悪魔達の様子確認
夜に再びログインした私の元に、フェネクスがやって来たので、取り敢えず抱き上げる。
「フレイヤさんとは仲良くなれそう?」
「肯定」
「他の神様は?」
「交流を重ねる道の半ばなり。目指すは相互理解」
フェネクスは、奮起しながら答えた。悪魔と神様が仲良くなる時は、本当に近そうだ。そう思いながら、フェネクスと一緒に悪魔達の屋敷を訪問していく。まず訪問したのは、フォカロルの屋敷だ。
こっちでもノックをすると、メイド悪魔が扉を開いて中に入れてくれた。こっちのメイド悪魔は背中に小さな羽がある。
「フォカロルはいる?」
私が訊くと、メイド悪魔は首を横に振る。どうやら留守にしていたみたいだ。取り敢えず、メイド悪魔達から、色々と聞き取り調査をしていこうかな。
「ここで問題はある?」
これには首を横に振る。
「何か必要なものはある?」
これにも首を横に振る。取り敢えず、何も問題はなさそう。
「そっか。それじゃあ、先に伝えておくけど、もし外に出たかったら、自由に出て良いからね」
私がそう言うと、それまで無表情だったメイド悪魔が驚いたように目を開く。やっぱり、自由を与えられるのは従者の悪魔達からすると驚くべき事らしい。
「フォカロルにも伝えておいて……って、私が手紙を残した方がやりやすいか」
私は手早く手紙を書いてメイド悪魔に渡す。この間も、フェネクスを抱いたままなので、片手で手紙を書くことになった。思ったよりも大変だったけど、なんとかなったので良かった。世のお母さん、お父さんは結構大変な事をしていたのだなとゲームの中なのに思ってしまった。
「それじゃあ、もしフォカロルが帰ってきたら、これを渡してね。私が会ったら、その時にも伝えておくけど、こうした方が良いでしょ?」
そう言ってメイド悪魔に手紙を預けると、深々と頭を下げてきた。お礼を言っているという事はよく分かる。そんなメイド悪魔に手を振ってから外に出ようとすると、物凄い速度で先回りして、私の代わりに扉を開けていた。
「従者の矜持」
どうやらメイドのプライド的なものらしい。お礼を言ってから、私は外に出る。
「従者の矜持だったら、フェネクスは?」
フェネクスは、私の従者という事になっているので、フェネクスにも同様のプライドがあるのかと思い聞いてみた。
「汝の心に平穏を与える。故に密着。我は愛を。汝は安らぎを。これが相互利益」
「そっか。じゃあ、フェネクスはちゃんと出来てるね」
フェネクスの頭を撫でてあげると、嬉しそうにくっついて、首に頭を擦り付けてくる。まぁ、どう考えても従者の行動ではないとは思う。でも、可愛いから良し。
次に来たのは、グレモリーの屋敷だ。こちらのメイド悪魔は、特に変わった点はないけど、美人揃いだった。
「グレモリーはいる?」
「いるわ」
薄手のネグリジェを着たグレモリーが二階から降りてきた。グレモリーは、私の頬に手を添えて挨拶をしてくる。
「何か用なのよね」
「大した用じゃないよ。こっちでの暮らしで困った事とかあるかなって確認」
「特にないわ。神達とも上手く出来ていると思うわよ」
「そっか。それは良かった」
グレモリーも特に問題はないらしい。神様と仲良く出来る悪魔が増えるのは嬉しい事だ。こうして仲の良い悪魔と神様が出来れば、そこを取っかかりにして、他の悪魔達が神様と仲良くなっていくかもしれない。だから、こういうのは大事にしておきたい。
「じゃあ、何か足りないものとかはある? 基本的に、職人の皆に頼めば作って貰えるけど、何か必要なものがあったら、ちゃんと言ってね」
「そうね……特にないわ。家具は一通り作って貰ったし、服も貰えたもの」
「そっか。もし欲しいものが出来たら、遠慮せずに言ってね。それと従者の悪魔達も外に出て良いからね」
私がそう言うと、メイド悪魔が驚いていた。やっぱり、そういう認識になるらしい。それを見たグレモリーがメイド悪魔の方を見る。
「聞いたでしょう。私の主人が良いと言っているのだから、許可が下りたと考えなさい。ただし、私と主人の顔に泥を塗るような真似をすれば、分かっているわね?」
グレモリーがそう言うと、メイド悪魔達は跪いて頭を下げた。グレモリーの命令を受諾したという事だろう。
「迷惑を掛けた場合、この子達は処分して貰って構わないわ」
「いや、さすがにそんな事はしないから。厳重注意はするけど」
「主人のお優しい言葉に感謝なさい。けれど、それは何でもして良い免罪符ではない事を胸の中に刻みつけなさい」
グレモリーの言葉に、メイド悪魔達は更に深く頭を下げる。これでグレモリー配下の悪魔達が悪さを働く事はないだろう。
「それじゃあ、他の屋敷にも行って来るから」
「ええ。また遊びに来て欲しいわ」
「うん。時間があったら遊びに来るね」
そう言ってから、メイド悪魔が開いてくれる扉から外に出ていった。次に向かうのは、パイモンの屋敷だ。ノックをすると、背中から翼が生えた天使みたいなメイドが迎えてくれた。
「天使?」
「否。堕天使。パイモンは元天使。配下も堕天した天使なり」
「へぇ~」
メイド堕天使は、恭しくお辞儀する。これまでのメイド悪魔よりも腰が低い気がする。私が【熾天使】である事が大きいのかな。
「ありがとう。パイモンはいる?」
そう訊くと、メイド堕天使が頷く。こっちも勝手に喋ってはいけない契約みたいだ。
「おっ! 主人だ! 何々!?」
パイモンは、一階の通路から現れた。私を見つけて、元気に近づいてきた。
「喧騒」
フェネクスがそう言ったので、思わず笑ってしまう。喧騒と言えば、大抵は沢山の人の声でうるさいという意味で使うだろう。でも、パイモン一人で、複数人分の声量などがあるので、確かに一人で喧騒という状態にはなる。
「言ってくれるねぇ! それで、何の用かな!?」
「皆の暮らしを見ている途中だよ。パイモンはどう? 何か困った事はない?」
「困ったことかぁ……女性の身体が慣れないくらいかな!」
「ああ、ごめんね。私に影響しちゃって」
パイモンは、元々男性だったらしいので、女性の身体に慣れないというのも分かる。その原因が私なので、一応謝っておいた。
「全然! 気にしてないから大丈夫だよ! 他には、特にないかな! 家具とかも揃えてくれたからね!」
「そっか。何かあれば、遠慮せずに言ってね。それと、皆も外に出て良いからね」
「えっ!? 良いの!? 良かったね! でも、他の住人の迷惑になるような事はしないように」
最後の声だけは、少しだけ低く冷たい声だった。釘を刺すためだろう。メイド堕天使達は、私に対して跪いて頭を下げる。
「何か欲しかったら言ってね。皆の分の集合住宅も作っておくかな」
従者のメイド達が外に出るなら、いっその事、外に住む場所を作って屋敷に通うようにした方が良いと考えた。
「屋敷の適当な場所で寝泊まりするから大丈夫だよ?」
「エアリーじゃないんだから」
エアリーは、本当に自由気ままな場所で寝泊まりしている。探索の時などの真面目な雰囲気からは考えられないくらい奔放で、ちょっと驚くけど、もう慣れた。
「取り敢えず、皆の分の部屋を用意しておくから、屋敷に泊まれない人達は、そっちで寝泊まりして良いからね」
「優しいね! だから、慕われるのかな!」
パイモンは、元気な声と裏腹に優しく頭を撫でてきた。声が大きいだけで優しい性格という事が分かる。そんなパイモンの屋敷を後にして、バエルの屋敷に来た。バエルの屋敷のメイド悪魔は、ちょっとした角が生えている普通の悪魔って感じだ。
中に入れて貰った直後に二階の方から急いだ様子のバエルが降りてきた。そして、跪いて頭を下げてきた
「出迎えが遅くなった事を詫びる」
「ううん。気にしてないよ。それより、こっちの暮らしで困った事とかない?」
「困った事か……特にはない。神との関係も良好だ。互いに敵意がないというのが大きいかもしれないな」
「そっか。それなら良かった。何か欲しいものとかあったら言ってね」
「配慮痛み入る。なら、こいつらの外出許可を貰いたい。屋敷の中で窮屈しているのも大変だろうからな」
バエルは自分から従者達の自由を求めてきた。ちょっと意外だ。他の悪魔達は、全く気にしていないようだったから。
「うん。良いよ。問題は起こさないようにね」
メイド悪魔達にそう言うと、お礼を言うように頭を下げた。
「皆の集合住宅を作る予定だから、寝泊まりする部屋が足りなかったら、そっちにで寝てね。後、何か欲しいものがあったら、遠慮せずに言う事。それじゃあ、またね」
話が早く済んだのでバエルと手を振って別れた。
その後、フェネクスのところで、メイド悪霊達にも同じ事を伝えて、フォルネウス、ウェパルの元に向かった。二人は、海でトヨさん達と仲良く暮らしているので、特に大きな問題はなかった。でも、皆と違って、家が無いので、従者を呼べない問題があったため、従者の自由を認めてあげた。
後は、モートソグニルさんに、集合住宅の建築をお願いしてから、メア達の様子を確認してログアウトした。その間、フェネクスをずっと抱っこしていたので、割と腕が疲れた。本当に世のお母さん、お父さんは凄いな。




