イベントに向けて姉妹特訓
その日の夜。いつも通りログインした私は、皆の様子を確認しつつ何をしようか考える。
「そろそろイベントだし、レベル上げするかな……いや、スキルは大体封印されるし、やっぱりプレイヤースキルの方を伸ばすしかないか。まぁ、一朝一夕で身につくものじゃないけど、沢山戦っていれば少しは磨かれるかな」
「よし! なら、闘技場に行くぞ」
「へ? フレ姉!?」
いつの間にか背後にいたフレ姉が、私を小脇に抱えて移動を始める。私は荷物のように脱力して運ばれていく。
「フレ姉、仕事は?」
「こんな夜遅くまでやってると思うか? まぁ、やってる時も多いけどな。今はそこまで忙しくねぇからな。残業しねぇでも終わるさ」
「ふ~ん……旅行は行けそう?」
「問題ねぇよ。一部有休使う申請もしてるしな。旅行後からは、若干忙しくなりそうだけどな」
「ふ~ん……」
フレ姉は、忙しい中でも時間配分などがしっかりしているし、効率良く要領良く物事を進める。だから、こう言っていてもテキパキと仕事をしていくのだと思う。
「そういや、大学は決めたのか?」
唐突に進路の話になった。フレ姉としても心配なのかな。
「情報系の大学に行く。プログラミングを学びたいなって。AIの研究とかがしたいの」
「そうか。まぁ、大体予想通りだな。具体的な大学は決めたのか?」
「指定校とかがあれば使うかなぐらい。成績は良いし」
「馬鹿じゃねぇのが救いだったな」
「絶妙に失礼な事言ってない?」
「褒めてんだよ」
フレ姉はそう言いながら、乱暴に頭を撫でてくる。そんな風に運ばれていると、いつの間にか隣にアスタロトがいた。アスタロトは、浮きながら移動して、私をジッと見ている。
「アスタロト、何してるの?」
「主人がいたから来たのよぉ。もしかしてぇ、主人も同じなのかしらぁ」
人をドM扱いしてくるアスタロトの顔に手を伸ばしてフェイスクローをお見舞いする。
「いやぁ~ん! 本当に痛いわぁ!? 主人!? ごめんなさぁい!」
謝ったので手を放してあげると、若干物足りなさそうな表情をしてくる。ここで追加するとご褒美になるので、このままにしておく。
「ハク……」
「アスタロトが悪い!」
「まぁ、そうだな。アカリに同じような事するなよ?」
「当たり前じゃん。アカリは可愛がられる方が好きだから」
「妹達のそういう話は聞きたくねぇものだな」
そんな話をしていると、とてとてとフェネクスが追いかけてきた。ジッと見てくるので、フェネクスを抱き上げてあげる。フレ姉は、私とフェネクスの二人を抱える事になった。
「懐かしいな。昔は、水波が似たような事したものだ」
「私を抱えて、それをかー姉が抱えたって事?」
「ああ。馬鹿みてぇに重かった」
「今は?」
「今? ああ、お前とフェネクスなら、そこまで重くねぇよ。さすがに今の水波を抱えてぇとは思わねぇ。色々と無駄にでけぇからな」
可哀想に。みず姉はかー姉よりも大きくなった結果、かー姉が抱っこする事は出来なくなった。まぁ、私を抱えるのも難しいとは思うけど。
そんな状態で移動していって、闘技場に着いた。フェネクスをアスタロトに預けて、フレ姉と一緒に中に入る。
「フレ姉、次のイベントは出るの?」
「その予定だったが、仕事が入ってな」
「そうなんだ」
フレ姉が出るなら、手の内を晒さないようにした方が良いかと思ったけど、仕事で出られないらしい。まぁ、正直なところ、ここで手の内を晒してもイベントで使えないものが多いから意味ないか。
私が白百合と黒百合を出すのと、フレ姉が薙刀を装備するのは同時だった。私が双剣を構えているのを見て、フレ姉は意外そうな表情をする。
「刀じゃねぇのか?」
「うん。どうせ、神殺しは封印されるから、双剣で挑むのが一番なんだ。血刀は、搦め手の時に使うくらいだしね」
「そうか。まぁ、双剣は見た目だけだしな」
白百合と黒百合の真骨頂は、私が血液を纏わせた時に発揮される。神殺しと違って、しっかりと血液を纏わせられるので、そこが大きい。まぁ、血を吸収させる事も出来るけどね。
HPが半分で決着が着く模擬戦が始まる。ここで有り難いのは、武器の耐久値が模擬戦後に回復する事。武器破壊をされても安心なので、私も遠慮無しにぶつかれる。
血を纏わせて、【雷化】で一気にフレ姉の背後に回る。フレ姉は、即座に背後に向かって、石突きを突き出してくる。白百合で受け流しつつ、黒百合を振ろうとしたら、後ろに振り返りながら、フレ姉が蹴りを入れてきた。
【雷化】で背後に跳び、そのまま身体に雷を纏わせて走る。【雷電走】の効果で加速する事が出来るので、段々と速度を上昇させていく。フレ姉は、私を目で追うのではなく、ただ立っていた。フレ姉も視界を増やせるので、死角は少ない。
だから、あまり注意を向けていない真上から攻める。走っている最中に【雷化】を使って上に跳び、空中に足場を作って、フレ姉の真上から大斧を叩き付ける。
フレ姉は、それを容易く受け流して、落ちてくる私のお腹にハイキックをお見舞いした。【夜霧の執行者】が発動して攻撃が無効化される。
フレ姉の傍で実体化し、インファイトで攻める。フレ姉は、縦横無尽に振られる左右からの連撃を薙刀の柄で全部防いできた。正面からでは無理なので、全方位から攻撃する事にする。【雷化】を使い、細かく動き続けて、あたかも全方位から同時に攻撃が来ているかのように短いスパンで攻撃を繰り返していく。
フレ姉は、その場から全然動かない。いや、最小限の動きだけで私の攻撃を避けて、避けられない攻撃は薙刀の柄で防いでいた。
私の方が速いはずなのに、フレ姉の防御を抜ける事が出来ない。だから、手数を増やす。【熾天使翼】を使って身体を浮かし、足に血液の剣を作り出して、四本の剣で次々に攻撃していく。更に、影による拘束や全属性の球を作り出して、私の攻撃の隙間を埋める。
そこまで行くと、フレ姉も全てに対応する事は出来ないみたいで、軽く被弾した。ただし、それでもフレ姉に焦りはない。
フレ姉は、唐突に薙刀を手放して、私の攻撃タイミングに合わせて前に出ると、私を掴んで地面に叩き付けた。それも【夜霧の執行者】で無効化する。そして、フレ姉から少し離れた場所に実体化すると、嫌な予感がした。実体化した私に向かって短槍が飛んできたのだ。それくらいなら、まだ【夜霧の執行者】で無効化出来る。その筈だった。
その短槍は、青い光を纏って、夜霧になった私にダメージを与えた。実体のない相手にダメージを与える追加効果が付与されていたらしい。嫌な予感は、攻撃ではなく短槍そのものの事だったのだ。
体勢を崩した私に向かって、フレ姉が薙刀を振り下ろす。その薙刀は最初の薙刀ではなく、青い光を纏っている。つまり夜霧で避ける事が出来ないという事だ。
私は、崩れた体勢のまま【雷化】で逃げる。そうして、逃げた先にフレ姉の短槍が飛んできていた。
「危なっ!?」
白百合と黒百合で弾き飛ばしたところに、フレ姉がもう一本短槍を投げてから突っ込んで来た。逃げるよりも戦った方が良いと判断し、【雷化】で突っ込んでフレ姉の顔面に膝蹴りを入れようとしたら、フレ姉は、私が実体化する直前にバックステップをして、距離を変えてきた。
そして、薙刀で心臓を突かれてHPが六割まで減った。でも、すぐに回復が始まるので、まだ戦えると思ったら、フレ姉の攻めのターンになり、次々に攻撃を加えられて、対処に追われた私は五割までHPを減らされて模擬戦が終わった。
「ズルい!」
「お前のスキルの方がよっぽどズルいけどな。お前は視線の動きで、次の行動が分かり易い。それにメタ装備で攻撃された時の対処も慣れてないだろ。微妙に反応が遅れていたぞ」
「む~……もう一回!」
フレ姉の言う通りではあるので、フレ姉を相手にプレイヤースキルを磨いていった。まぁ、結局ぼろ負けなのだけど。フレ姉の対応能力が化物過ぎた。




