妖精達の不安
ティターニアさんに連れて来られた場所は精霊界だった。何故精霊界なのかと疑問に思ったのだけど、入って少しすると正面に沢山の精霊や妖精が現れた事で、何となく分かった気がする。
『この子達にも声を掛けてあげて欲しいのよ。自分達の特性だったり、姿のせいであまり動こうとしないから』
ティアー二アさんがそう言った事で確定した。目の前にいる妖精や精霊は、私が許可したにも関わらずギルドエリアに来ないという事だろう。実際見た事がないし。ギルドエリアに来る精霊達は既にいる精霊や妖精の仲間だった気がするし。
ティターニアさんの言葉を聞いた妖精や精霊達は填められたというような表情をしていた。何名か表情自体が分からないのもいるけど。
「と言われてもなんと言えば良いか分からないんですが。全然、皆気にしないから、普通に来ても良いよ。うち悪魔とかいるから、そこまで深く気にする必要もないよ。私なんて、吸血鬼、天使、悪魔、神、精霊、鬼、竜の特性を持っている変な身体してるし」
微笑み掛けながらそう言うと、全員が顔を見合わせてから私に頭を下げる。
『これで良さそうね。向こうでの役割も与えてくれるかもだから、それぞれ自己紹介しておきなさい』
ティターニアさんがそう言うと、鎖を引き摺りながら赤い目の黒い犬が近づいて来た。頭に角があり、爪も鉤爪になっていた。その後ろから似たような感じだけど、角も鉤爪もない黒い犬が付いてきた。
『その子はバーゲスト。後ろはヘルハウンド。どちらも不吉の先触れだったり、死を連想する妖精よ。だから、近づきたくなかったみたいね』
「へぇ~、こんなに可愛いのに」
バーゲストとヘルハウンドに近づいて撫でてあげる。長毛種だからか、良い感じで柔らかい毛が気持ち良い。私が撫で始めると、遠慮がちに近づいてくれるので、一匹一匹撫でてあげた。
「うちにはフェンリルがいるから、仲良くしてね」
『ワンッ!』
『『ワンッ!』』
バーゲストが吠えると、続いてヘルハウンドも吠えた。良い返事だ。ティターニアさんの言う通り、かなり遠慮していたみたい。不吉の先触れとかいうけど、うちにはそもそも不吉な事を司る神様とかがいるから、このくらい本当に気にする事はない。
バーゲスト達がギルドエリアの方に走っていくのを見送って、バーゲスト達の隣にいた小人の人達が近づいてくる。
『我々はレプラコーン。靴作りを仕事としている妖精じゃ』
「靴作り? それはこっちに来てもしてくれるんですか?」
『むっ……働いても良いのか?』
「はい。ただアカリという私の恋人に確認してからでお願いします。仕事場の設置などの問題がありますし、防具作りなどをしているアカリから依頼する事もあるかもしれないので」
『了解した』
そう言ってレプラコーン達はバーゲスト達を追っていった。靴作りの妖精さんが来てくれるのは、うちの生産品が増えるから大歓迎だった。
レプラコーンを見送ると、背後から白い手が伸びてきて抱きしめられる。抱きしめているのは綺麗な女性だった。
少し妖艶な雰囲気をもつ妖精っぽい。
『彼女達はリャナンシー。あなたとほぼ同種の存在よ』
「同種?」
『ええ。吸血鬼的側面とサキュバス的側面を持つ妖精だから。生気や血を吸う存在だけど、芸術家や創造力を与える存在なのよ』
言ってしまえば、師匠とも似ている感じかな。妖命霊鬼の師匠も私から生気を吸ってくるし。まぁ、最近はギルドエリアの環境のおかげで、大気中から生気を得る事が出来ているみたいだけど。
「へぇ~、来てもいいですけど、あまり皆の生気を吸いすぎないようにしてくださいね。普通の人も多いので。もし生気が欲しいなら、私から吸ってね」
『良いの?』
リャナンシーの皆はそう言って確認してくる。本当に私から取って良いのか疑問に思っているらしい。
「良いよ。溢れかえってるから」
そう言うと、リャナンシーの皆は遠慮がちに生気を吸ってくる。ちょっと吸った瞬間、リャナンシーの皆が蕩けたように抱きついて生気を吸ってくる。色々な力が混ざっているから美味しい生気になっているのかな。
そんな状態で、次の妖精と話す。次の妖精はアザラシみたいな皮を被った可愛い女性だった。
『セ、セルキーです! そ、その……私達海に住むのが当たり前で……アザラシになって過ごすのですが……』
「海はあるから大丈夫だよ。悪魔や神様も住んでるから、仲良くしてね」
私がそう言うと、セルキーの皆は嬉しそうに笑っていた。海があるという事に加えて、ちゃんと住んでも良いと許可を得たからかな。アザラシになるというのは気になるけど、アザラシは可愛いから好き。
セルキーの皆もギルドエリアへと向かっていく。
次の妖精もセルキーと似たような感じの女性の要請だった。長い黒髪と灰色のマントを着ている陰鬱とした雰囲気を感じる。
『彼女達はバンシー。バーゲスト達と同じく不吉の象徴と言われる子達よ。人の死を叫び声で予告するのだけど、それが迷惑になるかもしれないって思ってここに残っているのよ』
「人の死って、そこに住んでいる人の事なんですか?」
『大体はね』
「なら、構いませんよ。私達が死ぬ事はほぼないですし、住んでいるのも大体は神様なので。それに死の予告をしてくれたら、対策も取れるかもしれませんしね。よろしくね」
バンシーの皆は嬉しそうな表情になると、私のところに来て、頬にキスをしてから去っていった。十人以上からされたので、ちょっと驚いた。私の許可を直接受けたので、バンシー達もギルドエリアへと向かう。
次に来たのは頭のない鎧だった。見ただけでデュラハンだと分かる。その首は小脇に抱えられており、隣には黒い馬がいる。だけど、イメージと違うのは、抱えている首は女性のものだった。恐らく身体も女性だと思う。首の切断面などには黒い靄が出ており見えないようになっていた。
『デュラハンです。私も不吉の象徴と言われている者なのですが……』
「うん。全然構わないよ? それより首は繋がらないの? 一応、うちには回復のスペシャリストとかもいるから、元に戻せるかもしれないけど」
『首を……いえ、これが私ですので』
「そう? なら、そのままで良いね。不吉だとか何だとか気にしないで良いから。向こうで問題を起こさない限りはね」
『はい! ありがとうございます!』
デュラハンは嬉しそうにそう言うと、黒馬に乗って移動していった。リャナンシー達も十分生気を吸ったからか、ギルドエリアの方に向かって行く。
本当に不吉だったり、見た目が受け入れられないのではないかだったり、自分の特性が気持ち悪がられないかだったり、勝手に仕事をしても良いのかという不安を抱えていた妖精ばかりだった。
本当に特に気にしないでも良いのにね。何かを害したりする迷惑を掛けないなら、いつでも歓迎だし。ここで皆を受け入れる事で、他の精霊や妖精達もギルドエリアに来やすくなるかな。
まだここには二人の妖精が残っているから、まずはその子達と話して受け入れる事を伝えないとね。




