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吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ  作者: 月輪林檎
出会いを楽しむ吸血少女

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恨みと恨み

 こんな話をした後でもソロモンさんは一歩前に出た。


「ふむ。面白い。契約しよう」


 ソロモンさんがそう言うと、急にゴエティア飛び出してきた。同時に私の胸辺りから小さな鍵が出て来た。聖冥の鍵かと思ったけど、そうじゃない。じゃあ何かと聞かれたら、全く分からないけど。

 次にゴエティアに鎖が巻き付いていく。そして、その鎖に南京錠が掛けられて、そこに鍵が差し込まれる。自動的に鍵が回るとゴエティアが五つの本にバラけて、もう一度一つに戻った。


「何が起こってるの?」

「これがゴエティアの真の姿だ。レメゲトン。悪魔と天使、精霊、魔術を内包する本だ。そして、これは私の力の一つだ。必要ないだろうが保険の一つとして持っておくと良い」


 ソロモンさんがそう言うと、目の前にウィンドウが現れる。それと同時にソロモンさんの姿が綺麗な女性のものに変わる。


『条件を満たしました。【ゴエティア】を【レメゲトン】に強制進化します』

『【ソロモンの指輪】を獲得』


────────────────────


【レメゲトン】:あらゆる悪魔、天使を従者として使役する事が出来る。悪魔と天使が自分の言う事を完全に聞くようになる。悪魔、天使、精霊のステータスが大幅に上昇する。魔法の効果が大幅に上昇する。控えでも効果を発揮する。


【ソロモンの指輪】:悪魔や天使を強制的に使役する事が出来る。控えでも効果を発揮する。


────────────────────


 強いスキルだ。凶暴な相手が出て来たら、一旦これで使役して話をするのが良さそう。まぁ、アスタロト達がいるから大丈夫だとは思うけど。


「ふむ。なるほどな。これは引っ張られたというのが正しいか。面白い現象だ」


 ソロモンさんはそう言うと一旦下がっていった。他の人達に順番を譲るためだろう。アスタロトがあっかんべーをしている。本当に嫌いなのだとよく分かる。そのせいかアスタロトがべったりとしてくる。まぁ、良いか。


「ブリュンヒルデさんは落ち着きましたか?」

「ええ……」


 そう返事をするブリュンヒルデさんは苛立ちを覚えているようだけど、上っていった血は落ち着いたようだ。


「それで、どうしてあのような事を?」

「あいつは、私を騙して結婚させたの。私が愛した人は、あの人じゃなかった! あいつがあの人の振りをしていたのよ! 皆……私を騙した……私の恋を……愛を……弄んだのよ!」


 思ったよりも深刻な問題だった。ブリュンヒルデさんの中に憎悪が渦巻いている事がそれを証明している。これを見たグィネヴィアさんが、軽く俯いて自分の腕を力強く掴んでいるのが見えた。男女関係の問題。グィネヴィアさんも他人事として思えないのだろう。

 グィネヴィアさんは、どちらかと言えばブリュンヒルデさんを傷付けた側と同じだから。


「これに関して、何か言いたい事はありますか?」


 私は男女の二人組に近づいて訊く。女性の方からは怒りを感じる。さっきの話からすればブリュンヒルデさんがこの男を殺したという風に考えられる。最愛の人を殺された恨みが強いのは、どこでも同じだ。

 でも、ブリュンヒルデさんは、自分の最愛すらも弄ばれた。その恨みはこの人と同等だろう。


「ない。全て事実だ。俺は彼女を騙して、別のやつと結婚させた。それを頼まれたからだ。申し開きもない。ここで俺を消滅させても構わない。だが、クリームヒルトだけは助けてくれ。頼む」


 ジークフリートさんはそう言って頭を下げた。


「なっ!? ジークフリートを殺すなら私も殺しなさい!」


 ジークフリートさんとクリームヒルトさんが愛し合っている事は分かる。色々と複雑な問題だ。私が処理して良いものでもないし、取り敢えず、全員の拘束を解く。


「一つ。私は誰かを消滅させようとは思っていません。消滅させる事は出来ますが、そうしなくても解決する事が出来ると思うからです。互いに殺す事が解決というのは、野蛮です。それが正しいとしても、私はそれを好みません。そういうのは、会話も出来ないゴミに対して行う事です。でも、お三方は話す事が出来るでしょ? 一旦落ち着いて三人で話し合いましょう」


 私がそう言うと、ブリュンヒルデさんとクリームヒルトさんが互いに睨み合った。ひとまず仲裁に私が入っての話し合いになるかな。邪聖教みたいな相手じゃないのなら、ちゃんと話し合って解決をする事が出来ると私は信じている。あれは会話が可能な生き物じゃないから。

 自由になったジークフリートさんは、真っ先にブリュンヒルデさんに頭を下げた。


「謝罪をしたところで納得は出来ないだろう。だが、まずは謝罪をさせて欲しい。申し訳なかった。俺達がした事は、君の尊厳を穢す事だった」

「…………」


 ブリュンヒルデさんは眉間に皺を寄せていた。そんなブリュンヒルデさんの手を取って握る。すると、ブリュンヒルデさんは私の事をジッと見た。


「絶対に許さないといけないという事はありません。ですが、相手の気持ちを無視して聞かないのは良くないと思います。謝罪を受け入れるか入れないか。それだけは答えても良いと思いますよ。謝罪を謝罪として受け入れたとして、それに対して許す許さないの返事もです。私達には対話を可能にする口と言葉があるんですから」

「…………」


 私の考えが正しいとは口が裂けても言えない。だけど、このまま平行線でいる事が正しい事とも思えない。上辺だけの謝罪に思えるのなら受け入れなければ良いし、心の底からの謝罪とするなら謝罪として受け入れれば良い。でも、それと許す許さないは別だ。


「はぁ……」


 ブリュンヒルデさんは私の頭を撫でると、真っ直ぐジークフリートさんを見る。


「謝罪は分かった。でも、あなたがした事を許すつもりはない。永遠に己が罪として持っておきなさい。私も間接的にあなたを殺した事を謝罪するわ」

「されても仕方のない事だ。俺は許す。クリームヒルトも許せ」

「なっ!?」

「この件は俺達が全面的に悪い。お前もブリュンヒルデが全て悪いなどとは思っていないだろう? そもそも直接的に俺を殺した相手に復讐したと聞いたしな」

「それは……そうだけど……」


 クリームヒルトさんは、ジッとブリュンヒルデさんを見てからジークフリートさんを見る。そして、一度俯くと真っ直ぐブリュンヒルデさんを見た。


「私も悪かったわ……」

「私もごめんなさい」


 クリームヒルトさんとブリュンヒルデさんは、互いに険が取れた感じだった。完全に許し合う事は出来ないけど、少しずつ歩み寄る事は出来そうかな。

 当人間での解決が上手くいく事を祈ろう。アーサーさんやグィネヴィアさん、ランスロットさん、モードレッドさんのように。

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