怪物達の母
私が気付いたように、ニュクスさんを初めとした神様達も気付いたらしい。
『お姉様。地上と空から来ます。数は多いです』
「どっちが多い?」
『どちらも多いですが、地上の方が大きな個体が多いです。ですが、敵意があるような感覚ではありません』
「オッケー。じゃあ、皆攻撃はしないで。ひとまず待機!」
皆で待っていると、本当に色々とやって来た。遠くからでも見えるような巨体の持ち主とかもいる。
「……本当に大丈夫かな?」
「問題ない。何かあればカーリーが暴れるだろう」
シヴァさんがそう言うと、カーリーさんが手のひらに拳を叩き込んでいた。戦わない可能性が高いのだから、そこまで張り切らなくても良いのに。
私達の前に集合したのは、蛇やら鳥やらドラゴンやら狼やら馬やら多種多様な生物だったり、その一部を持った怪物だった。
「エキドナ?」
メデューサさんが私の隣に並んで名前を呼ぶ。すると、下半身が蛇になっている女性が笑顔で近づいてきた。よく見ると、背中には鳥の翼が生えている。今は畳んでいるから、ぱっと見では気付かなかった。
「お祖母様」
「お祖母様!?」
メデューサさんの孫という事で驚いてしまった。メデューサさんは、複雑そうな表情をしながら私の頭を小突いた。
「孫がいて悪い? 孫どころか曾孫もいるわよ。そこにいるペガサスだって、私の子供よ」
『ブルルッ』
メデューサさんがそう言うと、背中から翼が生えた馬が前に出て来た。本当に一目見てペガサスだと分かる見た目だ。
「初めまして。このような身体で驚かせてしまい申し訳ありません。私の名はエキドナと申します。安住の地があるという感覚を得た事で、こちらに来ました。恐らくは、他の者達も同じ考えでしょう。唐突にこの場所に連れて来られて不安を覚えていましたので」
どうやらメデューサさん達と同じようにイベントエリアに連れて来られて不安を覚えていたらしい。この場所で奇跡を起こしたことで、この場所に安住の地があると感じたみたい。奇跡の力を皆は安心感として受け取ったみたいだ。
「そうなんですね。近くにいてくれて良かったです」
「大分遠くにいた者もいますが、すぐに移動を始めていたのか全員が合流する形になりました。このような大勢で来てしまい、驚かせたと思います。そちらも謝罪致します」
「いえ、お気になさらず。でも、すみません。ここが安住の地という訳では無くて……私がただ奇跡を起こしていただけでして……」
「いや、ハクの世界の事ではないか?」
アーサーさんが少し呆れたような表情をしながらそう言う。
「え? あっ! そういう事……」
私は、ここにいた霊達をギルドエリアに送った。その際に一時的に繋がった事で、ギルドエリアの存在を感じ取り、ここに向かってきたという感じみたいだ。いや、恐らくはキャメロットの時から感じ取られていたのかもしれない。
「じゃあ、皆さん、うちに来ますか? 安住の地と言い切ってしまうのは、ちょっと恥ずかしいですが、皆さんが安心して暮らせる場所の提供は出来るかもしれません」
「良いのですか? この中には災厄などを司る者もいますが……」
「私自身が災厄の塊みたいなものですし、そういった神様も普通に暮らしていますので、問題ありませんよ」
私がそう言うと、集まってきた皆が喜んでいる事が分かった。本当に安全な場所が欲しかったみたいだ。
「ありがとうございます。では、私の子供達も紹介させて頂きます」
エキドナさんがそう言うと、一部が前に出た。
「まずは、ケルベロスとオルトロスです」
三つ首の犬と双頭の犬が前に出る。というか、オルトロスってモンスターにいたはず。
「あの……私、オルトロスを沢山倒しちゃっているんですけど……」
お詫びにもならないと思うけど、怖ず怖ずとそう言ったら一瞬エキドナさんが困惑した後、何かを理解したように手を打った。
「ああ、地上にいるオルトロスは、この子の模造です。世界の再構築の際にそういった事が起こり、この子よりも弱い個体になりますが、沢山生まれているようです。明確な意思を持つ個体は少ないですし、倒して貰っても問題ありません」
「あ、なるほど……」
そういう設定になっているらしい。ちょっとだけ安心した。ここで喧嘩になりたくないし。ケルベロスとオルトロスが近づいて来て挨拶をするので、私は頭を撫でてあげる 全部で五つの頭だけど、普段もっと沢山撫でているので、特に気にもならなかった。
「続いて、ヒュドラーです」
続いて前に出て来たのは、九つの首を持つ蛇だった。かなり大きい。セイちゃんよりも大きいかもしれない。セイちゃんで慣れていなかったら危なかっただろう。
「よろしくね」
頭を撫でてあげようとしたら、九つの首に巻き付かれた。感覚的にはハグに近いのかな。害がないと分かっていなければ、このまま絞め殺されるのではないかと思ってしまう。
満足したヒュドラーはそのまま下がっていった。
「次は、デルピュネーとスピンクスです」
「は、初めまして! デルピュネーです!」
「スピンクスと申します」
デルピュネーさんは、エキドナさんと同じ上半身が女性で下半身が蛇のような竜のような女性だ。ちょっと気弱な部分があるのかおどおどとしている。
対してスピンクスさんは、ライオンの身体に女性の上半身が生えており、手の代わりに翼が生えている方だった。理知的な雰囲気がある。
「次は、キマイラとパイアです」
現れたのは、ライオンと頭と下半身、山羊の頭と上半身を持ち、尻尾が蛇のキメラみたいな生物だった。キマイラ自体がキメラの語源だから、キメラっぽいのは当たり前だ。継ぎ接ぎとはなく、造られた存在とは感じない。若干怖さはあるけど、怯える程ではないので、その頭を軽く撫でてあげる。
その次に現れた方が分かりやすい。大きな猪だから。大きすぎてびっくりするけど。私よりも大きいから。
「ここに連れて来られたのは、これで全員です」
「他にもいるんですか?」
「はい。何人かいます。恐らくは元気にやっている事でしょう」
そう言ってからエキドナさんは空を見る。釣られて空を見ると、ゼウスさんが全力で戦っている事が分かるような稲妻が空を走っていった。
「あの人も楽しそう。早く理性を取り戻してくれると良いのだけど」
「ゼウスさんですか?」
「いえ、テューポーンの方です。あの子達の親でもあるので」
「へぇ~……えっ!?」
「スピンクス以外は、テューポーンとの子ですよ」
「あ、へぇ~、そうなんですね……」
エキドナさんとあの凄い化物みたいなテューポーンとの子供がこの子達なのかと驚きを隠せない。人は見かけによらないという事なのかな。まぁ、テューポーンが人なのかは怪しいけど。