フレ姉達に相談
その日の夜。フレ姉とゲルちゃんにギルドエリアの事を相談した。
「また変なスキルを手に入れたものね。ギルドエリアの複数所持だなんて聞いた事がないわよ」
「神格だから、私しか持ってないと思う」
「まぁ、そうね。ただプレイヤーに開放する理由が一つもないわね。お金的にも困っていないのでしょう?」
ゲルちゃんはそう確認してくる。メリットがお金くらいしかないからこその確認だ。
「うん。貯金はいっぱいあるから。アカリエの売上とかも一部が入ってるし」
「なら、本当にやる必要がねぇな。無用なトラブルを生むきっかけになりかねねぇしな。だが、ある意味では他プレイヤーのガス抜きになるかもしれねぇ」
「やっぱり神様との接点?」
ガス抜きと言えば、そこくらいしかない。
「ああ。神域という事もあって、ハクと同じ神に至る奴が出て来る可能性がある。そうなれば、ハクだけに独占されている状態じゃなくなるからな。今のハクの状況を打開するきっかけになるかもしてねぇ。まぁ、望み薄だけどな」
「う~ん……【神力】って、そこまで簡単じゃないんだけどなぁ……」
「アプデで条件が緩和されてる可能性もあんだろ。後はアカリエでも売り切れねぇ量の商品があるんだ。こっちでも販売する分には構わねぇだろ?」
「話を聞く限り、問題を起こすプレイヤーへの対処が出来るのでしょう?」
「うん。ここと同じように追放処分に出来るよ。だから、大きな問題は起こらないと思いたいんだけど……」
「まぁ、これまでの経験で言って厳しいと思うのも仕方ないわよね」
このゲームの中のプレイヤー全員が馬鹿という訳では無い。馬鹿なプレイヤーが大騒ぎをしたり、目立つような行動をするから多く見えるだけだ。だけど、そんなプレイヤーに遭遇しすぎて疑心暗鬼になり過ぎている。
「試しに開いてみるのも良いんじゃねぇか? どうせ後で閉じられんだろ?」
「うん」
「金はいくらあっても困るってもんでもねぇしな。本当にハクがやりたくねぇと思うんならやめとけ」
最終的な選択は私に委ねられる。この操作を出来るのが私しかいないからだ。加えて言えば、私がギルドマスターだからというのもある。
「分かった。じゃあ、プレイヤーに向けた街を作ってみる。もし使わなくなるなら、そのまま移民の人達を住まわせる場所にしても良いしね」
「ああ、移住希望民が来るようになんだったか。確かに、それが良いかもしれねぇな。最初からそれを込みで作ったらどうだ? 移民用の街と共に一部の商業区をプレイヤーに開放する。街全体を荒らされる心配も減るだろ?」
「そっか。こっちに住んで貰うにしても仕事がないしね。向こうで農業とかをしてくれるのなら助かるし、そうしてみる」
「おう。問題があったら言え」
「運営に報告したり色々と出来る事はあるから」
「うん。ありがとう」
二人はそれでログアウトした。連休前で忙しい中で時間を作ってくれたのだから感謝しかない。取り敢えず、これから来るかもしれない移民達のための街を作る事にした。その一部をプレイヤー向けに開放する。
移民向けの街を作るという風に考えた理由の一つは、このメインギルドエリアに住人として住んで貰う事が可能かという点で無理ではないかと考えたからだ。何故なら、ここの住人は、神様と悪魔と天使。人間もいるけど、元々神様の街の住人だったり、そもそも物怖じしないタイプの人だから。
ただの人が、こんな場所で緊張せずに暮らせるかどうかという問題だ。それなら最初からそういう人達に向けた街を別のギルドエリアに用意する方が良いのではと考えた。
「モートソグニルさんに相談しよう」
酒源の里で水の汲み取り機と貯水庫を作っているモートソグニルさんの元に来た。そして、この事を相談してみる。
「なるほどな。分かったぜ。こっちから弟子を向かわせておく。街作りなら、かなり鍛えられんだろ」
「よろしくお願いします」
モートソグニルさんもやる気になってくれた事で、私は最後の一つのギルドエリアを作り出す。また世界樹が光ったから、それが成功している事が分かった。
「取り敢えず、中央広場から離れた場所に商店街を置くつもりです。ここはあまり街の深くに入れたくない人達が入る事になる場所になります。なので、中央広場のポータルに接触させたくありません」
「ふむ。金だけ落とさせるという事だな?」
「はい。宿などもなく、ただ単に物を売る場所とします」
「おう。了解だ」
モートソグニルさんはすぐに頷いてくれた。それなら開放する必要がないのではとなってしまうと思ったけど、こっちの意図をモートソグニルさんも理解してくれた。用があるのはお金だけで人は必要以上に入れない。
街の中の商店街のみの開放。フレ姉達とも話した通りの事をしようとしている。
その後、守護天使と悪魔の家が建てられているのを確認しに向かう。悪魔は悪魔街にあるけど、守護天使の方は、神様住宅街の横に新しい通りを作って建てる事になっていた。悪魔達とは逆方向にした方が喧嘩は少ないだろうから問題はない。まだ家は完成していないから、皆はこっちに来ていない。明日には終わっているだろうから、ここに来るようになるのは明日からかな。
そうして視察をしていると、後ろから手が伸びてきて私を抱きしめた。もうこの手を見ただけで相手が分かるようになった。
「お母さん?」
「ええ……色々とやった……ようね……」
「あはは……セフィロトとクリフォトですか?」
「ええ……」
セフィロトとクリフォトがギルドエリアと繋がった事をニュクスさんも知っていたらしい。まぁ、とても凄いものらしいから神様のほとんどは知っているかな。
「あなたの……身体の中に……色々な力が……流れ込んでいるわ……神格によるものと……二本の樹から……流れ込んでいるわね……」
「はい。経路の力も入り込んでいるので、色々なものから力を受け取っているようです。あまり自覚はないんですけどね」
星やらなんやらから力が流れ込んでいるようだけど、大きな変化としては感じていない。いつものステータス変化による身体の軽さみたいな印象だ。多分戦闘になった時に本気で動いたら分かる感じだと思う。
「そう……」
ニュクスさんはそう言って、私の頭を撫でる。
「いつもよりも……くっつくのは……経路のせいね……」
「うっ……はい……」
無意識にニュクスさんに思いっきりくっついていた。ニュクスさんは母親な訳だし仕方ない。身体を反転させて、正面から抱きつく。すると、ニュクスさんが優しく慈しむように頭を撫でてくれる。それが嬉しくて、更に甘えたくなる。
しばらくニュクスさんの母性に溺れてからログアウトした。ログアウトした後にベッドで恥ずかしさのために身悶えていたのは言うまでもないだろう。




