取れたし、HPの減少もなくなったから」


 何か身体に変わったところはないか見てみるけど、自分からはよく分からない。アカリが私の身体のあっちこっちを触って確かめてくれるけど、アカリも首を横に振った。私の身体が変わったという点はなさそうだ。

 次に考えられる事は、スキルの変化だ。ログには、何も残っていないので、ウィンドウで情報が出た事はない。だから、自分のスキルを確認する。


────────────────────────


ハク:【剣Lv45】【短剣Lv39】【双剣Lv18】【格闘Lv31】【拳Lv18】【蹴りLv25】【魔法才能Lv30】【支援魔法才能Lv30】【吸血鬼Lv45】【血装術Lv22】【夜霧Lv12】【執行者Lv40】【豪腕Lv23】【感知Lv6】

控え:【HP強化Lv38】【物理攻撃強化Lv35】【速度強化Lv40】【運強化Lv28】【脚力強化Lv50】【毒耐性Lv7】【麻痺耐性Lv6】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv1】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv4】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【消化促進Lv26】【言語学Lv10】

SP:98


────────────────────────


 【吸血鬼】が馬鹿みたいにレベルアップしている。それと【麻痺耐性】も上がっていた。それ以外は、普通に戦闘で上がったような感じだ。


「スキルにボーナスが入っただけ?」

「レベルは跳ね上がっているから、その可能性もあるかもね。収得可能スキルの方は?」

「えっと……」


 アカリに言われて、収得可能なスキルを確認する。軽く見ていくけど、特に何か増えた感じはしない。一番怪しかった耐性スキルも前からあるものばかりだ。


「何もない」

「そうなんだ。ハクちゃんの様子を見たら、私の血を飲んだ時と同じなのかなって思ったから、聖属性耐性みたいなのを取れるようになっているかと思ったんだけど」

「ないね。てか、アカリの血を飲ませてくれなくても良かったのに。回復薬を無駄に消費したでしょ」

「無駄なんかじゃないよ。ハクちゃんのためだもん。それに、回復薬は、千単位で購入しておいたから、全然大丈夫。中級回復薬って、一つ上の回復薬も用意してきたからね。いざって時に、ハクちゃんの回復が出来るようにね」


 聞き覚えのないものまで買っていた。アカリは、本当に用意周到だ。ただ、私の回復のためっていうのは、どうなのだろう。まぁ、嬉しい事と言えば嬉しい事だけど、申し訳なさもある。


「ありがとう」

「うん。取り敢えず、今日はこれくらいにする?」

「ううん。身体の調子が悪くなったわけじゃないし、一時的なものだったから、このまま攻略を続けよう」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫なはず」


 アカリは心配そうだったけど、私が大丈夫と言ったので、渋々頷いた。洞窟攻略の続きを始めるために立ち上がる。宝箱は、私が血を飲んで苦しんでいる間に消えていた。役目を終えた宝箱は消える仕様になっているみたい。後から来る人ががっかりしないようにって感じかな。


「あっ、ハクちゃん。一つだけ約束して。次、宝箱から血が出て来てもすぐに飲んじゃ駄目! 良い!?」


 アカリは腰に手を当てながら怒った。確かに、あそこで死にかけたのだから、アカリが怒るのも無理はない。


「あ、うん。安地に戻ってからにする」


 私がそう返事をすると、アカリは満足したように頷いた。安地の中なら、急にモンスターに襲われる恐れもない。だから、私が動けなくなっても問題が生じないというメリットがある。

 そんな約束をして、攻略を再開する。すぐにソードシャドウと戦闘になったけど、問題無く身体は動く。さっきの血の影響は残っていない事で間違いはない。


「問題無さそう?」

「うん。何も変わらない。本当に、【吸血鬼】のボーナスだったのかも」

「生産スキルには、それに合った道具を。その他のスキルには、レベルが上がるような何かが入っているって感じなのかな?」

「あり得るね。戦闘系スキルでは何が出るのか気になるところだけど」

「う~ん……武器とか? その材料とか?」

「材料の可能性の方が高いかな。まぁ、答えは出ないし、先に行こう」

「うん」


 身体に何も問題がないという事が分かったので、私達は適当に洞窟を進んで行く。目的は最奥というよりも、マップ埋めって感じだ。宝箱があるという事が分かれば、さらに宝箱が欲しくなるのがゲーマーの恒だ。

 分かれ道を潰しながら少しずつ奥に入っていくと、モンスターの数が増えて、エンカウントする確率が増えてきた。【感知】のおかげで、モンスターを避けられるかとも思ったけど、そこまで広いわけでもない洞窟の通路なので、モンスターを避けて進む事は困難だった。

 そして、一番ヤバい状況が、複数のモンスターとの鉢合わせ。今までは、モンスター同士の距離があったから、そんな状況にならなかったけど、今、目の前にその状況がやって来た。


「敵は……ソードシャドウとスピアシャドウだね」

「アカリは、どっちの方が相手をしやすい?」

「どちらかと言うと、ソードの方がやりやすいと思う」

「それじゃあ、私はスピアをやる」


 本当は、互いに互いを補って戦うのが良いのだけど、槍持ちは、間合いが広い。的確に援護をしてきて、私達の動きが阻害される事は間違いない。モンスターが、どの程度連携してくるか分からないけど、連携を取られたら、防戦一方になる事が予測される。

 それをアカリも分かっていた。だから、これに関して文句は言わない。

 ソードシャドウを先頭に、突っ込んでくる。長く話し合いしている暇はない。私は、思いっきり踏み切って、右斜め前の壁に突っ込む。

 そして、その壁を蹴って、ソードシャドウの奥にいるスピアシャドウに突っ込む。ソードシャドウの間合いも通るけど、こっちの速度が速いから、あっちの攻撃は間に合わない。


「【双月】」


【血装術】を使った血刃の双剣をスピアシャドウに叩き込む。スピアシャドウは、長い柄を使って、私の攻撃を防いだ。

 だけど、武器を攻撃したので、そのまま少しだけ押すことが出来た。これで、ソードシャドウとの間に距離が出来る。これで、二体の連携は取りにくくなった。それは、逆に私とアカリの連携も取りにくくなった事を表している。

 スピアシャドウを押している間に、技の硬直時間が終わる。地面に着地するや否や、連続で短剣を振う。右の短剣で上から振り下ろし、即座に左の短剣と共に振り上げる。槍が少し浮いて、隙が生まれたら、左の短剣を突き刺す。スピアシャドウの身体に突き刺さる。

 そこにスピアシャドウの蹴りが放たれるけど、大体の行動パターンは、もう知っているので、お腹を硬質化して防ぐ。

 こっちも押されてしまい、少し間合いが空いてしまう。こうなると、槍が突き出される。双剣を横から叩きつけて、攻撃を逸らす。そのまま内側に潜り込んで、滅多斬りにする。振われる拳や蹴りを紙一重で避けながら、どんどん攻撃を続ける。

 スピアシャドウとの戦いは、武器を使わせずに、ひたすら間合いの内側で戦うのが基本となる。柄を使った細かい攻撃や拳、蹴りを捌きつつ、常に離れないように動き続け、地道にHPを削っていく。

 アカリが援護に入れない現状で、この戦いを続けるのは、割と精神を消耗する。ましてや、私が倒れれば、アカリが圧倒的不利になるのだから、余計にのめり込んでしまう。

 そうして、五割削ったところで、四分が経過してしまう。血刃の双剣に施した【血装術】が効果を失う。スピアシャドウの攻撃を避けつつ、最短で血刃の双剣を納めて、血染めの短剣を抜く。

 攻撃の密度が薄くなり、ダメージを与える回数が減る。それに伴って、向こうの攻撃回数が増える。左手を硬質化させて、短剣代わりにして何とか攻撃を防げてはいるけど、ちょっとずつ攻撃は受けてしまう。

 そこから三割近くまでHPを削ったところで、急に嫌な予感がした。ここにいたらまずい。そう思うのと同時に、スピアシャドウの身体を突き抜けて、矢が飛んできた。ギリギリで硬質化を胸に移したのが間に合って、貫かれはしなかったけど、ノックバックを受ける。

 いつの間にか、ボウシャドウが近くまで来ていた。これで三対二になってしまった。

 距離が出来たことで、スピアシャドウの槍が、私の胸に向かって突き出される。硬質化を解いていないので、貫かれはしないけど、やっぱりノックバックを受ける。


「ハクちゃん!」


 アカリの声と同時に背筋がゾクッっとした。反射的にその場でしゃがむ。頭頂部すれすれをソードシャドウの剣が通り過ぎた。同時に、目の前にスピアシャドウの槍が突き出されるので、短剣で逸らし、さらに後ろから飛んできた矢を掴み取る。全部考えるより身体が動いたという感じだ。

 でも、ここからは自分で動かないといけない。まず、身体を仰向けにする過程で、ソードシャドウの剣を蹴り飛ばす。スピアシャドウに背を向ける形になり、槍が背後から突き出される。そこに割って入ってきたアカリが、槍を逸らす。

 すぐにアカリの前に回り込んだ私は、放たれてきた矢を短剣で打ち払い、そのままスピアシャドウに接近する。


「【ラピッドファイア】」


 赤ゲージに突入していたスピアシャドウに二十連撃を叩き込んで、無理矢理倒した。技後硬直で止まる私に向かって、矢が二本飛んでくる。隙を晒したことで、ボウシャドウが攻勢に出たのだ。その矢を打ち払おうとしたアカリの背中に剣が刺さった。私が蹴り飛ばした剣を拾ってきたソードシャドウの仕業だ。そのせいで攻撃タイミングを逸したアカリの胸に矢が二本刺さる。

 硬直が解けた私は、即座に背後にいるソードシャドウに後ろ蹴りをしたけど、命中した影が飛んだだけで、ソードシャドウ自体はノックバックしない。


「ちっ!!」


 思わず舌打ちが漏れる。ソードシャドウをどうにかする事を諦めて、アカリの腰に手を回して前に移動する事で、アカリの背中から剣を引き抜く。

 アカリのHPは既に赤ゲージ。すぐに回復しないといけない。回復薬を取りだして、アカリの口に突っ込んだのと同時に、嫌な予感に襲われる。即座にアカリを抱き寄せて、ソードシャドウの攻撃を短剣で防ぎ、背中でボウシャドウの矢を受ける。


「んっ……!?」


 矢を受けたのと同時に、手が痺れた。麻痺状態のアイコンが見える。ボウシャドウの矢には、状態異常を与えるものが含まれているらしい。ずっと矢を打ち払っていたから、全く気付かなかった。どうりで、アカリが動かないわけだ。

 判断が遅れて、背中に矢が刺さっていく。そして、正面からソードシャドウが、剣を突き出してくる。短剣で防ごうと思ったけど、麻痺のせいで上手く動かせない。


「ごめん、アカリ」

「ううん」


 アカリの背中を突き刺して、そのまま貫いた剣が、私も貫いた。二人とも突き刺さったままの継続ダメージを受け続ける。私には矢が飛んで来て、それによるダメージも重なる。

 もう抵抗も出来ないと判断した私は、最後にアカリをぎゅっと抱きしめた。

 それから間もなく、私達は死亡した。

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