リリス
ギルドエリアに着くと、すぐにアスタロトが飛んできた。
「主人~……って、リリスぅ!?」
アスタロトはリリスを見て、目を見開いて驚いていた。リリスは、笑顔で手を振っている。
「あら、本当にアスタロトじゃない。なんだか普段と様子が違うようだけれど……寧ろ、こっちが素なのかしら?」
そう言うリリスに対して、アスタロトは嫌な顔をしながら私を抱きしめてくる。
「主人。こいつも従えたのぉ?」
「うん。何かそうなっちゃった。まさか、自分からゴエティアに登録するとは思わなかったから驚いたよ」
「……本来ゴエティアに関係する悪魔じゃないからぁ、主人の方から契約する術はないわねぇ」
どうやらリリスから契約しないと、リリスを従える事は出来ないらしい。そして、リリスは、自分から契約した。その理由は、私に興味を抱いたから。それだけのために縛られるのかと思ったけど、興味本位で行動するのは私も同じようなところがあるので、その行動も絶対にあり得ないとは言い切れない。
「モートソグニルにリリスの屋敷を建てるように願ってくる」
「ありがとう。バエル」
バエルは、モートソグニルさんの元に飛んでいった。リリスの屋敷は用意しないといけないから、これは有り難い。何かアスタロトに捕まっていて、私は動けないし。
「無感情のアスタロトが感情豊かになったものね」
「あんな世界で元気よくしているのなんて、常に欲情しているあなたくらいじゃなぁい? 不安定のリリスぅ」
「不安定?」
気になる言葉があったので、アスタロトに話させるために聞き返す。こちらの意図を即座に理解したアスタロトがすぐに答えてくれる。
「私と同じよぉ。クリフォトに関連する悪魔のよぉ……アィーアツブスと不安定の悪徳に対応する悪魔なのよぉ」
「アイ……え?」
滅茶苦茶発音しにくい。アィーアツブスってどうやって発音しているのだろうか。取り敢えず、そこを気にしすぎても仕方ないので、流しておく事にする。
「まぁ、いいや。それじゃあ、アスタロトとは繋がりのある悪魔って事?」
「まぁ……そうねぇ……」
「クリフォトと繋がっている悪魔は、通常の悪魔よりも力を出せるの。クリフォトから力を送られ続けているからね。その代わり、私達は反転したセフィラであるクリファを守らないといけないのよ。まぁ、大体はその身体に宿しているのだけどね」
「そうなの?」
今の話が本当なら、アスタロトもアディシェスを体内に宿しているという事になる。そういう話を聞いた事がないので、取り敢えず確認してみた。
「まぁ……そうねぇ……アディシェスは体内に入っているわぁ」
「そうなんだ。それって大丈夫なの?」
「大丈夫よぉ。異常がある事ならやらないわぁ」
「ええ。セフィラやクリファを守るために、どの悪魔も天使もやっている事よ」
「ああ、守護天使だっけ? まだ守護天使には会ってないんだよねぇ……リリスは、何か知ってる?」
何か色々とどこかに行っている感じがしたので、リリスなら居場所を知っているのではと思い訊いてみた。
「知らないわよ。悪魔が天使の居場所を知っているわけないじゃない。さすがに、天上界に行ったら痛いもの」
「あ、そういうのはあるんだね」
「当たり前でしょう? それにしても、ちょっと意外だわ」
「何が?」
私が訊くと、リリスは周囲を見回す。特定の何かを見つけたわけじゃないと思うけど、小さく笑っているのが見えた。
「ここ神界でしょう?」
「うん。私の世界だよ。私も神だからね」
「ふふっ……神々の居場所に悪魔ね。本当に意外だわ。悪魔を受け入れられるのは、ご主人様が悪魔の特性を持っているからかしら。それも大罪ね。五つの大罪なんて、本当に凄いわね」
「まぁ、そのうち七つ全部取れそうだけど……」
「そうなの? まぁ、ご主人様なら大丈夫ね」
何か含みのある言い方だ。七つの大罪を揃えたら、何か危ない事が起きたりするのかな。
「何か悪い事が起きたりする?」
「どちらかと言えば、良い事かもしれないわよ」
「それって起こるかどうかも分からないじゃなぁい」
「ご主人様なら起こす可能性が高いわよ」
「まぁ、そうねぇ……」
「何が起こるの?」
ここで訊かずに実際に起きた時の楽しみにする事も出来るけど、それで皆に被害が出る可能性を考えると、先に訊いた方が良い判断した。
「七つの大罪に類する悪魔が召喚されるのよ。後は、ご主人様が悪魔に認められるか、悪魔との戦いに勝利すれば良いのよ」
「何それ? 何でそんな事に?」
「大罪を持つに相応しいかを試されるのよぉ。七つも揃えたら悪魔としての格が大きく上がるからぁ」
「ふ~ん、そうなんだ。リヴァイアサンは倒したけど、皆がいたからなぁ……一人だと勝てるかどうか……まぁ、何とかなるか」
あの時と比べたら今の私は桁違いに強い。例え一人でも、どうにかなる可能性は高いと思う。そう思えるくらいには、自分の強さを自覚しているしね。数と力の暴力になったら厳しいけどね。私の脳みそがだけど。
「そうそう。面白いから一つ力をあげるわ。ご主人様なら得られると思うしね」
「力?」
リリスが私の心臓の上に指を当てる。そこから何か力が流し込まれるような感覚がした。
「夜と色欲の力が強いご主人様は、それをもっと表に出すべきだと思うのよね。それに私達を統べるなら、これくらいの奇跡は起こしてくれないと」
リリスはそう言いながらにやっと笑った。私が奇跡を起こせる事を知っているという感じだ。リリスの力が私の心臓に集中して、心音で一瞬身体が跳ねる。直後に身体の内側から金色の光が溢れ出してきた。その金色の光に赤黒い光も混ざってきた。
同時に世界が脈動したように感じた。
『条件を満たしました。【神格・悪魔】【神格・夜】【神格・色欲】【リリスの寵愛】【クリフォトとの繋がり】【世界に愛されし者】を獲得』
最早驚きすぎて声も出なかった。
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【神格・悪魔】:神の名の下、ありとあらゆる悪魔に神として認知される。全ての悪魔を統べる事が出来るようになり、その力を倍増させる。悪魔としての能力を大幅に上昇させる。控えでも効果を発揮する。
【神格・夜】:神の名の下、夜を支配する力を得る。夜に関するスキルの効果が大幅に上昇する。控えでも効果を発揮する。
【神格・色欲】:神の名の下、全てを魅了する力を得る。魅了の力を支配する事が出来る。全ての魅了に関するスキルの効果が上昇する。控えでも効果を発揮する。
【リリスの寵愛】:夜の女王にして悪魔の女王リリスから寵愛を受けた証。夜と魅了に関するスキルの効果が大幅に上昇する。リリスを介してクリフォトと繋がる。控えでも効果を発揮する。
【クリフォトとの繋がり】:クリフォトより力が流れてくるようになる。控えでも効果を発揮する。
【世界に愛されし者】:世界の理に愛されるようになる。控えでも効果を発揮する。
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