???の血瓶
戦闘終了直後、血刃の双剣に施していた【血装術】が解けた。本当に時間ギリギリでの勝利だったみたいだ。まぁ、血刃の双剣がなくても血染めの短剣があるから、ある程度は戦えていたはずだけど。
「ふぅ……」
アカリも一息ついていた。たった一戦。それも集団戦では無く、たった一体との戦いで、この状態になっている。ここがこれまでのエリアと段違いで難易度が高いと認識出来る。
「クリティカル判定が見つからなかったなぁ……」
アカリが細剣を納めながら呟く。
ここまでのアカリの戦闘からも分かる通り、アカリはクリティカルを狙っていくスタイルで戦っている。私も基本的には、弱点になっている首とかを狙うけど、アカリ程正確に狙える自信はない。
今回の戦いで、アカリはソードシャドウのクリティカル判定になる弱点を探していたみたいだ。全体を突いたりしていたのも、そういう意味があったのだと思う。
「えっと……ドロップアイテムは、影の渦ってものだけだし、核持ちの可能性は低いんじゃない?」
「じゃあ、魔法が弱点かな。さすがに、弱点無しなわけ……ないよね?」
「あり得るんじゃない?」
「弱点無しか……他の人達も苦戦しそうだね。特にタンクがいないパーティーとかは苦労する気がする」
「ここをソロで切り抜けるのは、正直至難の業だと思う。フレ姉とかソルさんとかなら、異常に強いから大丈夫かもだけど」
ソードシャドウの厄介なところは、実体があるようでないところだ。ダメージが通るから、実体があると判断したくなるけど、斬った箇所がぱっくりと割れても、すぐに元通りに戻るという点で厳密に言えば実体はないという風に判断出来る。
そこの何が厄介かと言うと、身体を攻撃してもノックバックがない事だ。ブラックレオパルドとの戦いで、何度も相手を怯ませて行動をキャンセルしていた通り、私は蹴りや殴りで動きを阻害して、こっちのターンを続けるという戦い方をする事がある。その点で必須なのは、ノックバックなどの攻撃に対して反応をしてくれる事だ。
剣を蹴ればどうにか似たようか事は出来るけど、ソードシャドウは、すぐに剣を取りに移動を開始してしまうので、どうしても攻撃がしにくい。
こういう相手は、アカリと話した通り、正面から正攻法で戦えるようになるのが、一番楽に倒せる戦い方だと私は考えている。
ただ、あそこまで剣に執着しているというところから、ある一つの推測も出来る。
「もしかしたら、あの剣が核だったりしてね」
「剣を破壊したら、即死って事?」
「うん。可能性は本当に低いと思うけど」
私に対して殴りや蹴りをしてきている事から、剣がなくても戦えるのは事実だ。だから、あそこまで剣に執着する理由が、自分を構成する重要なものだからと捉える事が出来る。つまり、スライムなどで言う核だ。
それで攻撃しているから、可能性は限りなく低いと考えられる。もしかしたら、アサルトバードみたいに自爆覚悟の特攻みたいな事も考えられるけどね。
「ここら辺の情報は、明日フレイさんやアクアさんに訊いてみると良いかもね」
「確かに。取り敢えず、何度か挑んで、相手の行動パターンを分析していこう。出来る事なら、吸血したいけど……」
「出来るの?」
アカリが、ちょっと驚いたような表情で私を見ながら訊いてくる。
「分からないけど、あれが夜霧の執行者の中身的なものなら、吸えると思う。スライムの身体も吸えるくらいだしね」
「頑張ってやってみる?」
私がやりたいと言えば、アカリは即答で協力してくれるだろう。私は、五秒程考えて、答えを出す。
「いや、やめとく。普通に危険だし」
「分かった。それじゃあ、普通に戦う感じね」
「無理は禁物。無理だと判断したら、撤退で」
「了解」
ここのモンスターが強いことを知った私とアカリは、ゆっくりと洞窟を進んで行く。この洞窟は、専用のマップがあるみたいで、外の地図とは別にマッピングがされていた。複数の分かれ道があり、複雑に入り組んでいるみたい。
何度かモンスターと戦闘になった。スピアシャドウ、ボウシャドウ、アックスシャドウ、そして、先程も戦ったソードシャドウ全部で四種のモンスターだ。ソード以外の三種は、懐に潜れば、比較的楽に倒す事が出来た。楽と言っても、それはソードと比べたらの話で、ブラックレオパルド達に比べると、とても苦戦した。
ダメージを受けたのも一度や二度じゃない。それでも死に至るまでダメージを受けるという事はなかった。上手く立ち回れているという事だから、良い事ではあるはず。
そんな感じで進んでいると、分かれ道の先に目を引くものが置いてあった。私は、反対側の分かれ道を覗いていたアカリの肩を軽く叩く。
「アカリ、アカリ」
「どうしたの?」
「ほら、あれ見て!」
「ん? あっ!! 宝箱!!」
分かれ道の先には、宝箱が置かれていた。一応、【感知】に反応はない。
「ミミックじゃないよね?」
「開けるまでモンスターかどうか分からないタイプかもよ。一番厄介なやつ」
「うわぁ……あり得そうだね……どうする?」
「まぁ、開けるしかないでしょ。アカリは、いつでも攻撃出来るように構えてて」
「うん」
アカリが細剣を抜いて、いつでも突き刺せるように構える。私は、ゆっくりと宝箱に手を掛けて、蓋を開ける。幸い、そこから手が伸びてきて、私を攻撃してくるなんて事はなかった。
「ん? 何これ?」
宝箱の中には、赤い液体が入った瓶が一本と針と鋏が一つずつ入っていた。
「何だろう? 針と鋏?」
「後はこれね。血かな?」
アカリは針と鋏を、私は液体の入った瓶を持って名前とフレーバーテキストを見る。
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???の血瓶:保存状態の良い血が入った瓶。何の血かは不明。
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結局血の入った瓶という事しか分からなかった。
「よく分からない血だった。アカリの方は?」
「職人の針と鋏だって。裁縫をするのに、補正が掛かるっぽい。私達が持っているスキルの中で、一番高いものに関するものが出てくる感じかな?」
「そうかもね。そうじゃないと、こんなジャンルが違うアイテムが出て来るとは思えないし。そもそも、血瓶なんて出て来ても普通の人は困るだけだろうし」
「それは確かに」
私は、血が入った瓶をジッと見る。
「う~ん……気になるし、飲んでみようかな」
「うぇっ!? 飲むの!?」
「だって、保存状態は良いらしいし、アカリが針と鋏なのに、私は血だよ? 飲めって言われているみたいじゃない?」
「まぁ……そうなのかな……?」
アカリからの了承(?)もとれたところで、瓶の蓋を開けて呷る。口の中に血が流れ込んでくると、覚悟していた味は襲ってこなかった。何というか美味しい。匂いも血の匂いだけど、吐き気なんてしない。血の味と血の匂いなのに、気持ち悪くならない。それが逆に気持ち悪い。
「美味しい……」
「へぇ~、良かったね。私のとどっちが美味しい?」
「こっち」
「ふ~ん……」
何故かアカリの機嫌が少し悪くなった。自分の血に自信でもあったのだろうか。まぁ、普通の魔物の血よりは遙かに美味しくはあるのだけど。
その事にツッコもうと思ったら、急に身体中がピリッと痺れた。
「あぐっ……」
立っていられず、膝を突く事になった。すぐにアカリが駆け寄ってくれる。
「ハクちゃん!?」
「何か……身体が熱い? 痛い? よく分からない……けど……まずい」
痺れは残っているけど、身体中が熱いような痛いような感じが広がっている。立っていられない。アカリが支えてくれるので、地べたに寝るという事はないけど、アカリには寄りかかってしまう。
「HPが……これ飲んで!」
アカリは、すぐに回復薬を取りだして、私に飲ませてくれる。アカリに言われて気付いたけど、HPが減っていっていた。アカリの回復薬のおかげで、ある程度抵抗出来ているけど、飲み続けないと危なそう。
「アカリ……血の方が良い」
「血? ああ、そうか!」
私は、回復薬以外にも血という回復手段がある。でも、アカリには回復薬しかない。なので、回復薬を無駄に使うよりも血で回復した方が、アカリの分の回復薬が残るから良いはず。
幸い、ここに来るまでにブラックレオパルドの血が沢山手に入っているし。それをくれればと思っていると、アカリは胸元をはだけさせて、首を晒した。
「はい! 血!」
「いや、そっちじゃなくて……」
ブラックレオパルドの方と言おうとするけど、アカリが首を口に押し付けてくるので、仕方なくアカリから血を吸う。
これじゃあ、アカリに配慮した意味がないけど、アカリは必死で気付いていない。そこがアカリらしいかな。




