生まれる
皆の娘、妹になった後、皆に一通り抱きしめられてから、その場で解散となった。サクヤさんがちょっとお姉さんっぽく振る舞っているのが、ちょっと可愛かった。アルテミスさんや美の女神の皆だけ抱きしめる時間が長かったけど、いつも通りなので気にしない。
皆がそれぞれのやる事、多分私の服作りを進めに向かう中で、私の後ろから綺麗な手が伸びてきて私を抱きしめた。
『捕まえた』
「ティターニアさん?」
私を捕まえたのは、ティターニアさんだった。私を愛でるように撫でてくる。
『生まれるわよ』
「っ! どっちですか!?」
『メアとマシロの方ね』
ティターニアさんから予告を受けた私は、即座にメアとマシロの家に向かう。ティターニアさんもすぐに放してくれたので、即座にメア達の元に来る事が出来た。
「メア! マシロ!」
『姉々! 見て見て! 動いてるの♪』
メアは嬉しそうに私の裾を引っ張りながら、卵の方を指差す。その傍で、マシロはかなり狼狽えていた。初めての事だから、これが正常な反応なのかも分からず、心配になっているという感じだ。
「マシロ、落ち着いて」
マシロの傍に座って、こっちに抱き寄せる。すると、マシロが私の方にくっついた。後ろからはメアが乗ってくる。メアはいつも通りに思えるけど、密着する力が少し強い事から不安を覚えている事が分かる。
「大丈夫。卵を打ち破ろうと頑張ってるところだよ。私達は応援しよう」
『うん♪』
『ええ……』
二人を勇気づけながら、卵から孵ってくるのを待つ。十分程経過すると、卵に大きな罅が入った。メアとマシロが大きく揺れる。私を掴む手に力が入る。そして、そこから五分で卵が割れて小さな手が出て来た。
メアとマシロが私から離れて卵の傍に向かった。そして、中から出て来る小さな精霊と対面する。真っ白な髪と紫色の瞳をした精霊だ。種族的には、虚無の精霊ヴォイドというらしい。
『ママ……ママ……』
メアとマシロに手を伸ばすので、メアとマシロは顔を見合わせてから、二人一緒に抱きしめていた。
『姉々、名前』
『姉様が付けてあげて』
「良いの? 二人が付けても良いんだよ?」
私に名付け親になってほしいというのは嬉しいけど、二人が付けたいという気持ちがあるのなら、それを尊重してあげたい。
『ずっと決めてたの。名前は姉々に付けて欲しいって』
『私が一緒にいられるのは、姉様のおかげだもの。それに私達と同じく姉様に愛されて欲しいから』
二人が嬉しい事を言ってくれる。でも、虚無の精霊ヴォイドか。見た目的に虚無というよりも無垢って感じだ。無垢は英語で……イノセントとかイノセンスだったかな。授業の暇な時間にぼーっと英和辞典を見ていて、そんな感じだったような気がする。
「じゃあ、イノ」
『イノ……?』
「うん。あなたの名前。イノ。気に入ってくれた?」
『ん……』
イノは頷きながら、マシロにくっつきつつ片手でメアを掴んでいた。意地でも両親から離れないという意思を感じる。
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イノ:【魔導】【光明魔法才能】【暗黒魔法才能】【神聖魔法才能】【状態異常才能】【付加呪加才能】【支配(光)】【支配(闇)】【支配(虚無)】【無限光】【無限闇】【無限虚無】【光精霊】【闇精霊】【虚無精霊】【精霊体】【悪夢】【集束拡散】【虚無】
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ヤバい精霊が生まれた。メアとマシロの良いところを全て吸収して、尚且つ自分の特性をしっかりと持っている。頼りになるけど、まだ子供だからもう少し様子見かな。
「私はハクだよ。よろしくね」
『ん……ハク姉々』
メアとマシロから生まれたにしては大人しい子だ。メアが元気すぎるから余計にそう思うのかな。イノの頭を撫でてあげていると、ティターニアさんが入って来た。
『無事生まれたようね』
ティターニアさんは、メアとマシロの頭を撫でてから、イノの頬を撫でる。その際、何か力の移動のようなものを感じた。
『あなた達の祝福を』
精霊ならではの何かを与えてくれたみたい。スキルに変化はないから、ステータス的な変化なのかな。
『それとレインの方も生まれそうよ』
「えぇ!? ごめんね、三人共。レイン達の方に行って来るね。本当におめでとう。イノは、元気に生まれてきてくれてありがとう」
三人の額にキスをしていって、皆に愛を振りまいてから、急いでレイン達の家に向かう。レイン達の方もかなり卵が動いている。まだ罅が入っていないから、少し時間は掛かりそう。間に合って良かった。
「レイン、ヒョウカ大丈夫?」
『お姉さん。うん。大丈夫だよ』
『はい。大分揺れていますが、まだ殻は破れないようです』
二人は冷静に見えて、手を固く繋いでいる。不安は残っているらしい。私が傍に来ると、二人が寄り掛かってくるので、二人を抱きしめる。
「さっきメアとマシロの子供も無事に孵ったから大丈夫だよ。まだ時間は掛かりそうだけどね」
『うん』
『はい』
それから十分すると、殻に罅が入る。二人に緊張が走るので、その頭を撫でて落ち着かせる。
「大丈夫。信じてあげて」
段々と罅が大きくなっていき、また小さな手が卵を割って出て来た。水色の髪と水色のドレスを着た精霊だ。ドレスには氷の刺繍がされている。名前は氷の精霊グラキシス。
『ふぁ~……ママ……』
生まれたばかりでハイハイをしながらレインとヒョウカの元に来て抱きつく。レインとヒョウカも迎えて抱きしめた。
『お姉さん。名前を付けてあげて』
『私からもお願いします』
二人からも名前を付けて欲しいとお願いされる。ネーミングセンスのない私はかなり困るけど、グラキシスから取るかな。
「じゃあ、グラキ」
『グラキ……私の名前?』
「うん。気に入ってくれたかな?」
『うん』
「良かった。私はハク。よろしくね」
『うん。ハクお姉さん』
グラキは、レインとヒョウカがよくやるように笑う。二人の面影が見えて、私も嬉しくなった。
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グラキ:【魔導】【天候魔法才能】【支配(水)】【神力】【神水】【無限水】【水精霊】【氷精霊】【精霊体】【液体超圧縮】【氷神息吹】【絶対零度】【温度操作】【熱冷血】【断熱体】
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グラキも二人のスキルを合わせたような構成になっていた。精霊が関わるとこういう感じの子が生まれてくるのかな。まぁ、スキルがどうあっても、私が可愛がる事に変わりは無いけど。
ここにもティターニアさんが来て、三人を祝福してくれた。ヒョウカも同じように力を与えられているみたいなので、精霊とかは関係ないのか、精霊と交わったら対象になるのかは分からない。でも、祝福してくれるのは嬉しいね。
「二人ともおめでとう。グラキは無事に生まれてきてくれてありがとう」
三人の額にキスをしてあげる。愛の精霊である私が出来るのは、こんな祝福くらいだ。それでも三人とも嬉しそうにしてくれるので、私も嬉しい。
「それじゃあ、三人もしばらくはゆっくりね」
最後に三人を抱きしめてあげてから、家を出て行った。家族水入らずの時間もちゃんとあげたいからね。外に出るとティターニアさんが待っていた。
「知らせてくれてありがとうございます」
『良いのよ。あなたの子ではないけど、立ち会いたいとは思っていたでしょうから』
「はい。おかげで、祝福してあげる事も出来ましたから」
『それは良かったわ。それじゃあ、一つお願いがあるのよ』
「はい。出来る事ならやりますよ」
『ありがとう。じゃあ、付いてきて』
イノとグラキ。可愛い子達を仲間にする事が出来た。無事に生まれてきてくれたからマシロも安心したみたいだし、ちょっとした心配もなくなった。後は、二人が元気に育ってくれるのを祈るばかりだ。




