色々と増産
「主人。これなんかどうかしらぁ?」
アスタロトがそう言って持って来たのは、スノウの鱗だった。定期的に剥がれて生え替わるものらしく、結構集まっている。
「スノウの鱗か……何を作ろうかな。適当に血の短剣でも作って入れてみようか」
「面白そうねぇ」
血を使って作った短剣は、血として扱われるのか。その検証が出来る。【鍛冶の吸血鬼】のおかげで、いつもよりも立派な短剣が出来上がった。それをスノウの鱗と一緒に入れる。そうして錬金を始めると、揺れが大きい奇跡の反応が起きた。
「うわぁ……爆発しないと良いなぁ」
安全優先で血の膜を張り防御しておく。激しすぎる音に心配が膨れ上がってくるけど、アスタロトは何か楽しみなのか私を後ろから抱きしめて笑っていた。いや、これ私が何も出来ないのを良いことに匂いを嗅ぎながら頬を擦り付けて笑っている。
魔法陣に手を置かなくて良いのなら、顔面を鷲掴みにしてやるものを。
特に爆発が起こる事もなく反応が終わる。錬金釜には、綺麗な鱗に覆われた短剣が入っていた。名前は氷炎竜血姫の短剣というらしい。そのまま過ぎる気がするけど、そこは置いておいて良い。追加効果に【氷炎】【血纏い】【竜鱗裂き】が付いている。
「良さげな短剣じゃなぁい」
「使う?」
「要らないわぁ」
「そっか」
まぁ、アスタロトの戦闘スタイルは毒と黒竜だから、短剣は必要ないか。取り敢えず、倉庫にでも入れて置こう。
同じようにスノウの鱗と私の血の短剣を入れて錬金すると、奇跡の反応は起きずに氷炎血の短剣というものが出来た。追加効果はなく、ただの頑丈な短剣になった。
「奇跡が起きると、追加効果も付与されて特別な武器が出来るって事か」
「主人の力と錬金釜の力で奇跡が起きやすいみたいねぇ」
「でも、何となく普通の奇跡って感じが強いんだよね。大きな奇跡ってどんな感じなんだろう?」
ここまでの奇跡はきっと【聖女】でも出せるものな気がする。大きな奇跡というくらいなのだから、もっとあり得ない事象が起きても良いと思う。
「分からないわぁ」
「まぁ、そうだよね。取り敢えず、皆のために武器と防具を増産していこうか。錬金術なら、普通は作る事が出来ないような武器や防具も作れそうだし。そうしたら、派遣する皆も安全になるよね
「そうねぇ。何が必要になるか分からないものぉ。主人しか作れないものは作っておいた方が良いかもしれないわぁ」
アスタロトもこう言っているので、適当に素材と血で作った武器を錬金していく。槍とかを入れられないかとアカリに相談したら、穴の付いた蓋を用意してくれたので、そこに柄がはみ出るようにして錬金していった。
アカリ曰く、
「ちゃんと蓋が出来なくて不安定になるから気を付けてね」
との事だったので、細心の注意で錬金をしていたのだけど、何度か蓋が弾けてアスタロトが飛んできた蓋や中身を浴びて悶えていた。ドMのくせにこういうときは嬉しいものではないらしく、普通に痛がっていた。私がするお仕置きしか嬉しくないらしい。本格的な変態だ。
「取り敢えず血を元にした武器と防具はこんな感じで大丈夫かな。せっかくだから、ホムラの進化用にティアラを錬金しようか」
「それで進化出来るのぉ?」
「ヒョウカがそれで進化出来たからね。ホムラも同じ条件で進化出来るはず。後は、素材を考えるだけかな。金と鉄、それと火に関する素材を取ってきて」
「はぁい」
アスタロトがストレージを漁っている間に、ちょっとした実験として【原初の火】【神炎】を私の血と一緒に錬金釜に入れて錬金をしてみる。【原初の火】と【神炎】が素材として認められるかの実験だ。水は物質として存在するけど、火は現象なので、そこがどうなるのかで色々と出来る範囲が変わってくる。
錬金をしていくと、特に奇跡の反応が起きる事もなく反応が終わった。そうして出来上がったのは、瓶の中に入った燃える血液だった。アイテム名は、原初の神炎血というものだった。
「おぉ……燃える血が出来た」
「ハクちゃんは、本当に変なものばかり作るね」
いつの間にか後ろから覗きこんでいたアカリが原初の神炎血を見てそう言う。確かに、ここまで作っているものは割と変なもの寄りなので、アカリの言う通りではある。
「これって何か使える?」
「う~ん……まぁ、色々と使えそうではあるかな」
「そっか。じゃあ、こういうのも量産しておくね」
「うん。ありがとう」
アカリはそう言うと、私の頬にキスをして作業に戻る。私が困っていないか確認してくれていたみたい。自分の作業に集中してくれても良いのに、こういうところはアカリらしい。
「持って来たわよぉ」
「ありがとう、アスタロト」
私がティアラを作ると言ったからか、鉱石とか宝石とかを多めに用意していた。こういうところはちゃんとしているのに、何故普段は変態なのか。
何度か試していると、奇跡の反応が起きて焔女王のティアラが出来た。取り敢えず、これでホムラの進化用アイテムが出来たので、アカリが使うかもしれない属性血を作っていく。アスタロトも興味があるのか、私を抱きしめながらジッと見ていた。
「さてと、このくらいで良いかな。アカリ、血はストレージに入れておくね」
「うん。どこか行くの?」
「ホムラのティアラを作ったから、プレゼントしてくる。後、皆の様子も確認してくる」
「分かった。いってらっしゃい」
「いってきます」
私はアスタロトを連れて工場の方に向かって行く。すると、フラムと一緒に行動しているホムラを発見した。
「ホムラ」
『あっ、ハクさん』
ホムラは、ちょっと小走りで駆け寄ってきて止まった。てっきり抱きついてくるかと思ったのだけど、少し恥ずかしいのかな。頭を撫でてあげると、ちょっと戸惑いながら喜んでいた。可愛い。
「ホムラのお世話をしてくれてありがとう」
『ああ』
フラムの頭を撫でながらお礼を言ってから、ティアラを取り出す。
「じゃ~ん! ホムラにプレゼントだよ」
『プ、プレゼント……?』
「うん。可愛いティアラだよ」
ホムラにティアラを被せてあげると、ホムラが焔姫から焔女王へと進化する。
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ホムラ:【魔導】【溶岩魔法才能】【支配(火)】【無限火】【炎神息吹】【炎化】【聖炎】【業火】
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割と戦闘方面に強くなっている。特に【業火】を持っているのが大きい。少し成長してもフラムより背は小さい。フラムに勝っているのは、胸囲くらいかな。
「うん。可愛くなったね」
『あ、ありがとう……』
ちょっと恥ずかしそうにそう言うホムラを撫でていると、工場の方を夢幻月のユメが歩いていた。
「ユメ」
呼び掛けると、小走りで駆け寄って来て私を抱きしめる。
『呼んだ?』
「うん。調子はどうかなって。縫製工場で働いて貰ってるけど、他にやりたい事とかはある?」
『ううん。このまま工場で働くから平気。大分コツも掴めてきたから、このままの方がやりやすいの』
「そっか」
夢幻月の皆は、縫製工場で出来上がった服などの運搬や素材の補充などをしてくれている。こうして専門的に働いてくれると、メイド機械人形の皆が他の本当に専門的なスキルがないと出来ない事に集中出来るから有り難い。
「それじゃあ、これからもよろしくね」
『ええ』
この後は、他の皆の様子を見に向かう。エレクの方に向かうと、真っ白な身体になって頭から角を生やしたエレクが甘えていた。
「調子はどう? 急に進化して困る事とかはある?」
『ブルルッ』
大丈夫みたい。調子も良いらしいので、ここからは少し様子見かな。進化した身体に慣れてもらうという意味も込めてね。
後は、もう一度イノやグラキの様子も確認してみると、両親であるメアとマシロ、レインとヒョウカに甘えていたので問題はなさそうだ。




